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追放シーフの成り上がり  作者: 白銀 六花
55/257

55 ジャダルラック領主邸

 ラフロイグを出発して五日目の昼六の時。

 目的地であるジャダルラック領の領主、伯爵邸にたどり着いたディーノとアリス。

 ジャダルラックに着いて早々に昼食を済ませている為、店から見える領地の雰囲気からモンスターとの戦況が芳しくない事が伺えた。

 伯爵邸の執事に接客用の部屋へと案内された二人はそう豪華とは思えないソファーに座って伯爵が来るのを待つ。

 今回はディーノに向けた指名依頼である為、ギルドに向かうのではなく直接伯爵邸に来て話を聞く事にしたのだ。


 しばらくして室内へと入って来た初老の男性。

 貴族然とはしているがそれ程華美に飾る事をせず、いかにも仕事熱心で実直なイメージを感じさせる男である。

 ディーノの前に立つとしっかりと目を見つめてから名を名乗る。


「私はセヴェリン=ドルドレイク。今代から領主としてジャダルラックを国から任されている。して、君がディーノ君かね?」


 貴族が相手であればディーノから話かける事をせず、話を振られるまでは口を閉ざしているのが礼儀であり、セヴェリンからの質問があった事でディーノも挨拶をしようと立ち上がる。


「はじめまして、ドルドレイク伯爵様。ディーノ=エイシス、指名依頼を受けて参上致しました。此度の調査依頼、満足のいく結果をお持ちできるよう努力致します」


「ふむ、こちらの女性は?」とアリスに視線を向けたセヴェリン。

 その視線は鋭く、アリスがどのような人物かをその振る舞いから読み取るつもりだろう。


「アリス、ご挨拶を」


「ご無沙汰しております、セヴェリンおじ様。恥ずかしながら取り潰しとなったフレイリア家の一人娘、アリス=フレイリアです。現在はS級冒険者ディーノ=エイシスと共に依頼に臨んでおります」


 ディーノに促されて挨拶をしたアリスは、以前からセヴェリンと面識があったようだ。


「フレイリア!フレイリア卿の娘がこれ程までに大きくなっていようとは!おお、懐かしいな。母君に似て美しくなって……取り潰しになったとはいえ其方の父君は英断をなされたのだ。何を恥じる事などあろうものか」


 首を横に振るセヴェリンはアリスに対して優しい表情を見せるようになる。


「それよりも冒険者をして……それどころかS級冒険者と共に依頼を受けるなど余程の覚悟をしての事だろう。しかし命を投げ打つような真似だけはせんでくれよ。フレイリア卿に合わせる顔がなくなってしまうのでな」


 少しアリスと世間話がしたそうなセヴェリンではあるのだが、まずは依頼について説明をするべきだろうと、咳払いをして話を進める。

 今回のディーノへの依頼は危険領域深部の調査として出されてはいるのだが、その前に通常の依頼としてジャダルラック領に散らばった危険性の高いモンスターを討伐してほしいと新たに依頼を受ける事になった。

 ジャダルラックの冒険者達では歯が立たないようなモンスターも多く、他の領地から来てもらった上位の冒険者達に協力してもらってその行動範囲を抑え込んでいるとの事。

 ただの強力なモンスターであればSS級パーティーによる討伐は可能なのだが、やはり足の速いモンスター相手に立ち回れる冒険者は少ないのだと、人里に近付かないよう牽制しているのが現状だそうだ。


「そこでディーノ君。素早さに特化したものを中心に討伐をしてくれないか。数多くのモンスターに家畜や農村地を荒らされているんだが、このままでは民の生活が困窮してしまうので急いで討伐を進めてほしい」


 セヴェリンのこの依頼は食料事情に直結する大事な任務である。

 ジャダルラック領にも当然のように孤児院はある為、彼らの食事を守る為にも早々に解決する必要がある。

 しかし無闇に動いたところで情報が正確でなければ、素早さに特化したディーノといえどもモンスターを討伐する事は難しい。

 気持ちは焦るものの、今は情報を集めさせる事が先決だ。

 セヴェリンはギルドから詳しい情報をもらって来るよう執事に指示を出す。


「アリスにはちょっと難しいかもしれないけど……素早さに特化した奴でもいろいろいるしな。パーティーからは逃げるけど一人には向かって来るなんて奴もいるし、そんなモンスターをアリスには任せようか」


 アリス個人でもAA級モンスター程度なら一人でもなんとか勝つ事ができるまで成長している為、ディーノは自分の庇護下にない状態でもアリスに任せようと考える。

 しかしディーノのこの言葉にセヴェリンが心配になるのは当然だ。


「アリス嬢に任せる?危険極まりないモンスターの相手をさせると本気で言っているのかね?」


「本気ですよ。言ってませんでしたがアリスはS級冒険者です。危険である事は否定できませんが、アリスの実力が確かな事はオレが保証します」


 ギロリと睨み付けたセヴェリンだったが、ディーノの回答に目を見開いて驚き、上機嫌に笑顔を見せるアリスを見てこれが事実なのだと知る。


「まだ頼りなく見えるかもしれませんが、これでもディーノに鍛えてもらってますからね。期待して下さいませ、おじ様」


「以前見たのは八、九歳の頃だったか。それがいつの間にやら……人の成長とはわからぬものよな。アリス嬢、ジャダルラックにいる間はディーノ君と共にこの邸に泊まってくれないか?私も忙しい身ではあるが夜は少し時間が作れるのでな。話し相手になってくれると嬉しいのだが」


 アリスはディーノに視線を向けると笑顔を返され、アリスの好きにしていいと判断すると快くセヴェリンの申し出を受ける事にした。




 しばらくして執事が室内へと戻って来ると、セヴェリンからの指示で空いたソファーに座って話をする。


「まずはわたくし、執事のエンリコと申します。よろしくお願い致します冒険者様方。さて、ギルドから得られた情報ですが……」


 地図を広げてディーノ達にわかるよう説明を始めたエンリコは、すぐにでも動けるようにと確実な情報から順に説明を始めた。

 この日はジュダルラック到着の初日であり、ディーノとしては厄介なモンスターを一体でも討伐したいと考えている。


 エンリコの説明ではこの日のうちに討伐して帰って来れそうな距離にあるのは二件。

 そのうちの片方はやはり他の冒険者達では手に負えない素早いモンスターであり複数体の群れである為危険極まりないと、ギルドからの指示で近隣の民を避難させているとの事。

 もう一体は強度の高さから討伐を諦めたSS級モンスターで、体を鉱物のように硬くする事のできる厄介な個体である。

 物理的な攻撃がほとんど通用しない事から、討伐の難しさを考慮してSS級とされている。


「よし、最初に説明してくれた二体を今日のうちに討伐しよう。オレは群れの方を片付けるからアリスは固い方な。倒すのが難しいだけだからアリスの攻撃力なら大丈夫だろ」


「SS級に私の炎槍通用するかしら……」とブツブツ言い出したアリスだが、ディーノから見たアリスの攻撃力は異常の一言に尽きる。

 おそらくはディーノが戦った場合には倒すまでに日が暮れてしまうような個体だが、アリスが戦えば何度かの炎槍を放つだけで討伐できてしまうのだ。

 これだけでも今回アリスを連れて来た甲斐があるというものだろう。


「ではディーノ君もこの辺には詳しくないだろうし、エンリコ。馬車で案内してやれ」


「かしこまりました」と指示に従うエンリコに続いてディーノとアリスは早速討伐へと向かう事にする。


 ディーノ達が乗って来た馬車は邸の厩舎へと預け、馬に長旅の疲れを取る為にも休ませる事にした。

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