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ナイト・ラスト  作者: 伊藤 おさむ
・・・・
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目覚め 3

 まだ薄暗い空に朝日がゆっくりと昇っていく。


 俺は今、木剣を手に毎朝日課で行っている素振りをしに庭に出ている。


 祝福の儀から約一年半が経過した。


 この一年半である程度、記憶の整理がついた。


 今でも驚きだが、どうやら俺はナイトという少年に転生したらしい。


 この小さな村で父のシンと母のルナ、そしてラスト、メアリと暮らす少年だ。


 一年半過ごすうちに、徐々にだがコンクリートで出来た巨大なビル群やスマートフォンを片手に街を歩く人々といった、あの世界の景色を思い出せるようになって来た。


 しかし、どのような人生を送ってきたのか思い出せても、未だに前世の名前や容姿といった自分の情報に関する記憶だけは削ぎ落されているかのように思い出せない。


 とりあえず、あちらの世界で死んでしまい転生したことは分かった。


 転生と言ってもどうやらナイトの体を俺の魂が乗っ取ってしまったというより、元々ナイトの魂に俺が混じっていて、それが儀式で目覚めてしまったというのが感覚としては近いだろうか。


 所謂前世の記憶ってやつだ。


 俺にはしっかりとナイトとしての記憶はあり、そして元々性格も近かったというのもあるが人格もほとんど変わらないので、周りの人に何か違和感を抱かれるという事もなかったはずだ。


