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追放シーフの成り上がり  作者: 白銀 六花
97/257

97 みんなで飲もうぜ

 その日の夕暮れ時。


 南区にある貴族も多く訪れるという高級店に集まったブレイブと黒夜叉、アークトゥルスとルビーグラスのメンバーは、他の客の注目を浴びつつも個室へと案内されて席に着く。

 中にはディーノの事を知っている貴族もおり軽く挨拶を交わしつつ、また今度依頼があればまたよろしく頼むと指名依頼の約束を取り付けたりもしていたが。


「じゃあ各パーティーの間を取ってディーノ、挨拶頼むわ」


 店を紹介したのがマリオであったとしても、全てのパーティーを知るのが黒夜叉である為ディーノに挨拶を譲る。


「自己紹介でいいと思うけどな。まあいいや。こいつらはブレイブ。オレが元いたパーティーのメンバーだがここ最近すげー勢いでクエストを消化してるらしい。そんでこっちは〜……」


 なかなかに雑な紹介だが、冒険者は話し出せば勝手に仲良くなって酒を飲み交わすような連中だ。

 パーティー名だけ話しておけば自分から適当に名乗るだろうと簡単に紹介してから、この日招いた受付嬢であるケイトを紹介する。

 ディーノの腕にピッタリとくっ付いたケイトは頬を赤らめ、アリスに見せつけるようにしながら笑顔を振りまく。

 ディーノはふるふると震えるアリスに苦笑いしつつ、アークトゥルスのメンバーはこの状況にニヤニヤとしながらディーノをからかい始める。

 それでも強引に乾杯を済ませて酒を飲むも、グラスを置いたと同時に頬を膨らませたアリスがディーノを掴んで離さない。

 左腕にケイトと右腕にアリス。

 ディーノは両腕が塞がりどうにも食事ができる状況にはなく、バチバチと視線をぶつけ合う二人は空いた手で料理を口に運んで顔を綻ばせる。

 ディーノは食事をできず両脇の二人の食事を見ていると、視線に気付いたアリスがフォークで刺した肉をディーノに「あーん」と差し出した。

 パクリと肉を頬張り咀嚼していると、ケイトも負けじと骨つき肉を差し出す。

 急いで飲み込んで骨つき肉に齧り付き、噛みちぎって咀嚼する。

 これにムッとした表情を見せるアリスはグラスを手に持ってディーノにすすめ、すぐに飲み流すよう促している。

 グラスを口に付けたディーノは酒を飲み、アリスがグラスをどんどん傾ける為一気飲み状態だ。

「ぷはっ」と飲み干したディーノの口元にはまたも骨つき肉が差し出され、ケイトが何かを求めるような表情でディーノを見つめている。

 再び骨つき肉に齧り付き、咀嚼している間にアリスは新しく酒を頼んでおり、肉を頬張るディーノを恨めしそうに見つめている。


「ねぇ。ディーノは私のなんだけど」


「私もまだ諦めてませんけど?」


「ちょっとディーノ。この子に言ってあげて。私達付き合ってるんだから」


 ディーノを睨むアリスの目が怖い。


「ああ、うん。ケイト。オレとアリスは少し前から付き合う事にしたんだ。そんなわけでもうこれ以上は、な?」


「別れればいいと思います。ですからアリスさん諦めてくださいね」


 ケイトもなかなかの強者であり、ディーノから伝えられたとしてもアリスに別れろとさえ言ってくる。


「えっとな、オレとケイトはまあこれまで男と女の仲ではあったんだけどさ、将来を考えた場合にはほら、結婚とかできないわけだろ?いずれ別れる運命にあるわけなんだけど……」


「国王様から許可を貰いましょう。それが駄目なら他の国に移住すればいいと思います」


 孤児同士の結婚が許される国となれば内乱の続く小国家や、バランタインから二つ程国を跨いだ先にある西方の国くらいしかないのだが、それでもケイトは他国へ行こうと言うのだろうか。

 ディーノの強さを持ってすれば生きていく事も可能とは思えるが、安全を確保できる生活は難しいだろう。

 小国を選べばディーノは戦いに駆り出され、ケイトや家族を守るどころではなく、西方の国では操作系スキルの使用者ばかりの国である為、ディーノやケイト、今後産まれるとすれば子供のスキルが珍しい事から迫害を受ける可能性も高い。

 他国で生きていこうと思えば相当な覚悟を持って移住するか、またはこの国で生き辛くなった者が逃げていく場合のどちらかであり、安定した生活は得られる事はないのだ。

 国王からの許可をもらうとしても、千年以上も続くこの『孤児同士の婚姻を禁ずる』という法律は変えられる事はなく、今もこの法律を破れば重い罪が科せられ長い投獄と強制労働の日々が待っている。

