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追放シーフの成り上がり  作者: 白銀 六花
245/257

245 決死の覚悟

 ひとしきり転げ苦しんだ緑竜も落ち着きを取り戻し、痛む右前足をついて起き上がったところでオリオンとの最後の戦いに臨む。

 オリオンは全身に骨折を負ったジェラルドをレナータに任せ、アリスを先頭に緑竜に向かって駆け出した。


 スキル待機時間を終えるまであとわずかとなり、魔法スキル無しで人間相手にどれだけ耐えられるのかを考える緑竜。

 警戒する緑竜の目に映るのは前方から向かって来るアリスとマリオ、そして回り込むようにして駆けていくソーニャの三人。

 踏み付けによってジェラルドは戦闘の続行は不可能となり、回復職のレナータも身動きがとれないと予想する。

 しかし厄介なもう一人の姿が見当たらない。

 最も警戒すべきは隠れ潜むフィオレだろうと思考を巡らせる。

 アリスとマリオ、ソーニャはすでにスキル待機時間を終えていつでも発動することが可能なはずだが、攻撃に特化したアリスとマリオのスキルであれば緑竜も魔法が無くとも対処が可能だ。

 ソーニャに関しては急所を狙ってくることが緑竜にとって苛立たしくもあるところだが、攻撃力に乏しい素早さ特化となれば隙を突かれない限りはどうとでもなる。


 対するオリオンも緑竜のスキル待機時間をカウントしており、あのまま転げ回られては攻撃することもできなかったが、思いの外早く立ち上がったことは好機と捉えるべきだろう。

 フィオレはすでにステルスを発動して姿を眩ませており、まだインパクトを使用するまでは時間が掛かるものの、緑竜が空へ羽ばたくところを狙って射ち落すつもりで身を潜めている。