 目覚めた時に感じていた家族への違和感も無くなり、家族とも問題なく暮らせている。


 そんなこと考えて庭に向かうと、そこには既に誰かの影があった。


「おはよう、ラスト。今日も早いな。」


「おはよう、兄さん。」


 素振りを一度止めて、振り返るラスト。


 自分もだがラスト、そしてメアリもこの一年で背丈が伸び、大きく成長した。


 メアリは相変わらず可愛いのだが、なんて言うのがいいのだろう。


 最近は、前のような無邪気な可愛さというより、子供が背伸びして大人ぶるけど出来ていなくて微笑ましくなるあの可愛さだ。


 そして少しずつおしゃれも気にし始めて、見た目もとても可愛くなってきている。


 そして、目の前にいるラスト。


 既に祝福の儀を済ませており、去年までは俺の方が大きかった身長は、ほとんど同じくらいまで伸びた。


 まだ頬っぺたをプクっとさせていた顔は、肉が落ちてシュッっとし始め、声も少し低くなり少しずつ青年に近づいてきている。


「俺も一緒に素振りしていいか?」


「もちろん構わないよ。」


 これぐらいの年になってくると、喧嘩が起こりそうなものだが、そんなこともなく仲良く過ごせているのは嬉しい限りだ。


 俺はラストの隣に並んで素振りを始める。


 最近はこうやって一緒に剣を振ることが増えてきた。


「兄さんも、もうちょっと早く起きて練習しようよ。」


「俺は、短時間集中してする派なの。」


「でも、沢山練習したらもっと強くなれるかもよ。」


「現に警備隊の訓練にもついていけてるし大丈夫。」


「・・・そう言われると、何も言えないじゃないか。」


 警備隊とはこの村の治安維持にあたる者達のことだ。


 主に村を歩き回って何か問題が起こっていないかの確認や周辺に住み着いている魔獣の間引きなど外からの脅威から村を守っている。


 この村では自衛のために、祝福の儀が終わった男子には警備隊に加入するかは別として訓練に参加する義務がある。


 その為、俺もラストもその警備隊の訓練に参加し、こうやって剣の素振りをしているわけだ。


「父さんも兄さんの強さには驚いてたよ!やっぱり『騎士』だと何か違ったりするのかなぁ。」


 ラストは、まるで自分が褒められたかのように喜んでこの話をする。


 その表情に俺は胸にチクッと来るものがあった。


 俺は嘘をついている。


 俺のジョブは『騎士』ではない。


 これが本当のステータスだ。


 〈名前〉ナイト  〈種族〉ヒト

 〈ジョブ〉勇者

 〈称号〉―――

 〈スキル〉聖剣召喚  魂の回路   贈与  肉体強化


 あの記憶が目覚めたその日、俺は勇者になっていた。


 正直、「転生して勇者!チート!やった!」とちょっとだけ浮かれはしたが、そのままでいられるほど能天気ではいられなかった。


 この国、いや、この世界において勇者とは非常に重要な存在だ。


 勇者はヒト族と魔族の争いの命運を握っているといっても過言ではない。そんな勇者を国が放置して、好き勝手生活させるわけにはいかないだろう。


 俺が勇者だと気づかれれば、王都に連れていかれることは目に見えている。


 そうなると待っているのは、お偉いさんの監視下で過ごす不自由な生活だ。


 そんな息苦しい生活を送りたいとは思わない。


「兄さんは将来、警備隊に入らないの?警備隊の隊長さんからも誘われてなかった?」


「俺にその気はない。」


「え~、もったいない。絶対向いてると思うんだけど。」


「そんなことないさ。それに・・・」


 俺はいずれこの村を出て、この世界を知りたい。


 せっかくの異世界なんだから、満喫したいという思いもある。


 だが、なんとなく俺が異世界に転生したのは意味がある気がする。


 もちろん『勇者』の力があるのだから、魔王を倒す役割があるのは分かる。 


 けれど、それとも違う何か、前世で見つけられなかった俺が俺である意味、生きる意味みたいなものを、今度こそ見つけられる気がする。


 その為にも変に目立ってこの力がバレ、自由がなくなることは避けたい。


「兄さん、大丈夫?」


 考え込んでいると、いつの間にか素振りの手が止まっていた。


 ラストは不思議そうにこちらを見てくる。


 俺は誤魔化そうと、ラストの頭をクシャクシャと撫でた。


「それに、お前が居ればこの村は大丈夫だ。お前は警備隊に入るんだろ?」


「ちょっ!やめてよ。」


 考えたところでどうにか出来る話でもない。


 それより、今は俺が安心して村を出られるように、出来る事をしよう。


 俺は切り替えて、素振りを再開した。


 俺たちは木剣を振り下ろし、空気を切る音を鳴らす。


 しばらくの間会話せずに黙々と素振りを続け、ノルマの回数を達成すると俺たちはその場に座り一息ついた。


「そういえば、ラストはスキルの扱いはうまくいきそうか?」


 ふと、そのことを思い出してラストに聞いてみた。


 これがラストの現在のステータスだ。



 〈名前〉ラスト  〈種族〉ヒト

 〈ジョブ〉魔導士

 〈称号〉―――

 〈スキル〉魔力吸収  

 〈魔術〉部分強化


 ラストのスキルは『魔力吸収』。


 対象に宿っている魔力を吸収するといったものであり、自身の魔力量のキャパシティーを越えない限り、際限なく吸収することが出来る。


 これを聞いたときはとても強力なスキルだと思ったが、どうやら村の大人たちからするとそうでもないらしい。


 というのも、こんな辺境の村においては魔法を習う機会がほとんどなく、ラストが唯一覚えている部分強化も魔力消費が少ない。


 よって、このスキルは実質使えないものとされている。


 とは言っても剣を扱うことが出来るラストからすると、相手からの魔法攻撃を防ぐことは可能なので十分役立つスキルだ。


 だから、ラストは警備隊の訓練に積極的に参加して剣の腕を磨いている。


 さらに、定期的に行われる周辺の害獣の討伐にも参加させてもらってスキルの扱いや剣術を学んでいる。


「スキルには少しずつだけど慣れてきたよ。ただ、ファルシさんとの訓練でしか使った事ないから、実戦で使える自信はまだないかな。」


 ラストは難しそうに答える。


 ファルシさんとは、害獣の討伐をする際の討伐団を率いている人物だ。


 聞いた話によると、出身は王都の方で色々なところを旅して回っていたらしい。


 偶々ここの村にたどり着いたときにこの村が気に入って暮らすようになったみたいだ。


 だからか、村人では知りえない知識をもっており、魔法も使える。


 村では比較的若いながら隊長を務めみんなが頼りにしていた。


 祝福の儀の後からラストはスキルを使いこなせるようになりたくて、ファルシさんに魔法を教えてもらいに行っている。


「今日ファルシさんが魔獣調査に行くのは知ってるでしょ?それに僕も連れていってもらうことになったんだ。」


「大丈夫なのか?危険じゃないか?」


「ファルシさんたちも一緒だし森の深くまでは行かないから大丈夫だよ。討伐団にはこれまでも何回か連れて行ってもらったことあるしね。兄さんは心配性だなぁ。」


「そうか?」


「そうだよ。それに実力は兄さんに及ばないにしろ、僕もこうして剣の練習してるし、もし魔獣と出会っても問題なく戦えるさ。」


 ラストは胸を張ってそう言う。


 その自信満々の様子は一年前では考えられない態度だ。


 成長したのは背丈だけじゃなかったんだな。


「分かった。なら帰ってきたらラストの活躍を聞かせてくれ。」


「うん!」


「おし。朝ご飯も出来たみたいだからそろそろ戻ろうか。」


 先ほどからご飯のいい匂いが香ってきており、料理を盛り付けているのかお皿のこすれる音が聞こえていた。


「そうだね。今日のご飯は何だろう。」


 俺たちは立ち上がって、朝ご飯の予想でもしながら家へ戻っていった。 




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