 ただ好いた惚れたで破れる法律ではない。

 その事はケイトもよくわかっており、結ばれない運命だとしても自分の人生が決まるその時まではと考えていたはずだ。

 だが思った以上にその時が早く訪れてしまった事からわがままを言っているだけなのだが。


「ディーノさん。私と席を変わって頂けますか?少しアリスさんとお話ししたいです」


「ああ。わかった」とディーノと席を入れ替わると、ディーノの右腕にくっ付きながらアリスと会話を始めるケイト。

 ディーノとアリスを引き剥がしつつアリスと話し合おうというなかなかに賢い手も使うケイトに、ディーノも苦笑いしつつその隣に座るウベルトと会話を始めた。

 もちろんアリスは頬をぷくりと膨らませて組んだ腕を見つめていたが。


 そして何人かは席を入れ替わり、やはり同じジョブ同士で会話をするのは冒険者ではよくある事だ。


 マリオは「ファイターいるっスか?」と問いかけて、コルラードとマンフレードと集まってファイター談議を始めている。

 やはりスラッシュ使い同士語る事は多いようで、三人揃って楽しそうに話し合っている。

 そしてディーノの予想通りコルラードに気に入られたマリオは、ヒビの入った剣の代わりにコルラードの予備の大剣を貸してもらえる事になったようだ。

 今後実際に大剣使いになるかはまだわからないものの、マリオのスキルにうまく噛み合うようであれば新たに大剣を打ってもらおうと考える。

 そして大剣使い二人から戦いのコツや体捌きなどの説明を受けながら今後王宮から呼ばれるまでは訓練に付き合ってもらえるよう約束したりもしているようだ。


 ガーディアンであるジェラルドもマリオの真似をして「盾職の方、一緒に話しませんか?」と声を掛け、カルロやジョルジョと集まってドMトークを始めた。

 カルロもジョルジョも完全に盾職というわけではないものの、盾のみで戦うジェラルドに興味があったようで面白おかしい会話を楽しんでいる。

 盾で受け、盾で返し、盾で殴りつけるジェラルドはやはり面白いガーディアンと言っていいだろう。

 スキルもプロテクションとバッシュ、パリィとそれぞれ違いはあるものの、やはり敵の攻撃を防ぐという目的は同じである事から学ぶ事は多いだろう。

 それぞれの冒険譚を語り合いながら盛り上がっているようだ。


 ネストレと会話をするのは恋に敗れて落ち込むソーニャ。

 面倒見のいい性格のネストレはそんなソーニャを励ましつつ、恋人ができたというディーノを簡単に諦めた事に少し違和感を覚えて、言葉巧みにソーニャが整理をつけれない気持ちを別視点から分析していく。

 ネストレが思った通り、好意と憧れが入り混じる感情をディーノに向けていたソーニャの気持ちは恋というよりはやはり羨望や憧れが強いようだ。

 自分が手を伸ばしても届かない、もしディーノが振り向いてくれる事があるならそれに勝る幸せはないだろう。

 そんな気持ちをディーノに向けていたようで、ネストレからすればやはりその思いは恋ではなく憧れであり、共に生きていこうという気持ちは見てとれない。

 そんな中でところどころにマリオの名前が出てくる事から、ソーニャの中にはマリオに対する何らかの気持ちもある事はネストレにもわかる。

 しかしそれは恋愛とは程遠い愚痴や嫌な部分の話であり、そんな中に時々見せる優しさが少し腹立たしいのだとあいつムカつくな〜と指差しながら文句を言う。


 ロッコとドナートはクレリックアーチャーとクレリックセイバーという違いはあるものの、ロッコはナイフによる近接戦闘をする事もあり知り合った頃から仲がいい。

 同じクレリックアーチャーのレナータもここに混ざるとまた盛り上がるのかもしれないが、今はフィオレを攻略しようとしている為ここには混ざらないようだ。


 レナータは可愛らしいフィオレに甘くて美味しい酒をすすめながら会話を楽しんでいる。

 いい笑顔を向けるフィオレも少し酔いが回っているのか顔が赤く、そんなフィオレにデレデレのレナータは先に言われた言葉にこれはチャンスだと本気で落としに掛かっていたりもする。


「僕が憧れる最強の冒険者はディーノなんだっ!そのディーノを一度でも倒してみせたレナータは凄いよ!カッコいいっ!」


 フィオレの好みは強い事が第一条件である為、まずこの一番の難関を突破できたと思っていいだろう。

 見た目に関しては絶世の美女であるアリスはともかくディーノの事も好きであると聞いている事から、中性的な美形として女性達から人気のあるレナータであれば問題ないはずだ。

 そして優しさについてはフィオレに見てもらう他ないだろうと、寄り添う事で自分を知ってもらおうと今頑張っているところ。

 これまでのオリオンでの戦いやブレイブ結成からの波瀾万丈な冒険譚を語り、ジェラルドを踏み付けている事は省きつつも楽しいパーティー生活を語って聞かせた。

 そして昼にも簡単に話を聞いていたのだが、フィオレのこれまでの話を聞きながら感情豊かにフィオレの話に一喜一憂し、気持ちを寄せた事で自分が同じような立場であればと考えると思わず涙がこぼれ落ちた。

 仇を討ちに協力してくれたというアリスに好意を抱くのも当然だろうと、今ここでフィオレを口説くのは間違っているだろうと思い、少し考えを改めるレナータだった。

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