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ナイト・ラスト  作者: 伊藤 おさむ
第一章
31/32

エピローグ

 

 あの後、試験はもちろん中止となり、試験は一日目までの結果で評価された。


 結果は第四班が一位。


 しかし、そこで喜ぶものなど誰もいなかった。


 ライの企みを誰一人として見抜けず、王女の拉致を許した。


 加えて助け出したのは平民で、その間、他のメンバーは眠っていたのだから。


 結果を見た後、みな『貴族として大失態だ。試験がうまくいっても、いざという時に動けなければ意味がない。』と悔しそうにしていた。


 そして、学校は事件の後始末でてんてこ舞いだ。


 事件後、学園の責任問題が問われたが、まだ入学から間もなく、学校側の指導を届かせるのが難しかった点、王立の学園で入学審査には国も関わっており、国にも落ち度があった点、そして、結果的には王女が無事だった点などから、教員たちの給料削減や学園の警備体制への指導といったものに収まった。


 考慮する点があるにしても、王女が命の危機にあったと考えると相当軽い罰だ。普通ならあり得ない。


(考えられるなら、今回の事件で責任を一番に取るべきなのは俺だという事だろう。)


 ラストは胸にナイトの勲章が付いているのを改めて確認し、服装を正すと、覚悟を決めて扉を開く。


「失礼します。」


 中に入ると、厳しい表情をしたアマンダと目が合う。


「よく来てくれたわね。」


「はい。この度は、『セルティア王女に気づかれずに』と明言されていたにも関わらずそれを守れず、それどころか、護衛さえ満足に出来ずにセルティア王女を危険にさらしてしまいました。この処罰はいくらでも受けます。」


 ラストは開口一番にそう言い、頭を下げる。


「・・・・。」


 何も言わないアマンダ。


 ラストはしばらく頭を下げ続けた。


「ハァ・・・。頭を上げなさい。」


 頭を上げるラスト。


「処罰を伝える前に、まず諸々の調査結果から話すけどいいわね。」


「はい。」


 アマンダは机に置いていた資料をペラペラめくりながら言う。


「まず、遺跡の件だけど、あれから特に変化はなければ怪しい人物が出入りする様子もないわ。そして、あの地下の装置は、あなたや王女さまの報告通り、人の魔力を別の物に移すための装置のようね。あそこに設置された兵器が古代兵器だったから、そこにある装置も古代の物だと勝手に思っていたのだけど、違うみたい。あの装置の一部は最近開発された物でどこかから運ばれてきたようね。」


「ッ!」


 ラストもてっきり古代の代物だと思っていた為、その報告に驚く。


 そして、聞きたい事ができたが話していいのか迷っているとアマンダが呆れて言う。


「別にいつも通りしゃべっていいのよ。」


「・・・分かりました。」


 ラストは少し気まずさを感じながらも聞く。


「つまり、どこかの組織が関わっているということですか?」


「ええ。まだ特定は出来てはいないけれど、少なくとも個人で出来ることじゃないわ。」


「じゃあ、ライは何かの組織に入っていたという事ですか?」


「その話もするわ。」


 アマンダは引き出しから封筒を取り出し、ラストに渡す。


「見てみなさい。」


 開けると、そこにはライの生徒名簿と過去に起こった事件の調査記録が入っていた。


 そこに書かれた事件は一年前、ある小さな村が盗賊たちによって襲われたといったものだっだ。


 どうやら、盗賊たちはそのあと捕まったようだ。


 資料をめくっていくと、そこには事情聴取によって得られた情報が書いてあった。


「・・・村人を殺して死体を売った?」


 読み進めていくとそこには、その時の取引について話した内容も載っていた。


 売った死体の数は、村の若者十二人。


 どうやらあまり価値のない老人たちは気にせず、価値の高い若者だけをターゲットにして殺していたようだ。


 その為、老人の生き残りは数名いた。


 その人たちに聞いた話もみると、村の若者は十二人しかおらず、全員殺され連れて行かれたらしい。


「ライの出身を見て。」


 ラストはライの生徒名簿に目を移す。


「えっ!この村?!」


「そうよ。ライは一年前に既に死んでいる。」


「なら死体が動いていたとでも言うんですか!」


「ええ。この生き残りの村人にも話を聞いてみたけれど、ライが殺されたのは間違いないようよ。」


 あまりの衝撃に動揺するラストをよそに淡々と話すアマンダ。


「今回の事件には魔族が絡んでいたわ。魔族が体を乗っ取るなんてことも出来るのはあなたが一番知ってるでしょう?なら、死体を操るような奴がいてもおかしくないのも分かるわね?」


