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ヲタクである。

作者: funacoc

至る所に伏線になるような言葉やセリフ、設定を入れてあります。是非

自分は『ヲタク』である。

いわゆるアイドルヲタクである。それは、紛れもない事実であり部屋の一角にはお気に入りのグッズが立ち並ぶ。休日には、彼女がうつる物を食い入るように見つめ、新たなお宝を探してネットサーフィンするのが、楽しみである。ちなみに《彼女》とは自分の《推し》であり、推しとは、つまり《女神》である。彼女は、某アイドルグループのメンバーで名前の最後に46とか48とか付く大所帯グループの比較的に加入してからの歴は浅い女神の一人である。


 アイドルのグッズというのは、多種多様なものがあり、全て集めるとなると金額は簡単に数十万に及ぶ。

我々は、嬉々としてそれを集める。更に、我々の欲望を満たす為と運営側から用意されるコンテンツの一つが、モバイルメール。略して《モバメ》である。

これは、そんな僕と女神のモバメのお話。


題名:こんにちは。

本文:今日の楽屋は賑やかです。メンバーのみんなで喋ってると初期の頃と変わらない温度で安心します。


 初めて着たメールだった。可愛い自撮りも一緒に送信されてある。これで、月額550円くらいだった。我々が飛びつくには安いくらいだ。良い商売である。


 題名:Reこんにちは。

 本文:こんにちは。身体を大切に、お仕事頑張ってください。


 取引先か。そう言いたいくらいの内容を返信してしまった。自分の中で当時、精一杯の返信だった。


 題名:ReReこんにちは。

 本文:私が、出演しているドラマの主題歌が配信スタートしたみたいです。とても明るいメロディーで私も凄く好きな曲~。


 なるほど。こうやって告知物も織り交ぜながら上手く宣伝しているのかと感心した。もちろん、ドラマは既に拝見済みである。もちろん可愛かった。しかし、本文には続きもあった。


 本文:体調は大丈夫です!しっかり予防しながら、お互い気を付けましょう(..)


!!!!!!ちゃんと、本文に沿った内容も返ってくるではないか!(顔文字も良き)

モバメを軽く見ていた自分が、恥ずかしい。


 題名:ReReReこんにちは。

 本文:ドラマ出演おめでとうございます。第一話見ました。次回も楽しみにしています。


 当たり障りのない文章に自分でも味気なさを感じる。


 題名:みかん

 本文:差し入れのみかん。見た感じとても甘そうですー。食べたいですー。


 みかんの写真付きだった。さすがに、既読無視してしまった。何でも反応する訳がないだろう。そう思い放置していると、ピコンと携帯が鳴った。


 題名:こんばんは

 本文:ドラマのアカウント、オフショットが上がってるから見てね^^明日の23時からは第2話です。たくさん笑ってくれれば嬉しい。お楽しみに^^


 ほう。前回の続きの様にも思えるが、これはたまたまだろうと思う。ご存じの人もいるだろうが、こういった手のサービスの裏には必ず《運営が内容を考え、返信している》という事は、一般的である。しかし、何万人という利用者がいる中で本人が一人ひとりに返信など出来るはずもなく、自分はそれをどうこう言うつもりもない。ましてや、モバメをやめる気もない。あくまで、自己満足である


 題名:Reこんばんは

 本文:楽しみにしています。そういえば最近、数年前に出演されたドラマを拝見しました。だいぶ前のドラマですが、まだ見てなかったので、佐久良さんの演じるミステリアスなふいんきがとても良かったです^^


 少し意地悪のつもりで書きました。もちろん運営さんに(笑)知らなければ、赤っ恥である。何と返ってくるか楽しみにしながら、この日は、寝ることにした。


 題名:こんにちは

 本文:私もあれが、初めてのお芝居で緊張しましたー^^その時の監督が、今出ているドラマの監督なんです!!あと“雰囲気”が“ふいんき”になってます^^(笑)


リアクションがありました。文字の訂正もありで。因みに、自分は昔から分かっていて“ふいんき”と使ってしまう癖があり、何度指摘されても治りませんでした。それから『題名:謎の自撮り』で3連チャン自撮り写真がきました。可愛かったなー。


