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9話。『風の洞窟』6。

(──魔人? 獣人? ドワーフ?)


 逃げなければならない状況なのに、初めて聞く言葉が私の足を止める。

 

 モォモォ……と、砂煙が上がる中──今が逃げるチャンスなのに。


「リリル!!」


「う、うん!」


 ジャンゴの叫び声でハッとする。

 けど……。


(さっきの黒い恐ろしい『人』……の姿をした誰かが『魔人』──)


 『魔人』なんて、言葉は知らない。

 けど──昔、パトト爺ちゃんの話してくれた大預言者ホーリーホックのお話の中の言葉。悪しき人……悪い人──


(──デモ……ニオ……)


「ククク……。魔人ですか? 私が? 光栄ですね。もっと優雅に『魔人デモニオ』と、呼んで頂ければ尚、良い」


「フン! 魔人になりたてか? 人ならざるものよ……」


「フフ……。竜殺しのパトト。我らが魔人デモニオにも轟く伝説級レジェンドネーム。では、あなたに何処まで通じるか……。試してみましょうか? 『シャドウ錬成インパス!! 三日月斬影波トライアングルブレードムーン』!!」


 モォモォ…と上がる砂煙の中──

 魔人デモニオとパトト爺ちゃんの声が聞こえた。

 煙で、よく見えないけれど、稲光みたいに何かが光ったかと思うと、黒い三日月みたいなのが、幾つもたくさんパトト爺ちゃんのいる辺りに飛んで来て、私たちの目の前で、爆発した。


(シュゴゴゴゴゴ──!! ドゴゴオオォォォォン!!)


 砂煙の中から、パトト爺ちゃんだけが、転がるように出て来て、すぐさま、持っている小さな斧を構えた。

 さっきまで、洞窟の岩くらい大きかったのに、マキ割り用の小さな斧に縮んでいる。

 けれど、斧を持っていない方のパトト爺ちゃんの左手に、小さなお星様のような光が、キラキラと、たくさん集まっている。


「フン!! ダブルマシンガントマホーク!!」


 今度は、モォモォと砂煙の立ち込める中──真夜中に光る雷雲みたいに、雷光が光り、洞窟の中全体が、地震の時みたいに激しく揺れた。


(ズドドドドドドドドドド──!! ズガオオォォォォォォォォン……!!)


 まるで、魔物の咆哮ほうこうみたい。

 多分、本物の魔物が私の目の前にいたら、そんな風に聞こえるんだろうなって言うくらいの鳴き声みたいな大きな音。


「クッ!! やりますね? 流石は、パトト。伝説レジェンドクラスの強さです……。錬成インパスした武器アルマを、さらに飛ばして連射させるとは……」


「フン!! 魔人に敬意など、いらぬわ……!!」


 モォモォ……と、立ち込める砂煙がだんだん消えて来て──

 風の洞窟の中の、私の目の前の辺り一帯が『お星様』の青白い光で、再び明るくなって来ていた。


「いったい、どうしたら、そんなにも強くなれるのです? 力を求めて魔人デモニオになったというのに……。私は、この有様ですか……」


 目の前の様子が、だんだん見えて来た。


 洞窟の中のツルツルとした岩肌がツヤツヤと──『お星様』の青白い光で、輝いている。

 けど、私とジャンゴが最初に来た時よりも『お星様』の青白い光が、弱まって来ているのが分かる。


 パトト爺ちゃんは、私の目の前に立っていて──遠くの山に魔物を狩りに行く時みたいな魔物の皮と何かの金属で出来た鎧兜よろいかぶとを、頭の先から足の先まで身につけている。

 反対に、魔人──『デモニオ』は、グズグズの黒い液体みたいに溶けていて、白い煙を上げながら、もとの人の姿に戻ろうとしていた。

 身体が溶けているのに、普通にしゃべり声が聞こえる『デモニオ』──


「ジャンゴぉっ!! リリルを抱えて、飛べっ!!」


 パトト爺ちゃんが、叫んだのと同時に──ジャンゴは、私をすぐに抱えて、川に飛び込もうとした──その時。


「ククク……。まあ、そう急がずとも良いじゃないですか?」


(──ビーン……)


