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5話。『風の洞窟』2。

「ハァ……。ハァ……。(ゴクン……。)もう──、ジャンゴのバカっ!!」


「へっへー。オイラに勝てるようにならなきゃな? そんなじゃ、魔物から逃げられないぜ?」


 夜の星空が輝くイシュタールの大平原。

 先に『風の洞窟』まで走って行ってしまった毛むくじゃらジャンゴを追いかけて、私は何回も転びそうになった。

 毛むくじゃらジャンゴは、裸足だから足も速い。毛むくじゃらだし。

 私は、パトト爺ちゃんが作ってくれた人喰い植物の魔物『ジャンボウツボカズラ』の皮で編んだ靴をはいてる。

 滑りにくいけど、さっき走ったら、靴ずれしそうなくらい、かかとの後ろが痛くなった。


「何回も転びそうになっちゃったじゃない!! ジャンゴのせいよっ!! 怪我したら、どうしてくれるのよ!?」


「ハハッ!! そんなじゃ、いつまでたってもウミルの村を出られないぜ? リリルは、大人になってもウミルの村にいるつもりなの?」


 明日は、子どもから大人になるための私の13才のお誕生日。

 13才になって大人になったら、いろんなことが許されるようになる。

 例えば、パトト爺ちゃんと、一緒に魔物狩りに行ったりとか……。


(生きてる魔物って、どんなだろう? パトト爺ちゃんと、早く遠くの山まで行って、魔物狩りのお手伝いをしたいな──)

 

 私は──


 ──いつか、ウミルの村を出るのかな? ……誰と? 一人で?


(考えたこともなかったな……──)


 ジャンゴに思いがけないことを聞かれて、私は、何て言って良いか分からなくなった。

 パトト爺ちゃんの武器作りのお手伝いをするんだーって、そんな風に思ってたことはあったけれど……。


 ──でも、ジャンゴは、どうするのかな?


「ねぇ? ジャンゴはどうするの?」


「え? 何? 俺?」


「そう。ジャンゴは、13才になったでしょ? これから──どうするのかなっ……て」


「えっ? えーっ!? 俺? んー……。そうだな……」


 私とジャンゴは、真夜中の『風の洞窟』の前に立ってる。

 『風の洞窟』の中は、真っ暗で何も見えない。

 洞窟の中から吹く風が、「コオォォォォ……」って音を立ててる。

 真夜中のイシュタールの大平原の空気が冷たくて、夜空に浮かぶお星様は、相変わらずキラキラとキレイだ。


「んー……。そうだな。リリルと一緒に冒険の旅をするってのは、どうだ?」


「え? 私と一緒に? 冒険?」


 考えてもみなかった。

 ジャンゴと冒険?


「嫌よ! 魔物があらわれたら、私をおいて、ジャンゴだけサッサと逃げちゃうんでしょっ!?」


「え? い、いや、そ、そん時はだなー……。お、俺がリリルのこと……必ず守るよ──」


「え──?」


 な、なに、ジャンゴのくせに、変なこと言ってんだろ……?

 守るって言っても、どうやって?

 パトト爺ちゃんなら、強いから絶対に私のこと守ってくれるだろうけど──


「じゃあさ、約束してよ? 私がピンチの時は、ジャンゴが私のことをぜーったいに守るって!! さっきみたいに私のこと置いて走って行っちゃうのは無し!! 分かった?」


「お、おう……。わ、分かったよ。約束するよ……。リリルのこと……絶対に守るよ──」


 な、なんか、ジャンゴのくせにジャンゴの様子が、変だ……。なんか、モジモジしてるし……。

 わ、私まで変な気持ちに──なっちゃうじゃない……。


「そ、そうだ!! は、早く『風の洞窟』の中へ入ってみようぜっ!?」


「う、うん。け、けど、中──真っ暗だよ? 大丈夫なの? 何も見えないし……」


 『風の洞窟』の入り口は真っ暗で、さっきもだけど、洞窟の中から「コオォォォォ……」って、音を立てて風が吹いてる。

 夜空を見上げれば、お星様が輝いてるだけで、あたりはほとんど真っ暗。だから、『風の洞窟』の中なんて、もっと真っ暗。

 村の人たちが入れるように、洞窟の中は、ある程度歩きやすいようになってるってパトト爺ちゃんが言ってたけど……。


「大丈夫なのかな……?」


「大丈夫だって!! 俺も何度か入ったことあるからっ!! 大丈夫だぜ?」


「ほ、ほんとに?」


「あぁ。暗くて怖いのは、最初の入り口だけ。勇気を出して中に入っちゃえば、どうってことないさっ!! 人生ってヤツと、同じだよ?」


 な、なに言ってんだろ……? ジャンゴのくせに。

 人生と同じだーなんて。

 なんか、ジャンゴが少しだけ大人にみえた。

 13才になったから?

