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追放シーフの成り上がり  作者: 白銀 六花
222/257

222 冒険者登録

 寝室の扉をノックする音が聞こえる。

 すでに装備に着替えたディーノとアリスは、モンスター図鑑を二人で読みながらくつろいでいた。

「どうぞ」と答えると扉が開かれ、伯爵邸執事であるエンリコが入ってきて挨拶をする。


「おはようございます坊ちゃま。アリス様もおはようございます。天気のいい良い朝ですね。朝食のお時間となりましたので食堂へ参りましょう」


「おはようエンリコさん。その〜、坊ちゃまはやめてくれるか?」


 昨日の夕食あたりから坊ちゃま呼びが始まったのだが、周りが揶揄うためこうして拒否することができずにいた。


「では私のこともエンリコと。敬称を付けるのはおやめください」


 目上の人を呼び捨てするのに抵抗はあるが、これに従わなければ坊ちゃま呼びはやめてくれなさそうだ。


「じゃあエンリコ。坊ちゃま呼びは今後禁止な」


「はい、ディーノ様」


 うーん、まあいいか。

 もともと様付けされてたし気にしなくてもいいだろう。


 朝食を摂りながらこの日の予定を簡単に説明する。

 危険領域の踏破を目的とするが、進む距離は相当なものとなるため準備が必要だ。

 さすがにマルドゥクやエンペラーホークを利用しては踏破と言えず、魔鏡とは違って馬車の通る道もないことから歩きでの踏破を目指す。


「そんなわけで今日は買い物をしようか。明日からの携帯食糧や回復薬、野営はできないだろうから交代で休むために必要なものも買わないとな」


「それはお前……観光したいだけじゃね?」


「んん、実は半分はそれが目的だ。どれだけ復興が進んでるのか見たいからな」


 獣王国のザハールとも少しだけ見て回ったが、多くの人々が復興作業に精を出し、街が活気に溢れていたのを覚えている。

 崩れた建物はまだ建築途中だったこともあり、今はもう完成しているのではないだろうか。


「あ、でもどうしよう。今くらいオレもセヴェリン様に着いて行った方がいいですか?」


「いや、今はまだお前を家に縛るつもりはないのでな、冒険者として行動してくれ。ただ家では義父と呼んでくれると嬉しいがな」


「わかりました義父様」


 これでセヴェリンの仕事に同行するようになれば、冒険者としての仕事はかなり少なくなるだろう。

 国からの仕事であれば領主であるセヴェリンとてそちらを優先するよう配慮してくれるとは思うが、やはり基本は冒険者としてありたいディーノとしては自由であることを望む。

 家族として迎え入れてくれただけでなく、まだ家に縛るつもりはないと言ってくれるセヴェリンには感謝するしかない。

 今はただ義父様、義母様と呼ぶようになっただけの違いしかないとしても、自分の帰る場所ができたと思えばこれほど嬉しいことはない。


「ディーノさんも一緒に来てくれたら嬉しいのにな〜。そしたら普段よりもっとやる気がでるんですけどねぇ」


 セヴェリンと共に行動するヴィタは、言葉には出さずともディーノに好意を寄せている。

 すでにアリスの恋人になったとしても恋愛は奪い合いであると考えるヴィタは、隙あらば誘惑しようとも考えている。

 ギルドの受付嬢であったためS級冒険者であるアリスに遠慮をしていたが、今は伯爵の従者として勤めているため遠慮する必要はない。

 そしてセヴェリンとソフィアもそれを知りながらも止めるつもりがないことがアリスにとっても懸念するところ。

 すでにディーノを息子として迎え入れたとなれば考えも変わってくるかもしれないが。


「はっはっはっ。ヴィタがディーノと一緒にいたいのもわかるがね。いずれ機会を設けるから仕事は頑張ってくれ」


「本当ですか!?約束ですよっ!?」


 これにアリスは一層警戒心を強める。

 そんな機会は与えるべきではないと、今後ジャダルラックにはできるだけ近付かないことにしようと考えるアリスだった。

 ただし、使者として行動するディーノがアリスの知らないうちにジャダルラック領を訪れたとすれば防ぎようがないのだが。




 ジャダルラック領領都の街並みは随分と復興が進んでおり、入り込んだモンスターに破壊された家々も新しく建て直され、露店が建ち並ぶ区域でも多くの人で賑わっていた。

 モンスター溢れる領地になっていた頃には街を離れていた人々も多くが戻っており、他領からの商人や観光客なども来ているようだ。

 ここから少し離れた黄竜に襲われた街ワルターキへの観光客が多いらしく、黄竜の鱗から作られた装備や土産品などに人気があるのだとか。

 中には黄竜肉のステーキを食べられる店もあるらしく、これもまた美食家の出版する本に載せられたとかで客の呼び込みにもなっているそうな。

 それらを考えれば精霊国の緑竜に支配されていた街の復興も順調に進むのではないだろうか。

 ただしマルドゥクに食い殺されただけに緑竜肉のほとんどがダメになったかもしれないが。

 とりあえずはジャダルラック領主の息子となったディーノとしては、復興が進む街を見て一安心といったところだろう。


 そして久々に訪れた領都ギルドでは。


「疾風のディーノ!?」

「炎姫アリスもいる!!」

「天使フィオレ様!!」


 と、なにやら訳のわからない二つ名で呼ばれて注目を浴びる。

 フィオレが天使……

 見た目だけならわからなくもないが。

