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ナイト・ラスト  作者: 伊藤 おさむ
・・・・
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森の魔獣と聖剣 2

 東の森にて、ラストたちはイノシシに襲われていた。


「ラスト、そっち行ったぞ!」


 体の数カ所に矢が刺さっており、少し突進のスピードは落ちているようだが、まだまだそのパワーは侮れない。


 そんなイノシシに怯まず、ラストは剣を構え迎え撃つ。


 迫りくるイノシシに向かって自ら近づき、すれ違いざまに一撃をお見舞いする。


「えいっっ!」


 気合を入れて振り下ろした剣は上手く獲物の胴を捉え、その一撃で獲物の息の根を止めた。


 血を流しながら倒れるイノシシ。


「よくやった!」


 最後の一体を狩ったことで周りから調査団のみんながラストに駆け寄ってくる。


「いや、援護があるとはいえこれぐらいだったらマジで普通に狩れるんですね・・・」


 ダイはどうやらラストが本当に動物を狩れると信じていなかったらしく、倒れたイノシシを見て驚いている。


 それを横目に見たラストはいたづらが成功したかのように笑う。


「ダイさんも心配してないで、もっと僕を頼っていいよ。」


「・・・そうっすね。当てにさせてもらうっす。」


 目の前で実力を見せられたので、今度こそダイはラストを認めてくれたようだ。


「にしても、イノシシがこんな所にいるとは明らかに異常だな。」


 ラストがダイに認められて喜んでいる中、ファルシがイノシシを見ながら困ったように言う。


 ここ辺りは本来、動物を見かけるような所じゃない。実際、動物が麓に降りてきていると分かっていたのに、こんな所で見かけるとは想定しておらず皆驚いていた。


「思っていたより魔獣が麓の方まで来ているのか?なら、なぜそこまで移動してくる?」


 ファルシは少しの間ブツブツと呟いていたが、しばらくすると考えをまとめられたのか独り言を止め、みんなを見て言う。


「おそらく魔獣はグレイウルフだけじゃないだろう。さらに危険な奴がいるかもしれない。考えられるとすれば・・・」


「グレイターウルフだろうな。」


(ん?グレイウルフじゃなくてグレイターウルフ?聞いたことないけど・・・)


「ああ。魔獣はグレイターウルフをリーダーとした群れと考えていいだろう。」


 そう言うと大人たちは黙って、厳しい表情をする。


「ねえ。グレイターウルフってグレイウルフと何が違うの?」


 ラストはグレイターウルフはよく分からなかったので隣にいたダイに聞いた。


「グレイターウルフってのは、簡単に言うとグレイウルフが進化した魔獣っす。グレイウルフの上位個体なんで、まあ単純に危険度もグレイターウルフの方が上っすね。違いはグレイターウルフは風の魔法だけじゃなく、身体強化も使える事ぐらいっすよ。」


 まあ、〃ぐらい〃といってもそこが一番めんどうなんすけどねと苦笑してダイは言う。


 ラストも身体強化は前にファルシから教えてもらった事がある。


 文字通り体を強化する魔法で体の運動能力を上げるのはもちろん、体自体を強化して防御力も強化できる魔法だ。


 速いスピードで動き回るのでその体を剣で捉えるのが難しく、尚且つうまく捉えたとしても皮膚も硬く剣が通りづらいと考えるとその存在が厄介極まりないのはよく分かるだろう。


(僕がそんな魔獣に太刀打ちできるのかな・・・。)


 張り切って魔獣調査に付いて来たが、その危険度に一人、場違い感を抱いてしまうラスト。


「取り合えず、調査はこのまま続けよう。群れを見て対処できそうなら討伐、難しそうならば村に戻って王都に討伐依頼を出す。」


「正気か、ファルシ?!」


 ファルシがそう言うと皆驚いた。


 この国には冒険者という各地で起こった問題を解決してお金をもらい、それで生計をたてている人々がいる。


 各地の問題というのは薬草採取やペット探しといった簡単なものから、輸送の護衛、魔獣の討伐のような危険なものまで幅広くある。


 本来、今回のように村に魔獣が現れた場合はすぐに依頼をだすのだが、この村にはファルシがおり、そのファルシに鍛えられた猛者がいることで、対応できるものを村で対応しているだけだ。決して無理する必要なない。


 しかし、ファルシは危険を承知で調査を続けようとしている。


「グレイウルフだけならまだしも、グレイターウルフは流石に危険だ。あとは冒険者に任せていいだろ。」


「だがこのまま引き返して、もし冒険者が来る前にグレイターウルフが村まで下りて着たら村が壊滅するぞ。もちろん時間稼ぎの罠は仕掛けるがそれでどれだけ時間を稼げるか分からない。」


(え・・・村が壊滅・・・?)


 調査団の年長者は、その可能性があることを分かっていたのか厳しい表情を変えなかったが、ラストやダイといったグレイターウルフの危険度をはき違えていた人々は戸惑った。


「ちょっと待ってください!村まで下りてくる事ってあるんすか?確か魔獣って自分の縄張りからは滅多に出ないんすよね?」


「確かにそうだが、魔獣は進化すると縄張りを広げようとするからな。グレイターウルフに進化したとなると村まで縄張りを広げてきてもおかしくない。」


「そんな・・・」


 ダイは壊滅の可能性が十分あることにショックを受ける。


 そして、別に今回の魔獣調査を軽く考えていた訳ではないが、調査の重要性を感じて皆に緊張が走る。


「しかし、ファルシ。対処できるならって言っても、グレイターウルフがいるのならそれさえ難しいと思うんだがどうする気だ?」


「それだが、群れが大きかった場合、出来るだけ取り巻きは削っておきたい。それだけで時間稼ぎになるからな。逆に群れが小さかった場合だが―――グレイターウルフの討伐を目指す。」


