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追放シーフの成り上がり  作者: 白銀 六花
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54 緊急クエスト受注

 共に依頼を受けるようになってから毎日会っていたディーノとアリスだが、アリスのS級祝いから五日間の休みを取り、久しぶりにギルドで再開すると互いに相手の様子を伺ってから笑顔を向け合う。

 アリスは以前と変わらないディーノの笑顔に安心感を覚え、ディーノはそんなアリスの表情の変化に心配させたかと頭を掻いて照れを隠す。


 この五日のうちにディーノはミラーナの縁談相手の事を調べており、問題のある人物ではないどころか心優しい人格者である事を知り、ホッと胸を撫で下ろす事となった。

 だが心に残る虚しさは抜けきれておらず、自分に好意を持つアリスに対する申し訳なさも感じている。


「久しぶり……って言うのもなんか変な感じだな。結構長い事一緒してたから」


「ふふふ。久しぶりね。会えて嬉しいわ。また……一緒にクエスト受けてもいいかしら」


 アリスはこれまで魔鉄槍の購入費用を支払う為、AA級クエストを受注する為にディーノが一緒に旅をしてくれていたのだと思っている。


「ああ、もちろんだ。アリスもS級なら緊急クエストに連れて行っても大丈夫だし」


「やったぁ!」と喜ぶアリスは満面の笑顔をに向け、ディーノは少し都合が悪そうに話を続ける。


「で、早速緊急クエストがあるんだけど行けるか?かなり危険なクエストなんだけど」


 このディーノの言い方から察するに、アリスの実力では命に関わる危険なクエストであり、ディーノのサポートも満足に受けられない可能性もありそうだ。


「もし私が足手まといになりそうなら見学だけでもさせてもらえると嬉しいわね。その場合は報酬も要らないし、連れて行ってくれるかどうかはディーノに任せるわ」


「よし、それなら一緒に行こうぜ。今回はモンスター討伐が目的じゃないし、雑魚狩りでも手伝ってもらえば報酬は分配する。それで今回のクエストは……」とディーノが説明を始めた。


 この日ディーノに依頼されたクエストは、現在国が立ち入りを禁じている危険領域深部の調査であり、そこから程近い【ジャダルラック領】の周囲に強力なモンスターも複数現れているとの事。

 繁殖力の強いモンスターも多く、その数を増やしている事からジャダルラック領の冒険者達だけでは手が回らない程の状況となっているそうだ。

 死者も多く出ている事から緊急クエストとして複数の領地へと発注されており、本来であれば依頼の出される事のないジャダルラックから遠いラフロイグではあるのだが、全ての緊急クエストを完遂しているディーノの噂を聞きつけたジャダルラック領主は是非にと指名依頼として発注してきたのが今回のクエストだ。

 国内にそう多くないS級冒険者がジャダルラックに来る可能性は低く、更にはこの遠い地にいるディーノが来てくれる可能性は極めて低いとも考えているだろう。

 それだけにわずかな可能性を掴み取る為、SSS級クエストとして発注された今回のクエスト報酬は破格である。


 SSS級は特別に用意されたランクのクエストであり、危険性が全く把握できていない依頼となる為、指名依頼以外ではこのランクの依頼はめったに発注される事はない。

 それこそ竜種の討伐依頼でさえもSS級であり、竜種の複数体討伐となって初めてSSS級クエストとしてのランク付けをされる程の危険性を孕む。


 ディーノとしても初めてのSSS級クエストであり、危険性が高いとはいえ自身の想像を超える強力なモンスターが複数いると考えれば、強敵を求めているディーノは是非とも挑みたいクエストでもある。

 そんな危険なクエストを喜んで受注するディーノの気持ちなど依頼主は知る由もない。


 ただアリスが同行する場合には危険性の高さから無茶な戦い方はできないが、現地で臨時パーティーを組む事も想定して活動するとし、アリスには男の冒険者と組む事もあるだろうと説明して了承を得る。

 ジャダルラックの状況によっては危険領域への調査はディーノ一人が向かう事もあるだろうと説明し、アリスには待機、もしくは臨時パーティーとモンスター討伐に向かってもらう事になると言うと、アリスは少し落ち込んだ表情を見せつつもしぶしぶ「わかった」と返事をする。

 ディーノが安全を確保できないと判断した場合にはアリスは足手まといににしかならない為、どれだけアリスが食い下がろうとディーノは置いて行くつもりでもあるのだが。

 ディーノの場合は速度でモンスターを上回れる事から、自身が無理だと判断した場合には即撤退も考えている。


「本当に危険なクエストだからな。指示には絶対に従ってもらう。で、もう一度確認するけど一緒に行けるか?」


「行く!絶対に行く!」


 ジュダルラックで置いて行かれる可能性もある事は仕方ないとしても、アリスにはディーノに誘われて行かないという選択肢はない。

 フンスと鼻息を荒くしたアリスは置いて行かれまいと立ち上がり、受付カウンターを見て首を傾げた。


「あれ?エルヴェーラは?」


 この日受付カウンターにいるのは他の職員であり、エルヴェーラの姿はない。


「なんかエドモンドさんから貴族の知り合いを紹介してもらってるらしいな。貴族と繋がり持つなんてそうある機会でもないだろうし、エルヴェーラにとってはチャンスなんだろうな」


 一般人であるエルヴェーラが貴族と繋がりを持つ事ができれば、今後受付嬢ではない立場になった場合に様々な職を紹介してもらえる事にも繋がるだろう。

 ギルドで優秀な受付嬢として知られれば、エルヴェーラの将来に大きな影響を及ぼす事になる。


「エルヴェーラだと……見初められて婚姻を申し込まれたりするんじゃない?」


「まあ可能性は高いけど……そうなると少し困るな。無茶な頼みを聞いてもらえなくなる」


 エルヴェーラはディーノの要望にしっかりと応えてくれる優秀な受付嬢であり、ギルド長に怒られる事がわかっていてもディーノが求めるクエストで達成できると判断したものは紹介してくれるのだ。


「んん、むしろエルヴェーラの幸せの為にも婚約してくるといいわ!頑張れ私の知らない男性貴族!」


 見知らぬ貴族を応援するアリスは恋敵がいなくなると思えば望むところである。

 ディーノはエルヴェーラの婚約の可能性も否定できない事から今後のクエストについてむぅんと考え込むが、いつも賑やかなエルヴェーラがいなくなると思えばまた少し寂し気もしなくもない。

 エルヴェーラに好意を寄せる冒険者達はディーノ以上に寂しさを覚える事になるだろう。


「ま、エルヴェーラ次第だけどな。それより早いとこ出発するか。ジャダルラックまでは馬車で五日以上は掛かるしな。出発が遅れて一晩ずれ込むだけでも被害が広がる可能性もあるんだ。出発は早い方がいい」


「それもそうね。食材を買ったら出発しましょう」


 ディーノとアリスはこの日いた受付嬢に挨拶だけ済ませてギルドを後にした。

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