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追放シーフの成り上がり  作者: 白銀 六花
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99 戦士ゼイラム

「近い将来、世界規模の竜害が起こるであろう」


 竜害ともなれば一体でさえ街が壊滅するレベルの災害であり、世界規模で起こるとすれば相当な被害が出る事は間違いない。

 今ここにいる竜殺しの称号をもらったアークトゥルス、ルビーグラスのメンバーといえど高位竜を相手に戦っても倒す事は難しい。

 せめて下位竜や上位竜としても色相個体以外であれば戦う事はできるとは思われるが。


「国王陛下。千年前の竜害について詳細をお聞かせ頂く事はできませんでしょうか」


 竜殺しの称号をもらったにも関わらず、討伐する事が不可能だと言えない冒険者に代わり、大国の伝説にある英雄と同じ特別なスキルとしたゼイラムの話から、今に語られていない歴史があるのだろうと感じたセヴェリンが問いかける。


「うむ。実は皆が知る歴史書には最も重要な部分が書かれておらん。王家の書庫にある歴史書にさえその事実は書かれておらんのだ。英雄ゼイラムが歴史に残ることを嫌っていたようでな……」


 と前置いて国王は歴史の真実を語り出した。


 竜害が起こったのは現レンデッド歴の前歴となるシンモールト歴二百八十四年。

 この地はストラド王国という国だった事は知られており、元々大国だったストラド王国は竜害から多くの国をまとめ上げた事で現在のバランタイン王国が誕生している。

 突如として世界各地で竜種による大規模な災害が起こった事から始まり、あらゆる国や街が壊滅状態に陥るも、ストラド王国では伝説の英雄達ヘラクレスと四聖戦士、屈強な戦士達と魔法師により竜種を撃退。

 四ヶ月にも及ぶ竜害に耐え抜いたのがストラド王国である。


 最初のうちは数日に一体程度の下位竜出現だったのが一日に一体、一日に数体と次第に増え始め、竜種に追われたモンスターも王国内へと逃げ込んで来るようにもなり王国内でも様々な場所で戦闘が始まっていったとの事。

 一月も過ぎた頃には上位竜が複数体現れるようになり、戦士や魔法師達達にも多くの被害が出始め、ヘラクレスも次第に疲弊していくことになる。

 二月を過ぎた頃には上位竜のみならず色相個体までもが現れるようになり、一日に複数体の色相竜が出現した日にはストラド王国も半壊し、王国の北と東側が壊滅した事で富裕層にある多くの人々が命を落としていったそうだ。

 この頃最強と呼ばれていた四聖戦士も、幾度となく続く色相竜を相手に力尽き、北と西の壊滅と同時に二人は死に、東ではそれ以前に現れた色相竜と複数の上位竜の出現以降消息を途絶えていた。

 南にいた四聖戦士の一人は運よく同時に竜種が出現する事なく戦えていた為生き残ってはいたものの、国王から任された地を放置して他所への応援に向かう事が出来なかったようだ。

 そんな中、聖戦士が倒れた後も貧民層の住む東側は、どれだけ多くの竜種が舞い降りようとも、色相竜が現れようともその全てが殲滅され、炎に包まれた竜種は全て灰塵となって崩れ落ちていったという。