 何かが、私を抱えたジャンゴを引っ張ってるみたいにして──ジャンゴは、それ以上、身動きが取れなくなった。

 魔人デモニオの人の姿になりかけた指先みたいなところから──黒くて細長い影みたいなのが、ジャンゴの後ろまで伸びて来ていて──、洞窟の『お星様』の青白い光に照らされているのが分かる。

 虚ろな目をした魔人デモニオが、もう、もとの『人』みたいな姿に戻ろうとしていた。


「『ヴィオ』の力か?」


 パトト爺ちゃんが、静かにそう言って、立っている。

 なぜか、不思議なことに、パトト爺ちゃんの手には、持っていた斧が消えていて──不思議なお星様のような小さな光の粒が、もう一度、代わりにたくさん集まって来ていた。


「フフフ……。『ルース』の力ですか? 幾度となく錬成インパス出来るその凄み。流石は、竜殺しのパトトですね? 魔人デモニオの中でも、あなたに会いたがるヤカラは絶えませんよ?」


「ぬかせ……」


(──……ヴィオ? ルース? それに、インパス? なんの言葉だろう?)


 魔人デモニオの虚ろな目が、生気を取り戻したかのように、ギラリと再び金色の光りを取り戻した。


 私は、逃げなきゃって、思っているのに、聴き慣れない言葉が私の頭の中を混乱させる。

 パトト爺ちゃんから聞いたホーリーホックのお話の中にも、そんな言葉は無かった。

 まるで、知らない国のお話の中の世界に引き込まれたみたいで──


「くっ!! 動けねぇ……!!」


 私を抱えたまま、ジャンゴが力いっぱい逃げようとしているけれど、話すのが精一杯みたいで、そこから一歩たりとも動けずにいた。

 反対に、パトト爺ちゃんは、もとの姿に戻った『魔人デモニオ』をにらんでいて──私の知らない言葉を続けてしゃべり始めた。


「貴様……。『ステラ魔法陣マギア』の書き換えに成功したか? 『ステラポルタ』は、通常、魔人には通れぬはず。なのに、ここにお前が来た。風を司るステラの意識も弱りつつある……。急務じゃな」


「何が、言いたいのです?」


「つまり──、お前を、この場で消し去ると言うことじゃっ!!」


 そう叫んだパトト爺ちゃんの左手に──小さなお星様みたいな粒がたくさん集まって来て──私よりも大きくて長い剣みたいなのが、突然、現れた。


(──……キーーーーーーーン……──!!)


 耳鳴りのような高い金属音が、私の耳の奥まで鳴り響く。


光刃錬成ブレードインパス!! 『竜人剣ドラゴニックソード』……!! 『竜爪牙デモニウムキラー』!!」


「ほお? 凄まじい……。とてつもない錬成力インパスアビリティですね? ここまで具現化出来るとは……!? 竜殺しの名も、伊達ダテではありませんね?」


「ほざけっ!!」


「ならば、私も新しい力をお見せしましょう……。『星喰スターイーター魔圧空間ブラックホール』──!!」


(──ビギィィィィィン……!!)


 ──一瞬の光。

 

(──ガガゴオォォォォォ……ン──!!)


 けれども、魔人デモニオのかざした左手に現れた黒くて大きな丸い円盤状の何かが、パトト爺ちゃんの振り下ろした剣みたいなのから出る光をたくさん吸い込んでいて──


 弾かれたパトト爺ちゃんが、一瞬、洞窟のツルツルとした岩肌に転がり落ちた。


(ゴロゴロゴロ……。ドスン──!!)


「フン!! ……我ながら、情けない。貴様程度の力でこのワシが、弾かれるとはの? 年のせいか? そろそろ、後継者も決めねばなるまいか……。ジャンゴぉっ!! リリルっ!! よぉく、見とけっ!!」


 そう言ったパトト爺ちゃんが、一瞬の閃光になって、魔人デモニオの左手にかざされた円盤状の黒い何かに、飛び込んで行った。


「流星よ!! 翔けろっ!! 天竜が無限っ!! 『竜星無限回帰ドラゴインフェルノ』!!」


(──ズガガガガガガガガガ……!! ズゴゴゴゴォォォォォォ……ン──!!)


