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竜星魔神王~星の巫女。リリルを求めて~  作者: すみ いちろ


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24話。戦慄! 魔女の巫女。②






「ハハ!! 知ってる? 生命の成れの果ては土!! どんな魔物でも魔人デモニオでさえ、いつかは土に還るわ? 土の魔法マギアは死を司る!! ヴィオの力で錬成すれば、生命さえも操るのは自由よ!!」


 黒色のヴィオの魔力風が、礼拝堂の天井に立ち昇るほど吹き荒れ、吊り下げられた誰か──国王様と王妃様なのか──、そのロープが激しくきしむ。

 魔女の巫女の赤く長い髪の毛が、か細い黒の修道衣の肩に糸状に逆巻き、顔を覆っていたはずの白のケープが、弾け飛んだ。

 

 赤い眼──。狂気を宿した瞳には相応しくない童顔。

 私とジャンゴと、さほど変わらない。あどけなささえ感じる表情カオ。なのに──。


「ヤーモナマホルカバルラハム……。天地より生まれし土と闇の巨人よ、生贄の命と魂を糧とし、光りゆくものたちを永遠とこしえに呑み込めっ!! 『暗黒土巨人ダークギガンテス』【土星闇魔神タイダルグランデタイタン】!!」


(──ドガガガガガ……!! グルモゥォォォォーン!!)


 生きたまま──。いや、それさえも分からないけど……。

 目の前に居た修道女さんたちや法衣を纏った人たち、それに鎧の兵士さんたちが、黒色のヴィオの魔力風に次々と命を亡くした人形のように巻き上げられ、まるで人の身体が脈打つように連なる。

 竜巻のようにウネる魔力風の暗黒の霧が、人間を吸収して更に化物バケモノの姿を型取り、その巨大な影がウィンザードのお城もろとも瓦礫の山に崩し去った。

 

 瞬間──。それよりも速く。


 崩壊寸前の礼拝堂の天井を蹴り上げたジャンゴが、床と壁が崩れ去る刹那、国王様と王妃様──何よりもまだ助けられる誰かの命へ──と、竜狼の手を伸ばした。

 けど──。


「ジャンゴ!!」

「間に、合わねぇっ!!」


 瓦解した礼拝堂の床が、底抜けしたように私の足もとから崩れ落ちる。闇に呑まれ、国王様と王妃様と見てとれる二人が、魔女の巫女を包む黒い霧に吸収されて行く。

 その光景が目に飛び込んだ刹那──、バランスを崩した私の身体が、床に受け止められること無く落下して。降り注ぐように崩れ落ちる崩壊した天井の瓦礫と、夜空に輝く月を、この目ではっきりと見た。

 

 時が止まる。何も考えられない、静寂──。


 目の前には、幾つもの人の顔を貼り合わせた、ヴィオの巨人が月夜に浮かび上がる。まるで、お城のように。けれど、ウィンザードのお城は、影もカタチも無かった。

 落下の刹那──。風のお星様の青い光が私を包む。


「(リリルーぅ!!)」


 声が聞こえる。私の胸の中で青く光る風のお星様の声だ。けれども、大きくて重い岩のようなお城の瓦礫の塊が空から降って来て──。目の前に。

 ──私は、その下敷きに……。死の恐怖で身体が、動かなかった。


「リリルっ!!」


 今度は、ジャンゴの声だ。巨大な瓦礫の影が、月の光を背にして私の眼前にまで迫る。

 寸前──。

 竜狼のジャンゴが、私の頭を庇うようにして、地面と巨大な瓦礫の隙間に滑り込んだ。


(──ズザザザザザ!! ズドォォォォォーン!!)