「?!」


 散々危険だという話をしたあとの、まさかの意見にみな驚愕する。


「それは流石に何か策があって言ってるんだよな?」


 皆、ファルシは考えなしに危険なことをする人間ではないと分かっており、緊張したまなざしでその答えを待つ。


「策はもちろんある。その策の要は・・・。」


 ファルシの視線がある一点を向く。


「ラストだ。」


「え?!」


 突然名前を呼ばれて驚くラスト。


 他のメンバーもまさかの人選に驚愕する。


「正確に言えばラストのスキルだ。魔力吸収が使えるなら魔獣の身体強化も関係ないからな。」


 ファルシはこともなげにそう言う。


「待ってよ!簡単に言うけど、魔力吸収は直接触らないと使えないんだよ。」


「正確には魔力による接触だ。だからやりようはある。」


 そう言うとファルシは腰に携えていた剣を抜く。


「部分強化は前教えたな?」


「うん。けど結局魔力が足りなくて部分強化しか出来なかったのは知ってるでしょ?それに部分強化でグレイターウルフのスピードに追い付けたとしても、その体を切りつけられないと倒せないよ。」


 部分強化とは身体強化を簡略化したものであり、身体強化が全身を強化するのに対して部位や性能を限定することで魔力消費を抑える事ができる。


 使用魔力が少なく魔力操作が比較的に簡単なこともあり、身体強化より取得難易度は低い。


「部分強化が出来れば問題ない。必要なのはその魔力操作技術だ。」

 ファルシは軽く剣を構えて身体強化を発動する。


「身体強化は体内の魔力を全身に巡らせることで、その効果を得られる。部分強化も同じ原理だから、部分強化ができるのなら一定レベルの魔力操作技術は身についているはずだ。だからこういう事も出来る。」


 ファルシは魔力を全身だけではなく、その手に持つ剣まで巡らせ魔力を帯びさせる。


「スキルは魔力を媒介として発動する。だから、ラストは剣で切るだけでも魔力吸収を発動でき、グレイターウルフの身体強化を無効にできる。」


 確かにこれならば身体強化によって上がった防御力も関係なく戦えるかもしれない。


 しかし、周りはその案を聞いて怒りをあらわにしてファルシに詰め寄る。


「お前のやりたいことは分かったが、それだとラストがあまりにも危険すぎる。その策の有用性は認めるが、俺はガキに命を掛けさせるのは反対だ。」


「そもそも調査が危険だと判断したらラストは村に返すって言ってたじゃねえか!それを返すどころか先陣を切って戦わせるってどうゆう事だ。」


「村を守るにはこれが最善策だ。」


「ラストのことを考えろって言ってんだ!」


 一人の男が我慢ならず、ファルシの胸倉をつかんで詰め寄る。


「おい。いつまでラストのことを認めてないんだ?」


「・・・・」


 ファルシは大男たちに迫られるも臆さず言う。


「ラストのことは大人が守らないといけないという考えは捨てろ。俺らが守らないといけないような弱いガキじゃないことは知ってるだろ。ラストはもう守られる側じゃなく守る側だ。」


 その言葉に男は思わず胸倉をつかむ手を緩めた。


 実際、ラストは隊の中でも一番若いが、実力は中の上程度持っている。


 そんなラストを今でも大人たちは、守るべき対象だとラストを子供扱いしていた。


 ファルシは男の手を振りほどくと、動揺している大人たちを置いてラストに近づいて言う。


「ラスト。さっきも言ったようにこの策はお前がカギだ。だが、それだけに相当な危険をともなう。だから無理強いはしない。難しそうなら他に手を考えるが、俺はラストなら出来ると思っている。だから一緒に戦ってくれないか?」


「・・・・」


 皆の注目が下を向いているラストに集まる。


 当のラストは自分が村のみんなの命運を握っているという責任の重さに不安を感じ、答えを出せないでいた。


(僕が頑張って皆を救えるならやりたい。・・・でも、本当にそんなこと出来るのかな?もし失敗したらみんなが・・・)


 ラストがふと顔を上げると正面に立つファルシと目が合う。


 その緑色の瞳はラストを真っすぐ見つめており、他の大人たちのような心配や遠慮が感じられない。


 それは信頼した対等な関係の者に向ける目だった。


「ファルシさんは本当に僕なら出来ると思ってるの?」


「ああ。お前なら出来る。」


 ファルシは迷いなく答える。


(ファルシさんはこんなに僕のことを認めてくれてたんだ・・・。なのに僕は、失敗したらどうしようなんてネガティブなことばっかり考えてた。それじゃダメだ。僕がみんなを守るんだ。父さんとも約束したじゃないか。)


 ラストは覚悟を決め、ファルシに告げる。


「・・・やります。僕にやらせてください!」


 ラストのその顔を見て、ファルシは満足そうにラストの肩に手を載せて言う。


「ああ、頼んだぞ。」


「ラスト。本当にいいんだな?」


「ラスト君・・・」


 ダイやほかの大人たちが心配そうに聞いてくる。


「うん。僕の力で村の危機を救えるのなら、僕はやるよ。心配してくれてありがとう。」


「そうか・・・」


 ラストの決意の固さに、反対していた大人たちも渋々の者もいたがどうにか納得したようだった。


 方針が決まった事で、ファルシが号令をかける。


「今回の調査は想定とは大幅に変わってきているが、俺たちのやることは変わらない。より一層気を引き締めて、森を進むぞ。」


「「はい!」」


 ピリピリした雰囲気が一瞬で引き締まった。


 彼らは陣形を組み、周囲の警戒をしながら森の深くへ進んでいく。




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