74 パーティー結成
翌日の夕方にジャダルラック領へと帰って来たディーノ達一行。
馬車にはルーヴェべデル兵を乗せる程のスペースはなく、半数ずつ交代で歩かせながらの旅路であった為、思った以上に時間が掛かってしまったのだ。
街の憲兵に突き出そうとも思ったのだが、ディーノ達は冒険者である為ギルドへと連れてきてギルド長に判断を委ねる事にした。
とりあえず彼らは街の憲兵の元で拘束され、ドルドレイク伯爵の尋問を受けてからその後の処遇が決まるとの事。
今後ルーヴェべデルとの戦争が起こるとすれば王国へと連行される事にもなるかもしれないが。
ギルドから伯爵の元へと伝令が送られ、伯爵が戻り次第尋問となる為まだ少し時間は掛かるだろう。
ジャダルラックのモンスター大量発生の原因が彼らではないのであればと、ディーノはこれから毎日差し入れをしてやろうと考えていたりもする。
「皆さんお疲れ様でした!クランプス討伐だけじゃなくまさか獣王国の部隊まで捕らえてくるなんてびっくりしましたよ!もしかして全ての原因は彼らに!?」
今日も元気なヴィタは興奮気味にそう問いかけてくるが、全ての原因がルーヴェべデル兵にあるわけではない為順を追って説明する。
そんな話でも興味津々といった表情で聞いているヴィタはとても楽しそうだ。
「まあそんなわけで今後戦争になるかもな〜」
「軽い!すっごく重要な話なのに言い方が軽すぎますよ!ちょっと言い直してもらえませんか?」
「そんなわけで……今後戦争になるかもしれないんだ……」
難しい表情を作りグッと拳を握りしめるディーノ。
「いいですね!その調子で私をヒロインだと思ってもう一言!」
何故か寸劇をしたがるヴィタだが、ディーノも仕事が終わりで気が抜けているのかとりあえず話に乗ってみる。
「ん?んー……ヴィタは先に行け!あとで必ず合流する!」
「なんでですか!?違いますよ!もっとこう他にあるじゃないですか!この戦いが終わったら何々とか、戦争に行く前に君にとかなんとかー!」
胸ぐらを掴んで必死に別のセリフを求めてくるヴィタにディーノも若干引きつつ、新たなセリフを考える。
戦いが終わったらする事といえば……と考え、手槌をポンと打ったディーノ。
「ヴィタ。戦いが終わったから今夜飲みに行こうか。んー、でもわざわざこんな言い回ししなくても誘うつもりだったけど?」
「はい行きます!けど違うんですよぉ……そうじゃないんですよぉ。もっとこうロマンスを感じるようなセリフを言って欲しいんですよぉ」
普段から一緒に食事をして酒を飲み交わしているだけに、今回のディーノ達とアークトゥルスの合同パーティーでの旅が羨ましかったのだろう。
自分だけが除け者になったような気分であり、せめて自分はヒロイン役としてディーノ達の帰りを待つ。
そんなシナリオを思い描きたかったのかもしれない。
それならばとロッコがヴィタの前に出て求められたであろうセリフを吐いてみる。
「僕達はこれから戦地へと赴く事になるが、もしかしたら命を失う事にもなるかもしれない。だから……その前に君に伝えたい事がある。この戦いが終わり、君の元へ帰って来られたのなら……僕と結婚してくれないか」
「嫌です!でもセリフはそれでいいのでディーノさん、さあどうぞ!」
容赦なく切り捨てたヴィタだがセリフだけは問題なかったようだ。
「僕だってさすがに傷つくよ……」と落ち込むロッコにアークトゥルスのメンバーも慰めようと肩を抱き締める。
そんな姿に同情しつつ、ディーノはアリスとフィオレに掴まれてそんなセリフを吐くような状態にないのだが。
「悪ふざけは置いといて、オレ達この三人でパーティー組む事にしたから手続きしてくれるか?あ、パーティー名考えてないな」
「え!?パーティー組むんですか!?ディーノさんと……アリスさんとフィオレさんで!?それだと確実にSS級パーティーになれそうですね!」
以前のステータスから見てもディーノとアリスだけでも150ポイントを超える為、フィオレがS級冒険者であるだけでSS級パーティーは確定しているようなものだ。
ルーヴェべデル兵の件で慌ただしいギルド内ではあるが、手続きその他はヴィタが一人でもできる為申請書をサラサラと書き始める。
「パーティー名どうする?」
「やっぱり定番の星の名前?それか色とかもいいわよね」
「色か……」と三人の武器を確認すると、ディーノの黒金のユニオンとアリスの黒銀のバーン、そしてフィオレの弓は黒地に紫と金の装飾が施されている。
話を聞いたところによると、百年以上も前に討伐された紫竜と呼ばれる竜種を素材にして作られた弓との事で、魔鉄槍バーンを上回る超高級品との事。