 途轍もない大きな振動が、夜の大地を揺るがす。まるで、お月様まで震えるように。


「無事……かよ?」

「ジャン……ゴ」


 月の光の輝きに似たジャンゴの竜の目に、私の目が映る。

 風のお星様の青い光に包まれた私とジャンゴは──、降り注ぐ巨大な瓦礫の雨を搔い潜り、冷たい大地への衝突を免れていた。


「アハハ!! 思い知った? お母様と私の土の魔法マギアヴィオ魔力チカラ!! 五芒星の魔法陣を使えば、アンタたちなんて、訳ないっ!!」


 月夜に浮かび上がるヴィオの巨人が、暴れ狂う黒の魔力風を夜空へと突き上げる──。その角の生えた魔人デモニオの髑髏のような頭上に、半身を一体化させた魔女の巫女が居た。それは、とても恐ろしい姿だった。

 

「ハァハァ……。お前、魔法陣壊しちまっていいのかよ? 大事なお母様の魔法陣なんだろ?」


 月のような金の目を光らせたジャンゴが、ヴィオの巨人の髑髏の頭部に浮かぶ、半身の魔女の巫女を見ていた。

 私を抱きしめた──その竜の横顔が、炎のような赤い色を宿している。


「ハハ!! 何か勘違いしてる? 死者のマテリアは確かに必要だけど、一番の目的は、星の巫女──貴方よ、リリル!!」


「くっ!! わ、私のために、この国の人たちが……」


「フフ……。そうよ? つまり、まんまと囮に食いついた貴方たちをおびきき寄せて、罠にはめたってワケ。もう手遅れよ?」


 半身を仰け反らすように空の月を見上げる──魔女の巫女の赤い瞳。

 身体から立ち昇る黒い魔力の霧に、血の匂いが混ざる。

 その瞳からは、人の血のような涙が頰を伝い、私とジャンゴをギリギリと睨んだ。

 

「ハハハ!! お母様のために死ねるのなら私は本望よ!! 貴方たちのマテリアとともに、お母様に捧げれば、きっとお喜びになるはずだわ!!」


 魔女の巫女の言葉を聞いたジャンゴが、私を庇っていた手をそっと離して──。

 闇夜に浮かぶ月の明かりを背に、銀狼のたてがみが、立ち上がったジャンゴの赤く光る竜の背中で揺れていた。


「あ? 泣いてんのかよ? だからって、この国の大勢の人たちを殺していい理由にはならねぇっ!! お前が死んでもなぁ、誰も生き返らねぇんだよっ!!」

 

 その僅かな時間──。

 ジャンゴの金に光る目が見据えた先に、月明かりの夜空をヴィオの巨人の髑髏が覆い隠す。

 地面に挟まれば、一瞬で命を押し潰される衝撃が全身に走り抜ける。ヴィオの巨人の漆黒の腕が迫っていた。

 

「ゴバハァァァァー!! 死ねぇぇぇぇーっ!!」


 巨人の黒色の手のひらに貼りついた人面の──、その断末魔のような地獄の叫び声。

 それは魔女の巫女とは違う、礼拝堂に倒れていた修道女さんの誰かの顔だった。

 まるで、生きながら意識を乗っ取られたかのような表情で──。

 

 身動きが取れない。

 

 私の目に、人面のヴィオの塊が、巨石のように空から降り落ちる。

 希望さえも砕け散る最中、竜狼のジャンゴが【双頭竜狼爪ダブルファング】を十字架クロスにして、私の身を庇うように立ちはだかっていた。


「グバッハァーーッ!! ドラゴンの炎はよぉ、ヴィオの魔力さえ切り裂くぜ? 【双頭竜狼爪ダブルファング】にまとわせりゃあよぉ、土の魔法マギアも関係ねーぜっ!!」


 ヴィオの巨人と化した魔女の巫女の背に、丸い輪のお月様が、くっきりと浮かぶ。

 巨大な人面の岩と化したヴィオの塊が、眼前にまで迫る──。私との間に立つジャンゴのドラゴン火炎ブレスが、【双頭竜狼爪ダブルファング】に点火し、炎の十字架になった。


(──ゴオオォォォォーッ!!)


