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竜星魔神王~星の巫女。リリルを求めて~  作者: すみ いちろ


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13/31

13話。キングベヒモス。

「キャァァァーー!!」


「うあぁっ!! 魔物だぁーっ!!」 


「グゥルルルバオオオォォォォォォォーー──ンッ!!」


 巨獣『キングベヒモス』になったジャンゴの咆哮ほうこうする声が、耳を引き裂くくらいに村全体に響き渡る。

 悲鳴を上げて逃げ回る村の人たち。

 さっきまで村の真ん中にある噴水のあたりに、みんな集まってたのに──お昼ご飯の食器や鍋を放り出して一斉に、みんな一目散に、小高い丘の上にある私とパトト爺ちゃんのお家に向かって走り出した。


「にげろっ!! にげろーっ!! 走れぇーっ!!」


「キャァァァーー!!」


「グゥルルルバオオオォォォォォォォーー──ンッ!!」


 村の人たちの悲鳴や泣き声が、キングベヒモスになったジャンゴの咆哮ほうこうする声にき消される。


(──ポテッ!!)


 逃げる途中、小さな女の子が地面につまずいて転んだ。


「うぇぇーーん!!」


 泣いている女の子を、すぐにその子のお母さんが抱きかかえて、私とパトト爺ちゃんのお家の方向──みんなが、逃げていく方へと走って行った。

 

(──ジャ、ジャンゴ……──)


 振り返ると、巨獣キングベヒモスになったジャンゴが、とてつもなく巨大な身体と二本の角を揺らしながら、天に突き刺すようにして大地に立っていた。

 空を仰ぎ見るようにして──獣のように引き裂かれたジャンゴの赤い口には、お日さまみたいに丸く輝く光の玉みたいなのがあった。

 私は、地面に映る巨大なジャンゴの影におおわれて──ジルおじさんと二人、取り残された。


「あわわわわわわ……」


 驚きすぎて、地面にペタン!とへたり込んだジルおじさんが震えて、身動きが取れなくなっている。


「ジルおじさん! 逃げてっ!!」


 私の声が聞こえたジルおじさんは、おびえながら視線をジャンゴから私に移した。

 ジルおじさんの目が震えている。


「り、リリル、ちゃん……。ぐっ……!! ハァハァ……。うっ!!」


「はやくっ!! 逃げてっ!!」


 私が、叫んだ直後──

 どこからか、私の身体の中に響くような声がした。


(──ジャンゴに……話かけてみて……──)


「──え?」

 

 胸のあたりが、暖かい。

 私が、小さな自分の胸の中をのぞき込むと──服の中で青い光が、ボンヤリと輝いていた。


(──風の……お星様?)


 私が、そう想った瞬間──

 ジャンゴの声が、私の中に響いて来た……。


(──く、苦しい……。ハァハァ……。お、俺──、ど、どうなっちまったんだ……?)


「ジャンゴ!?」


 ジャンゴの声が聞こえて、ハッ!となった。

 私は振り返って、空を仰ぎ見るように巨獣キングベヒモスになったジャンゴの姿を見上げた。

 苦しそうに、巨大な光の玉を口から今にも吐き出そうとしている。


「一刻を争うのぉ……」


 声が聞こえた方に、視線をやると──

 身動きが取れなくなったジルおじさんの後ろに、パトト爺ちゃんが立っていた。


「『錬成インパス』……──」


 そうつぶやいたパトト爺ちゃんの両腕に、光の粒みたいなのが集まって来る。

 魔人デモニオを倒した時のように──


「や、やめて!! パトト爺ちゃん!!」


「……心配するな、リリル。ジャンゴの声が聞こえたか?」


「え?」


ステラを継ぐ者は、内なる声を耳にする……」


 そう言うと──

 パトト爺ちゃんは無言でスタスタと、ジャンゴ──キングベヒモスの立つ足もとまで近づいた。


「苦しいじゃろ……。今、楽にしてやる」


 パトト爺ちゃんはキングベヒモスになったジャンゴを見上げて、たくさん両腕に集まった光の粒を、右の手のこぶしの方へと集めた。

 光の粒が、どんどんパトト爺ちゃんの右手に集まって来て、お日さまよりもまぶしく光輝やいた。


「や、やめて!! ジャンゴを殺さないでっ!!」


「コホォォォ……。ハァァァァァァァ……──!!」


 私の叫び声を無視して、キングベヒモスになったジャンゴの前で構えをとるパトト爺ちゃん。

 パトト爺ちゃんが呼吸するたびに、パトト爺ちゃんの立つ大地から白い煙のようなものが上がる。

 パトト爺ちゃんが構えをとったまま、真っ直ぐにどこか遠くを見つめていた。


「リリル……。ジャンゴに腹に力を入れるように言っとけ……」


「え?」


 静かなパトト爺ちゃんの言葉……。

 私は、目から溢れた涙を拭いて、キングベヒモスになったジャンゴを見上げた。


(──ジャンゴ、ジャンゴ聞こえる? お腹に力を入れて!!)


(──リリ……ル? ぐっ!! ハァハァ……。苦しい……。なんか、口から吐き出しちまいそうだ……)


「上を、向けっ!!」


 雷のように放たれたパトト爺ちゃんの言葉が、突然、聞こえた。

 構えをとったパトト爺ちゃんが、お日さまよりもまぶしく光る。


(──……キーーーーーーーーーーーーーーン……──!!)