これを使用する事でインパクトの出力が増大するのだという。
「黒ならブラック……ノワール……ネロとかその辺か。でもノワールはなんか兄貴の姓に似てるからやだな」
「ブラックとかネロもなんだかピンとこないわね」
「それなら黒夜叉はどうかな。すごく強そう」
フィオレの提案にディーノとアリスも目を合わせ、悪くはないなと頷き合う。
「よし、黒夜叉にしよう」と言うとヴィタも「はいはい〜」と軽いノリで書類に書き込んだ。
「では黒夜叉の皆さんはステータス測定をしましょうか!ギルド長も見たいでしょうけど忙しそうですから後で報告します!さあどうぞ!」
元気なヴィタに促されるままに測定室へと向かい、石板に乗って測定するとヴィタは計算の済んだものから渡してくる。
名前:フィオレ=ロマーノ
攻撃:1941
防御:436
俊敏:1104
器用:2679
魔力:435
法力:191
評価値:73(S級アーチャー)
「うわっ!すごく上がってるよ!」
サジタリウス壊滅後も一人で命がけの戦いを繰り返していた為か、フィオレも驚く程にステータスが上昇していたようだ。
「すごいなフィオレ。アーチャーでこんなステータスは初めて見た」
器用の高さやファイターに匹敵する攻撃力だけでなく、並のシーフを上回る素早さともなればディーノも驚く程のステータスである。
評価値73ともなれば、世界最強のアーチャーではないかと思える程の数値なのだ。
名前:アリス=フレイリア
攻撃:2006
防御:1351
俊敏:802
器用:652
魔力:2514
法力:176
評価値:61(S級ウィザードランサー)
「前回よりも結構上がってるわね。でも強敵を相手にし続けたわりには上昇率が低い気もするけど」
「アリスは相当強くなってきたし上昇率が低下するのは仕方ないだろ。元々SS級モンスターを狩れるだけの出力があったんだしこんなもんじゃないか?」
ディーノが言うように元々攻撃力はステータスに反映されない部分でディーノ以上に高かったのだ。
大きく上昇したとすれば防御の部分であり、戦闘慣れしてきた事から安定した戦いが可能となっている。
それから少し時間は掛かったものの、ディーノのステータスが書き込まれた紙を渡された。
名前:ディーノ=エイシス
攻撃:2928
防御:2054
俊敏:2816
器用:2116
魔力:2133
法力:1960
評価値:117(S級ウィザードシーフセイバー)
このステータスに満足そうなディーノだが、アリスやフィオレ、ヴィタにとってはこの異常とも思える数値に絶句する。
そして物理系ジョブにウィザードが追加されたとしても評価値は曖昧なものとなる為、ディーノとアリスの評価は低く算出されている。
評価値はシーフセイバーとしての部分が大部分となるはずなのだ。
そのうえで評価値117ともなれば人間とは思えないような存在となる。
「オレもまあまあだな。イスレロとかティアマトと戦ったおかげで随分と上がってる」
「こんな狂ったステータスを持ってる人を私は初めて見たけど」
「人間じゃないみたい」
「私も計算が間違ってると思って何度も計算し直しましたよ……」
このディーノのステータス上昇には理由があり、元々持つ俊敏値の加速に、風属性スキルでの超加速を加える事による速度への慣れや、状況把握と動作修正しようと器用さも更に求められる事になる。
そのうえギフトによる全ステータス五割増しを制御しての戦いとなれば戦闘の難易度は更に高まり、強敵を相手にする危機的状況もあってディーノの戦闘技術は大幅に鍛えられる事になる。
そして速度が高まる事により攻撃力の上昇もあり、ステータスの伸びがアリスよりも大きいのだ。
「でもこれで緊急クエスト以外でもSS級クエストが受注できるしな。フィオレが入ってくれてよかった。ま、戦争始まるかもしれないけどそん時はそん時だしな〜」
「言い方が軽いですよぉ。戦争なんて始まったらどれだけ多くの人が死ぬ事になるか……私もまだ死にたくないですよぉ」
戦争では人が多勢死ぬ事がわかっていても、一冒険者であるディーノには防ぎようのないどうにもならない事だ。
しかし手の届くところにいる者を守る事はできる為、ディーノもできる限りで身近な人間を守るつもりである。
「ヴィタはオレが守ってやるから安心しろ。それにまだ戦争が始まるって決まったわけでもないし」
またディーノは失言する。
この発言にヴィタは顔を真っ赤にして喜び、アリスはふるふると首を振りながら涙を流し始める。
ここでようやく気付いたディーノだが、やはり考えなしの発言は注意すべきだろう。
また前回と同様にアリスの誤解を解くのに苦労するディーノだった。




