93 出発
黄竜討伐を終えた合同パーティーは側から見ればそれほど苦戦したようには見えなかったものの、最強種である竜種の放つプレッシャーに膝から崩れ落ちるほどに疲弊していた。
見学していた伯爵家含め、冒険者全員で黄竜の死骸を確認しようと移動を開始。
地面に座り込んだアークトゥルス、ルビーグラス、黒夜叉に向かってセヴェリンから労いの言葉を掛けられる。
「我が国の誇るS S級冒険者パーティー諸君。この度の黄竜討伐、見事討ち取った事感謝に絶えん。ご苦労であった。ジャダルラック領主として討伐の報酬を支払うと共に、国王様への報告を行う故勲章を贈られる事になるだろう。その際には王都へ呼ばれる事になるとは思うが冒険者とは自由な職業であると聞くのでな。勲章を受け取るか否かは其方らに任せる」
国王からの勲章を受け取るという事は、冒険者としてその実力が国に認められるという事であり、各貴族からも絶大な信頼を得られるという事でもある為、将来冒険者を引退した後の生活が安定したものとなる。
実績によっては爵位を与えられる場合もあるのだが、今回は合同パーティーでの黄竜討伐となる為勲章を与えられるだけと思われるが、国王が求めれば国のお抱えの冒険者となる可能性もある。
冒険者としての自由を失う事にもなるが、将来が約束されたものになる為断る理由もないだろう。
「もちろん受け取らせていただきまさぁ。これに勝る栄誉なんてそうあるもんじゃねぇし、なあ、お前ら」
そうカルロが返せば違いないと誰もが頷く。
高位の竜種を討伐した際には勲章が与えられるのは確実であり、ルーヴェべデル兵の移送に同行すれば王都への移動も仕事の一端になる為損はない。
人数が多い事から支払われる護衛費は安くなるとしても、貴族の護衛である為通常の商人の護衛よりは遥かに金額は高い。
ついでに王都観光や近隣の街を見て来るのもいいだろう。
黄竜討伐の街ワルターキの今後の発展に為に商人の移動も考えられる為、王都からの帰り道でも護衛依頼は必ずあるだろう。
それぞれパーティーで話し合い、今後の活動内容が決まったところで黄竜の魔核の回収と死骸の処理作業を進めようと全員が立ち上がった。
◇◇◇
黄竜討伐から三日後。
ルーヴェべデル兵を王都へと移送する護衛として、また、各種モンスターの討伐から指名依頼も完遂し、一月以上もの期間の仕事を終えたディーノ達黒夜叉は商業都市ラフロイグへと帰る事とした。
仲間として元サジタリウスのフィオレを迎え入れてはいるのだが、拠点を持たずに各地を転々としていたという事でラフロイグでの生活になっても問題はないとの事。
一度故郷の親元へ帰って挨拶して来てはどうかとも聞いてみたのだが、サジタリウスは全員が元孤児のパーティーだったという事で故郷に帰る必要もない。
また、すでに朽ち果ててしまったサジタリウスメンバーの骨を回収して探し出した武器と共に埋葬し、セヴェリンに用意してもらった墓地に祈りを捧げている。
フィオレの戦いを見ればサジタリウスがどれだけ優秀なパーティーであったかと、アークトゥルスとルビーグラスもサジタリウスメンバーの捜索に協力し、共にその死を悼んでくれた。
ヴィタは今回の黄竜討伐についての資料をまとめた後にはギルド受付嬢を辞め、王都に行くセヴェリンに代わりとまではならないものの、ソフィアのサポート役として領地の復興作業を協力することが決まっている。
給金の話し合いなどもあったようだが、受付嬢では考えられない程の金額が提示されたようで、ヴィタにはそれだけの期待しているのだという事がわかる。
それ以上にソフィアから気に入られているのも大きな要因となっているのかもしれないが、これまでの十倍近い給金が支払われるとなれば一般人であるヴィタにとっては恐怖を覚える金額である。
BB級パーティーの個人収入を優に上回るのではないだろうか。
命懸けの仕事をさせられるのではないかとそんなに多くは受け取れないと断るも、働きに応じた金額を支払う事として給金の話はここでやめる事にした。
ソフィアは自分の気持ち一つでそれ以上にもしていいだろうと考えていたりもするのだが、ヴィタがそれを知るのは一月後となるだろう。
この日王都へと向かうのが護衛役として黒夜叉とアークトゥルス、ルビーグラスのSS級パーティーが三組と、セヴェリンと世話役の従者二名と、拘束されたルーヴェべデル兵が十三名に監視役が五名。
合計三十二名という大所帯での旅となるが、気の知れた仲間同士の旅となれば五日程の旅路も楽しいものとなるだろう。
ディーノは捕虜相手にも酒を振る舞いそうではあるが、これまでにも牢獄内に差し入れと称して酒や食べ物を持ち込んでいた為何も言われる事もないだろう。
セヴェリンでさえも特に何もいう事はない事から監視役も何も言うつもりはないのだ。
また、ルーヴェべデル兵ともなればモンスターをテイムしていなければ戦う力を持っていないと言ってもいいだろう。
モンスター溢れるこの世界で兵達も逃げ出す事はない為、最低限動ける程度の拘束具を取り付けている以外は自由に動いてもいい事にしてある。
それにディーノからは絶対に逃げ出す事が不可能な事を知っているルーヴェべデル兵は元々逃げるつもりがないうえ、「逃げたらオレが責任を持って殺すから」と言われれば一緒に楽しく酒を飲む方を選ぶのは当然だ。
冒険者であるウルなどはもう戦争をやめてバランタイン王国に支援協力を頼んだ方がいいのではないかとも思っていたりもするが、今後どうなるのか決めるのは国同士である為成り行きに任せるしかない。
ディーノも連行されるルーヴェべデル兵の処遇についてできる限り弁明するつもりではいるのだが、一介の冒険者の言葉が口を挟んだところで国の重鎮がどう判断するかはわからない。
セヴェリンが国にどう報告するかにもよるのだが、ディーノを息子として迎えたいとさえ言ってくれたセヴェリンが悪いようにするとも思えず、ルーヴェべデル兵から得た調書を元に上手く説明してくれるだろう。
見送りに来てくれたジャダルラックで世話になった者達と挨拶を交わして王都へと出発した。




