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追放シーフの成り上がり  作者: 白銀 六花
237/257

237 最終試合開始

 波乱の第二試合を終えて、上級回復薬で体を癒すアリスとフィオレ。

 二人は負けてしまったことに悔しさを覚えるも、かなりの接戦となったことで会場の歓声はアリスやフィオレに向けられるものが多い。

 最強のウィザードを奇襲することでほんのわずかな時間で排することに成功し、聖銀の中では地味な印象を受けるランドとはいえ、実力は最強パーティーに相応しい確かなもの。

 なによりアリスとフィオレはスキル攻撃を多用したにも関わらず、ランドは攻撃に使用したのは最後の一撃のみ。

 その実力は四聖戦士として誰もが認めることとなったはずだ。

 エンベルトは……不完全燃焼といったところだが。


「負けちゃったわね。悔しい」


「黒夜叉に負けは許されないのに……ごめんね、ディーノ。罰は受けるよ」


「うちにそんなルールはないけどな。ま、二人ともいい戦いだったと思う」


 フィオレはディーノをなんだと思っているのだろう。

 無慈悲な暗殺者と思っているだけでなく、最強に挑んでも負けるなとなれば、それ以上に危険な存在として考えている可能性もある。


「ディーノは勝ってね!信じてるから!」


「おう、任せろ」


 ディーノとて簡単に勝てるつもりはないが負けるつもりは一切ない。

 パウルは素のステータスでは素早さで勝るとしても、ディーノには差を補えるギフトもある。

 気掛かりがあるとすればエアレイドの加速がどれほどのものかというところだが、魔力値で勝る分爆破の加速で対抗するのみ。

 条件だけで考えればディーノが優位なはずだ。




 最終試合のためか少し観客の休憩時間を設けたらしく多少待つことにはなったが、クラリスが闘技場にあがったことで注目が集まる。


『第二試合は予想を裏切る展開もありましたが、聖銀、黒夜叉ともに素晴らしい戦いを見せてくれました!』


 第一試合後と同じく歓声と拍手が巻き起こり、アリス結婚してくれ、フィオレ様かっこいいなどと戦いには関係のない声が多く聞こえてくる。


『それでは本日最後の第三試合!選手入場お願いします!』


 闘技場へと歩みを進めるディーノにドルドレイク家から拡声魔具で『頑張れディーノ!』との声が掛けられる。

 わざわざ用意したのかと驚いたが、他の貴族にディーノとの関係を匂わせるために用意したのかもしれない。

 パウルも軽い足取りで闘技場にあがり、観客に手を振りながら余裕の表情を見せている。


『それでは選手を紹介します!さすがは聖銀のメンバー、聖王国最速のシーフでありながら、攻撃力不足を理由にシーフセイバーに転向!目にも留まらぬ速さから繰り出される斬撃は竜種の首をも切り落とす!四聖戦士パウル=レクスト!』


 魔鋼製の属性剣を持っていることからウィザードとしても登録したのかと思ったが、やはり魔力値の低さからシーフセイバーのままにしているようだ。

 観客席からの歓声を聞くに、シーフということで多くのモンスター討伐にも活躍していることから人気も凄まじい。


『そして今最も熱い選手!冒険者にソロで再登録してからは依頼達成率100%の至高の戦士!ウィザードシーフセイバーというジョブで登録しながらもその評価値は聖王国トップクラス!速度特化の魔法剣士ディーノ=エイシス!』


