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追放シーフの成り上がり  作者: 白銀 六花
246/257

246 緑竜討伐報告

 オリオンのフレイリア領緑竜討伐から五日。

 ラフロイグギルドでの討伐報告から国王まで話が届いたのか、王宮に来るようお達しがあったわけだが。

 すでに水竜討伐によって竜殺しの勲章はもらっているし、色相竜を討伐したとしても何かしらの褒章を得られるわけではない。

 ただフレイリア元伯爵の娘として産まれたアリスが領地を取り戻したとなればまた話は変わってくるのか。

 それとも何かしらの仕事の斡旋でもあるのかはわからないが、国王からの呼び出しとなれば行くしかない。


「てなわけでよ。お前らは王宮に行ってくれ。あとディーノも来るように書いてあるな」


 ギルド長であるヴァレリオに届いた書簡に書いてあるらしい。


「お、オレも?」


 なぜだろう、嫌な予感しかしない。

 いやしかし、もしかしたら巨鳥の捕獲を急げという催促の可能性もなくはない……

 絶対違うだろう、催促するなら書簡に最初から書いてありそうなものだ。

 もう諦めるしかないのか。

 覚悟を決める時がきてしまったのか。


「ディーノも必ず来るようにって、ほら、見てみろ」


 うん、確かに書いてある。

 重要な知らせがあるとも書いてある。

 終わった。


「国王様はオレをどうしたいんだ……」


「今代のギフト発現者には日の目を見せたいんじゃねーか?先代のゼイラムの史実を公にしたいのかもしれねーし」


「それならゼイラムの歴史を広めたらいいのに。オレもギフトを持つ冒険者としてその歴史が真実だったって証明すればいいんだしさ」


 竜害から千年も経っているならゼイラムが望まなかった真実の歴史を語ったところで問題はないだろう。

 その歴史をなぞるようにディーノは冒険者として活躍し、ギフト発現者と竜害を結びつけることで、ただのバッファーとしてしか知られていないゼイラムが本物の英雄として知らしめることができる。

 国王が真実の歴史を公にしたいのであればそれだけで充分なはずなのだ。


「ま、国王様の命令なら従うしかねーんだ。お前を悪いようにはしねーだろうし気楽に行ってこい」


 他人事だからそんなことが言えるのだ。

 自分から言い出した手前やるしかないが、演劇について右も左もわからないようなディーノが劇団を任されたところで何ができようか。

 台本作るといっても本もそれほど読まないし、演技指導をするにもそんな技は持ち合わせていない。

 そもそも演劇のことを何も知らないのにできるばずがない。

 おかげでここ最近では食事もあまり喉を通らないような状態だ。

 まあ、酒は飲めるが。

 ヤケ酒だが。

 だが行くしかないなら行くしかない。

 行けなくないけど行きたくない。

 行きたくないけど行かないといけない。

 だめだ、よくわからなくなってきたけど来いって言うなら行くしかない。




 ◇




 この日の王宮は随分と人が多い。

 国王他、国のお偉方がいるのはいつものことだが、何やらディーノを不安にさせるような見目の良い若者が多い気がする。

 今すぐに帰りたい。


「さて、此度、元フレイリア領に巣食っていた色相竜を見事討伐したオリオンよ。よくやった。名実ともに英雄パーティーとして相応しいその成果に我らバランタイン聖王国は敬意を払いたい」


「もったいなきお言葉です」


 合同パーティーオリオンのリーダーであるマリオが国王に応える。

 リーダーとはいえパーティーの活動は全員で話し合って決めることから、代表としての役割でしかないのだが。


「まあ、先日の聖銀との戦いも見ておる故、オリオンの勝利を疑ってはおらんのだがな。其方らから戦話を聞いても良いのだが……ディーノよ、第三者の視点から色相竜戦の話を聞かせてくれるか」


「はい。え?私がですか?」


 何故ここでディーノに話が振られるのかわからない。

 色相竜戦を語るなら直接戦った本人達の方が内容の濃い話ができるだろうに。


「うむ。其方の話は実におもしろい」


 うーん。

 どうやらディーノの語る冒険譚を随分とお気に召したらしい。

 ラフロイグ伯爵家からも評判は良かったが、まさか国王までもが気に入るとは思わなかったが。


 国王が所望するなら仕方ないと、ディーノの緑竜に対する考察とオリオンの反省会での話の内容も交えて、思考と行動と結果を物語風にして語ってみた。

 風の色相竜、緑竜の災厄とも思える凄まじさや立ち向かうオリオンの心構え、力強さに吹き抜けるような躍動感。

 傷付き痛みに震えながらも立ち上がる勇気と自然災害に匹敵する風魔法への緊迫感。

 ディーノの想定する緑竜の思考と視線運びに行動と状態、それに対するオリオンメンバーの動きにもその時々の重要性に差をつけつつ抑揚も持たせ、身振り手振りを加えて聞き手を惹きつけるよう熱く語る。