 題名:Reこんにちは

 本文:こんにちは。自撮り神ですね。お疲れ様です。監督一緒なんですね!あの人、昔は舞台の監督もやってたり、色々してるんですね。


 ここから、なんとなくこんな感じのやり取りが続きます。


 題名:こんばんは

 本文:お仕事帰りです。謎の自撮りと共に。


 題名:Reこんばんは

 本文:お疲れ様です。お気をつけてお帰りください。自撮りありがとうございます。


 もう何に、お礼を言っても気持ち悪く聞こえる。


 題名:ReReReこんばんは

 本文:明日、久しぶりに配信が私の番なんで見てくださいね^^待ってまーす!


 題名:ReReReReこんばんは

 本文:有り難うございます。有給取りました。


 最高記録の速度で有給、申請しました。この日の配信は、神配信でした。


 題名:ありがとー

 本文:配信見てくれてありがとう!久しぶりだから、楽しかったです!(自撮りと共に)


 もちろん、自分が配信を見ているとは認知されている訳ではなく、見てくれた体で送っているのであろう。嗚呼見たさ。

 

 その後も、様々なメールが届いた。正直、本人からではないし始めは何が嬉しいのかとも思っていたが、なかなかいい。可愛いし。

そんな時、我々のもとにこんなメールが着た


 題名:お知らせ

 本文:こんにちは。今日はファンの皆さんに大切なお知らせがあるので、24時のブログ更新まで少し待っててね。


 文面からして、すごく大事そうだ。と思ったが、このメールが着たのはお昼。少しはファンの待ち時間も考えるべきだ。そして。


ブログには、グループの脱退そして芸能界からの引退が書かれていた。理由は、突発的な体調不良とそれによるストレスが主な原因だった。彼女も苦渋の決断だったであろう。

 そこから引退までは、あっという間であった。最後のTV出演。引退ライブ。そして、最後のメール。


 題名:ありがとう

 本文:本文がありません。


 送られてきたのは、彼女が僕らに向けて送った最後にして最高の笑顔の自撮り。涙が止まらなかった。


 2年後・・・

あれから僕はヲタクでは無くなった。暫くは、彼女が抜けた後もグループ自体は、応援しようと思ったが、すっかり興味がなくなっていた。もしかすると、元々ヲタク気質は無く、彼女だけに興味があっただけなのかもしれない。そんなことを考えながら、何もない人生の残りを満喫する術を探していた。


 僕は、普通の中小企業に勤める、普通のサラリーマンであった。最近変わったことと言えば、大阪から名古屋に異動になったくらいである。高卒で入社して8年目、社長から昇進のチャンスを貰えたのだ。慣れない土地での一人暮らしは、割と楽しく推しロスだった僕には丁度良い気分転換になった。

 弊社の社長には、新入社員の頃から色々とお世話になりっぱなしであり、社長の言うことは絶対であった。そんな社長から、今度新入社員の面接対応をお願いされた。面接と言っても、縁故入社で形だけ取り繕ったお遊びである。面接を受けるのは、社長の知り合いの子らしい。コテンパンにしてやろう。その日のうちに、面接相手へ日程と時間のメール

を送っておいた。


 題名:面接の件についてのご連絡。

 本文:お世話になっております。今回面接を担当致します。小早川と申します。面接の日時について、、、


 題名:Re面接の件についてのご連絡。

 本文:お世話になっております。ご連絡有難うございます。そのお時間に、お伺いさせていただきます。


 面接当日、約束の時間より少し早めに面接をする会議室で相手を待つ。同僚から面接相手が到着したこと知らせる内線が着た。相手は女性のようだ。社長の知り合いの女性をコテンパンには出来ないなと少し残念だった。

 数分後、テンプレ通りのドアへのノック音と掛け声の後に入ってきた彼女は、見覚えのある女性だった。街中で見かけた訳ではない。もちろん相手も自分を知るわけない。だが、僕は自分の目を疑わなかった。何年も《彼女》を見つめ、ラジオで声を聴き、我々の前から消えた《推し》が面接に来た。

