ふたりはずっといっしょ
わたしは森の中を歩いている。
木漏れ日の落ちる細い道。
時おり柔らかい風が木々の合間を渡ってわたしの肌を撫でる。
ここはどこだろうか。
天国に行けないことは判っている。しかし、ここは地獄でもないようだ。
しばらく歩き詰めると、左右の木々が途切れた。
そこは周囲を木に取り囲まれた円形の広場だった。中央に一本の林檎の木があり、その手前に白いベンチが置かれていた。
ベンチには一人の少女が座っている。向こう側をむいているので顔は見えないけれど、その後ろ姿には見覚えがあった。
愛おしくて、懐かしい、あの子の背中……
「林檎?」
わたしはそろりと声をかけた。その声に反応したのか、少女はぱっとベンチから飛び降り、その顔を見せた。
「ああ――」
その瞬間、わたしは喜びのあまりその場に崩れ落ちた。涙がとめどなく溢れてくる。
「会いたかった」
「ずっと待ってたんだよ。でも、早すぎるね。百合お姉ちゃんがお婆ちゃんになるまで待つつもりだったのに」
少女――林檎はわたしの前まで駆け足でやってくると、ぎゅっとわたしに抱き着いた。
「ごめんね、ごめんね」
腕の中に彼女の体温を感じる。
「ずーっと見てたよ」
「林檎、わたし、わたし」
「頑張ったね、辛かったね」
「これからはわたしが守るから。絶対にそばを離れたりしないから」
暖かい風が吹き、周りの木々がさわさわと揺れる。
わたしは林檎に手を引かれてベンチに腰を下ろした。
「ねえ、百合お姉ちゃん」
「なあに?」
「膝に乗ってもいい?」
「いいよ」
「お姉ちゃん、いい匂い。うふふ、ずっといっしょだね」
救いのない結末は嫌いです。
たとえどれだけ陳腐でも創作の世界くらいは救いがあっていいと思うのです。
現世で悲劇的な死を遂げた恋人の物語でも、最後に「二人はあの世で再会し、幸せに暮らしました」、という一文があるだけで読む側の心の負担を軽くすることができるのではないでしょうか。
この物語のラストは悲劇の余韻をぶち壊してしまうものかもしれません。が、私はどうしても百合と林檎を再会させてあげたかった。
内容についていくつか。
この物語は二部構成の推理小説となっており、第一部で登場人物の因縁とトリックの伏線を張り、それを第二部で回収するという形を取っています。
謎を解く鍵である「百合の嗅覚」について、様々な場面に彼女が匂いを感じていない描写が隠されています。
例を挙げると、百合が直接目にするまで犬の糞の存在に気づかなかったり、カレーとビーフシチューを間違えたり……
そのほかにも彼女が匂いを感じていないことが推察できる場面は多々ありますので読み返すとその伏線を見つけることができるかもしれません。
読んでくださった方、ありがとうございます。
館西夕木