 私だって──


「ふん!! わ、私だって、へ、へっちゃらよっ!! な、なんてこと……ないんだからっ!!」


 私は、12才だけど明日で13才になる。

 もう、子どもじゃないんだ。明日からは──


「へー……。じゃあさ! 行こうぜっ!! 『風の洞窟』の中へ!!」


「う、うん。い、行って……みるわよ」


 私が、ジャンゴにそう言うと、ジャンゴがポーン……と、先に『風の洞窟』の中に飛び込んで入って行ってしまった。


「だからぁっ!! 私のこと置いて行かないでって、さっき約束したばかりじゃないっ!!」


(──じゃない……じゃない……じゃない……──)


 『風の洞窟』の中に、大声で叫んだ私の声が、たくさん木霊こだました。


「あ、悪い悪い!! そ、そうだったよな!! さっき約束したばっかだったな!! 悪い! ゴメン!!」

 

(パシッ──!!)


 そう言うと、戻って来たジャンゴは、私の手をつかんで──どんどんと、『風の洞窟』の中へと入って行った。


「ちょ、ちょっと!! ジャンゴっ!!」


「なに? 怖いの?」


「い、いや、そうじゃなくって……」


 手……。

 握られたの初めてだ。

 いや、初めてじゃない……。

 いつだっただろ?

 私が小さい時にも、ジャンゴにこうやって、手を握られたような──


「あ、ほらほら!! だんだん明るくなって来たぜっ!?」


 『風の洞窟』の入り口あたりは真っ暗だったけれど──


 奥に進むと、洞窟の中に川みたいなのが流れてて──


 パトト爺ちゃんが言ってたように、洞窟の中の岩肌を、青紫色に幻想的に照らしていた。


「うわぁ……。キレイ……──」


 私が立ち止まって──手をつないでたジャンゴも立ち止まった。

 それは、まるで、夜空のお星様。

 いや、それよりも、もっと明るくてキラキラとしてて、輝いていて──


「な? 来て良かっただろ?」


「う、うん……──」


 私は、美しいキレイな幻想的な洞窟の中の様子に目を奪われてしまった。

 村の人たちが作ってくれた洞窟の中の道は、平らで安全だった。

 でなきゃ、私は、転んで怪我しちゃう。

 あ。でも、もしも、冒険に出るって言うのなら……、冒険じゃなくてもパトト爺ちゃんの魔物狩りのお手伝いをするって言うのなら──


「ハァ……」


「どうしたの? リリル?」


「いや。私って、冒険とかに向いてないのかなー……って思って」


「そうなの?」


「うん……」


 覚悟って、言うのかな?

 冒険とか魔物狩りのお手伝いとか……。

 13才になれば、明日になれば──

 ──なんでも、出来るって思ってた。


 けど、ジャンゴは、毛むくじゃらだし、足も速いし、パトト爺ちゃんにポイッて、投げられても平気だし。

 私は──


「私って、ジャンゴみたいに木登りも上手に出来ないし、逃げ足も速くないし。なんの取り柄もないし……」

 

「そうなのかな……?」


「うん。そうだよ……」

 

「じゃあさ。今から作れば良い。リリルの取り柄ってヤツをさ?」


「え?」


 ジャンゴの私の手を握る片方の手が、ギュッってなった。


 立ち止まってた私は、ジャンゴに手をつながれたまま歩き出した。

 ジャンゴも私と手をつないだまま歩き出す。


(タトン……タトン……──)


 私とジャンゴの二人の足音が、洞窟の中の木の橋を渡るたびに鳴る。

 まるで、私の心臓の音みたいに。

 橋には柵が無いし……危ないし。

 私はジャンゴに……手を握られてるし。


 ジャンゴに手を引かれて──


(ジャンゴは、なんて想ってるのかな──?)


 なんか……。

 洞窟の中を流れる川の音だけが聞こえる。

 静かだ──


「なぁ?」


「え──!?」


 静かだったのに、私はジャンゴに急に話しかけられて──ドキッ! とした……。


「な、なに?」


「いや、リリルこそ、なに驚いてんだよ……?」


「え? 私? べ、別に、驚いてなんか……ないよ……」


「それよりさ、ほらっ! あそこ!!」


「え?」


 ジャンゴの「それよりさ──」が、ちょっと、引っ掛かった。

 それよりって、どう言うことよ?


 だけど、ジャンゴが指さしたその先には、吊り橋があって。

 さらに、その奥には──青白く光る断崖絶壁があって、ずーっと下の方から何か強い光みたいなのが、このあたりの洞窟の岩肌を、幻想的に照らし出しているみたいだった。


「あー。ここまでだな。あそこから先は、危ない。鎖場くさりばになってて、鎖をロープ代わりにして下までたどり着くと、いよいよ、大予言者ホーリーホックの言ってた『お星様』が、まつってあるってわけさ」


 ジャンゴが、私の手を離さずに、そう言った。

 なんか、熱くなって来て、手だけ汗ばんでる。

 この洞窟の中は、外の気温よりも暖かいから……。


「さ、帰るか? パトトのジジイが寝てる間に──」


「イヤ……」


「え……? リリル?」


 私は、何を言ってるんだろうって想う。










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