 貧民層は国の有権者が管理していたものの、今はない奴隷区として労働奴隷が多く住んでいた場所であり、少し離れたところには鉱山や田畑が広っている地域だったとの事。

 国は貧民層の住む現在の東区の調査を始め、この竜種と戦う者を探し始めたのだが一向に見つからない。

 竜種に戦力が割かれてしまい、調査員も竜種討伐に向かわなくてはならない。

 そして調査が始まってしばらくした頃に、貧民区へと現れた色相竜を相手に立ち向かったのが坑夫であるためか血色の悪い色白な男。

 消息を途絶えたはずの聖戦士の持っていた大剣を手に業炎を纏って色相竜と戦い、最後には色相竜の首を斬り落として体内から燃やし尽くす最強の魔法戦士として確認される。


 国はこの坑夫に接触を試みようと調査員を多く投入したが、匿われているのか一向に見つからず、竜種が現れれば戦いに姿を表すもののすぐに消息を経ってしまう。

 三月が過ぎた頃になると竜種の出現も落ち着いてきたのだが、これまでの被害が大き過ぎた為、復興作業で休む暇があるはずもない。

 疲れた体に鞭打って国を復興しようと国が動き出し、それに伴って貧民層の奴隷達も労働に駆り出されることになる。

 その際にも東区の坑夫、魔法戦士を国は探していたのだが見つかる事はなく、一日に数体現れる竜種と戦う聖戦士とヘラクレス。

 休むことなく続く戦いの日々に疲弊し、休息を取れる時間は言葉を交わすことなく食事のみを済ませて眠るのみ。

 疲れ切った体はどんな場所でも深い眠りに落ちていく。


 そんなある日の真夜中。

 それまで夜に現れる事のなかった竜種の群れが空を覆い、世界の滅亡を思わせるような地響きと共に地面に舞い降りる。

 石造の屋根の上に立つ炎をまとった男は闇夜の中でもその姿は誰の目にもはっきりと映り、咆哮をあげて向かいくる竜種に向かってその姿をかき消すかの如く素早さで竜種の首を斬り飛ばし、体内を焼き、大地を埋め尽くす竜種の群れを蹂躙していく。

 竜種にとって小さな存在である人間は捉えづらく、上位竜のあらゆる魔法スキルも他の竜種を巻き込んでその数を減らしていったそうだ。

 伝説の英雄達と聖戦士が到着する頃にはその半数以上をも討伐し、竜種の死体を前に戦いに臨む事ができないまま死体を足場にして進んでいくと、下位竜は後方へと退がり十をも超える色相竜と戦う戦士ゼイラムの姿がそこにはあった。

 全身から炎を放って青竜を、紫竜を、赤竜を、白竜をと次々と大剣を振るっていくゼイラムの姿はヘラクレス、聖戦士の力を持ってしても到底叶わないような人智を超えたものであり、恐ろしいまでの竜種の攻撃を受け流し、躱し、その強烈な一撃を喰らいながらも必死に立ち回る姿を誰もが最強の存在であると認める事となる。


 しばらくその戦いを見守りつつも助けが必要だろうと駆け出すヘラクレスと聖戦士。

 ヘラクレスは六人で色相竜一体を相手どり、聖戦士は一人で一体を相手に立ち回る。

 竜種との混戦となった事から聖戦士もその場に倒れ、ヘラクレスは仲間を癒しながら二体目へと臨む。


 色相竜を倒し終える頃にはゼイラムは限界を迎え、ヘラクレスは相対していた個体を倒し終えるとその場へと駆けつけた。

 ゼイラムは腕と脚を片方ずつ失っており、スキルの発動限界を向かえているのか炎を放出する事はできない状態となっていた。

 ヒーラーによる回復スキルも傷を塞ぐのみで体力を回復する事はなく、手足がないだけでなく動くこともできなくなったゼイラムは戦士としての役目を終えている。

 その場から移動するために全員でゼイラムを運び、向かってくる竜種から逃げるようにして建物内へとゼイラムを避難させた。

 その後本人達が気付かないままゼイラムのギフトを与えられたヘラクレスは自身の二倍以上ともなるステータスを内に秘め、残る竜種との戦いに勝利を収めて伝説の英雄となる。

 戦い始めればすぐにでも気付くことにはなるのだが、まだ半数近い竜種が残っているため確認に戻る事はできなかっただろう。

 一振りで首を斬り落とせるだけの恐ろしいまでの攻撃力、竜種の一撃にも耐えられる防御力、狙った的に寸分違わず矢を射られる器用さ、目にも止まらない速度で駆け回る事のできる俊敏、遠距離魔法でさえ絶大な威力を発揮させる事のできる魔力、傷付いた仲間をほんのわずかな時間で癒す事のできる法力。

