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追放シーフの成り上がり  作者: 白銀 六花
230/257

230 男泣き

 国王との謁見を終えたディーノとウル、アークトゥルスのメンバーに聖銀を加え、この日テイマーを一人預けられることになったため待合室で少し待たされている。

 ウルは久しぶりに会ったサーヴァと他国の話でワイワイと盛り上がっている。

 一度は仲違いした二人も今では昔のように仲直り、ディーノとマリオ、ジェラルドのようである。


「聖銀の皆様におかれましては〜」


「いやいややめてくれよアークトゥルスのリーダーさん。冒険者仲間として普通に接してくれ。聖銀のリーダーザックだ。よろしくな」


 堅苦しい挨拶も会話も得意ではない、というよりも好きではないザックはカルロの言葉を遮って普通に接するよう断っておく。


「アークトゥルスのカルロだ。こっちこそよろしく頼むぜ」


「おいおいザックって言ったら聖王国最強の男じゃねーか!このイカれた強さのディーノとどっちが強えんだ!?」


 会話を始めて早々に何を言ってるんだこのおっさんは……


「まだオレは兄貴に勝てないだろうな。見ただけでわかるっていうのがムカつくけど」


「ははっ。かな〜りいい戦いはできるだろうけどまだ負けそうにねーな。やるってんなら相手になるけどよ」


 ザックが相手をしてくれると言うなら是非に、と言いたいところだが今のディーノでは腕の一本や二本では済まない可能性がある。

 折れるだけならまだいいが斬り落とされてはたまったものではない。


「ディーノの相手なら俺やりたいんだけど。ステータスじゃ負けるけどいい勝負にはなるんじゃね?」


 そう言い出したのはシーフセイバーのパウルだ。

 以前は攻撃力不足を気にしていたようだが、ユニオンを試したことが切っ掛けか今は武器が変わっている。

 見た感じ……魔鋼製武器に見える。

 埋め込まれた魔核の色からして風魔法も使えるとなれば、ディーノと同じウィザードシーフセイバーに転向したということだろう。

 エアレイドスキルのパウルでは魔力値が高くないため、評価値は随分と下がると思うが。

 パウルは戦闘能力で言えばザックには劣るとも言えるが、強さの種類が違うため一概にザックが上とは言い難い。

 まあそれはディーノにも同じことが言えるのだが。


「え、今から?」


「いや、この後ラフロイグ行くんだろ?俺らもラフロイグ行くからその時にでも」


「んん、いいね。やろうか」


 戦い方の近いパウルであれば、ディーノとしても自分にないものを見つけられる可能性がある。

 それにラフロイグでやるとなればオリオンがいるし、ソーニャにとっても目指すべき姿が見えてくるはずだ。

 ディーノはパウルよりも魔法では勝るとしても技術的にはまだまだ劣る。

 通常のシーフセイバーとして剣技のみで色相竜を倒せる猛者ともなれば、今から戦うのが楽しみになってくる。

 アークトゥルスも「こりゃ見ものだぜぇ」と二人の戦いに期待を寄せる。




 半時ほど待ったところでテイマーとして連れてこられたのは、ディーノからの要望もあったおっさんテイマーである。


「獣王国から派遣されておりますヘルゲンです。アークトゥルスの皆さん、よろしくお願いします」


 やや腰の低そうなおっさんだが見たことがある。

「ヘルゲンさんも聖王国に戻ってたんだな」と、ウルが声を掛けていることからもわかる通り、以前ディーノが危険領域で捕獲したテイマーだ。

 クランプスもテイムできていたことからも結構有能なのではないだろうか。


「ヘルゲンじゃねーか!よろしく頼むぜ〜!」


「今日は呑みに行くしかねーな!ガハハッ!」


 アークトゥルスもよく知る、酒好きで陽気なおっさんであるため大歓迎だろう。

 今日はではなく今日もの間違いだが。


「ところでなんのモンスターテイムしてんだ?俺ら全員乗れるだけデケーのだよな?」


「国王様はパーティーで用意してもらえって言ってたぞ。好みがあるだろうからってな」


 何故アークトゥルスはディーノを見るのだろうか。

 自分達で捕まえればいいのに。

 だが雷魔法があればテイムも容易なので。


「報酬はもらうけど」


「じゃあ俺の携帯食レシピでどうだ!自慢の一品だぜ!?」


 携帯食レシピって……

 大して旨くもない携帯食のレシピもらっても仕方ない気がする。

 毎回買い換えたりするのも面倒ではあるけど。

 ただアークトゥルスは自前で携帯食作ってたことに驚きだが。


「なんだよ、不味そうとか疑ってるだろ。ほい、これ!食ってみろ!美味いから!」


 紙に包まれた携帯食。

 葉っぱに包まれた売ってるものよりは見た目がいいか……


 え?美味い!?


