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追放シーフの成り上がり  作者: 白銀 六花
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220 親の優しさ

 あまりにも早い捕獲作戦成功であったため、その日の夕方には獣王国の王宮へと戻って来た捕獲隊。

 アローファルコンのダメージを見て上級回復薬で癒したりしつつ、逃げ出そうとした個体にはディーノの雷撃を浴びせて調教。

 多くとも二度の雷撃でテイムを済ませ、五体を連れて帰って来た。

 襲って来た残りの二体はというと、一体はマルドゥクが飛び掛かったあとにはそのまま噛み付いて食料とし、もう一体はアリスの爆槍によって内蔵破裂を起こしていたため死亡。

 食い足りなかったマルドゥクが二体目も腹に収めた形となった。


「もう終わったのか?早すぎやせんか?つい先ほど人選が終わったばかりではないか」


 獣王も驚きの仕事の早さである。

 ドラゴニュート捕獲の際もその日のうちに完遂していたが、アローファルコン捕獲では更に早く戻って来た。


「私モ自身ノ目ヲ疑ウヨウナ戦イデシタ。戦闘開始カラ数エルホドノワズカナ時間デ打チ落トシ、テイムスル時間ノ方ガ長カッタヨウナモノデス」


「ふーむ、ではディーノから見てアローファルコンの強さはどれほどか?比較できねば其方らをどう評価して良いかわからぬ」


「比べる対象がいませんのでなんとも答えにくいのですが、討伐難易度は聖王国基準でSS級となります。ただ攻撃的なモンスターですのでエンペラーホークよりは難易度下がるような気がしますね」


 竜種と比べるとしたらさすがに耐久力で劣るし魔法もないため弱いとも考えられる。

 しかし速度では圧倒的にアローファルコンが勝り、攻撃的であるため下位竜と戦わせてもそこそこいい戦いができそうだ。

 しかし中位竜までならなんとか倒せるレベルの冒険者がアローファルコンを倒せるかと問われれば、一瞬で殺されるのではないだろうかと答えるだろう。


「我が国の1級が複数で倒す強さのモンスターか。凄まじいな」


 テイマーが巨獣に乗って戦うとしても……

 複数いても捕まって空から落とされて終わりな気がする。

 それなりに強いモンスターを使役していようと、速度で敵わなければどうにもならないモンスターだ。


「危険はありますが、獣王様もゲルマニュートさんもやれると思いますけどね」


 素早さのある獣人、それもライカン化したとなれば対処はそう難しくはないだろう。

 もちろん竜人も然り。

 ただし速度に対応できなければ命を落とすことになるので気軽に挑むのだけはやめてもらいたいところだ。


「ふふっ。我らとてライカンの力を引き出しておるのよ。遠くないうちにまた竜種とやり合いたいものだ」


「獣王様。他ノ者ニモ挑マセルベキカト。獣人ハ王族ニ二十四名モオリマス故」


「それもそうか。仕方ない、代わりに何かしらのモンスターを討伐しよう」


 ライカン化できる者が二十四人にゲルマニュートともなれば獣王国の戦力はかなりのものになりそうだ。

 おそらくは拳王国の五拳人よりも強い者が半数以上。

 武器が無くとも強靭な爪を繰り出せるうえに肉弾戦でも戦えるのが獣人、ライカンだ。

 ディーノからしても一手手合わせ願いたいところだが、獣人は全員が王族であるためこちらからは提案できない。

 獣王が一歩踏み込んでこないかと期待するものの、残念ながらそれは叶わない。


「さて、移動用のアローファルコンを捕獲できたとなれば、テイマーと使者団のみでの旅も可能となるな」


「はい。貴国のウル殿と我が国のディーノにはまた別の仕事がありますので、これにて使者団の送迎役を終えたいと思っております」


 獣王国への旅は移動さえできればディーノでなくても問題はなかったのだし当然か。

 グレゴリオが言う別の仕事はおそらくまた別の国へ行けという指示があるのだろう。

 もうしばらくは聖王国にいたいところだが、国王の命令となればそれに従うしかない。

 だが今後、オリオンがフレイリア領の色相竜に挑むまでは見守らせてほしいと願い出るつもりでいる。


「ふむ。しかし今宵は宴を用意してあるのでな。これにはオリオンも参加してもらうぞ。是非とも楽しんでいってもらいたい」


「歓迎いただき、ありがとうございます。オリオン共々我ら使者団も楽しませていただきます」


 そういえば宴を催すと言っていたか。

 このままジャダルラック領に向かってもよかったのだが、今の獣王国についても話が聞きたいので楽しませてもらおう。

 それにもう一泊できた方がライナーは喜ぶはずだ。

 ジャダルラック領に行ったら……あるのかな?

