森の魔獣と聖剣 1
この村は東から南にかけて山脈に囲まれており、そこには大自然が広がっている。山にはウサギや鹿のような普通の動物から、魔獣と呼ばれる特殊な動物まで色々な生き物が見られる。
魔獣とは、動物が魔素と呼ばれる空気中に漂う魔力に影響を受けて進化した生き物だ。
魔獣は凶暴であり、動物と違い簡単な魔法を使えることでその危険度も高い。
基本的に魔獣は森の奥深くにおり、浅い所では滅多に見かけることは無いが、たまに麓まで下りてきて森を通った荷馬車や猟師が襲われるといった事件も起こっている。
この村でも先日、山に鹿狩りに行った猟師が魔獣を見かけたと言って騒ぎが起きた。
猟師が言うには、いつもと同じように狩りへ向かっていると、途中で灰色の狼の群れを見かけたとのことだ。
その時は、山を下りてくるにしてもそんなところまで下りてくるなどあり得ない、何かの見間違いだろうと思われていた。
しかし、その後も何度も灰色の狼を見かけたといった話を聞くようになり、村はその原因の調査及び討伐をすることに決めた。
そして本日、そのために村の腕自慢たちが門の前に集められていた。
「今回の目的は魔獣が山を下りてきた原因の調査、そして可能であればその討伐だ。」
剣や弓を携えた筋骨隆々とした男たちの中で、細身で優男という明らかに浮いている男が中心で話している。
赤色の長い髪を後ろに流し、使い込まれているだろうローブを着ているこの男が普段、害獣討伐団の団長でラストが世話になっているファルシである。
首にはお守りなのかいつも身に着けているひし形の紫色をした石のペンダントをしている。
今回は害獣討伐団ではなく魔獣調査団として団を率いている。
「目撃証言から判断するに、おそらく魔獣の正体はグレイウルフだろう。グレイウルフは風の魔法を使い、少数の群れで活動する。魔獣の中では弱い部類に入るが、群れでの連携は厄介だから、みな気を引き締めて今回の仕事にあたってほしい。それと、今回は魔獣が山を下りた原因の調査も兼ねている。何か気になった事があったら些細なことでもいいから俺に伝えてくれ。」
「「おう!」」
「よし!細かい指示は現地に着いてからするが、何か質問あるやつはいるか?」
男達を見まわすと、ひとりの青年が手を挙げて言う。
「あの~?そこに子供が混ざってるんすけど、まさか連れて行くんすか?」
青年が指さす方には腰に剣を携え、狩りについて行く準備万端の少年ラストが緊張した面持ちでいた。
「ああ。」
「それ大丈夫なんですか?さすが魔獣退治に子供連れていくのは危険なんじゃ」
心配する青年はそう言うも、周りの大人たちはそれがどうしたというような態度を取っていることに困惑する。
「そういや、ダイは久しぶりの参加だったな。なら知らないだろうがそこのガキは動物なら問題なく狩れるぐらいには動けるぞ。」
「ほんと、俺がガキの時とは比べられない程優秀だよ。」
「そうだな。この歳でこれだから将来が楽しみだ。」
「いやそれほどでもないよ。実戦経験は全然ないし、兄さんの方が強いし。」
否定するもラストは褒められて嬉しいのか照れている。
ラストの実力を知らないダイはそれでも納得できず怪訝な表情を浮かべる。
「ダイ。危険だと判断したらその時点で伝令を数人、村に送る予定だ。その時にラストも引き返させるから気にするな。」
「・・・まあ、それなら。」
ファルシの言葉に渋々だが納得したダイ。
「ほかに何かあるやつはいるか?」
他に手が上がらないことを確認すると、号令をかける。
「おし。では、今から東の森へ向かう。最後に荷物の確認はしっかりしておけよ!」
ファルシがそう言うと、各々自分の武器の手入れや荷物の最終確認を始める。
「ラスト」
「父さん!」
ラストは他の大人たちに比べ荷物が少ないため、すぐに確認を終えてボーッとしていると、警備隊の腕章を付けたシンがラストを見つけ駆け寄ってきた。
「今から行くんだな?」
「うん、そうだよ。」
「ラスト。散々言ったが、魔獣は普通の動物と比べられない程危険なんだ。いつも以上に気を引き締めてあたるんだぞ。あと、絶対一人で行動せずにファルシさんの言うことをしっかり聞くんだぞ。あと・・」
「父さん、大丈夫だよ。」
ラストは心配する父親を安心させるように言う。
「ちゃんと気を付けるし、ファルシさんの言う事も聞く。もう何も出来ない子供じゃないんだからよく分かってる。父さんは村のことお願いね。」
兄さんも父さんも心配性なんだからと笑うラスト。
「分かった。なら、父さんから言う事は一つだ。」
シンは胸を張って、ラストの背中を押すように言う。
「気を付けて行ってこい!父さんは村の警備、ラストは魔獣の調査だ。一緒に村を守ろう。」
そこにはもうラストを子ども扱いして心配する親の顔はない。
「うん!!」
ラストは父親に認められた気がして、嬉しくなった。
「おし。今夜は母さんに頼んでごちそうだ。ナイトも交えて飲もう。」
「いや、父さん。さすがにそれは色々気が早いよ。」
ラストは浮かれる父親に呆れて苦笑いをする。
周りでは調査団の面々が最終確認を終え、東の森へ出発を始めていた。
ラストも足元に置いていた荷物を持って準備を終える。
「それじゃ、父さん。行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
最後にシンと挨拶をし、ラストは他の討伐メンバーに混ざって東の森に向かって歩いて行く。
その後ろ姿をシンは見えなくなるまで眺めていた。
この時シンは何を想ってラストの背中を見ていたのだろうか。
ラストを一人の大人と認めたが親としてやはり心配していたのか。
それとも、頑張れとその背中にエールを送っていたのか。
それはシンにしか分からないが、少なくともこれから悲劇が起こるなんてことは、頭の片隅にも無かっただろう。




