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追放シーフの成り上がり  作者: 白銀 六花
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82 ラウンローヤから魔境へ

 いつもの時間にギルドで集まった聖銀とブレイブ。


「よおマリオ。竜種に挑むんならこれ持ってけ。本当は武器に組み込むのがいいんだが今日は腕にでも括り付けときゃいいだろ」


「お?なんだいいのか?チェザリオのおっさん気前がいいな」


 チェザリオとは昨日ブレイブに絡んだサガのメンバーで、マリオに腕を斬り落とされたセイバーの男だ。

 赤黒い親指程の大きさの魔核をマリオは受け取った。


「おっさんは付けんなっつったろ。チェザリオさんな、よく覚えとけ。そんでそいつは剣の斬れ味を増すっていう魔核なんだがお前にゃなかなかいいんじゃねぇかと思ってよ。ま、餞別に持ってけよ」


「んん、ありがとなおっさん。帰って来たら奢らせてもらうよ」


「今度はおっさんだけにしやがった……」とぶつぶつと文句を言いながら自分達の席へと戻って行く。


「マリオは随分と気に入られたみたいだが、あのおっさんも腕斬られてんのによく仲良くできるよな」


 ボソリと呟いたザックは隠れて見ていたという事を忘れているのだろう。

 レナータからは「ふーん。やっぱり見てたんだ」と冷たい視線を向けられる。


「見た目はあんなだけど悪い人じゃないっスよ。なんか普段から新人来る度に絡んでるらしいんすけどね、まだ実力不足でこの街に相応しくないような冒険者を追い返してるって言うんすよ。仲間失うよりはここでおっさんらに殴られて逃げた方がマシだろって」


 マリオは昨日チェザリオと互いに散々罵り合ったものの、自分を隠さず言葉をぶつけ合った事で今ではまた一緒に酒を飲もうと思う程には気を許している。


「うん、あのな。お前に言ってるんじゃなくてチェザリオの方だからそこんとこ間違うなよ。あいつあれでいて結構いい奴だから。むしろ腕斬られても許せるなんてとんでもなく器のでけー奴だ。詫びるなりなんなりしといて損はねーぜ」


 そう言うザックも初めてこのラウンローヤのギルドに来た時にはチェザリオ達サガのメンバーに絡まれている。

 しかしその時点で竜種ともソロで戦える程の強さとなっていたザックには一撃で沈められ、他のメンバーも動く事なく地に伏す結果となってしまった。

 後々サガの悪評を聞くうちにその真意に気付く事にはなるのだが、聖銀には近寄る事のなくなったサガとは未だうち解けてはいない。

 お礼を言うか、詫びを入れるつもりがあるならば早い方がいいだろう。

 そして素直なマリオは兄貴が言うならそれが高位の冒険者のする事だと指示に従い、「おっさん、ありがとう!」と言いにいく。

 礼儀も何もないような不器用な言葉だが、先輩冒険者から見れば可愛い後輩である。

「死ぬんじゃねぇぞ」と胸に拳を打ち付けられた。


「じゃあ竜種の討伐に向かうが目的地までは片道三時程はかかるからな。野営になるから酒買って行くぞ」


「街出る前にいつものとこ寄りたい。お菓子買っていく」


「遊びに行くんじゃないぞ。食べ切れる量にしとけよ」


「ランドもエンベルトに甘いよな」


 竜種の討伐に向かうというのに聖銀は遊びに行くような感覚だ。

 これはあくまでもブレイブの初竜種戦が目的であり、聖銀はもしもの時のサポートとして同行する為か、またはいつもの事なのかはマリオ達にはわからない。

 マリオはこの聖銀の雰囲気に気負わずに行こうという姿を自分達に見せているのだと思い込み、レナータは観戦だからと遊び半分なのだと冷たい目を向ける。

 実際のところはどちらも正解であり、普段から聖銀はできるだけ気負わずに戦いに挑むようにしており、今回はブレイブVS竜種の観戦を肴に酒でも飲もうかとお遊び気分でもある。