 アリスがいたためまったく知らないディーノである。




 獣王国での宴は立食形式の他国とは違い、複数の円卓が配置されてそれを囲んでの食事となり、一人一人挨拶を交わす必要がなかったためディーノとしても楽しむことができた。

 交友を深めるべくということで黒夜叉とブレイブは別テーブルとなったが、なかなかに人付き合いの上手いマリオがその一卓を大いに盛り上げていた。

 マリオの話にソーニャが食い付き、ジェラルドが湧かせてレナータが落とす。

 一番楽しそうな(テーブル)である。

 ウルとシストは獣王の卓に座らされ、少し緊張気味のシストをフォローするウルの姿は王家にも微笑ましく映っただろう。

 他国の話は王族にも真新しく聞こえ、あれやこれやと質問が飛び交う。

 使者団も二つに分けられており、使者として来た者と護衛や従者とで別卓となっている。

 使者側の卓では食事しながらでも仕事の話のようで面白味はないかもしれない。

 護衛と付き人側はというと、五拳人が戦いについて云々と語りながらそこそこに楽しそうだ。

 黒夜叉のいる卓にはディーノと親しいゲルマニュートやザハール、エレオノーラがいるため話しやすい。

 ディーノと接点のない王族もいたりもするが、以前は巨獣との融合を拒んでいたことで発言力も低かった者達も、獣人となったことで発言力を回復。

 柔らかい性格のためか強い物言いはないものの、ディーノと話をしてみたいとこの卓に志願したという。

 そしてこのテーブルの競争率は高かったのだとも語った。




 獣王国での宴を終えた翌日も笑顔のライナーだ。

 マリオ共々幸せそうでなによりである。

 ジェラルドはやはり何かが不満そうだが。


「ではオリオンの皆さん。送っていただきありがとうございました。獣王国からはアローファルコンのテイマーを一人付けてもらえることになりましたので、私共も自由に行き来ができるようになりました。情報提供にも捕獲につきましても感謝しております」


「まあ仕事なんで。役に立ったなら良かったですよ」


 情報提供は自分がやってみたいモンスターだったこともあって発言しただけであり、あの場で提案すればクエストにもなるしで一石二鳥。

 自分に利があるとすれば提案も辞さない。

 そのうえ足として使われないのは地味に大きいなと思わなくもない。

 ただ送るだけの仕事ではあるが、何日かは確実に縛られることになるため自由を望む冒険者としては息苦しい。

 とりあえずディーノが行き来した国には用事がなければ向かう必要がなくなり、聖王国で黒夜叉として活動ができる。

 今後国王からどこの国に行けと言われるかはわからないが、またテイマーの派遣もあるだろうし、どこかにいる巨鳥に目星を付けておいてもいいかもしれない。

 一体はアローファルコンにするとしてもだ。


 拳王国、精霊国の使者とも挨拶を済ませて出発する。




 マルドゥクが駆け、エンペラーホークが飛翔する。

 ジャダルラック領までは二の時ほどもあれば到着できる距離にあるため、昼前には領主邸前までたどり着いた。

 遠くから駆け寄るマルドゥクの姿は住民達からも見えており、領主邸前は多くの人集りとなってしまったが。

 邸の前では執事のエンリコが出迎えてくれた。


「お帰りなさいませ、ディーノ様。セヴェリン様は本日は隣街に向かっておりますので、夕刻にはお戻りになると思います。ソフィア様がお待ちですのでお上がりください。アリス様も、お連れの皆様もようこそお出でくださいました。どうぞこちらへ、ご案内させていただきます」


 すでにお帰りなさいと言われるディーノはどう解釈すればいいのだろうか。

 エンリコの言いようから考えるにディーノは家族、他の者は客として捉えていそうだ。

 マリオ達ブレイブは首を傾げているが、ディーノは苦笑い、アリスは満面の笑みである。


 客室で待っていたソフィアに迎えられ、ジャダルラック領を発ってからの話をしつつこれからの動向を簡単に説明した。

 詳細についてはセヴェリンが帰って来てからでもいいだろう。

 ソフィアはすでにアリスを息子の嫁として迎え入れる準備ができているのか隣に座らせ、楽しそうに再会の話に盛り上がる。

 仲のいい嫁姑のようで、ディーノの意思とは別のところで勝手に話が進んでいそうだ。

 以前伯爵邸に世話になったフィオレもソフィアには良くしてもらっており、なにやら親子のような会話が繰り広げられている。

 ブレイブは若干の疎外感を感じつつ、ディーノもなんだかなぁと他人事のように三人の様子を伺っていた。


 しばらくしてアリスとフィオレの話が合同パーティーとしての方向へ流れると、息子の嫁がお世話になっておりますと言わんばかりにソフィアがブレイブへと話を振る。

 会話が回ってくればマリオもソーニャも話は得意なため、冒険譚をおもしろおかしく語って聞かせた。

 ディーノが聞いてもおもしろいと感じるのだから、ソフィアが聞けば物語のようでさらにおもしろさを感じることができるだろう。

 ただ聞きに回っていたはずのエンリコさえも興味を持って話題に入るほどに。


「いい仲間を持ってるのね。強くて逞しくて、それでいて一緒にいて楽しい。大事にするのよ、ディーノ、アリス」


 うん、親かな?

 もう完全に親目線だなとディーノは思う。

 そして子供扱いである。

 ただ少しだけ、少しだけ嬉しく感じるのは、ディーノにも親の優しさを求める気持ちがあったのかもしれない。

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