229 新たな依頼
アークトゥルスのクランプスとの戦いから一日半で危険領域の入り口まで戻り、今現在ジャダルラック領の酒場に来て祝杯をあげていた。
一日早く領都に戻って来ていたオリオンも、無事にアークトゥルスが戻って来たことに労いの言葉を投げかけた。
そして今いる酒場はロッコやライナーが望んだこともあって美人なお姉さんが酒を注いでくれる店である。
料理と酒を楽しむ店ではなく、女性と酒を楽しむ店なのだ。
パーティーの女性陣からは顰蹙を買う結果となった。
店でできる限りの料理を用意してもらうことで許してもらったが。
綺麗な女性達と楽しく酒を飲むコルラードとロッコにライナー、ウルとシスト。
特別なものは何もないが料理と酒を楽しむこちらの女性陣。
「今はそっとしておいてくれ」と静かに一人で酒を飲むジェラルド。
あとは今回の反省会としてアークトゥルスのリーダーであるカルロと少し真面目な話をしたいネストレ、オリオンからはマリオと危険領域踏破の提案者であるディーノ。
四人は店の女性達をコルラード達のテーブルに付け、反省会と今後について話し合う。
「ーーーとまぁジャルパには苦労したけど戦闘自体は悪くなかったな」
「なるほどな。聞いた感じだともう色相竜挑んでもいけるかもしれないな」
ディーノが放っておいても問題ないと判断できるまでにオリオンは成長を遂げている。
フレイリア領の色相竜と戦う前に念のため危険領域踏破をしてもらったが、ジャルパという想定していなかった強敵とも戦うことができたなら準備は万端である。
あとは今よりも装備に魔法耐性が付くとすれば尚良しだ。
「ところでジェラルドはどうしたんだ?」
「あれな〜、ガイアドラゴンの鱗に亀裂が入っちまってよぉ」
「マジか〜。それはへこむな。ファブ爺さんになんとかしてもらわないとだな」
素材に亀裂が入ってしまってはどうにもならない気もするが。
切った貼ったでなんとかならないものだろうか。
「ーーーてなわけで、うちは魔法対策が必須になるからよぉ。俺らもラフロイグに連れてってくんねーか」
「ファブ爺さんの仕事追いつくかな。他の兄弟弟子のところを紹介してもらって……あ、王都にもあるんだった!そっちでもいいか?」
オリオンの装備を竜飲鉄処理とジェラルドの盾の作り直しとなれば、結構な時間が掛かることが予想される。
だとすれば兄弟弟子にでも頼めばアークトゥルスの装備もすぐに加工に取り掛かれるだろう。
ディーノの予備のダガーを作ってくれた鍛冶屋である。
「構わねーがディーノに置いてかれると移動に時間が掛かるのは辛えな」
「それは安心してくれ。セヴェリン様から書状もらって国王様にテイマー紹介してもらうから。酒好きなおっさんで募集してもらうつもりだ」
先程の話からすると若い者をパーティーに入れるのは避けたいらしい。
ダメなおっさん達の中に未来ある若者を一緒にするのは良くないとの言い分だが、ディーノとしてはその未来ある若者達を引っ張っていってほしいとも思わなくもない。
「そいつは助かる。各地の酒を呑んで呑んで呑みまくってやるぜぇ」
「目的がおかしい。ま、仕事さえしてればその辺は国王様も許してくれるだろうけど」
アークトゥルスならジャダルラック領に戻らず酒を呑んでのクエストの旅とか平気でしそうで怖い。
セヴェリン伯爵の書状ももらう以上はおかしなことをしないでもらいたいところだが。
しばらく話し込んでいたためか、他の席を見ればそろそろこちらの女性陣も食事を終えて飽きていそうだし、まだ呑みたい連中を残して帰ろうか。
結局、ライナーと獣王国組はアークトゥルスと一緒に夜の街へと消えて行き、オリオンだけで領主邸へと帰っていく。
クレートから預かったライナーに好き勝手させていてもいいのかは不明だが。
◇◆◇
それから二日間はアークトゥルスが準備があると時間を要したためジャダルラック領での観光を楽しみ、ラフロイグへと戻る日がやってきた。
ディーノは国王への報告とアークトゥルスの竜飲鉄処理の依頼があるため王都に寄る必要があるが。
オリオンとライナーはエンペラーホークに、アークトゥルスはマルドゥクに乗り込んでディーノが伯爵家へと挨拶をする。
「それでは義父様、義母様、行って参りますエンリコとヴィタにも世話になった」
今回ジャダルラック領に来て一番の変化はディーノ=エイシスがディーノ=エイシス=ドルドレイクになったことだ。
エイシスは旧姓にするかと思ったが、ディーノの産まれを示すものだとしてセヴェリンはこれを残すようにしたのだ。
すでに朧げではあろうと実の親のことを忘れないようにとの配慮は嬉しくもあった。
「また仕事の合間にでも戻って来るんだよ。土産話を期待しているから」
「行ってらっしゃいディーノ。気をつけてね」
「行ってらっしゃいませ。旅のご無事をお祈りしています」
「ディーノさんもう一泊していきませんか?もっとお話がしたいです……そうですか。では、今度はディーノさん一人で帰って来てください。私楽しみに待ってますから!」
伯爵家への挨拶を済ませたら出発だ。
なにやらアリスが騒いでいるがとりあえず出発しよう。
降りて来そうだし急いだ方がいい。