 ギルドの受付へと向かって行くと受付嬢が指差す方向に、以前共に戦ったアークトゥルスの姿があった。


「久しぶりじゃねーかよ黒夜叉。それとブレイブも一緒かよ、よく来たな」


「久しぶりっすコルラードさん!元気してたっすか?」


 マリオは王都に来た際のファイター仲間として、コルラードやルビーグラスのマンフレードと訓練したりもしていた。

 コルラードもマリオのことは気に入っているらしく「まあ一杯飲めや」と早速酒をすすめられていた。


「このメンバーで来たってんならまた面倒ごとか?なんかあるんなら協力するぜぇ」


 アークトゥルスのリーダーカルロはそう言ってくれるが、今回は面倒ごとではなくオリオンの挑戦だ。


「いや、今回はこの六人で危険領域の踏破をする予定なんだ。今日は買い出しに来ててギルドには顔出しに来ただけ」


 ディーノの言葉に眉間に皺を刻んだカルロ。

 何か問題があるのだろうか。


「それ、俺らも一緒じゃだめか?」


「んー、実力を試すのが目的だしな。別々に行くんならまだしも、一緒だと相当楽になるからダメかな」


 難易度でいけば危険のある冒険からただの探索レベルまで落ちるかもしれない。

 人数が増えれば負担は格段に落ちるだろう。


「んん、そうか。俺らもちょいと腕を上げなくちゃマズいと思ってよぉ。かといって死ぬリスクが高いんじゃジャダルラック領にも迷惑かける可能性もあるしなぁ」


「あれ?アークトゥルスは国から竜種狩りの依頼受けてないのか?」


 マリオ達合同パーティーオリオンだけが竜種狩りを斡旋されているわけではないはずだ。

 アークトゥルスにもルビーグラスにも依頼がきていてもおかしくないのだが。


「この辺の竜種は下位竜が二体だけだったしすぐに終わっちまったよ。生きのいい竜種ったって黄竜に比べりゃ大したことねーしよぉ」


 それはそうだろう。

 いくら弱っていても色相竜が下位竜より劣ることなどまずないはずだ。


「じゃああれからあまり経験は積めてないよなぁ。いいパーティーなのに勿体ない」


 魔法こそ無いものの物理で下位竜も問題なく狩れる猛者達だ。

 経験を積みさえすればまだまだ伸びそうなものなのだが、竜種がいないなら通常依頼で腕を磨くしかない。

 ただそれもディーノが粗方討伐しているため強いものはほとんどいないはずだ。


「危険領域内ともなれば俺達四人じゃ下手すりゃ死ぬだろうからよ。一緒に行けりゃいい訓練になるかと思ったんだが」


「じゃあ……ライナー。お前アークトゥルスと一緒に危険領域入ってみるか?もしヤバい時はサポートするからさぁ」


 オリオンはすでに六人で連携が取れているとすれば、ライナーが入ったところで無意味に連携が崩れそうだ。

 それなら魔法のないアークトゥルスに魔法の得意なライナーが入ればバランスも取りやすいのではないだろうか。

 もともと前衛二人に遊撃と補助が一人ずつのパーティーだ、遠近どちらも可能なライナーであれば連携を崩すこともない。


「え、いいの?俺まだ冒険者じゃないんだけど」


「……ん?え、なに?どういうこと?」


 冒険者になりたくて精霊国を出たのに、ここまで旅して冒険者じゃないとはどういうことか。


「冒険者登録してないけど」


「はあ!?下位竜殺れるのに!?」


「うん。登録は一人前になってからってクレートさんから言われてる」


 下位竜倒せてまだ一人前じゃないとはどういうつもりだろう。

 ただクレートにとって下位竜討伐が簡単な部類に入るとすれば、ライナーの腕はまだまだ一人前には遠い….…感覚がずれ過ぎていてわからない。


「過保護過ぎるだろ!」


「俺もそろそろいいんじゃないかなとは思ってたんだけどさ。まだ早いって言われて登録してなかったんだ」


 あの異常な強さを持つクレートのことだ。

 上位竜あたりを狩ってようやく及第点とか言いそうで怖い。


「冒険者登録なんてボアでも倒せればいつだっていいんだよ!すいませーん!冒険者登録お願いしまーっす!」


 草を毟れるだけでも冒険者登録はできるが。

 ライナーを受け付けに押しやってソロで登録するよう言っておく。

 パーティーは入る気になったら加入すればいい。

 ヴィタの代わりに入った受付嬢もなかなかの美人だなと思いつつ、ライナーを任せてカルロの席まで戻る。


「あいつ、冒険者じゃなかったのか。それをうちに預けるってお前なぁ」


「いや、オレも知らなかったんだって。一応は下位竜をソロで倒せるんだから実力的には問題ないと思うんだけど……」


 倒せると聞いただけで見たわけではない。

 少し心配になってきたがアローファルコン戦ではしっかりと捕獲に成功していたし大丈夫だと思いたい。


「んん、まあ危険領域踏破に挑戦できるんだし?ディーノのフォローも期待していいし?俺らにとっちゃ願ってもないことなんだけどよぉ。あいつは大事に大事に育てられてそうでなんとなく不安になる」


「まあ、その、なんだ。ライナーの育ての親?師匠?はオレよりかなり強いからな。感覚がおかしいからギリギリで倒せても倒したとは認めてくれなさそうではある。だから余裕をもって倒せてるんじゃないかなぁと」


 あくまでも希望であり憶測でしかないが。


「お前より強えって人間じゃねーな」


「人間ではないらしい」


「は?」と精霊国の話題で久しぶりの再会は盛り上がった。

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