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追放シーフの成り上がり  作者: 白銀 六花
232/257

232 賭け事

 ジャーモニー領はやはり少し遠かったが、ラフロイグ領は王都との間にあるため夕方には到着することができた。

 行きはマルドゥクであるためものすごい速度で向かうことができたのだが、帰りにはマスティノフにアークトゥルスが乗ったため思いの外時間が掛かってしまった。

 理由としてはマルドゥクに比べれば小さなモンスターであることや、装具も取り付けずにアークトゥルスが乗るものだから、まともに速度を出すことが出来なかったのだ。

 マスティノフ単体で走れば王都からジャダルラックまででも七の時ほどでたどり着けるのではないだろうか。

 足も速く体力もあるし並みのモンスター相手でも負けることはない。

 餌も野生のボアやディアなども好んで食べるため、テイムするモンスターとしては悪くはないだろう。


 ラフロイグのいつもの広場へとたどり着いたマルドゥクとマスティノフ。

 街人達も初めて見るマスティノフに興味津々であり、こちらも洗わせて欲しいとの提案があったためお願いした。

 短毛なモンスターであるため抜け毛を素材として利用できないとは思うが、巨獣人気のこの街ではモンスターを綺麗にしてあげたいらしい。

 街にいる間は見せ物にもなっていることから、ラフロイグの収益にも繋がるとかなんとか。

 ついでに代金アークトゥルス持ちでマスティノフの装具も作ってもらえるよう職人さんに伝えてもらう。

 騎乗数は五人以上とだけ伝えておけば体に合わせた装具を用意してくれるだろう。


 しかし巨獣が三体ともなれば広場でもだいぶ手狭になってきた。

 もともとマルドゥクは大きめの一軒家並みの体を持つことから、一体だけでも相当な場所を取る。

 エンペラーホークは羽根を畳んだ状態でも尾羽が長いことからマルドゥクと長さ的にはそう変わらない。

 ここにエンペラーホークよりも一回り大きいフレースヴェルグが追加されれば、この広場もに休ませるのもそろそろ限界ではないだろうか。

 バランタイン聖王国内では数多くのテイマー派遣が進んでいることから、各領地に獣舎などの建設を考えてもらった方がいいかもしれない。

 ここラフロイグにも何人か派遣されていたこともあり……あれから見てないな、どこに行ったんだろう。

 ヘルゲンはもう少しマスティノフとの繋がりをしっかり持ちたいと、広場に残りたいと言うのですぐ近くにある宿をアークトゥルスにはとってもらう。

 ディーノとウルはオリオンが来るであろうギルドへと足を運んだ。




 ギルドに到着すると観光でもしているかと思っていたオリオンが、他の冒険者達と一緒に盛り上がっていた。

 ディーノとは違ってラフロイグの冒険者達とも良い関係を築いていたブレイブには驚かされる。

 以前はマリオとジェラルドの評判は地に落ちていたにも関わらず、持ち前の対人能力で仲良くなったのだろう。

 何気にすごい奴である。


「待たせたな。とりあえずアークトゥルスにもテイマー付けてもらって巨獣も捕まえて来た」


「早えよ。捕獲すんなら俺らと合流後かと思ってたのに」


 テイマーを付けてもらえるのも捕獲するのも普通ならそう簡単なものではない。

 国王に直接頼んだりディーノというモンスターの天敵とも言える者でなければ、たった一日で済ませられることではない。


「ちょっと想定外の予定が入ってな。パウルと一戦交えることになった」


 想定外はまた他国への使者団として旅に出ると思っていたのが、なぜか巨鳥の捕獲になったことも挙げられるが。


「は!?マジかよ!?聖銀のパウルとディーノの一戦!?賭けが成立すんじゃねーか!おいクラリス!今すぐに準備してくれ!」


「おいコラ。賭けるんじゃねーよ。クラリスも間に受けるな」


 ディーノが賭けるなとは言うものの、冒険者からすれば間近で見れる上位冒険者同士の戦いだ。

 これは一大イベントとして見学する必要があるとギルドが湧いた。

 ディーノとしてもパウルとしても迷惑な話である。

 気安くそんな話をしてしまったディーノに非はあるとしても、大事にするつもりはなかったのだが。


「もうギルド主催で街を挙げてのイベントにしてしまいましょう!」


「そうね!これはチャンスよ!……ギルド長!儲け話が舞い込んできましたよ!」


 クラリスもディーノの言葉を無視してノリノリで先輩であるエルヴェーラへと声を掛け、エルヴェーラはヴァレリオに儲け話だと報告に行ってしまった。

 大事にするつもりは……すでに一大事である。

 パウルにも怒られそうだ。

 ただザックは喜びそうな気もするのは何故だろうか。


 そんなパーティー内の会話のはずが、街を挙げての一大イベントに発展してしまった。


 パウルとの一戦を大事にしてしまったディーノはやってられるかとヤケ酒を呑み、久しぶりに羽目を外してギルドで酒を煽り続けた。




