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封印山の迷い人(ニ)

————


「あそこですわ、総次郎様!」



 狐顔の女が指差した木の下に、ソレは確かにいた。

 形は人型。だが人にしては異様に大きい。

 


 泥のかたまりで人型を作り、顔の位置にぎょろりとした目を二つ、その少し下に口の役割を果たす穴が一つあるだけ。

 木の下を何やら夢中に掘っていてその場を動く気配はない。



「総次郎様、あれは何をしているんでしょう」



「たぶん向こうの世界にいたときに命じられた使命の記憶に従い行動しているんだ。自分の意思は持ってないからね」



 総次郎たちは固まって木の陰に隠れてその様子を伺った。 



「それにしても何故逃げ出したりするんじゃろうな。あやつは見た目こそ(みにく)くとも神の忠僕(ちゅうぼく)として天界の土地を(たがや)(とうと)い神獣。それでも、格式では総次郎様の方が上じゃろうに」



 しゃがんでいた笑い顔の男が総次郎を見上げて不服そうに聞く。



召喚しょうかんと契約は別なんだ。契約前に逃げられてしまったからね。あれでは僕をこの世界での主として認識していない。おとなしい生き物だと聞いていたからすっかり油断してたよ」



「それでどういたしますの?総次郎様はあれと……戦うおつもりで?」



「総さまって戦えんの?」



 狐顔親子がそろって総次郎の顔を見る。



「まさか。そういう呪術は僕は苦手なんだ。そこで……」



 総次郎が五枚の御札を出し、各々に渡した。



「結界を張る。こういう術も得意ではないんだけど……。まあ、動きさえ止めてしまえればこっちのもの。神獣を中心に五角形になるようにこの御札を木の幹に手分けして貼ってきてほしいんだ。月ちゃん、一番遠い所をお願いできる?」



 両手を上げて御札を受け取った女の子はにっこり嬉しそうに笑うと、ふっと夕闇に紛れるように消えた。



「じゃあ、みんな頼んだよ」



 総次郎はそう言うと一枚の御札を近くの木の幹に貼る。

 笑い顔の男は右から、狐顔母子は左から回り込むようににそっと歩を進めた。

 

 総次郎から神獣を挟んでちょうど向かい、女の子に頼んだ位置で蒼白い光がかすかに光った。


 ささやくように唱え始めた総次郎の呪文に、女の子が貼った御札が呼応する。



 さらに蒼い光がひとつ、ふたつ。

 神獣は夢中に掘り続け、まるで気付いていない。



 あとは笑い顔の男が最後の御札を貼るのみ。



 総次郎の結界呪文も終わりかけたその時。



 足の短い男が、最後の一枚を木に貼る直前で草に足をとられひっくり返った。



「うわわっ、あっ!」 



 男が恐る恐る神獣の方を見ると、じっと見下ろしている神獣と目が合った。



「あわわわわわ……そ、総、総次郎さま~っ!」



 叫ぶと同時に、呪文に集中していた総次郎が両眼を上げる。


 神獣が男に向かうより早く、総次郎が何かを投げた。

 それは神獣の目先を素早くかすめ飛び、さらに弧を描いて再び神獣に向かって行く。


 まとわり付くように飛ぶ式神に面食らった神獣はあたふたと森へと消えていってしまった。



 狐顔の男の子が男を助け起こし、総次郎のもとに戻った。



「大丈夫だった?」



 総次郎が目を細める。



「すまんのう、あともう少しじゃったのに」



「大きな声に驚いたんだろうね。月ちゃんが神獣の後を追ってくれている。僕たちも行こう」









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