 自分:「お、おはようございます。えぇーと、面接は合格です。あ、あしたから宜しくお願いします。で、では、お疲れ様でした。」

 はい。コテンパンにされました!自分でも驚くほどの最速合格を出した。因みに、この件のせいで、彼女には《最速の縁故ちゃん》という不名誉な異名が出来たのだった。


 次の日から彼女は、僕の部署に配属になり《最速の縁故ちゃん》と《最速の面接官》はその日から、タッグを組んで仕事をします。

 普段の彼女は、とても明るく“いつもと”同じだった。自分は敢えて、アイドルだった過去を知らないふりをし、彼女の過去を知る周りの彼女にもこの話題はNG事項として扱うことにした。彼女はきっと辛い思いをして引退を決意し、普通の会社に就職するという道を選んだ。そんな彼女に根掘り葉掘り昔のことを聞くのは、ナンセンスである。

 そんな気持ちも知ってか知らずか、少数ではあるがどこから嗅ぎつけたのか、出待ちがいると同僚から知らせが入る。こっそり返すのも一苦労である。しかし、これで少しは彼女の人気具合も伺えるだろうと、同僚に自慢してやりたい。同僚は言うには、女性の出待ちもいたそうだ。同性から愛されるアイドルは本物である!!

 しかし、そんな折に夢にも思わなかったことが起こる。仕事上のメールのやり取りである。内心、有頂天である。


 題名:題名なし

 本文:今回の企画のまとめと見積もりです。確認、お願いします。

 自撮り写真が見積もりのPDFに変わった。


 題名:Re題名なし

 本文:確認いたしました。よく出来ていると思います!こちらで大丈夫ですので、そのまま進めてください。


 自分の成長のなさに驚いたが、仕事上のメールなんてこんなものだろう。そう思っていた時、すぐさま返信が着た。


 題名:ReRe題名なし

 本文:やったぜ^^!おやすみなさい。


 《最速の縁故ちゃん》はたまに、タメ口になる。仕事で褒められた時が、その一つだ。

改めて初めて《彼女》が自分の近くにいることを実感した。嬉しさと裏腹に不安もあった。彼女がヲタクだった自分に気が付いた時、どんな顔をするのだろう。どういう気持ちになるのだろう。所詮、ヲタクは世間から見るとイメージは良くない。ついついそんならしくない思考に陥った。

 そんな一方通行な秘密を持ち合わせたメールのやり取りと共に月日が経った。


相変わらず《最速の縁故ちゃん》は真面目で、何にでも自分なりの努力を尽くす。一番早く出勤し、勤務時間を超えても一番遅くまで残業する。だが、疲れた姿を誰にも感じ見せない。そんな姿を見て自分は、納得した。

だから、身体が壊れるまで誰も気づかなかったのだ。当時彼女が在籍していたグループは、正にグループの絶頂期。誰もが上を目指し、立ち止まれば置いて行かれる。そんな世界だ。もしかすると、彼女は今も当時のあの感覚が恐怖として残っているのかもしれない。

僕は、心配になってその夜連絡を入れてみた。


題名:お疲れ様です。

本文:最近、退勤が遅いようですが間違いではないですか?間違いでなければ、少しくらい頼ってね^^


間違いのはずはないのに、こんな聞き方しかできない自分が情けない。


題名:Reお疲れ様です。

本文:間違いではないです!すみません、紛らわしくて!小早川さんのお役に立てるように頑張ろうと思ったんですけど。


いい子や~~こんないい子に、無理をさせては男の恥である。


題名:ReReお疲れ様です。

本文:いやいや、十分です!そんなことしてたら、また身体壊すよ~~社長には伝えておくから明日は、お昼から出勤してください。

自分的には、頑張って格好つけた。十分つけれたはず。そう思っていたが、彼女からの返信は予想外の言葉だった。


題名:ReReReお疲れ様です。

本文:“また”っていつのことですか?