 パトト爺ちゃんの身体から、耳の奥までつんざくような金属音が響く。


(──ジャンゴっ!! 上っ!! 上、向いてっ!!)


(──う……、う……え……? グルルル……)

 

 なにか、いつものジャンゴじゃないような声が最後に聞こえた。

 もしかしたら、ジャンゴの意識は、キングベヒモスの魔力にみ込まれる寸前なのかもしれない──

 

 キングベヒモスになったジャンゴの、引き裂かれたような大きな赤い口が、空に浮かぶお日さまの方へと向いた。

 お空に昇るお日さまと、ジャンゴの口の中の光の玉。

 それに、パトト爺ちゃんを包むまぶし過ぎる光。

 私の目の前には、お日さまが、三つもあるように見えた──


「行くぞ……? 『大錬成メガインパス』!! 『ビッグバン鋼鉄球ギガクラッシュ』!!」


(──……キィィィィィィィィン……──!! ズゴゴォォォォォォォォォォォォォォン──!!)


 とてつもない轟音。

 得体の知れない巨大な何かが、地上から飛び立つような音。

 構えをとったパトト爺ちゃんが瞬時に消えて、強烈な閃光が稲光のように光った。

 まぶし過ぎる白い光に私の視界が奪われて、目が開けてられない。


「あああああああああ……!!」


「きゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


(──ドガゴオオオォォォォォォォォン……──!!)


 気がつくと──

 私とジルおじさんは、村の真ん中にある噴水のあたりまで、吹き飛ばされていた。


いてっ。いててててて……。だ、大丈夫か……? リリルちゃん?」


「うっ……。い、痛い……。くっ……。だ、大丈夫。平気。ジルおじさんは?」


 だんだんと、目が慣れて来て──

 ジルおじさんも私も、地面にへたり込みながらも、お互いに無事なのを確認した。


(──ドオォォォォォォォォォォーーーーーーーーン……──!!)


「「 えっ!? 」」


 遥か上空で、何かが爆発したような音。

 私も、ジルおじさんも、空を見上げる。

 お日さまが爆発したかのような激しい光。

 やっと目が慣れて来たところなのに、すさまじい光のせいで、また目が見えなくなった。


(ビュオオオォォォォォォォ──!!)


「うっ……!!」


 咄嗟とっさに目を閉じたけど、あたりが見えない上に、もの凄い激しい突風が何秒間も吹き荒れた。

 私の魔物の毛皮で出来た服が、全部吹き飛ばされそうだ。

 私もジルおじさんも、口を開くことさえ出来ず、地面に突っ伏していた……。


「おじ……さん?」


「リリル……ちゃん?」


 ジルおじさんの返事する声が聞こえた。

 うずくまっていた私とジルおじさんだったけど、何分か時間が経って、ようやく辺りを見渡せるようになっていた。


(──ヒュォォォォォォォ……──)


 静かに風が吹く中──

 いつもと変わらない村の景色が見えた。

 木やレンガで出来た赤い屋根のお家や建物──

 巨獣キングベヒモスになったジャンゴとパトト爺ちゃんがいたところは、流石に何もかもが吹き飛んでいたけれど、お家や建物の壁や屋根……、それに窓や扉が少し壊れている程度で済んでいる。


「リリルちゃん! 上、上っ!!」


「え?」


 私が空を見上げると──

 そこには、頭の髪の毛以外全部抜け落ちた裸の少年をかついだパトト爺ちゃんが、ゆっくりと空から落下している最中だった。


「──ジャン……ゴ?」


(──ズドドオォォン……!!)


 裸の少年──。ジャンゴに想える少年を担いだパトト爺ちゃんが、空から降って来て──地面にめり込ませながら両足で着地した。


「やれやれ。世話が焼けるわい……」


 そう言ったパトト爺ちゃんが、その裸の少年をひょぃっ!と、ジルおじさんの方へと投げた。


「うええぇぇっ!?」


「ジャ、ジャンゴ!?」


 慌てて、ひっくり返りながら、裸のジャンゴをキャッチ!するジルおじさん。

 頭の髪の毛以外、毛むくじゃらだった毛が全部抜け落ちているけど、眠るように目を閉じているその顔は、ジャンゴだった。


「ちょっ! パトト爺ちゃん!? ジャンゴは!? ジャンゴは、無事なのっ!?」


 私に背を向けて、作業場に戻ろうとするパトト爺ちゃん。

 パトト爺ちゃんの作業着が、爆発のせいか、前も後ろも派手に破けてる。

 それに、パトト爺ちゃん自慢のお腹まで届く長くて白いおヒゲが、ちょっと黒く焦げてて短くなっていた。


「無事じゃ。心配ない。──ジル! ジャンゴをワシの家に運べ! それから、リリル! ジャンゴの世話を頼む……。やれやれ、腹も減ったし、酔いも醒めてもぅたわ……」


 そう言い残して、何事も無かったかのように、パトト爺ちゃんは、ゆっくりとその場を後にした。

 

「──って、私っ!? 私が、裸のジャンゴのお世話をするのぉっ!?」


 パトト爺ちゃんの背中に向かって、叫んだけれど──

 パトト爺ちゃんは、軽く右手を挙げて「よろしく頼む」みたいな感じで手を振るだけだった……。

 


 


 

 



 


 



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