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追放シーフの成り上がり  作者: 白銀 六花
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227 酒杯を持つ方

 危険領域二日目の朝は寝不足であまり休んだ気がしなかった。

 アークトゥルスにライナーを加えた五人での進行は最初に比べれば順調ではあるものの、経験不足からか戦闘に時間が掛かり最奥まではまだ距離が長そうだ。

 サポートとしてついて来ているはずのディーノは最初の休憩から姿を見せず、どこにいるかもわからないが待機していると信じたい。

 寝ている時でも襲って来ていたモンスターだがここにきて遭遇率がぐんと減った気がする。

 こんなことなら昨日のうちに無理をしてでも先に進み、モンスターの少ないこの周辺で寝るべきだったと後悔する。


 しかしそう思ったすぐ後に遭遇したのはSS級モンスターミネラトール。

 以前ジャダルラックに到着してすぐにアリスが討伐した防御力の高いモンスターである。

 巨獣でありながら馬よりも足の速い亀のようなモンスターで、倒すとすれば相当な攻撃力が必要となる。


「ここでこいつに会うことになるとはついてねーぜ。物理じゃぶっ刺すくらいしかまともなダメージになんねーからライナー頼りになる」


「結構大きいな〜。倒せるといいけど……」


 体長だけで見れば下位竜よりも小さいが、体積を考えれば上位竜にも匹敵する巨体だ。

 理想で言えばひっくり返したところを全員で突き刺していけば倒せると思うが、この巨体をひっくり返せるほどの力はライナーにもアークトゥルスにもない。

 隠れて見ているディーノでさえ倒すのに苦労するモンスターなのだ。


「倒せねー時は足でも傷だらけにして動けなくすりゃ置いていけるからよぉ」


 倒せなくても動けなくするだけでもいいならなんとかなりそうだ。

 獲物を見つけたとでも思ったのか、足で地面を掻きながら身構えるミネラトール。

 木の後ろに隠れているアークトゥルスに対してライナーだけがミネラトールの接近に備える。

 駆け出したミネラトールはその巨体を思わせない速さで向かって来る。

 ライナーは氷杭を周囲に展開して射出。

 ミネラトールの顔目掛けて放たれた氷杭は前傾になったことで甲羅に当たって砕け散る。

 だが速度を落としたミネラトールに向かって距離を詰めたライナーは、続け様に氷杭を放ってその頭を出せないようにしながら接敵。

 首を引っ込めた中へと氷杭を大量に詰め込んだ。

 氷杭を押し出そうと頭を何度も打ち付けているようだが、一度引っ込めた首を出すのに勢いが足りない。

 ヨタヨタと四足で歩いてはいるが頭を出せなければ戦いどころではない。


「動けなくしてみたけどこれでいい?」


「んん、まあ、なんか思ってたのとは違うけどいいか。足をやっちまおう」


 ディーノの連れだしな〜とも思わなくもない。

 ヨタヨタ歩きの四足を全員でズタズタに斬り付けた。




 巨獣系モンスターやSS級モンスターとの遭遇も何度か乗り越え、昼過ぎには最奥まで辿り着けるのではないかと思っていたところで、引き返して来たオリオンを少し離れた位置に発見。


