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追放シーフの成り上がり  作者: 白銀 六花
50/257

50 アローゼドラゴン

「あっぶね〜」と空洞内の高い位置へと飛び上がって岩壁に掴まるディーノ。

 ギフトにより俊敏と器用、魔力が半減した状態での奇襲を受けてはディーノとしても冷や汗が出る思いだ。

 視界のない中でも岩壁へと掴まる事ができたのは、風の防壁による衝撃の緩和から壁の位置を把握できた為である。

 アローゼドラゴンの咆哮が空洞内に響き渡り、入り口に落としてきた松明へと目を向けるとアリスの炎槍が放たれ、戦闘が今にも始まりそうだ。

 光源を確保しようと一つ目のサリュームを壁に叩きつけ、岩の窪みへと挟み込む。

 ある程度の明るさを確保できれば空洞の広さも把握できる。

 ところどころ歪な形ではあるものの円形に近い空洞であり、広さは直径で百歩以上もあるだろうか。

 ディーノは最初の場所から四方へと移動しながらサリュームを配置していき、天井には二つ設置する事で充分な明るさを確保した。

 あとはドラゴンと三人の戦いを見守る為、助けに向かいやすい位置へと移動する。




 ドラゴンの様子を伺っていたアリスも、空洞内が明るく照らされ始めた事でディーノの無事を知り安心する。


「ロザリア、大丈夫?ルチアは?」


「なんとか」「怖いけど、大丈夫」と言う二人は少し青ざめた表情をしているが戦意は失っていないようだ。

 警戒しながら前へと歩き出したアリスとそれに続くロザリアとルチア。

 前衛がいないパーティーではあるものの、強化されたアリスの風の防壁があれば前衛としても戦える。

『グルル……』と身構えたドラゴンとバーンを前方に構えたアリス。

 ロザリアが左へ、ルチアが右へと立ち位置を変え、アリスはドラゴンへと向かって駆け出した。

 ドラゴンも迷う事なくアリスへと向かって駆け出し、その距離が一瞬で詰まるとドラゴンの右爪が振り下ろされ、少し右へと方向を変えたアリスは軽く跳躍。

 右爪が防壁を撫でると弾かれるようにして右前方へと浮かび上がるアリスは、バーンを突き出して炎槍を放出する。

 顔面目掛けて放たれた炎槍に首を傾ける事で回避するドラゴンだが、長く伸びた炎槍は首の付け根を焼き焦す。

『ゴアァァァ!』という悲鳴と共にドラゴンは左前足を振り上げ、アリスは後方へと弾き飛ばされるも防壁によりダメージはない。

 そこへロザリアが距離を詰めて首を狙った斬撃を向けるも回避され、同時にルチアからのペインを乗せた矢が放たれると右肩の付け根へと突き刺さる。

 ドラゴンの鱗が固い事もあってか浅く刺さったものの、ペインによる痛みの効果はそれ程なかったのか、『グルル』とアリスへと向かって怒りのままに突き進む。

 アリスが立ち上がり身構えると同時に駆け出すドラゴンと、立ち位置を変えようと移動するルチアとロザリア。


「ありがと。追撃されずに済んだわ」


「こ、怖っ!よくあれに向かって行けるな」


「ロザリアも行けたじゃん」


「一瞬気を引くだけならな」と言うロザリアは緊張が解けずにすでに汗が流れ落ちる程に消耗している。

 向かってくるドラゴンをただ迎え討つのではアリスにとっても分が悪く、気を引き締めて再びドラゴンへと向かって駆け出した。

 今度は左の爪が下方から振り上げられ、それをドラゴンに背を向ける形で伏せたアリスは穂先を地面へと向けて薙ぎを受け流し、そのまま体を回転するようにしてバーンを振り回すとドラゴンに炎槍を放とうと穂先を突き付ける。

