98 勲章授与
国王から呼び出しを受けるまでは数日間暇を持て余す事になる黒夜叉とアークトゥルス、ルビーグラスの三パーティー。
いつ呼ばれるかもわからない為クエストを受注するわけにもいかず、王都観光をしつつパーティーで活動するのではなく個々に行動する事とした。
昨夜の飲み会から気の合う仲間もできており、マリオ達ファイター組は三人で訓練しつつ武器屋巡りをするそうだ。
ジェラルド達盾職組も武器屋防具屋巡りをしつつ食べ歩きをしたいとの事で男三人楽しんでくると別行動をとるらしい。
レナータはもちろんフィオレを誘ってデートをするのだと二人一緒に買い物をしながら王都を見て回るとの事。
もちろんディーノとアリスも同じようにデートをする予定だ。
ロッコとネストレはディーノのダガーを気に入っており、同じような物を造ってもらおうとダガーを借りて鍛冶屋へ向かうとの事。
ウベルトとドナートは属性武器を扱う高級武器店に用があると、中央区へと向かうらしくジャダルラック領主であるセヴェリンの別邸に店を紹介してくれるよう頼みにいくそうだ。
そしておっさん達と出掛けるのを断ったソーニャはぽつんと一人残され、しょんぼりとしたままギルドへと向かう。
失恋仲間のケイトと少し話がしたかったのかもしれない。
しかしケイトは昨夜のアリスとの対話からすでにディーノをアリスに託すと決めており、すっきりとした表情でソーニャの話を聞く。
実のところケイトはラフロイグ伯爵から複数の有権者を紹介されており、恋愛どうこうよりも引く手数多で受付嬢を続けているような状態ではなかったのだ。
もちろんケイトの美貌から結婚の申し込みも複数受けているのだが、現在の仕事と多くの誘いがある事から保留とさせてもらっていたりもする。
ソーニャはケイトに愚痴をこぼしつつも、同じ失恋をしたはずのケイトとは違う感覚を不思議に思い、なぜそう平気でいられるのかを聞いてみた。
するとケイトは自分達が孤児である為、決して叶わぬ恋なのだと説明してから自身の考えを話し聞かせる。
最後には自分が愛した人の幸せを願い、その恋人に想いを託す事は以前から決めていたのだと語ったケイトの目には涙が溜められていたのだが。
ケイトの話を聞いてギルドをあとにしたソーニャは自身の想いを見つめ直してみる。
ディーノの事を好きだと思った気持ち。
もらったダガーを見つめては会いたいと思った日々。
次に会えたら何を話そう。
ディーノの活躍を聞かせてほしい。
自分達の冒険譚を聞いてほしい。
どれだけ成長したか見てほしい。
様々な事を考えながらある事に気が付いたソーニャはポツリと一言こぼす。
「全部私の想いだけなんだ……」
自身の好意が恋ではなく憧れなのだと知ったソーニャは、そこにディーノの想いを受け取ろうという意思がない事に今更ながらに気が付いた。
今ここにレナータがいれば抱きしめてくれるだろう。
しかしここしばらく一緒に過ごしていたレナータは自身の恋愛に忙しく、フィオレとデートに行ってしまった為どこにいるかわからない。
ジェラルドは論外であり、マリオはファイター仲間と一緒のはずだが……
おそらくは訓練している為場所はわかる。
少し気を紛らそうと訓練を見に行く事にした。
◇◇◇
セヴェリン伯爵の遣いが来たのはそれから二日後。
翌日の昼三の時に王宮に来るようにとの事で、昼二の時にセヴェリン別邸に集まる事にした。
受勲するのが黒夜叉とアークトゥルス、ルビーグラスの三パーティーである為、ブレイブはこの日から別行動となる。
この日はまた全員で集まって酒盛りをし、翌日に備えて早めに切り上げる事になった。
セヴェリン別邸に集合した後、伯爵の用意した馬車に乗って王宮へと向かい、荘厳な建物を見回しながら玉座に座る国王の前へと通された。
セヴェリンに従って国王の前に跪き、王の言葉を待つ。
「我こそはバランタイン聖王国第三十六代国王、リッカルド=アロンツォ=ボナヴェントゥーレ=セラフィーノ=バランタインである。其方らが此度黄竜を倒した冒険者か。ふぅむ、誠に精悍な者達よのぉ。ドルドレイク伯が其方ら冒険者の真なる戦いを見届けたと言うのでな。仔細に活躍を聞かせてもらっておる故その戦いが目の裏に映るようだ。ううむ、聖銀に勝るとも劣らない活躍ぶり。見事である。よって其方らには竜殺しの勲章を授ける」
誰もが(名前が長ぇ)と感じる中、国王が手を挙げればその両脇に控えた官職の男三人前に出て、そのうちの二人がディーノ達の元へと歩み寄る。
