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追放シーフの成り上がり  作者: 白銀 六花
231/257

231 マスティノフ

 アークトゥルスに獣王国のテイマーヘルゲンを迎えて王都の鍛冶屋へと向かうディーノ一行。

 聖銀もしばしの休暇を与えられたということでラフロイグに向かう予定だが、ディーノが王都で用事があるということで明日以降向かうとのこと。


 ディーノが世話になっていた鍛冶屋【バルカン】に到着すると、久しぶりに見た親方は午後の休憩中だったのか、煙草を吹かしながら外で寛いでいた。


「親方、久しぶり。仕事頼みたいんだけど」


「んん?おぉディーノじゃねぇか。随分と見ねえから死んじまったかと思ったぜぇ」


 以前から親方と呼んでいるため名前はもうすでに忘れた。

 この辺りでもバルカンの親方で通じるので思い出せなくても問題はないだろう。


「言ってなかったっけ?拠点をラフロイグに移したって……あれ……いや、他国も旅してるか」


 よくよく考えるとラフロイグを拠点にしているとは言い難い生活をしている。

 ジャダルラック領に行ってからは、他国を回り始めたのだから仕方のないことかもしれないが。


「他国にも旅してるたぁ大物になったじゃねーか。武器も双剣になってるみてーだしよぉ」


「一応出世はしてんのかな。ちなみにこれ、ラフロイグのファブリツィオ爺さんから作ってもらった魔鋼製武器」


 気になるだろうと思ってライトニングを差し出した。

 魔鋼製武器ともなれば鍛治師の誰もが手掛けたい素材である。

 もしかしたら親方も手掛けたかったかもしれないが、もう終わってしまったことだし依頼はできない。

 受け取ったライトニングをしっかりと確認した親方は、剣士さながらの手捌きで剣を納めて返してきた。


「さすが俺の兄弟子だぜぇ。魔鋼相手にいい仕事してやがる。ま、俺もつい最近まで魔鋼武器を手掛けてたんだけどよぉ」


 素材自体が超希少な魔鋼なのだ。

 最近手掛けたとなれば対象は限られる。


「パウルのか?」


「その通り。あいつぁうちの常連だからな。誰かさんと違って他に行ったりしねーんだわ」


 確かに鍛治師からすれば他店の武器を見せるのは失礼かもしれない。

 だがディーノとて拠点をラフロイグに移してさえいなければここに通っていたことは間違いない。


「あー、ごめん。親方の仕事には満足してるんだけど」


「ま、状況が変わりゃ仕方ねーさ。一応は常連だったお前に嫌味の一つも言っとこうと思っただけだ。それに兄貴んとこなら俺も納得できるってもんよ。俺が知る本物の天才ったら兄貴だしな」