「お前らもう戻りかよ。この奥はどうなってんだ?」


「この辺とほとんど一緒っすよ。巨獣がそこそこいるんで気を付けてください。あと二の時くらいで神殿みたいなのあるんで」


 二の時となればスタートから三の時ほど引き離されたということだろう。

 今のオリオンはアークトゥルスよりもそれだけ強いと考えるべきか。

 だがアリスとフィオレがいることを考えれば当然かとも思えなくもない。

 しかし実際はオリオンはクランプスやジャルパとも戦っているため、アークトゥルスよりも強敵との戦闘は多い。

 さらには先に進むオリオンにモンスターが集まったことで周囲のモンスターも減っており、アークトゥルスの難易度はオリオンよりもやや低めとなっている。


「ならあと少し頑張るかぁ。お前らも気を付けて戻れよ」


「はい、じゃあ、あれ?ディーノ」


 どこからともなく現れたディーノがソーニャに絡まれていた。

 どうやら索敵していたソーニャに見つかったらしく「やるなぁ」と褒められて嬉しそうにしている。

 ディーノがついて来ているのかさえわからなくなっていたアークトゥルスからすれば驚きだが。

 ディーノが姿を現せばアリスが飛び付かないはずはない。

 一日中外にいて風呂にも入っていないのに、顔をスリスリ匂いをクンクンとするのはやめてほしいディーノである。


「よう。帰るまでが旅ではあるんだけど踏破おめでとう。そこそこいい訓練なったか?」


「そうだな〜。クランプスとか結構強かったし……」


 クランプスと聞けばアークトゥルスからすれば今でも戦って勝てるかわからないモンスターだ。

 もし出会えば命懸けの戦いになるのは間違いない。


「ジャルパ?だっけかアリス。あんなの聞いてねーぞー」


「ジャルパ?はて?えーっと、あの、イスレロっぽいモンスターだよな?確か上位個体かもしれないやつ」


 ディーノのモンスター図鑑知識からしてもうろ覚えのマイナーなモンスターでもある。

 イスレロと戦っていなければ名前だけでは思い出せなかったかもしれない。

 記憶を思い起こして「地属性魔法を使用する人型巨獣で〜云々」とブツブツ言い始めたが、倒した今はマリオにとってどうでもいい情報だ。


「そのジャルパがいたのよ。イスレロよりも強いと思ったわ」


「マジか。聞いてみたいとこだけど帰ってからその話聞かせてもらおうか。今長話してると帰るのがもう一日伸びるからな。まずはアークトゥルスの踏破も済ませたい」


 このまま終わらせてもいいが、ディーノとしては最後に強敵と戦わせたい気持ちもある。

 適当に何か探してアークトゥルスにぶつけてみるのもいいかもしれない。


「それもそうか。早く帰ってベッドで寝てぇしな。夕方までに戻れりゃ今日中には帰れる」


「帰りも慎重にな。油断すんなよ」


「じゃあな。おいアリス、行くぞ」


「ああっ、ディーノぉぉぉ……」


 首根っこを掴まれたアリスがマリオに引きずられていく。

 ソーニャは移動開始かとまた木々の中へと飛び込み、マリオとレナータは武器を手に前を進む。

 アリスとフィオレは武器を背中に回していることから二組に分かれて進行しているのがわかる。

 ただ一番後ろを歩くジェラルドが肩を落としているのが気になった。




 ◇◆◇




 その後もアークトゥルスの進行も順調であり、最奥にある神殿が見えるところまで来たところで横から飛び出してきたモンスター。

 アークトゥルスから離れてわざわざディーノが探して来たのはクランプスだ。


「うげぇ!クランプスが出やがった!」


「二体もいやがるぜクソッタレが!」


「これがクランプスってやつなの?顔怖っ」


「ライナーも気を付けるんだよ!とんでもない強さだから!」


 警戒心を一気に高めたアークトゥルスの三人は、ネストレが近付いて来ないことを不審に感じながらライナーにも警戒するよう呼びかける。

 今この状態で二体と戦うとすれば二組に分かれる必要があるのだが……

 魔法スキルを持つクランプスにはライナーが最も有効と考えれば、戦闘能力の低いロッコと組ませた方がまだ安全か。

 カルロとコルラードの前衛二人で一体を相手にする方が厳しいが。


「いや、ダメだ!俺が死ぬ気で一体を抑える!コルラードはロッコとライナーと組んで一体先に殺ってくれ!」


 盾職のカルロであれば防御力が高く、クランプスの通常攻撃なら耐えることもできるだろう。

 ただし魔法スキルに関してははこれといった対策はない。


「任せろや。俺がぶっ殺してやっからロッコとライナーは隙作ってくれぃ」


「どっち?」


酒盃(ジョッキ)持つ方だ」


 どっちでも飲むだろ!とは思ったが右利きのコルラードであれば左だろう。

 コルラードが「いくぞ!」と声をあげると右の個体へと駆けて行く。

 思ってたのとは違ったし聞いた意味もなかった。


 右にいたクランプスへとコルラードが剣を右袈裟に振り下ろすと同時に、左側から目を狙ってロッコが矢を射る。

 人間の言葉を理解できないクランプスでは三人が一体を狙って来るとは思っておらず、この二人が相手かとコルラードの巨剣を左腕の甲で受け止め、矢を右腕の甲で弾く。

 矢が弾かれると目の前に立ち塞がるコルラードへと右拳を振り上げ、剣を軸にして体を回転させたコルラードは遠心力を乗せたスラッシュを横一文字に一閃。

 咄嗟に回避行動へと移ろうとしたところに、想定していないライナーからの氷杭が顔目掛けて射出され、これに反応して両腕で顔をガード、腹部へとコルラードの巨剣が直撃する。

 体を傾かせていたことで後方へと体重を逃がせていたとしても、強烈な一撃が強度の高い腹部を斬り裂いた。

 どれだけ強いモンスターであろうとこちらを人間と侮っているところに強襲すれば押し切れる。

 魔法スキルを使用させずに倒すべきだと、コルラードの奥の手、スラッシュの二撃目を発動する。

 体に大きな負担が掛かるとしても、ここで倒せれば残りは一体。

 振り切った右腕を引き戻すのに身体中の筋繊維が引きちぎれるも、それに構わず大きく振り被る。

 しかし後方に体が流れるクランプスはそのまま回避しようと足を屈伸している。

 このままでは逃げられる!と思っていたところへ、突如飛び出して来たネストレのダガーがクランプスの背中へと突き刺さる。

 逃げることができなくなったクランプスの頭上からコルラードのスラッシュが振り下ろされ、脳天から胸元まで斬り開かれたクランプスは魔法スキルを使用することなく力尽きた。

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