 六人全員が自身の得意とする能力を異常なまでに上昇させた事で、大地を埋め尽くすほどにいた竜種を全て討伐したヘラクレスの活躍は日が上った後にも続いていた為、多くの国民達がその戦いを見守った。


 竜種との戦いは一日に数体の下位竜のみとなり、王宮へと運び込まれたゼイラムはどれだけ休息を取ろうとも、どれだけ回復薬を飲もうとも、回復スキルを数人がかりで発動しようとも体力が回復する事はなかった。

 国王はこのゼイラムの活躍を歴史に残すよう文官に伝えるも、ゼイラムはそれを拒んでただ自身の願いを叶えてもらえるよう懇願した。


(奴隷を解放し、人々に豊かな生活を約束してほしい)


 王宮に運び込まれてわずか数日で毛髪が全て抜け落ち、命尽きようとするゼイラムの言葉にストラド王国国王も頷き、奴隷制度を撤廃すると同時に竜害により壊滅した他国の支援と復興を協力する事とし、ゼイラムの事は歴史書には残さず、代々国王のみは本当の歴史を知るべきとして王宮の地下神殿内の石板にこの真実を刻んでいた。

 しかし国王が歴史を秘匿しようと、最大の功労者であるゼイラムの名前だけでも残したかったヘラクレスは、物語を書こうという者達に、戦場には出る事はないがゼイラムというバッファーがいるのだとして語って聞かせていた。

 そして文官の中にもこのゼイラムの戦いを一文だけでも残そうと思った者がいたのだろう。

 王国書庫に一冊だけゼイラムの戦いが載せられることになっている。

 国王はゼイラムとの約束を守ったものの、国王に背く事になっても名前を残したかった者達。

 それぞれの思いはありつつも、真実の歴史を知る者達はゼイラムの死を悔やみ、限られた者達のみで弔ったという。

 その死体は現在のバランタイン聖王国にある王家の墓所に埋められているとの事。


 そしてこの竜害は世界各地で同時に起こっており、各国を滅ぼした竜種は耐え続けていたストラド王国に集中し、この竜害を終わらせた偉大な王国として、周辺諸国を統合してバランタイン聖王国が誕生する事になったのだという。


 他の国でもこの千年前に特殊なスキルを発現した者が歴史に残っており、勝利する事はなかったものの耐え忍んだ国や、国を放棄して国民共々隠れ潜んだ者達がまた新たに国を立ち上げ歴史書を残しているそうだ。

 状態異常系のスキル持ちの多いシュータイン皇国では、バフ系スキルとも取れるドープと呼ばれるスキルの発現、氷国として知られるトリチナ戦王国の熱量操作系スキル持ちの多い中には結界系スキルであるプリズンの発現。

 いずれもおよそ千年前にのみ発現したスキルであり、この大国三つの特殊スキルは竜害の前兆であると考えられるとの事。

 歴史の浅い国では過去の記述などは残されていないと思われるが、他にも千年前にのみ発現したスキルは存在するだろう。

 どれも強力なスキルであるだけに悪事に手を染めてなければいいのだが。


「ディーノのスキルがギフトである事は聖戦士であるザックから聞いておったがな。其方が実際に上位竜と戦えるだけの能力を有するのであれば戦士ゼイラムと同等のスキルであろうと判断するつもりであった。今日この場で其方らに告げた事は他言無用。民の混乱を防ぐ必要もある故、其方らが真のおける者を育てていって欲しいと思う」


 ザックが聖戦士である事を初めて知ったディーノだが、あれだけの強さを持つとすればそれも当然だろうと驚く事はない。

 しかし自身と同じギフト持ちであるゼイラムが聖戦士をも遥かに上回る存在であるとするならば、今のディーノの実力では竜害を乗り切る事は難しいだろう。

 ディーノが誰かを育てている場合ではないのかもしれない。

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