 普段買ってるやつは、干し肉や木の実を砕いたものを油脂で固めたようなちょっと臭みのある携帯食なのに。

 これはやや固めだがザクザクとした食感の中にある豊かな香ばしさ、干した果実の甘みだけではない深い甘みも感じられる植物性の携帯食。


「美味いだろ。携帯食としてもいいが小腹が空いた時のおやつにもなる」


「これなら引き受ける。本当に美味い。こんなのよく作れたな」


「俺のお袋が菓子屋をしててな。売ってる携帯食が不味いって嘆いてたら開発してくれたんだよ」


 なんと羨ましい話だろうか。

 これまでソロ活動では不味い携帯食を食い続けていたというのに……

「なんだよそれ、オレらにもくれよ」とザックも携帯食に興味を示し、全員が絶賛する携帯食レシピをディーノはもらった。




 ◇




 王都には寄ることなくラフロイグへと戻って来たオリオンパーティー。

 エンペラーホークに食事をさせたいと、シストはまたどこかへとボア系モンスターを探しに出掛けてしまったが問題はないだろう。


 落ち込んだジェラルドのためにも早く鍛冶屋に向かう必要があり、どこにも寄らずに真っ直ぐにファイスへとやって来た。


「おおアリス、来たか来たかぁ。マリオの剣ならぁできてるぜぇい」


「ファブ爺さんありがと!これ代金な!」


 黄竜剣を丸ごと竜飲鉄処理ともなれば素材代も加工費そこそこ掛かるため、大金貨三枚を支払った。

 魔法対策が大金貨三枚でできると考えれば冒険者からすれば格安である。


「まいどありぃ。じゃあこいつの処理の説明させてもらおうかぃ」


 黄竜剣(マリオ命名)はシンプルな剣ながら大量の魔核を溶かし込んだ業物の一振りだ。

 黄竜の魔核も溶かし込んだおかげで魔力を流し込むと身体能力の向上を可能とする。

 しかし剣身(ブレード)全てを竜飲鉄処理してしまうと魔力が通らなくなってしまったため、グリップやガードの処理は削り落としたとのこと。

 また、黄竜の魔核は剣身全てに溶かし込んであるため、これまでなかった(フラー)を掘り込んで黄竜魔核の効果を低下させないよう工夫したそうだ。

 斬撃の抵抗にならないよう樋を入れてなかったのだが、ファブリツィオから言わせればそこまで影響はないという。


「そっか、そうだよな。魔法通さねーんなら黄竜の魔核にだって作用しなくなるよなぁ。そこをアレンジしてくれたんなら追加料金払うけど」


「要らんわぃ。客の注文にケチつけたうえ手ぇ加えちまったんだからよぉ」


 注文通りなら黄竜剣が魔法を弾くだけの竜飲鉄剣になったというのに、客の要望に応えるためにと改造まで加えて加工費を取らないとは。

 何気に商売下手な爺さんだ。


「んー……これ刃も研いでくれたんじゃね?前より切れそう」


「竜飲鉄処理するんならなぁ。多少ぁ厚くなっちまうし研ぐのぁ当然だがろぃ」


 それもそうか。

 表面処理したら厚くなるし切れ味も落ちるはずだ。

 おそらくは竜飲鉄処理してから最小限の範囲で刃を研いでいるはずだ。

 それでもこの値段でやってくれたというならまた利用しようと思うマリオ。

「あざっす」と言って黄竜剣を腰に下げた。


「あとぁお前さんらに頼まれてたぁ装備の竜飲鉄処理なんだがよぉ、黄竜の魔石の力ぁ使うんならやらねぇ方がいいんじゃねぇかとぁ思うんだがぁどうするよ」