◇◆◇
王都に帰る前にマルドゥクの食事をとも考えたが、すでに危険領域で巨獣を食べたとのことだったため真っ直ぐ王都までやって来た。
馬車で五日の旅をわずか四の時でたどり着くのだからマルドゥクでの移動はとても早い。
これで全速力でないのだから驚きの脚力である。
オリオンには装備の改造があるため王都に寄らずにラフロイグに戻ってもらったが、ディーノは国王への報告を済ませてからラフロイグに向かう予定だ。
しかし精霊国のサモナーが各国に配置されていることもあり、すでに獣王国との内容も届いているはずである。
報告というよりは仕事をもらいにいく感じだろうか。
マルドゥクに乗ったまま王宮へと向かい、すぐには会えないだろうと思っていたのだが、マルドゥクの待機位置にはフレースヴェルグがのんびりと座り込んでいた。
フレースヴェルグがいるということは……
「ディーノ様、ウル様、SS級パーティーアークトゥルス様、今現在聖銀の方々もいらっしゃいますのでご一緒に国王様にお会いください」
やはり聖銀がいたか。
久しぶりに会う兄貴に妙な仕事を押し付けられなければいいのだが。
謁見の間へと案内されたディーノ達は聖銀の姿に軽く頷き合いつつ、国王の前で跪いて発言を待つ。
「よくぞ戻って来たディーノよ。すでに書状は届いているのでな、獣王国での其方の働きには驚かされるばかりよ。向かって翌日には両国の使者が求めるモンスターを五体も捕らえたとなぁ」
「お褒めの言葉、ありがとうございます」
これであっているのかはわからないが褒められたんだと思う。
「では、ザックよ。フレースヴェルグはどうなのだ?やはり移動用モンスターとして鳥型は良いのか」
「移動用ってことなら鳥型が一番じゃないですかね。マルドゥクも速いんですけどあれはどっちかって言うと戦闘モンスターですし」
国王相手にも結構砕けた話し方するけど大丈夫なんだろうか。
気にはしてなさそうだけど。
「そうかそうか。やはり鳥型は良いのか」
なんだろう。
なんとなくこの後の展開がわかる。
「ではディーノよ。今後我らの友好国に獣王国のテイマーが派遣されることに決まったのだが、鳥型モンスターを捕獲できる者がいなくてな」
あ、やっぱり。
鳥型モンスターを捕まえろって依頼だな。
戦闘経験を積むのは無理だとしても素早さは上がるとは思うし別にいいけど。
「先日捕らえたというアローファルコンをもう十体、フレースヴェルグとまでは言わぬが五人以上が乗れそうなものを四体捕獲してほしい」
「え!?そんなに!?あっ……失礼しました」
アローファルコンならまだいるから捕まえれるけど、それでもさすがに十体もいない。
他には大勢乗れるのを四体?
どこにいるか目星つけるのも大変なのに?
「こちらで調査もしている故、何体かはすでに場所もわかっている。そう急ぎではないが移動が早いというのは国にとって有益でな。是非とも捕獲に協力してほしい」
拒否権ないしやるしかないが。
「では国で調査したものを私が捕獲依頼として受注する形でよろしいでしょうか」
「うむ。それで構わぬ。ギルドを通して依頼を出すとしよう」
とりあえず依頼なら冒険者として引き受けるだけだ。
以前ギフト発現者として実力を高める必要があると言った気もするが、この国王様は精霊魔法剣士になれたからともう充分だとでも思っている可能性がある。
まだまだザックと戦っても勝てる気はしないとしても、精霊魔法はリベンジブラスト並みの出力があるため想定よりも随分と強くなったと言える。
威力が増大した分色相竜相手にも長期戦にはならないだろうし、国王様が思っているように戦闘能力的には不足はないのかもしれない。
ただザックを超えるという目標はいつか達成したいところだが。
「さて、今日はアークトゥルスもおるようだが何かあったか」
「ドルドレイク伯爵様より書状をお預かりしています。内容はアークトゥルスにもテイマーを派遣していただきい旨を認めてあります」
ディーノが書状を取り出すと、控えていた官職の男が受け取り国王の元へと運ぶ。
「まあそうであろうな。移動用モンスターの有用性を知れば誰もが欲しがるであろうし。ふむ。貴族用にとも考えておったが遊ばせておくのも無駄というもの。なにかあればすぐに駆けつけられるよう竜殺しを持つ者にはテイマーを付けようか」
「ありがとうございます国王陛下」
カルロに続いて全員で頭を下げる。
竜殺しの勲章を持つ者となればアークトゥルスだけでなくルビーグラスにもテイマーを預けてくれるということだ。
他にもいくつかのパーティーがあったはずだがディーノは会ったことがない。
まあ、何はともあれ目的は達したのであとは話を聞いていればいい。
その後のザックと国王の話はシュータイン皇国やブランディエ集光国との国交やその後の取り決めなどの報告について、さらには拳王国、精霊国、獣王国の人材派遣とその交換条件についてなど、ディーノにとってはよくわからない内容が続いた。
わかるとすれば多くの国が人材を提供し合い、その能力を活かして竜害に備えつつ相互発展と協力関係を結ぼうといったところか。
聖銀と国王の話が終わるのを待ち、謁見の間を後にする。