 しかしこの攻めに回った事で隙を生んでしまったアリスは後悔する事になる。

 アローゼドラゴンもスキルを持っており、その能力は氷のブレス。

 フロストと呼ばれる氷属性スキルであり、氷の散弾や氷の槍として放つ事ができるのだ。

 そして今ドラゴンから放たれたのは氷の散弾であり、拳程の大きさもある大量の氷の(つぶて)を受けたアリスは、風の防壁による減衰はあったとしても全てを防ぐ事はできない。

 咄嗟に右腕でガードしたものの、数発の礫を受けて地面を転がるアリスのダメージは大きい。

 新しい装備の耐刃性や耐魔法性のおかげもあって深い傷を負う事はなかったものの、氷の塊を受けた事により右腕に力が入らない。

 追い討ちをかけようと右腕を振り上げるドラゴンに再びルチアが矢を射ると、ペインスキルの効果が高かったのか仰反るようにして後方へと下がる。

 ロザリアは前に出る事はせずにアリスを退避させようと手を貸していたところだが、ペインが効いた事でドラゴンとの距離を保つ事ができた為この場で処置をする。

「大丈夫か!?」と右腕を押さえたアリスに回復薬を掛け、もう一つの回復薬を飲ませてアリスの復帰を待つ。

 それまでにドラゴンが攻めてくればロザリアとルチアの二人で挑まなければならないが、ペインが効いている間は痛みに苦しんでいる為大丈夫なはずだ。


 しかしアリスの回復よりも先にドラゴンがペインから回復し、怒りの咆哮をあげてルチアに向かって駆け出した。

 ルチアは左後方へと駆け出すも、ここは広いとはいえ閉ざされた洞窟内であり逃げ場はない。

 ロザリアもアリスに向かわないのならばとルチアを追い、時間稼ぎにドラゴンの足元を駆け抜ける。

 ロザリアに向けて振われた右前足は空振りに終わり、ルチアもある程度距離を保てた事から振り返って弓を番えてドラゴンへと向ける。

 狙いを定めて矢を放ち、ロザリアを追おうとするドラゴンを足止めする。

 距離があったせいかペイン効果が薄く、それでも痛みが強く走る事を不快に思ったドラゴンはルチアへと狙いを定めて前進する。

 ロザリアが引きつけようと前方に出るもそれを無視して突き進む事から、ロザリアを脅威としては見ていないのだろう。

 ドラゴンが矢で倒される事はないとしても、この痛みを与えてくる者を先に倒すべきだと襲い掛かる。


 そして自分を無視するドラゴンを隙があるように見えてしまったのだろう。

 ロザリアは後方から駆け寄って飛び掛かり、首を狙った斬撃を振るう。

 しかしその接近に気付いていたドラゴンはそれを回避し、着地点を予測してその場へと飛び掛かる。

 左前足を振り下ろしたドラゴンの爪がロザリアを捉え、地面に叩きつけようとした瞬間。

 ある程度回復を終えたアリスの炎槍がドラゴンの左前足を貫いた。

 まだ痛みからか右腕がまともに上がらない状態のアリスだが、左手のみで握りしめたバーンでドラゴンに挑む。


 アリスの炎槍によりドラゴンからの直撃を免れる事はできたものの、爪を掠めてしまったロザリアは左の脇腹に深い傷を負い、ドラゴンがアリスへと向かった事でルチアはロザリアの元へと駆け付けて回復薬を掛けてやる。