 黄竜剣が竜飲鉄処理で身体能力向上できなくなるとすれば、体に密着することになる鎧を処理してしまうと同じように発動できなくなる可能性もある。

 仮に発動できたとしても抵抗になる恐れもあるため下手に処理しない方がいいのではないかとのことだ。

 鎧に処理したとしても魔法を弾くのが着弾してから、または直接打ち込まれる場合にのみ効果があるのだとするなら利点としては少ない。


「じゃあ素材用意してもらったのに悪いんだけど無しの方向で!」


 期待してみたものの、効果としては大したものではないとすればここで断っておいた方がいい。

 処理後に言われてしまえばどうにもならなかったが、先に気付いてもらえただけ助かったと思うべきだろう。




 次は一番重要な依頼をしなくてはならない。


「俺の……俺の、盾が……見て、割れてるんですよぉぉぉ。なんとかなりませんかぁぁぁ?」


 ここまでずっと我慢していたのだろう、今にも泣き出しそうなジェラルドである。


「あー、ひび入っちまってやがる。こいつぁ補修ぁ無理だぜぇ」


 ファブリツィオがとどめを刺した。

 膝から崩れ落ちて泣き出すジェラルド。

 大の大人、図体のデカい男が声をあげて泣く様はなかなかに強烈である。


「まあよ、いろいろとやりようはあるからよぉ。泣くんじゃねぇよぉ。ほれ、お前さんの戦い方ってのを聞かせてみろやぁ。こないだは鱗をそのまま使うってんで改造案あげてぁみたんだけどよぉ。割れっちまったんならまた違うもん考えらぁ」


 割れてしまったガイアドラゴンの鱗ではくっ付けたところで強度は戻らない。

 それなら半分になった鱗が二枚あると考えて作り直せばいいものが出来上がる可能性はある。

 マリオ達はぐすんぐすんと鼻を鳴らすジェラルドを宥めつつ、危険領域での戦いを話し始めた。


 普段のジェラルドの戦い方とクランプス戦、そしてジャルパ戦の話にうんうん、うんうん?と頷いていたファブリツィオ。


「お前さんぁその拳でモンスターぶっ殺せんのかぁ?素手でやれるってんならぁ……割れちまった鱗とぉ……んー……んん!決めた!おもしれぇもん作ってやれるかもしれねぇぜぃ!」


「爺さんがおもしろくても俺は笑えないんだけど……うっ、ううぅっ……」


 なかなか面倒くさい男である。

 宝物が壊れたくらいでそんなに……

 そんなに……

 泣くかもなぁ。


「ジェラルド!ファブリツィオさんにお願いしてみましょう!今は壊れてるけど確実に今よりは良くなるんだからお願いするしかないわよ!」


「本当に……本当に、良くなるのかぁ?爺さんさぁ」


「俺の予想じゃお前さんに絶対必要な武器になっからよぉ。任してみろやぁ」


 ファブリツィオの言い方からしても自信のある提案のようだ。

 絶対とまで言うからには何かしらの工夫が加えられるはず。

 魔鉄槍バーンといい氷の属性剣グラキエースといい最高の仕事をしてくれる爺さんだ。

 これはもしかしたら期待しても、希望を持ってもいいのかもしれない。

 鼻水をすすって涙を拭い、立ち上がったジェラルド。


「よろしくお願いしましゅ……」


 ちゃんと言えなかったが頼むことにするようだ。

少し設定に不備があったので修正しました。

装備の竜飲鉄処理を無しにします。

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