そして残った一人から竜殺しの勲章について説明がなされ、特別な勲章である事が知らされる。
通常の竜種殺しには勲章はないものの、高位竜である色相個体を倒して始めて竜殺しの勲章を与えられるとの事。
一般市民では勲章を見てもそれが何なのか知る由もなかったのだが、貴族では誰もが羨む栄誉であるとして、勲章の有無によっても発言力にも差が出るとの事。
勲章は家に与えられるものではなく個人に与えられる物であり、その者が国王から認められたという証である事から、国を動かす場での発言は爵位を超えた力があるとういう事なのだろう。
また、本来であれば竜種はギルドの依頼書には載らない特別なモンスターなのだ。
領主自らの依頼や国からの依頼として冒険者に出されて始めて討伐対象となる為、依頼のない竜種を倒した場合には素材の買取額のみ支払われる為報酬としては少なくなる。
これが竜殺しの勲章を持つ者であれば発見から討伐までを報告するだけで、その地を管理する領主から危険生物の事前討伐として受理され、報酬も支払われる事にもなるそうだ。
もちろんディーノはザック達聖銀のメンバーが勲章を襟に付けていた事も知っており、今渡されようとしている竜殺しの勲章以外にも二つ、踏破者勲章と聖王勲章と聞いている。
踏破者勲章は魔境の調査中に発見した巨大迷宮の踏破に成功した際に与えられたものであり、様々な古代文明の遺物を発見したとして与えられ、聖王勲章は国王直属の冒険者となった際に与えられた侯爵並みの発言力を持つ勲章との事だが、ディーノは爵位についてほとんど知らない為詳しい事はわからないままだったりもする。
それぞれ名前を呼ばれて立ち上がり、全員の左胸にキラキラと輝く勲章が授けられた。
「竜殺しの勲章を持つ者には優先的に竜種討伐の依頼が国から出される事にもなる。その際には是非とも協力してくれ」
これはバランタイン聖王国全土での竜種討伐依頼が指名依頼として出されるという事だ。
もちろんパーティーのその時々での状況もある為断る事も可能なのだが、各地にある依頼を紹介してもらえるのは冒険者としてはありがたいものでもある。
平和な土地ではランクの高い冒険者は必要ないのだから。
「さて、勲章を授与するというのは其方らには大事かもしれんが今回はまた困った事になったものでなぁ。今現在二つ大きな問題を抱えておる。まずは一つとして其方らが連れて来たルーヴェべデルとの問題だ。捕虜の尋問とこちらの調査によるとルーヴェべデルでは農作物の不作と強力なモンスターが増えた事により食用の獣が激減して食糧難にあるとの事だ。ある程度の支援してやっても良いのだが、戦争を仕掛けようという国に支援してやる必要もあるまい」
食糧難についてはディーノもウルから聞いており、国の調査で確認したとなれば間違いはないだろう。
戦争をせずに一時的に協力を願えばいいのにと二人で話し合っていたのだが、ルーヴェべデル国王はこれを機に強力なモンスターを大量に従えた事から戦争をする用意があるとのことだ。
今も多くの高位モンスターを集めているとすればその脅威は計り知れない。
「もう一つがディーノ。其方のスキル、ギフトがかつての英雄ゼイラムと同質のものであるという事で、これまで予見でしかなかった事が確実であると判断された為だ」
ここで何故ディーノのスキルが問題に上がるのかがわからない。
「国王陛下。よろしければご説明を……」
どうやらセヴェリンも聞かされていなかったらしく、自分の息子にと考えていたディーノが問題視されているとなれば、どうするべきかを考えなくてはならない。
もし謂れのない罪を着せられようものならドルドレイク家の威信をかけて守ろうと身構える。
「ドルドレイク伯よ、そう警戒するでない。ディーノがギフトを持つ事が問題なのではなく、大国の歴史にある英雄と同じスキルがディーノで三人目という事でな……約千年前にのみ発現した特別なスキル。そして聖銀に調査させている古代遺跡から発見された石碑から、およそ二千年前に滅んだ文明の中にギフトが発現していると考えられるものが見つかっている」
二千年前にはギフト発現者がいたにも関らず文明は滅び、千年前にはギフト発現者がいたと同時に伝説の英雄パーティーヘラクレスの存在があり、現在も続くバランタイン聖王国が存在する。
この事から考えられるとすれば、人類を滅ぼしかねない災害が一千年単位で起こる事が予想される。
「近い将来、世界規模の竜害が起こるであろう」
今まさに伝説の悲劇が世界を包み込もうとしている。




