偽者 9
「聖剣召喚。こい!儀典:エクスカリバーッ!」
「何ッ!」
二人を完全に飲み込んだと思った魔力の奔流は、ライの支配下を外れ、流れを変えたように一点に吸い込まれていく。
「そうだよな。根っこはあの日と同じ魔族なのかもしれないけど、こいつは違う存在だ。あいつはもういないんだ。」
魔力が完全に吸い込まれ、視界が晴れると、そこには一本の剣を持ったラストが無傷で立っていた。
セルティアもあちこちに傷はあるが、『黒糸星雲』による傷は見当たらない。
「なぜだ。なぜおまえが勇者の力を、聖剣を使える!それはお前の兄の力だろ!・・・いや、なんだそれは?」
聖剣召喚でラストの手に収まった剣はナイトが使っていたものと同じものだ。
一点を除いては。
「これは聖剣だけど、紛い物だよ。僕は偽者なんだ。」
その剣はいたるところが錆び付いており、聖剣と言うにはあまりにも醜い。
「・・・ブッ!ハハハハハッ!なんだよ、驚かせやがって!つまり、お前に魔族に対する優位はないんだな。」
ライは腹を抱えて笑い出し、ラストに持った警戒心を解く。
「確かに僕自身の魔力に魔族特攻なんてないよ。」
(やっぱり、スキルだけ持ってても勇者じゃないと意味ないんだろうな。)
ラストは手に握っている錆び付いた聖剣を見て思った。
「ただ、そんなの関係ないよ。これで十分だ。」
「あ?」
ラストは右手に持ったその錆び付いた剣を前に、半身で構える。
「王女さま。」
「なにかしら?」
肩越しに話しかけるラスト。
「僕は・・・いや、俺はまだ、完全に乗り越えられたわけじゃないけど、ちょっとずつ前を向いていくことにするよ。」
「そう。」
「ありがとう。王女さま。」
セルティアはラストがそう言うと、少し不貞腐れた顔をした。
「その呼び方やめてくれないかしら。・・・・セルティアでいいわ。」
「ああ。ありがとう。セルティア。」
少し照れつつもそれに応えたラストにセルティアは満足そうだ。
そして、ラストは頭を切り替える。
「ライ。もう終わりにしようか。」
「お前を倒してなぁッ!」
ライは再び『黒糸星雲』を放った。
しかし、ラストはその場から動かず、剣先をその奔流に向ける。
「『魔力喰貪』」
すると、先程と同様にすべての魔力が剣に吸われていく。
「さっきもそれだったな。何をした!」
「これがこの剣の力だ。すべての魔力攻撃を吸収し蓄える。」
刀身を見ると、錆びの中から仄かに輝きを放っているのが分かる。
「チッ!」
舌打ちをするライ。
そして、遠距離では分が悪いと感じたのか、その手に魔力の糸で編まれた剣を握って突っ込んでくる。
それをラストは難なく捌いていく。
「グアアアアァァァッ!」
一向に攻撃は当たらない事で自暴自棄になったのか、ライは獣のような雄叫びを上げて剣を振り回す。
しかし、それでも当たる気配はない。
「終わりだ。」
ラストはその剣に蓄えられていた魔力を一気に開放する。
「『魔力放刃』ッ!」
その攻撃は本来の聖剣のような輝きはなく、むしろ邪悪にも思える闇をはらんでいた。
しかし、それに嫌な感じはしない。
ライを魔力の剣ごと真っ二つに切り裂く。
光が収まると、残ったライの体は急速に劣化していくように崩れていった。
あの魔族が他人の体を乗っ取れる力があることを思い出し、攻撃を受けていたセルティアの様子を確認するが問題はないようだ。
ラストはここでようやく聖剣を解除し、警戒を解いた。
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読者の皆様、本当にありがとうございます。
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