致命的なミスだった。言い訳も思いつかずに、その日、返信はできなかった。


 次の日、彼女は僕が言った通りにお昼から

出勤してきた。彼女は、僕に時間の余裕がある事の素晴らしさを熱弁し、これからは無理をしないことを約束してくれた。そしてその夜、彼女から連絡がきた。


 題名:お聞きしたいことがあります。

 本文:今日はありがとうございました^^ところで、昨日の“また”身体を壊すってどういう意味ですか?私、この会社ではまだ、公休以外お休みも取ってないのに。


 彼女は意外と勘が鋭い。TVのドッキリ企画にもすぐに気づいてしまうタイプだ。僕は本当の事を打ち明けることにした。


 題名:Reお聞きしたいことがあります。

 本文:本当のことを言います。僕は君のことを、以前から存じ上げていました。アイドルとしての君を。今まで黙っていたのは、辛い思いをして引退を決意し、普通の会社に就職するという道を選んだ君にあの時の気持ちを思い出させない様にしたかった。あと単純にアイドル時代のファンが上司ってウザいかなと思ったこともある。


 そんな言い訳じみた事を、僕は彼女に送った。


 

題名:ReReReお聞きしたい、、、

 本文:そうだったんですね。実は、私も隠してたことがあります。私も知ってました。小早川さんが私のファンだったこと。それでも、普通の一般人として優しく接してくれて、本当のことを言わずに黙っていてくれる小早川さんが少し気になってもいました。というか、私はアイドルになる前から小早川さんを知っていました。


小早川さん昔、芸能活動してましたよね?


 なぜ、彼女がそれを知っているのか、一瞬理解できなかった。決して人気があったわけではない。少しだけ子役として舞台に出演し、その後ラジオの冠番組を持ち、これからという時に心を病んでしまったのだ。あの業界は、華やかだが全てが純白に包まれている訳ではない。時折、垣間見える大人の黒い部分やアンチは当時の僕の心をえぐるには、十分だった。社会復帰は不可能だと思っていた。

そんな時に、今の会社の社長に拾って貰ったのだ。そして《女神》に出会った。本当は大勢のアイドルの中で始めに目に入っただけだった。ただ自分には、耐えることのできなかった世界でこんなか弱そうな女性が戦っている。推す理由には十分だった。彼女は唖然として返事を打つことも出来ない僕を見ているかのように、メールを送信してきた。


 題名:2007年10月3日

本文:6歳の誕生日に舞台を見に行きました。小早川さんもそれに出てて。主演では無かったですけど。それでも、私が憧れるには十分の演技とオーラでした。私が芸能界に入ったのは、小早川さんに憧れたからなんです。同じ舞台に立ちたいと思ったから。でも、私が業界に入って少ししてから、小早川さんは引退しちゃって。だから、TVとかメディアへの露出が多いアイドルになって、小早川さんに恩返しがしたくて。元気を送りたくて!まあ、そしたら私も壊れちゃったんですけど(笑)


(笑)ではない。


だから、面接のときビックリしました。こんなところで会えるなんてって思いました。


苦肉にも同じ場所で、二人ともが同じことを思っていたとは、思ってもいなかった。


その日、初めて彼女から電話が掛かってきた。初めて会社の人に自分の過去を話し、初めて、共感してもらうことができた。辛くても、誰も共感できない体験ほど、虚しいことはないからだ。彼女はやはり僕の女神だ。



題名:有給申請

本文:本日《女神》のバースデーイベントの準備の為、有給休暇致します。


題名:お疲れさま^^

本文:18時には、帰れると思います!!


僕はまだ『ヲタク』ある。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


アイドルです♡

アイドル:実は、たまーに私が直接モバメ返したりします^^返ってきた人はラッキーです(笑)

 

題名:ReReReこんにちは

 本文:佐久良さんのふいんきが僕は好きですね。


題名:ReReReReこんにちは

 本文:ふいんきじゃなくて“雰囲気”ですってば(笑)


アイドル:小早川さんかて!!(笑)    


おわり

細かいですが、自分なりに見返して読んでもらえる部分がいくつか作ったつもりなんで。

ありがとうございました。

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