 そういえばまだドルドレイク姓で登録していなかったなと思い返すディーノ。

 後で登録し直そうなどと本人は考えている中、観客席からあがる歓声はこれまでで一番のもの。

 これまで冒険者が言うただの依頼達成率100%ではなく、困窮する地域のために条件問わず全てを完遂し続けてきたのだ。

 聖王国内での人気だけでなく評価としての歓声が多いのではないだろうか。


 これまでの試合同様二人のステータスとオッズが提示される。


 パウル=レクスト

 攻撃:2834

 俊敏:3861


 オッズ:1.7倍


 ディーノ:エイシス

 攻撃:3258

 俊敏:3062

 魔力:3186


 オッズ:1.5


 ディーノ人気とステータスから考えればもう少しオッズも低くなりそうなものだが、やはり四聖戦士が相手となれば乗り越えてきた死線の数が違うだろうと僅差になったようだ。

 しかしディーノの魔力値が大きく上昇しているが、これは精霊契約したことによってディーノから引き出される魔力量が増えたためである。

 ディーノの想定していないところでのステータス上昇になっているのだ。

 攻撃力は双剣になったこともあって俊敏よりも少しだけ上昇幅が大きい。

 しかし以前のステータス測定から強敵と戦い続けたにも関わらず、伸び幅は微増となれば少し悩むところではある。

 だが値が大きくなるからこそ伸び幅が少なくなるのは当然であり、人としての限界を超えて強くなるとすれば相応の敵と戦い続けるしかない。

 技術や思考などはステータスとしては表記されないため、ディーノが思っている以上には強くなっているのだが。


『お二人の意気込みも聞いていきましょう!まずはパウル選手から!』


『お前死ぬなよ?簡単に首飛ぶからな?』


 なにやら意気込みよりも心配された。

 あ、魔鋼製武器の斬れ味がいいからか。

 確かにパウルの速度から繰り出される斬撃なら人間の首は一瞬で飛ぶだろう。


『パウル選手からはディーノ選手の心配をしてみせる余裕があるようです!ではディーノさん!』


 たぶん違うな。


『鞘固定してやり合えばいい。他でも試合はそうしてた』


「なるほどな。剣速落ちるけど条件は一緒だしいいか」


 意気込みでもなんでもないただの会話である。

 すでに鞘を双剣に固定したディーノと同じく、パウルも鞘を外して剣に固定する。

 ただこれには弊害があり、魔鋼製の鞘であれば腰に固定できないと魔力の引き出しが停止してしまう。

 意識的に魔力の引き出しを行い、体内魔力を空にしないようにして戦う必要があるため少し面倒ではある。


 クラリスが困った顔をしているのでもう一言。


『オレに負けは必要ないから勝たせてもらう』


 自分の力に気付いてから唯一負けた相手がクレートだ。

 敗北を知って強くなるというのもよくわかるが、負ける経験は一度でいい。

 同系統の戦いをする相手には絶対に負けられない。


『はい!お互い死ぬつもりで頑張りましょう!最終試合開始となります!』


 うん、殺しは禁止。

 司会がルール忘れてどうするんだ。

 クラリスが去りヴァレリオが審判として前に出る。


「観客がお前らの戦いまともに観れんのか?早過ぎて目で追えねーだろ。まあいいか。殺しは禁止ってこと忘れずに、試合〜はじめ!」


 開始の合図と同時にディーノは爆破加速、パウルは持ち前の素早さで急接近。

 互いに右の斬撃を打ち付け合い、その勢いに左右前方へと弾かれる。

 速度に乗ったままタイミングを見計らいながら何度か斬撃を振るい合い、速度で勝るパウルに攻撃力では上回るディーノが若干押され気味となる。

 この速度では斬撃一つ振るうたびに距離が開いてしまうため、左右双剣であるメリットはなく、ステータス上は攻撃力で上回ったとしても実戦では大きな差はない。

 それならばとライトニングによって身体能力向上させて速度差を埋める。

 速度差が埋まり攻撃力も増したことでパウルと同等の戦いができると考えたのだが、それでもパウルが優勢なのに変わりはない。

 理由はパウルの戦闘技術がディーノよりも高く、ディーノが器用さで対処している部分を全て技術で埋めている。

 速度特化の場合ステータスの変化はその技術を大きく乱してしまうことから、器用さが必須となるため全ステータスが高水準なディーノは気付いていない。

 身体能力向上はステータスに偏りが出てしまうことで技術面が粗くなってしまうのだ。

 それならギフトならと考えた場合でも、全ステータスが五割増しとなればステータスにばらつきがあるとその分ステータス差が大きくなる。

 身体能力向上ほどではないが戦闘技術に粗さが出てしまうことには違いない。

 身体能力向上もギフトもメリットがあればデメリットもあるということだ。


 このままでは押し切られるだろうと防壁を足元に展開して三次元多角的な戦闘へと切り替えると、同じようにパウルまでもが多角戦闘へと対応してきた。

 魔力値の低さからディーノほどの強度は出せないとしても、体の使い方が上手いパウルはディーノの戦闘法にも遜色ない動きが可能だ。

 また、ディーノが全身から防壁を展開しているとしても魔鋼製武器の能力もあって相殺され続けている。

 身体能力向上では対処しきれないディーノは早くもスキルであるギフトを発動し、制御がさらに難しくなると身体能力向上を解除。

 これでようやくパウルと同等の戦いができるようになった。

 もしここで身体能力向上も加えたままでは行動範囲が膨らむため、パウル側の対処が容易になってしまうだろう。

 ディーノとしても想定外なパウルの戦闘技術には驚かされる。




 ここで観客席から見える二人の戦いは異次元なものとして映っていた。

 ただ素早さのある二人の戦いは目にも留まらぬ動きで剣戟をぶつけ合うだけでなく、空中すらも足場にして互いを討ち伏せようと、一定範囲内を縦横無尽に駆け回るのだ。

 接近しては一合斬り結んでは弾かれ、速度を殺さないよう数歩駆けると跳躍、再び斬り結ぶを繰り返す。

 開始からまだほんのわずかな時間しか経過していないにも関わらず、すでに三桁に届く斬撃を繰り出し合っているのだ。

 ディーノは双剣で左右の斬撃を振るうことで対処しているものの、パウルはこれを一振りの剣で対抗しているのだからその技術は凄まじい。

 立ち止まっての斬撃の応酬であれば双剣に分があるとしても、やはり速度が出ていては左右持ち手を切り替えることも可能ではあるのだが、その難易度は双剣に比べるとはるかに高い。

 また、二人の戦いを見守る聖銀からも、ここしばらく停滞していたパウルの成長がこれほどまでとは思いもよらなかった。

 最近暇があるたび一人で訓練に出掛けては疲弊して帰って来ていたが、自身の戦闘技術に風魔法を組み込もうと試行錯誤していたのだろう。

 ステータスも攻撃力を爆発的に高めており、セイバーとしても覚醒したと判断できる。

 魔法を攻撃と補助に使用するディーノと、補助にのみ使用するパウルの戦いではあるが、まだ見せていないパウルのエアレイドはディーノの予想をはるかに超えてくるはずだ。

 この戦いは見ものだと二人の戦いに目を凝らす。

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