悪夢 1
時間はまだ昼時だが、この天気と鬱蒼と茂る木々で周囲は暗く、加えて木の根や泥で足場も悪い。
急いで村に戻りたいのは山々だが森の様子やラストの疲弊具合もあり、あまりペースを上げられないでいた。
「その・・・聞いてもいい?」
森の浅い所までくると、ラストが遠慮がちに聞いてくる。
まあ、気になるよな。
俺は負ぶっていたラストを下ろして話す。
「俺はずっと嘘ついてたんだ。俺のジョブは『騎士』じゃなくて、その・・・『勇者』なんだ。だましてて、悪かった。」
しかし、後ろめたさから、ラストの顔から視線をそらした。
ラストを助ける為に勇者の力を使った事が間違っていたなんて思っていない。
しかし、心のどこかにそれでも自分の夢を実現する為には、この力なしでどうにかするべきだったんじゃないかという後悔がある。
現実的にあり得ないと分かっていながら。
加えて俺はこの期に及んで嘘を吐いた。
本当に罪悪感を感じていたのは、だましていたことじゃなくて、信用しきれていなかったことだ。
俺にはまだそれを言う勇気は無かった。
こんな自分が嫌になった。
「すごい!」
え?
罵倒されるとまではいかずとも、小言は言われると思っていた俺は、そのラストの反応に驚いた。
そこで初めてラストの顔を見ると満面の笑みを浮かべていた。
「勇者ってあの伝説の勇者だよね?!なら、もしかしてさっきのって聖剣?」
「あ、ああ。」
「やっぱり!すごい!」
ラストは自分の疲労も忘れ、目の前で伝説になっている勇者の力を見られた事ではしゃいでいる。
しかし、ふと思考顔になった。
「あ、でも兄さんが勇者の事を隠してたってことは、あまり言わない方がいいんだよね?なら、何か言い訳考えないと。そのまま起こったことを伝えるわけにはいかないし・・・」
ラストは俺のことを察して、気を使い始めたようだ。
俺が思っていたよりも、成長していたんだな。
ここ一年、自分の事ばっかり気にして、しっかりと家族と向きあっていなかったことに気づいた。
俺はそんなラストを見て、何故か無性に嬉しくなり、昔のようにラストの頭をワシャワシャっと撫でた。
「えっ、ちょっと何!?やめてよ。」
「ハハッ、そんな事気にしないでいい。どうせ村から出た時に嘘をついてた事はバレただろうし、さっきの光は村からも見えただろうからな。もう、隠す必要はないよ。」
そう。もう嘘を吐く必要はない。
今まで信用出来ていなかったのなら、これから信用していけばいい。
それに、今のラストならそんな心配もなさそうだしな。
父さんや母さん、それにメアリともこれからしっかり向き合っていこう。
「さあ、みんなが心配してる。急いで村に戻ろうか!」
「そうだね。」
俺たちは少しペースを上げて村に向かった。そして森をようやく抜けて少し進んだ時、異様な光景が目に入った。
「ねえ・・・兄さん。あれ、村の方だよね?」
「そのはずだ。」
雨の影響で視界が悪くなっていて、ある程度近づかないと気が付かなかったがよく見ると村がある方角から火の手が上がっていた。




