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ナイト・ラスト  作者: 伊藤 おさむ
・・・・
3/32

目覚め 2

 

 ステージの上で教会の神父のスピーチが始まった。


「まずは皆さま、本日はおめでとうございます。私たちもこのような晴天の日に祝福の儀が執り行える事を大変うれしく思います。」


 丁寧な挨拶から始まったスピーチを少年少女たちは静かに聞いている。


「すでにご存知の通り、祝福の儀によって皆さまには自分に合ったジョブを授けられます。それによって得たスキルは皆様の人生を大きく左右するものになるでしょう。スキルの有無は、ステータス至上主義という考えが生まれる程に大きな差を生みだしてしまうものなのです。」


 ステータス至上主義とは、簡単に言うと『ステータスはその人の全てであり、ステータスは体を表す』といった考えだ。


「数十年前まではステータス至上主義の考えを多くの人が持っており、祝福の儀で今後の生き方が決まってしまっていました。仕事も適切なスキルが無ければ出世できず、高い給料で働けなかった。それだけでなく、ジョブが盗人や暗殺者といった犯罪に寄ったスキルの者は煙たがられ、それは平民に多かった事から立場の違いによる扱いの差も酷いものになっていきました。」


 十代の少年たちには想像が難しい話だろうが、神父はその時代を生きてきた人だ。


 その言葉にはどこか重みがあり、子供ながらになにか感じるのか皆真剣な顔をして聞いている。


「そんな世の中は一人の平民出身の青年によって変わりました。彼は平民出身ながらとても強いスキルを持っており、特殊な職業を与えられていました。その職業の名は―――『勇者』。」


「勇者・・・」


 どこからボソッと呟くのが聞こえた。


「先代勇者の話は聞いたことある人も多いでしょう。平民では一番有名な話ですからね。彼は平民の出ながらも、およそ三十五年ぶりに勇者のジョブに目覚め、そのスキルとカリスマ性で仲間を率いて魔王討伐に向かいました。そして、彼らは確認できている限り人類二度目の魔王討伐を成し遂げたのです。」


 この世界には勇者、そして魔王がいる。勇者は人族の中から生まれ、魔王は魔族のなかから生まれる。


 魔族というのは、古くから人族と対立関係にある謎の多い種族だ。長い寿命と高い身体能力を持っているのが特徴であり、その寿命の長さからか数は人族の半分もいない。


 魔族はどこかの小さな村に突然現れると、そこの人々を玩具のように殺してまわり、大きな町に潜むと、人々を裏から操って非道な行いをさせるなど、その凶悪性から人族だけでなく、他の種族からも忌み嫌われている。


 そして、魔王とは魔族の中の頂点に君臨している者だ。


 詳しい事は分かってはいないが、その力は魔族の頂点にふさわしい力を持っているのは確かである。


 そんな『魔王』に対抗するように存在しているのが『勇者』。


 このジョブの特殊性は、得られるスキルが他のジョブに比べて多く、一つ一つが強力であるというのもあるのだが、その中に魔族特攻と言えるような力をもつ技能があるのだ。


 それにより、古くから魔王に対して人族がもつ対抗手段の一つとされてきた。


 神父はまるで自分が成し遂げてきたかのように興奮して、勇者の功績を語っていく。 


「当時、この国の建国時以来の魔王討伐で、身分関係なく皆大喜びしたものです。その後も彼は、私たちでは考えられないような知識をもって、新しいものを生み出しては私たちの暮らしを豊かにしてくださいました。残念なことに彼は十年前に亡くなってしまいましたが、彼の発明は平民だけでなく貴族の間でも今でも欠かせないものが多く、その記憶に強く残っています。」


 周りを見ると神父の話を聞く大人たちも大きく頷いている。


 その発明の恩恵はこの村でも感じるほど大きいものなのだろう。


「そんな勇者は生前にステータス至上主義を変えるべく、平民に対する育成機関の設立や難易度の低い魔法の開発など様々な活動をしてきました。その活動もあってステータス至上主義の考えは最近では徐々に薄れてきています。」


 段々、神父のスピーチは年長者の懐かし話のようになってきていた。


 神父は少年少女らの集中が途切れたのか、話がよく分からないのか定かではないがポカーンとしていることに気づく。


「ゴホンッ。え~、長々と話してしまいましたが何が言いたいのかというと、ステータスはあくまで、あなた達の力の一端でしかないということです。このジョブだから何かを目指さないといけない、目指してはいけない、というような事はありません。それだけは忘れないでください。」