 時に笑いを交えつつも、心揺さぶる物語として語られた色相竜戦に謁見の間は拍手喝采で盛り上がった。


 なんだこれ。


「いやはや素晴らしい。オリオンの活躍も充分に伝わってきたし、まるで緑竜がそこにいるかのような話であったわ」


 それはさすがに言い過ぎだろう。

 まあ褒められて嬉しくないわけでもないが。


「ご静聴ありがとうございます。以上で話は終わりです」


 ディーノはそこそこ語ったつもりである。

 おそらくは緑竜戦の時間よりも少し長かったくらいではなかろうか。

 語った内容全てが真実ではないかもしれないが、ディーノの認識ではオリオンの緑竜戦はこんなものだろう。


「やはり劇団をやりたいと言うだけはある」


 言ってないが!?

 なにか捻じ曲がって伝わってないか!?

 娯楽を広めて欲しいだけなのに!!


「やりたいのではなく観たいのですが……」


 なにをどう間違えれば劇団をやりたいになるのか。

 無駄とは知りつつも抵抗してみる。


「ふふ、其方の劇団なのだ。いくらでも観られるではないか。まずは紹介しよう。座長としてローレンツ=フレイリア」


「「は?」」


 フレイリア?

 アリスが口を開けて前に出てきた人物に視線を向けている。


「お父様!?」


「やあアリス。久しぶりだねぇ」


 お父様!?

 なんでここにアリスの父が?

 しかも座長!?


「親子の対面は後でな。ローレンツよ。団長のディーノを見てどう思う」


「驚くほどの洞察力と想像力、それに加えて人心掌握術にも長けた人物かと。彼が団長として劇団に立つのであれば必ずや成功できるものと思われます」


 団長がディーノで座長にローレンツ?

 どちらも同じ意味のような気もするが……


「ふむ。ではローレンツには劇団の話は済んでおるのでな。ディーノと打ち合わせでもして今後の方針を決めると良い。団員もローレンツが市井から探しておるようだしな。ここにおる者達には舞踏や楽器の指導を任せることになる。其方の話をこの目で楽しめる日を心待ちにしておるぞ」


 ん゛ん゛……

 んん……

 ん?

 ディーノの話を目で楽しめる?

 はて?

 あっ、なるほど!!

 監督やら演者ではなく話を作れと言うことか!

 でも脚本書くのだってやったことはないし文章を……

 いや、ただ思ってることをそのまま書いてローレンツと話し合いながら添削すればいいだけか。


「ローレンツさん、演劇に関してまったくのど素人ですがよろしくお願いします」


「こちらこそアリス共々よろしくお願いしますね。精一杯の努力は致しますので」


 何故額に汗が?

 それに目が真剣(マジ)だ。

 なんとなく不安になるんだが。


「では劇団の話も済んだことだしオリオンに次の仕事の依頼をしようか」


「なんなりと」


 なんだろう、また色相竜討伐だろうか。

 そんなに噂は聞こえてこないが国が把握している個体は意外にも多いのか。


「ここから北西にある小国、ペルエル、ヴァイツェ、ケルシャルト、エルスタウトの四国による合同会議に大国である我が国も参加する。巨鳥で行くだけなら良いのだが護衛が必要でな。そこに其方らに行ってもらいたい」


 全然違った。

 確かその一帯は小国が多くてあまり仲が良くないとかも噂では聞いている。

 国王が挙げた以外にもピルナス、ラガレス、メルェンツ、ボッケルデュンの計八国の小国が連なっていたはずだ。

 南にはバランタイン聖王国、東にはトリチナ戦王国、西にはアークアビット拳王国といった大国に囲まれた小国群となれば、ある程度は仲良くしておいた方が良さそうな気もするが。

 国民の持つスキル特性によって、異種スキルを嫌うのが原因かもしれない。

 バランタイン聖王国は大国であるが故に多種多様なスキルが存在し、あまり他人のスキルに対する忌避感は持ち合わせていないのだ。


「御意」


 マリオも御意なんて言葉を知ってるのか。

 なんとなくバカだなーとディーノは思っているのだが、一応はそこそこの教育を受けてきたマリオはディーノよりは賢かったりする。


 オリオンは次の任務で小国への護衛に。

 ディーノはローレンツと共に劇団の活動について話し合いを。

 またそれぞれ活動に違いが出てしまうのだが、黒夜叉としての活動ができないディーノはリーダーとしてどうなのか。

 いや、それより劇団を任されている時点で冒険者としてどうなのか、とも思わなくもない。

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