 ラストはこの事実を受け入れたくなかった。


 当たり前だ。確率は低いがこれが事実ならば、彼の村の住人が操られてもおかしくないのだ。


 しかし、ライのことを考えると頭ではそれが可能性として一番高いのも分かっていた。


「ごめんなさい。あなたには辛い事実だったわね。けれど、これが今回の調査で分かったことよ。」


「・・・分かりました。」


 ラストは資料を封筒に戻しアマンダに渡す。


 アマンダはそれを受け取り、取り出した引き出しに戻して椅子に座る。


「その死体を買い取った組織が怪しいので次はこの組織の調査ね。とりあえず、調査結果に関しては以上よ。次は、あなたの処分に関してね。」


「はい。」


 ラストは一度調査の事は忘れ、アマンダの言葉を待つ。


「今回、あなたはセルティア王女に気づかれないように護衛をするという任務において、結果的にセルティア王女は無事だったものの、護衛に気づかれるだけではなくその命を危険にさらした。この任務であなたがやるべきことは分かっていたわよね?」


「問題が発生する前に、速やかにその問題を排除することです。」


「ええ。それが、全く出来なかった。」


 ラストにとっては、耳が痛い話だ。


 護衛は『白』が得意だが、それは対象の安全を守ることであり、今回のような問題の排除ではない。


 これは本来『黒』が得意とするところで、それさえも出来ていない。


『黒のナイト』としての存在意義そのものが問われる問題だ。


「よって、あなたの処分は『黒のナイト』の地位の返上、そしてあなたの場合、その力の特殊性から監視付けた状態での三年間の無賃労働です。」


(まあ、これぐらい重たくて当然だな。労働内容にもよるが、命があるだけマシだと思おう。)


 ラストは胸に付けていた勲章を外し、アマンダに渡そうとする。


「待ちなさい。まだ言い終わっていないわよ?」


 しかし、アマンダはそれを受取ろうとせずに話を続ける。


「労働内容だけど、あなたには三年間、学校に通ってセルティア王女の護衛をしてもらいます。」


「え?・・・。」


 想像していなかった内容に困惑するラスト。


「ど、どういう事ですかっ!」


「そのままの意味よ。これからも変わらず、セルティア王女の護衛をしてもらいます。無賃で。」


「俺はその護衛が出来なかったんですよ。それに、それだと罰になってない!」


 アマンダの雰囲気が上司から、母親のように切り替わった。


「いい?ラスト。あなたは確かに特殊な経験をして、他とは比べられない特殊な力を持ってる。けど、まだ十五歳の子供なのよ。普通ならこんなところに居ちゃいけないわ。」


「・・・ですけど。」


「あなたには罪の意識があるのかもしれないけれど、そもそもあなたも被害者なのよ。それを大人の都合で縛り付けていただけ。もっと好きなことをしていいのよ。学校で友達を作って、勉強して、競って、沢山の思い出を作りなさい。護衛任務とは言ったけど、別で護衛の人物は選ばれるから、仕事と思わなくていい。あなたはただ、そこで出来た友達を守りなさい。」


「・・・・。」


「あなたの力は、本来そういう使い方をするものなのよ。」


 ラストの瞳から自然と涙が流れる。


「そのブローチは、持っておきなさい。それがあれば今まで通り会えるから。」


「・・・ありがとうございました。」


 頭を下げるラスト。


 謝罪ではなく、感謝を込めて。


「だから、たまにはここに顔出して、学校の生活のこととか話に来なさいよ。いつでも大歓迎だから。」


「ッ・・・はい。」


 涙でぐしゃぐしゃになりながら、今できる最大の笑顔を見せて部屋をでる。


(ああ・・・こんな気持ちになったのは、いつぶりだろう。)


 ラストはぼやけた視界のまま廊下を歩く。


 その足取りは、重りが取れたように軽やかだった。




第一章、完。


本文が長いため、あとがきを次のページで書いています。良かったらご覧ください。今後のことについてお知らせがあります。


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