 神父は「以上です。」といって、拍手に包まれながらステージから降りる。


 この後はついに儀式が行われ、ステータスに目覚める。


 広場の雰囲気は神父の話を聞いていた時と一転して騒がしくなった。


 しばらくすると、神父は教会から出てきたシスターを連れて少年少女を教会の方へ誘導し始めた。


 そこまで大きくない村の十二歳の少年少女だけとは言え、流石に教会内に一度に全員は入らないので、何回かに分けて儀式は行われる。


 ナイトも案内に従って移動する。


 どうやらナイトは次のグループのようだ。


 ナイトはワクワクしながら順番を待つ。


 しばらく待っていると、教会からナイト達の前に儀式を受けた者たちが出てきた。


 皆、新しい力を得て満ち足りた表情をしている。


 よく見るとその中には、ノスタルもいた。


 ナイトの視線に気づくと、いつもと変わらず落ち着いた表情で小さく手を振ってくる。


 どのようなジョブだったのか気になり駆け寄って聞きたいが、ナイト達のグループの移動が始まったので、ナイトも軽く手を振るだけに抑えた。


 中に入ると、ナイト達はお祈りをする人のために並べられている重厚な長椅子に座るように指示された。


 言われた通りに席に座るとナイトは教会内の様子を伺う。


 室内はロウソクの明かりのみで少し薄暗く、中に入ってくる日差しも正面の大きなステンドグラス越しの色とりどりの光だ。


 そのステンドグラスを見ると輝く剣を天に掲げている男が描かれていた。


 神父たちは全員が席に着いたのを確認すると、神父を正面にシスターたちが四方に散って、少年少女を囲むように位置取る。


 シスターたちは祈るように、両手を顔の前で組んで目を閉じる。


「それでは儀式を始めます。」


 神父はそう言うと正面に設置されている台座に本を広げて、ぶつぶつと呪文を唱え始めた。


 それに呼応するかのように本から光の線が伸びてシスターたちを繋ぎ、魔法陣を描き始める。


 ナイトは瞼を閉じて願う。


(俺はこれからも弟や妹、母さんや父さんと楽しく暮らしていきたい。だから、神様・・・どうか家族を守れるだけの力を、俺に下さい。)


 魔法陣が完成し、教会内が光に包まれる。


 同時に、ナイトは意識に霧が掛かり遠のいていくのを感じた。









『何の為に生きているのだろうか。』


 頭の片隅には、いつもその言葉があった。


『それは死ぬまで分からない』と多くの人は考えるだろう。


 俺も例に違わず、同じ答えを出して、日々バイトをこなしながらもアパートで一人暮らしをしていた。


 その暮らしは決して裕福ではなかったが特別貧しかったわけでもなかった。


 だからこそ、少しの心の余裕があり、そんな悩みが生まれたのかもしれない。


 今思うと、くだらない悩みだったと思う。


 なぜなら、その瞬間になっても生きる意味なんて見つからなかったのだから。


 生きた意味なんて無かった・・・


 次第にアスファルトの冷たさも分からなくなってくる。


 そして瞼が重くなり、世界から光が消えた。


 最後に見たのは、雨粒を弾く水たまりだった。







「・・・ト、・・・イト。」


 誰の声だろう?てか、死んだんじゃ無かったっけ?


「ナイト!!」


 失ったはずの光が瞼の間から入ってきているのを感じる。


 俺は瞼を開く。


 気が付けば瞼の重さはなくなっていた。


 視界に心配そうな顔でこちらを伺う無精ひげを生やした男と綺麗な服を着たおじいさんが映る。


 どうやら俺はベッドで眠っていたようだ。


「良かった・・・。ナイト、父さんが分かるか?」


「父さん・・・」


 そうだ、この人は父さんだ。それにもう一人のおじいさんは神父だ。いや、この人が俺の父さん?


 何の違和感なく、父さんだと認識することに違和感を感じる。


 そもそも俺の名前がナイト?何だよ、騎士って。


 俺の名前は・・・・あれ・・・。


「思い出せない・・・・」


 何があったのか思い出そうとするが、出てくるのは知らない景色に知らない人々。


 いや、別に知らないわけではない。


 だが、思い出したい肝心な記憶が見つけられない。


 頭の中で状況を理解しようと思考を巡らせていると、父さんが心配そうにこちらの顔色を窺ってくる。


「本当に大丈夫か?」


「・・・ごめん。なんだか混乱してて。」


「祝福の儀の後に、たまにそういう子もいらっしゃいます。今は落ち着いて休ませた方がよろしいかと。」


 神父が父さんを落ち着かせようとする。


「そう・・ですね。」


 父さんは浮かせていた腰を下ろす。


「ナイト。母さんたちにも大丈夫だと伝えておくから、今はゆっくり休みなさい。」


 そう言われると、再び瞼が重たくなってくる。


 しかし、これはさっき感じていたのとは違う心地の良い重さだ。


 俺はこの重さに従い、瞼を閉じた。




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