「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ……!!」


 私には、パトト爺ちゃんの動きが全く見えなかった。

 凄まじい爆音が鳴り響き──風の洞窟全体が、激しく揺れている。

 激しい光と、白い砂煙が凄すぎて、何が何だか分からない。


 そして──白い霧みたいな砂煙がモォモォ……と、消えるまで──だいぶ時間が掛かった。


 目の前には、長くて大きな光輝く剣を、地面に振り下ろしたパトト爺ちゃんが息を切らして立っている。

 

 ──魔人デモニオは──


 頭の先から一刀両断にされて、白い煙を上げながら、ブラーンとなったまま立っていた。

 

 だけど、魔人デモニオの後ろで輝く『お星様』まで、パトト爺ちゃんの光輝く剣が割ってしまっていたみたいで、どんどん辺りは真っ暗に──光を失っていた。

 洞窟の中全体が、薄暗くなって来て──パトト爺ちゃんの握る光る剣だけが、ボンヤリと、辺り一帯を照らしていた。


「良いんですか? 風を司る『ステラ』まで斬ってしまって?」


 頭の先から一刀両断にされているのに──尚も魔人デモニオが、白目を向いたままでブラーンと、パトト爺ちゃんに話しかけていた。

 

「フン! お前たちに利用されるくらいなら、『ステラ』も死を望む。それに、『ステラ』は、まだ死んではおらんわっ!!」


(──ギュウゥゥゥゥーーーン……──)


「あっ!!」


「え?」


 『お星様』の中から何かが飛び出して──

 驚いた私とジャンゴが、目をパチクリとさせた一瞬。


 『お星様』の青白い光の塊が、私の胸の中へと入って来た。


(──……星の巫女よ。世界の申し子よ……。私を頼む。旅の先で、私の仲間たちを救ってほしい……──)


 頭の中で、鳴り響く声──


「お星……様?」


「リリ……ル?」


 ジャンゴに抱っこされたまま──ジャンゴを見た私の目と毛むくじゃらのジャンゴの目が合って──ジャンゴの目に映る私が、何かキラキラとまるで輝いているように見えた。


「ククク……。お嬢さんの価値が、一気に上がりましたねぇ? ますます、逃がす訳にはいかない」


 ダラーンと、一刀両断にされた魔人デモニオの身体が、目を虚ろにしながらも、また、もとどおりにくっつこうとしていた。


「ぐっ!!」


「うっ!!」


 さっきまで、ジャンゴを縛っていた魔人デモニオのパトト爺ちゃんの言う『ヴィオの力』が、さらに強くなったせいなのか──私の身体まで、身動きが取れなくなっていた。 


「さぁて、どうしますかね? 風のステラ──の意識と力も弱まってますし、どんどん『ヴィオの力』がみなぎりますねぇ? 今は夜ですし? 追い込まれましたね? 竜殺しのパトト?」


「分からんか? 貴様はワシに2回、葬られておる。再生能力の限界。貴様とて命に限りがある。それに、ワシがステラを斬った以上、貴様は『ステラポルタ』をくぐれぬ。つまり貴様は、もとの場所に帰れぬと言うことじゃ」


「ククク……。やってみなければ、分からないじゃあないですか? 『ヴィオの力』も強まって来ていますからね。フフ……。しかしながら、確かに、目の前のあなたを倒さなければ、風のステラの力を手に入れたお嬢さんをさらうのは、難しそうだ……」


 相変わらず、私とジャンゴは、身動きが取れない。

 魔人デモニオの指先から伸びる細長い影みたいなのが、プッツリと切れたのかは分からないけれど──変わりに、黒い蛇みたいなのが、私とジャンゴをグルグル巻きにしてて──私とジャンゴは、息苦しいくらいに締めつけられていた。


「ぐっ……。く、苦しい……。ジャン……ゴ」

 

「くっ!! し、しっかりし……ろ。……リリル!!」


「さぁて。お嬢さんと毛むくじゃら坊やが、気絶するのが先か? あなたが私に倒されるのが先か? 見物ですねぇ?」


「フン! 言ってろ……。お前に未来など、無いわっ!!」

 


 


 


 




 

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