「ゴォアッハァァァァーーッ!! 名づけて! 【火炎十字双牙ダブルファイアクロス】!!」


 ジャンゴの叫び声が、月明かりの夜空に木霊した。狼のように。

 振り下ろされた人面のヴィオの巨石に、竜狼のジャンゴが炎を纏い、風よりも速く駆け抜けた。

 私の目の前で──。瞼を閉じる事さえ無かった刹那。

 切り離されたヴィオの巨人の腕が、肩まで縦に引き裂かれるようにして、大量の土砂の雨になって降り注いだ。

 まるで、魔物をさばくような炎の太刀筋に、火炎が巨人の身体に走る。中から、取り込まれた人たちの身体が、何体もボタボタと地面に落ちた。まだ、意識があるのか、うめき声が上がる。

 そして、そのジャンゴの炎の刃は、巨人の頭上──魔女の巫女に届く寸前まで切り裂かれていた。


「──勝負あったぜ?」

「ハハ!! それで勝ったつもり?」


 一瞬で、魔女の巫女の背後を取ったジャンゴ。けど、魔女の巫女は、赤い瞳をギリギリと落として、指先を震わすように私に向けた。


 土の魔法マギアヴィオの錬成術──。


 まるで、もぞもぞと──地面に降り注いで落ちた土砂の塊が、意思を持った黒い霧を纏って、生き物のように這いずる。


「ハハ!! 勝った!! これで、星の巫女は、私とお母様のものっ!!」


 月の夜空に、魔女の巫女の高笑いが響く。


「ど、どういう事よ……! くっ! か、身体がっ!!」


 私の身体に重い泥が大量に纏わり付く。重くて、動く事さえ阻まれる。指先さえ──。


「(リリル! リリルーぅ!!)」


 風のお星様の声が、胸の中で聞こえた。

 けど──。土の魔法マギアヴィオの魔力の泥の中で、意識が薄れる。

 

 夜の空が見える。呼吸も出来る。傷ついたジャンゴと違って、私はまだ体力だってあるのに……。

 これで、何度目だろう? 私は、守られてばかりだ。今だって、そうだ。何も出来ずに、ジャンゴの足手まとい。

 

 魔女の巫女は、許せない。けど、あの子はお母様の──魔女の役には立ってる。

 私は、何だろう? ジャンゴに守られて──風のお星様にも守られようとしている。私のせいで、この国のウィンザードの人たちが大勢死んでしまったのに……。


「(リリル! しっかりして! 僕の力は、僕一人じゃ使えない!! リリル……君がいるからこそ、僕が僕でいられるんだよ!!)」


 なんだ……。そうだったの? 

 特別な何かとか、選ばれた誰かとか、私は、たまたまここに居るだけ。力も無い。才能も無い。魔法マギアだって、使えない。


「(目を覚ましてよ! リリルーぅ!!)」


 あぁ……。世界とか、どうでも良いんじゃないだろうか? 私さえ居なければ、誰も死なずにすんだ。

 私が居たから──。

 

 そうだ……。

 世界には、私と同じような『星の巫女』が居るってパトト爺ちゃんから聞いた。『星の巫女』──どんな人たち何だろう? みんな、女の子なのかな……。

 そう言えば、パトト爺ちゃん、大規模魔法陣を破壊するとかって言ってたけど……。何処に居るんだろう。

 

 私は、このまま……。このまま……。


「ウフフ。このまま、このまま──。私とお母様の魔力に抱かれて、呼吸を止めてちょうだい? そうすれば、楽にステラを取り出せるわ?」


「くっ! やめろよ!! さもないと、お前を殺して……」


「殺せば? けど、私は、ほっといても死ぬよ? 私がお母様にステラを届けるのが先か、貴方が私を殺すのが先か。貴方に私を殺す勇気があればだけど?」


「ぐっ、くっ!! リリルっ!!」


 ヴィオの錬成と土の魔法マギアで出来た泥の中で、眠るように意識が遠のいてゆく──。

 ヴィオの巨人の頭上で、半身を一体化させた魔女の巫女の赤い瞳から、涙のような血が頰を伝う。

 夜風に血の匂いが流れて──、満月を覆い隠す巨人の、魔女の巫女からジャンゴが離れた瞬間──。


(──ガクン……)