 聖銀は誰もが上位の竜種とソロで戦える程の実力を持つ為、もしブレイブに危険があったとしても誰でもサポートする事ができる。

 ブレイブにとって格上の竜種相手でも、聖銀の庇護下で戦える事は仲間を失うリスクなく戦える為、精神的負担も少し軽くなるだろう。


「下位とはいえ俺達もついにモンスターの頂点、竜種に挑むんだ。気合い入れていこうぜ」


 聖銀の背中を見つめながら少し決め台詞のように声を掛けたマリオ。


「なんかマリオ最近調子出てきたね」


「そうだね。自信がついたというか……うわ、最低。結局はそっちか」


「おい待てレナ。なんで最低なんだよ。違うからな?レナが想像してるのとは全然違うからな?レナはいつも想像してるかもしれないけど本当に違うからな?」


「なっ!?レナが!?どんな想像を!?」


 ジェラルドはレナータの想像がどんなものかと興味津々だ。

 嬉しそうにレナータの顔を覗き込むが、その表情は冷めきっているどころか突き刺すような視線を向けられるジェラルド。

 危険を察知したソーニャはすぐさま距離を取り、レナータは握りしめたルナヌオーヴァから呪闇を発動。

 自身も含めて三人同時に膝から崩れ落ちた。

 怒りに任せて呪闇を発動したレナータは、回復薬を飲むのを忘れるという失態を犯したのだった。


「お前ら出発前からなにやってんだよ」


 さすがにザックも呆れ顔を隠せなかったようだが。




 買い物を済ませて目的地へと向かって馬車を進める聖銀とブレイブ。


 やはり魔境と呼ばれる地域だけあり、強力なモンスターがそこかしこと溢れているような場所である。

 そんな場所ではやはり弱い生物である人間や馬は格好の的となり、遭遇するたびに襲われる事となった。


 聖銀は自分達の馬車が狙われた場合にのみ、それらを気が向いた者が倒すという方法で進んで行くが、ブレイブにとってはどれもがそう簡単に倒せるようなモンスターではなく、何度も足止めをくらってしまう。

 馬車での旅のはずがほとんど馬車に乗る事なく戦いながら目的地へ向かっているような状態だ。

 しかしこれもラウンローヤの冒険者では当たり前のことであり、馬車は荷物を乗せる為のものというのが常識な為、ブレイブのメンバーの進み方が正しいものであり、聖銀はやはり規格外の強さと言えるだろう。


 連戦が続く事で体力は次第に削られていき、レナータの回復スキルも発動限界も近づいてきた為、ブレイブでは珍しく回復薬を使用するまでに消耗する事になった。


 目的地に着く頃には肩で息をするまでに消耗しており、このまま竜種との戦いでは危険だろうと買ってきた弁当を食べて少しでも体力の回復を促す。


「なかなかいい感じに疲れ切ってんじゃねえか。だがその状態で竜種に挑んでもらうから気合い入れてけよ」


「マジっスか。一番消耗してんのはレナだし結構キツいっスね……」


 実のところ体力を回復させたとしてもスキルの消耗までは癒す事ができず、時間経過や睡眠などしっかりと休養を取る事で回復すると言われている。

 ステータス測定では能力値として数値を読み取る事ができているのだが、スキル発動回数との関連付けができなかった事からギルドでは個人に提示していない。

 スキル発動回数は本人の感覚によって判断するしかないのだ。


「ごめん。通常回復でもあと十回、大きな怪我だと二、三回で気を失うかも。呪闇も使うから半分くらいとみてほしいかな……」


「わかった。できるだけ回復薬を使うが踏まれないと前に出れないかもしれないからな。そこは頼めるか」


 この発言に誰もが表情に出して引いているものの、ジェラルドとしては精神的な問題である為本気だ。


「ちょっと気持ち悪いけど後退する度に叩く事にするね」


「私はジェラルドが退がる度に蹴り飛ばすよ」


 ソーニャとレナータの返事に「助かる」と笑顔を向けるジェラルドは、気持ち悪いと言われた事にも少し喜びを感じていたりもする。

 ここ最近のジェラルドの発言にはマリオからも白い目を向けられているものの、それすらも少し嬉しく感じているあたりは本物である証拠だろう。


「あと半時休んだら挑んでもらうからな。パウルはそろそろ竜種を探して来てくれ」


 パウルは「おうよ」と一つ返事で駆け出した。

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