 前足のダメージから二足で立つ緑竜は向かってくる人間に視線を落としつつ、姿を消して狙ってくるフィオレを叩き潰そうと意識を周囲に向ける。

 しかし足元にたどり着いた人間を放っておくわけにもいかず、尾による薙ぎ払いを振り向けるがアリスもマリオも一度見た攻撃をそう簡単に食らうほど容易くはない。

 これを跳躍と防壁であっさりと飛び越えるアリスと伏せることで回避するマリオ。

 尾に衝撃がないことから反撃を警戒して後方に飛び退く緑竜。

 そのまま翼を羽ばたかせることで浮揚するも、フィオレからの矢が射られることはない。

 しかし緑竜は意識をフィオレに向けすぎたことでアリスへの警戒を怠り、更に深い傷を負うことになる。

 これまで受けた傷の痛みが原因となり強い刺激でなくては触覚も働かず、尾による薙ぎ払いの後に姿を消したアリスがどこにいったのかはわからない。

 何より見えているものではなく姿を消して潜むフィオレを探していたのが判断を鈍らせた。

 翼の付け根、竜種の急所となる位置に突き込まれた魔鉄槍バーン。

 アリスの全出力となる炎槍が放たれ、血が沸騰するほどの熱量が緑竜の体内を突き抜ける。

 羽ばたかせていた翼が動きを止めると緑竜は地面へと落下し、後足を着くも前足で支えることができず、膝から崩れ落ちて頭を激しく打ち付けた。

 口からは大量の血が流れ出て、翼は動かすこともできなくなったのか広げられたまま横たわる。


 手負いの色相竜と身構えていただけに、なんとも拍子抜けな最後だなと気を抜くと同時に……

 死を覚悟した緑竜はスキル待機時間を終えて最後の抵抗をみせる。

 アリスを背に乗せたまま発動したのは自身をも包囲する風球。

 次第に増えていく風球はすでに数え切れないほどとなり、最後の最後にアリスを巻き込んでの自爆による死を選択した。

 さすがにアリスといえども降り注ぐ風球は回避できても、包囲された状態から向かって来られれば防ぎようがない。

 最初に錬成された風球から順にアリスへと向かって飛んでくる。

 降り注ぐ風球の雨とは違い、魔法として飛ばされてくる風球は速度こそ大したことはないが逃げ場がない。

 せめて背後を任せられれば正面だけなら決死の覚悟で耐えてみせるのに。

 高確率で命を落とすこの状況で、パーティーを壊滅の危機に晒すわけにはいかない。


 しかしそんな命の危機にあろうと当たり前のように飛び込んでくるバカがいる。

 次々と錬成されていく風球にも構わず緑竜の上に乗り込んできたマリオはアリスに背を向けて黄竜剣を構える。


「マリオ本気?下手すると死ぬわよ?」


「死なせねーために来たんだろうが。こっちは俺に任せろ」


 そんなマリオの後ろ姿に安心感を覚えたあたりは、アリスも随分と信頼を置いたものだと自分でも少し驚く。

 アリスが絶対的信頼を置くディーノが信じるマリオであれば当然かとバーンを構えて風球に備える。

 マリオの正面側、少し離れた位置で待機するのはソーニャだ。

 この風球が襲いくる中でダガーを構えてタイミングを見計らう姿は、エアレイドで風球を爆破させながら突き抜けようとでも考えているのかもしれない。


 互いに背中を任せて風球を弾き飛ばしていくマリオとアリス。

 向かって来る風球の数は徐々に増え始め、マリオはストリームスラッシュで切り抜けようとスキルに意識を向ける。

 ソーニャもそろそろアリスの槍捌きが追い付かなくなるだろうと、エアレイドの助走をつけるために駆け出した。


 一瞬の油断もできないほどに迫り来る風球は弾かれた先で爆破し続け、緑竜の翼や背中をズタズタにしながらまだ尚も向かって来る。

 息があがり呼吸も追い付かないどころか爆破による風圧が更に二人を苦しめる。

 振るい続けた剣と槍捌きにも鋭さが衰え、もうさすがに限界か、アリスが膝から崩れ落ちる。


「ソーニャ!!」


 マリオのかけ声にエアレイドを発動したソーニャは緑竜の背に向かって跳躍。

 マリオも最後の賭けにととっておいたストリームスラッシュを発動しようと「いくぜ!」と意気込んだ瞬間。


「ほげぇっ!?」


「ぶぎゃっ!!」


 緑竜の真下からズドン!という重い衝撃音と共にその巨体が打ち上がり、迫っていた風球を丸ごと爆破させて地面へと落ちる。

 マリオはストリームスラッシュ発動の踏み込みと同時に突き上がるような衝撃によって膝が抜け、緑竜に向かって跳躍したソーニャは打ち上がったその巨体にぶち当たる。

 緑竜が打ち上げられた原因といえばもちろんフィオレのインパクトだが、決死の覚悟で挑んだマリオとソーニャの意気込みをどうしてくれるのか。

 アリスは呼吸が続かずに意識を失いかけるも、この衝撃により強制的に息を吸い込むことができたのか咳き込んでいる。

 緑竜の真下を駆け抜けたフィオレは翼の下から出てきて這い上がってくる。


「みんな無事?」


「おかげさまでな!!」


 マリオの言葉にはやや怒りが読み取れたが全員無事ならいいだろう。


「無事じゃなーい!鼻がぁぁあ!!」


 緑竜の下の方からソーニャの叫び声が聞こえるが元気そうなので大丈夫だろう。


「フィオレ、助かったわ」


 意識を失いかけたアリスだけは安堵の声だったことに一安心。

 何か自分の行動の問題があったのかもしれないが緑竜を倒したことに変わりはない。


「やったね!僕達の勝ちだよ!」


「ん、んん。いろいろ言いたいことはあるけど、やったな!俺達の勝ちだ!っつか俺何もしてねぇ!!」


 マリオはオリオンの火力担当であるにも関わらず、今回の緑竜戦では活躍できていない。


「そんなことないわ。マリオがいなかったら私は死んでたかもしれないもの」


 とは言ってみたものの、最悪の場合はディーノが割って入った可能性が高い。

 その瞬間に緑竜戦は敗北となり、アリスは自らの手でフレイリア家の雪辱を果たせない結果となる。

 ギリギリまで勝利を信じてくれたディーノにも感謝しなければならないだろう。


 緑竜の上に座り込み、回復薬を飲んで疲れた体を癒す。

 鼻から大量の血を流したソーニャも緑竜の上に上がって回復薬を飲み干した。




 オリオンの緑竜戦を見守っていたディーノとライナー、アークトゥルスのメンバーも、無事勝利できたことに胸を撫で下ろす。

 ところどころに真面目にやってるのか怪しい部分もあったが、全員が自分にできることをやった結果の勝利であり、誰一人欠けることなく討伐できたとすれば称賛すべき戦いだったと言えよう。

 緑竜となれば竜種の中でも倒しにくい属性の代表格であり、ディーノがソロで戦うよりも短い時間で討伐に成功したオリオンは、英雄パーティーとしての第一歩を踏み出したと考えてもいいだろう。


 以前国王から聞いた戦士ゼイラムを思えば、ディーノの実力もまだまだ高みを求めなくてはならない。

 今代の英雄パーティーオリオンを遥かに凌ぐ強さを。

 四聖戦士をも優に上回る強さを手に入れなければ、ギフト発現者として不十分であるとディーノは考える。

 今はまだ実力的に四聖戦士のパウルにも劣る状況となればここからの成長は必須であり、色相竜を余裕を持って討伐できる強さを求めて努力しようと心に誓う。


「オレも国王様の命令とはいえ巨鳥の捕獲とか悠長なこと言ってられないな。今よりもっともっと強くならないと……」


「ははは。お前はそれ以上強くなる必要ねーだろ。俺達にもちったぁ近づかせろぃ」


「そうだそうだ。まずは劇団の方もしっかり管理してかねーとなぁ」


 あれ……

 おかしいな、頭が痛い。

 劇団の管理より色相竜の討伐の方が簡単そうに聞こえるのは何故だろう。

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