「なっ?!」


 赤い瞳を見開いた魔女の巫女が、満月の輝く空を見上げた。


「ぐぶっ! カハッ!! うぅっ……。馬鹿な。ここまで、か」


 大量の血液が、魔女の巫女の口から噴き上がり、尚も全身から止まること無く赤い血が流れ落ちる。

 赤い血──。私たちと、同じような……。


「お、お母様の、だ、大規模魔法陣……が。パ、パトトめ……」


 まるで、魔女の巫女の土の魔法マギアヴィオの錬成術も、夜空と大地に吸い込まれるようにして消えていく。


 ──もしかしたら、パトト爺ちゃんが、土の魔女の大規模魔法陣を破壊した影響なのかも知れない。

 

 崩れ去った魔人デモニオのようなヴィオの巨人が、溶けるように跡形も無く消え去り──、黒の修道衣を血に染めた魔女の巫女が、赤色の長い髪を胸に置き、地面に倒れていた。


「間に合わなかった……。ごめんなさい、お母様。ごめんなさい……」


 私は、そこで、ようやく立つことが出来て──、吐き出した血にまみれて倒れていた魔女の巫女を、ただただ見つめることしか出来なかった。

 魔女の巫女の口から瞳から、赤色の血液が溢れている。呼吸をするたびに、息を詰まらせるようにして、ゴポゴポと──月明かりの地面を赤く染めていた。


「(よくやったわ。私の可愛いエミル……。お母さんからご褒美をあげる。さぁ、あともう少しよ? 星の巫女とステラを、私に届けてちょうだい? お母さんは、エミルのことをいつでも見守ってるわ……)」


 その時。

 聞き覚えのある声が、頭の中に響いた。土の魔女の声だ。

 驚いた私は、ハッとしてジャンゴの顔を見つめる。

 ジャンゴが、竜狼の変身の効果が切れかけているのか、苦しそうに地面に片膝をつき、竜の金の目で私を見た。


「お母様……。お母様……。私の優しいシーラお母様。あ、ありがとうございます……。ぐぶっ!!」


 最期に、魔女の巫女が、血を吐いた瞬間──。土の魔女の時のような黒い霧が、魔女の巫女の口から入り込み、まるで、新たな命が吹き込まれたように、倒れていた魔女の巫女の身体が、心臓が鼓動するように、地面から跳ね上がった。


(──ドクン、ドクン……)


 それは、信じられない光景だった。

 それは、いつか目にした──、そう。

 あの時、風の洞窟で見た魔人デモニオの姿が、魔力が、記憶が、私の足を震え上がらせすくませた。

 

 魔人デモニオ……魔人デモニオが、いる。

 

 赤と黒の螺旋の紋様を、首から下に従え、顔には赤い血の涙の跡が頰を伝う。そして、魔女の巫女の素肌には、呪われた牙のような赤黒い模様が浸食するように覆っていた。

 修道衣が爆ぜるような魔力風で弾け飛び──、しなやかで流れるような体型からは、想像も出来ないほどのヴィオ魔力チカラを感じた。

 さっきの魔女の巫女の技──【土星闇魔神タイダルグランデタイタン】の魔力さえも、霞むほどに。


「フフ……。これが、魔人デモニオの力。流石は、シーラお母様。このエミル。命に変えても、星の巫女──リリルを、その命と魂もろとも、必ずやお母様のもとに持ち帰ります……」


 額に赤く輝く一本の角──。

 けれども、背中の腰まで届く赤い髪が、艶やかに月の光を反射させて、背中に靡いていた。

 魔女の巫女──人間でいた時と、同じように……。


 


 


 

 



 











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