 ◇




「よほど俺に勝つ自信があるようだなぁディーノ。随分と見縊(みくび)られたもんだぜ」


 机に突っ伏したディーノに対し、腕を組んでそう声を掛けるのは聖銀のパウルだ。

 ディーノは二日酔いで戦うどころではないのだが。


「いや、ごめん。マリオに軽い気持ちで話したら……大事になってしまった。すべてマリオが悪い」


 うん、すべてマリオのせいにしてしまおう。

 こいつが賭けだなんだと騒がなければこんな大事にはならなかったはずだ。


「俺はそんな、悪気はないんすよ?ただディーノとパウルさんならいい戦いになるだろうなって、賭けも成立するかなって思っただけっす」


「ほうほう。マリオは俺達を見せ物にして楽しみたいと、賭け事の対象にして酒代でも稼ごうってつもりなんだな?」


 怒りの矛先がマリオに行ったのであればディーノとしてはもうどうでもいい。

 あとは勝手にしてくれ、頭が痛い。


「そ、そんなつもりは〜ないっす!素早さ特化の二人の戦いなら他の冒険者も得るものは多いと思って!」


 パウルの圧に押されてマリオも及び腰である。

 背はマリオよりも低いパウルではあるものの、実力は最強クラスとなれば迫力も凄まじい。


「冒険者も得るものが多い、ねぇ?シーフ系はそんなに多くないのにか?」


「ええ、まあ……戦いの質、と言うんすかね。一流の戦いを、まあ見たいかなと」


 素早さ特化のシーフ系戦闘だとしても、ディーノと戦うとなれば通常の冒険者にとっては異質なものとなるはずだ。

 素早さに慣れないものは目で追いきれない可能性もあり、空も駆け回るディーノは人々の想像とは大きくかけ離れている。


「戦いの質かぁ。質の高い戦いってどんなのだろうなぁ?」


「やっぱり実力が確かな〜、一流冒険者同士の〜戦い〜というんすかねぇ……」


 パウルとてディーノとの戦いであれば、全力で挑んでもどうなるかはわからない。

 まして最近完成したばかりの魔鋼製武器であり、使い慣れた武器で戦うディーノを相手にするには厳しいと言わざるを得ない。

 今回は挑戦者のつもりでディーノに挑むのだ。

 見せ物にするつもりは最初からなかったのだ。


「一流ねぇ。S級なら一流冒険者ってことになるんじゃないか?」


「まあ、そうっすね。冒険者の目標はS級っすから……」


 マリオも何となく嫌な予感がする。

 パウルがただ自分だけ見せ物にされるくらいならと考えるとすれば……


「S級は一流。マリオも一流冒険者だよな?じゃあ他の冒険者の手本としてザックと戦ってもらおうじゃないか!」


「だぁぁあ!やっぱり!」


 嫌な予感は的中である。


「訓練じゃなくこれは戦いだ。本気で挑むんだぞ?」


「さすがに賭けになんないっすよ!?」


「大穴に賭けるのもいいじゃないか」


 もうパウルの中ではマリオが戦うことも決定しているようだ。

 この話の流れにザックは嬉しそうに頷いている。


「この際だしエンベルトとランドの相手もしてもらおうか。希望者はいるか?」


 聖銀に挑んだとなれば冒険者としては自慢話の一つにもなるだろう、何人か手を挙げる者もいるが、はっきり言って聖銀に挑む資格がない。


「S級限定な」


「じゃあ僕、やろうかな」


 名乗りを挙げたのはフィオレだ。

 実力的にまだまだ遠く及ばないとしても強者との戦いはいい経験になる。


「フィオレ、だっけか。じゃあランドの相手をしてもらおうか」


「うん、でもさ、冒険者は基本的にパーティーとして活動してるんだし、二対二のパーティー戦を希望したいんだけど。ねぇ、アリスもやるでしょ?」


 しれっとアリスも巻き込むあたりはやはりフィオレはフィオレである。


「ええ!?私も!?んん、でもこんなチャンスそうそうないわよね……ええ、やるわ!」


 マリオも大変ねと傍観を決め込んでいたアリスも、話を振られて巻き込まれたとなれば覚悟を決めるしかない。

 ここで怖気付いては黒夜叉ではないとパーティー戦に参加することを決める。


「いいね。ディーノのパーティーメンバーなら期待できる。ランドもエンベルトもいいよな?」


 頷くランドと輪っか型のお菓子を持ち上げるエンベルト。

 これを了承ととらえて戦うことが決定した。


「これギルド主催なんだろ?じゃあ企画の方しっかりやってくれ。日付が決まったら告知して会場も用意してもらう。一戦目はザック、二戦目にランドとエンベルト、最後のトリは俺がやる。賭けも良し。どうせやるなら楽しんでいこうか!」


 パウルの宣言に昨日の比ではないくらいギルドが湧いた。

 頭痛に苦しむディーノは頭を抱え、余計なことをしたとマリオも同じく頭を抱えこむ。

 冒険者達も依頼どころではなくなってしまったが、賭け金を増やすためにも近場の仕事を探すべきか。


 この日以降、ラフロイグは他領からも客を集めようと大いに盛り上がることになった。

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