 ロザリアも痛みに耐えながらも自分の持つ回復薬を飲み、ルチアにアリスの援護に向かうよう指示を出す。

 今この時にディーノが手を貸してくれればと思いつつも、頭上の光源付近で待機しているディーノの姿はルチアからは見えない。

 ロザリアをすぐそばにあった岩にもたれさせてアリスの援護へと向かうルチア。


 右前足を貫かれた事でうまく歩く事ができなくなったドラゴンは唸り声を上げ、三本の足でアリスへと近付いて行く。

 アリスは槍を短く持って柄の後方を左脇に抱え、右前方に歩き出して自分の右側に回り込まれないよう立ち位置を変える。

 その間にルチアはドラゴンの左後方側へと回り込み、互いが接敵するポイントを狙って弓矢を番えてその時を待つ。


 ドラゴンの攻撃範囲内、そしてアリスの炎槍の先端が届くであろう距離まで接近すると、二本足で立ち上がったドラゴンは氷のブレスを吐き出そうと首を後方へと傾ける。

 そこにルチアの矢がドラゴンの目に向けて放たれ、咄嗟に目を閉じたドラゴンだが突き刺さった瞬間に走る痛みにブレスの方向を逸らしてしまう。

 アリスの左方向へと放たれた氷の散弾が地面を穿ち、それを好機とばかりにアリスが一歩踏み込むと、振り上げた右前足の爪を振り下ろすドラゴン。

 しかしここでアリスが狙っていたのは一撃で仕留める事ではなくドラゴンの攻撃力を奪う事。

 振り下ろされる瞬間に右前足の付け根、肩へと炎槍を放出する。

 動きがあった為か肩を外してしまったのだが、炎槍によって貫かれた右腕はその振り下ろす速度も乗った事から引きちぎれ、アリスの後方へと飛んでいく。

 絶叫するドラゴンは後方へと倒れ込み、尾を振り回す事によってアリスを近付けまいと暴れ回るが、この戦いの決着はついたと思っていいだろう。




 しばらく暴れ回るドラゴンを放置していたのだが、死を覚悟したのか大人しくなったところでアリスは頭を炎槍で貫いた。

 三人掛かりであったとはいえ、AA級のモンスターを討伐できた事はアリス、ロザリア、ルチアにとってこれまでにない大きな経験として今後に活かされていく事だろう。

 成り損ないとはいえ竜種と呼ばれるモンスターであり、強さとしてはAA級の中でも上位に位置する存在だ。

 この命がけの戦いに生き延びた事、討伐できた経験は何物にも変えられない最大の報酬と言っても過言ではない。

 強くなりたい者にとっては、ギルドの報酬などそのオマケのようなものだとディーノは考える。


 討伐を終えると膝から崩れ落ちたアリス。

 痛みに耐えながらも立ち上がり、アリスへと向かって歩き出すロザリア。

 ルチアも緊張が解けた事で意識が遠退きそうになりつつもアリスの元へと向かって歩き出す。


「ルチア。助かったわ……ありがとう。ロザリアは大丈夫?ふふっ。私達ボロボロね」


 ドラゴンを倒したアリスは座り込んだままルチア、ロザリアへと視線を向けて笑顔を見せる。


「笑い事じゃっ……いってぇ〜。まったく、笑い事じゃないだろ」


 ロザリアは腹部を押さえて痛みに耐えながらも笑顔をアリスに返す。


「なんとか勝てたね〜。ほんと……死ぬ、かと、思ったよぉぉぉ。うあぁぁぁぁん」


 そして怪我を負う事はなかったものの、ルチアは全員の無事を確認できた事で泣き出してしまった。

 ロザリアはルチアを抱きしめて慰めてやるが、死を覚悟する程の危機に陥った事からか足に力が入らなくなりその場に二人で座り込んだ。

 アリスも一度膝から崩れてしまっている事から立ち上がる事ができず、今はこのまま少し休んでいたい。


 そこへ空洞内の天井からフワリと飛び降りてきたディーノ。


「お疲れ様。なかなかいい戦いだったな。ほら、これ飲んどけ」


 ディーノはアリスに上級回復薬を投げ渡し、体力よりも怪我の回復を優先すべきだろうと飲む事をすすめる。

 アリスには裂傷がない事から骨折を疑った為でもあり、外傷でない場合は飲んだ方が効果は高い。

 そしてロザリアにも上級回復薬を傷口に掛けてやると、ディーノが使用したのが上級回復薬とは思っていなかったようで、目に見えて傷が癒えていく事に驚いていた。

 本来であれば金貨二枚ともなる上級回復薬をこうも簡単に使う者はいないのだが、ディーノとしては深い傷を負った場合であれば金額がどうのと言わずに使用すべきと考える。

 CC級以下のクエストに行く者にとっては報酬がほとんどなくなってしまう為、使用を躊躇うのも当然ではあるのだが。

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