 鍛治師から見ても天才なのかあの爺さん。

 製作には素人のディーノでさえ優れた鍛治師として映るのも当然か。


「それで?今日はその後ろのお客さん連れて来てくれたんだろ?とりあえず紹介しろよ」


 鍛治師の親父となれば客だろうがなんだろうが砕けた物言いをする。

 学よりも技を磨いた者はそんなものなのかもしれない。

 紹介しろとのことなのでアークトゥルスを簡単に紹介しておく。

 あとは勝手に話を進めてくれるだろう。


「ディーノはまた来い。俺はこの客の話聞くからよぉ」


 あ、帰れってことらしい。

 以前からそうだったが仕事は仕事、私事は私事とはっきり区別するタイプだ。


 客ではないディーノとウル、ヘルゲンは追い出されたため、とりあえず茶屋に入ってヘルゲンの捕獲するモンスターについて話すことにした。


 今流行しつつある巨鳥モンスターがいいのかと思ったが、ヘルゲンがあまり高いところは得意ではないとのことで地上を走る巨獣がいいとのこと。

 では何がいいだろうか。

 長距離を短時間で走り抜けることができる巨獣となれば限られてくるが、ディーノは目ぼしい対象が思いつかない。

 ギルドで受付嬢から情報をもらおうか。

 ただ無駄話をして時間を潰すことになったが仕方がない。




 行き先を告げずにバルカンを出たものの、通り道にある店であるためアークトゥルスが通ればすぐにわかる。

 なにやら楽しそうに歩いていることから思った以上の収穫があったのかもしれない。

 ギルドに向かいながら道すがら聞いてみよう。


「竜飲鉄処理は頼めたのか?」


「おうよ。ついでにネストレは新しいダガーに買い替えたしよぉ、俺ら前衛二人は装備丸ごと預けて来たぜ」


 買い換えたというネストレの腰には二本のダガーが装備されている。

 攻撃力を高めるためか以前よりも長いものを選んだようだ。


「片刃なんだが斬れ味は一級品でな。これしかねーと思って買っちまったよ」


 購入したネストレもホクホク顔である。

 たまたま在庫があったのか、親方が気まぐれで作ったのかは知らないが良い物を購入できたようだ。

 ディーノの予備のダガーを使用した経験のあるネストレが喜ぶ品となれば、相当な業物である可能性が高い。

 ディーノとしても今魔鋼製武器を使用していなければ購入を考えたかもしれない。


「あとは僕の属性弓を買うだけなんだけど店も紹介してもらえたしね。変わり種の弓専門の店っていうのが楽しみだよ」


 ロッコはレナータと同じく属性弓の購入を考えているらしい。

 ライナーが魔力の引き出しを手伝うとか言っていたので予想はしていたが。


 あと必要なのはヘルゲンのモンスターだけだ。




 王都南区ギルドで受付嬢から紹介してもらえた中から選んだ巨獣はというと。


「よし【マスティノフ】にしよう。このダルんとした顔なのに強いというのは堪らん魅力だし」


 ディーノにはよくわからない魅力がマスティノフにはあるらしい。

 マルドゥクのような精鋭な顔をした巨狼ではなく、顔がダルんとした短毛の巨犬といったモンスターである。


「確かにデカいからパーティーで乗るにも充分かもな。まあ……ちょっと遠いけど」


 情報によるとジャーモニー領の西側、放牧地で家畜が襲われているらしい。

 ジャダルラック領とは真逆に位置するため、距離としてはやや遠い。

 SS級モンスターということで通常依頼にはなっていないが、上位冒険者であるディーノやアークトゥルスにならということで紹介してもらえた。

 他にもいくつか候補はあったが、ヘルゲンの好みでマスティノフを選んだ。

 家畜に被害も出ているということならディーノも討伐に、いや、今回は捕獲に向かうのは賛成だ。

 通常依頼ではないことから報告はラフロイグギルドでも問題ないとの確認をとり、あとは向かうだけ。

 しかしもう日暮前になってしまったので、向かうのは明日になる。

 アリスだけでも残ってもらえばよかったなと思いつつ、むさ苦しい男だけで酒場へと向かうのだった。




 ◇◆◇




 日が変わるまで呑んでいたであろうおっさん共を叩き起こして、マスティノフ捕獲へとジャーモニー領までやって来たディーノ。

 マルドゥクで近付き過ぎればモンスターとしては下位にあたるマスティノフでは逃げ出してしまうだろうと、遠く離れた位置から見つけたところでディーノ一人が駆け出した。


 SS級モンスターとはいえ、マルドゥクどころか下位竜にも劣る個体となればディーノとしては敵ではない。

 殺さないようにだけ注意して爆破と雷撃で捕獲に臨む。

 大きさとしてはマルドゥクの体高の半分ほどだろうか、巨獣に見慣れたディーノからすると小型の部類に入るものの、人間を十人程度であれば余裕で運べるだけの体格はある。

 空から駆け寄って来るディーノに対し、体を引いて飛び掛かるマスティノフ。

 思いの外動きは早くディーノは防壁を蹴って頭上へと飛び上がると、前方へと回転しながら脳天に爆破を叩き込んだ。

 その衝撃に地面へと頭を叩きつけられたマスティノフだが、打たれ強さもあるのか頭を振りながら起き上がる。

 頭への一撃でダメなら次に狙うのは腹部がいいだろう。

 ディーノを睨みつけながら視線で追い続けるマスティノフに、飛び掛かれば届くであろう位置を駆け抜けることで動作を誘う。

 あっさりと引っかかったマスティノフが飛び掛かり、急加速して腹部へと爆破を叩き込んだ。

 さすがに腹部は打たれ強くはなく、グフゥグフゥと呻き声をあげながら腹を向けて服従のポーズを見せた。

 あとはヘルゲンがテイムすれば終了だ。


 ディーノには服従しているとはいえ見知らぬヘルゲンでは敵意を向け、一度目のテイムスキルでは成功せずに雷撃で調教。

 二度目のテイムにも抵抗を匂わせたものの、ディーノがまたライトニングに手を掛けたことで理解したのか素直に従った。


 やはりテイムが成功すればテイマーの意思が伝わるらしく、回復薬を飲ませるヘルゲンの好意を感じたのか頭を擦り付ける。

 ディーノからしてみればやや不細工な見た目とも思うが、懐いている姿を見ればやはり可愛く見えてしまうのが不思議である。

 頭だけでもヘルゲンの身長ほどあるというのに……

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