215 行きたい
高級店ではないがここ最近オリオンが贔屓にしている酒場の個室にて。
ディーノ達使者団側と合同パーティーオリオンとの報告会兼飲み会が行われていた。
オリオンの竜種狩りの話はヴァレリオからある程度は聞いていたものの、やはり本人達からの話であればその時々の思考や竜種の動作に対する判断など、しっかりと内容の濃い話になるため盛り上がりがあって聞いていて楽しい。
ディーノが知るのは色相竜の成り掛け戦でのオリオンであり、あれからしばらく経って随分と成長したのがわかる。
オリオンの中で最も早く成長を見せたのがフィオレであり、クリティカルという追加スキルまで発現させたということで、これにディーノも興味津々だ。
条件はまだよくわからず、フィオレのステータスから器用値2800で発現するのではないかと考えているようだが、ディーノの攻撃値と俊敏値はそれを上回っていても他の追加スキルは発現していない。
器用値はまだまだ足りないため、今後伸ばしていく必要がありそうだ。
アリスについてはもともとの攻撃力の高さから色相竜にさえ通用する炎槍がある。
しかしながら長いこと伸び悩みを感じており、原因として教えられることに慣れすぎていたことや、自身の臆病さにあったのだと気付いたという。
その原因に気付けたのが上位竜との初のソロ戦であり、自身の判断と結果を戦闘履歴として事細かに語る。
一つ一つの動作から得られる情報と、自らの行動による竜種の判断、状況の変化、環境と立ち位置に加えて時間の経過による思考の加速、鈍化、様々なことが混ざり合って戦況を変えていく。
ディーノから教わった風の防壁による身の安全は大きなメリットであると同時に、攻撃に対してはデメリットでもあることに気付いたことから、魔法の使い方を工夫し始めているとのこと。
すでに指には属性リングはしておらず、ファブリツィオに頼んで胸当ての上部に風の魔核を埋め込んでもらったという。
魔核の大きさから属性剣と同じだけの出力が可能らしい。
ライナーとしてもまだ下位竜までしか戦ったことはなく、アリスから語られる戦闘履歴から多くのことが学べたはずだ。
そしてそんなアリスやフィオレがいるからこそブレイブの祝勝会兼反省会でも、自身の立ち位置やパーティーメンバーの動向に対する意識の向け方、それに対してのお互いの意見を擦り合わせることで次の戦いでの課題とし、実践と研鑽を繰り返してパーティーとしての結束力を高めている。
そして戦いの中で個々の力を伸ばしつつ、新たな可能性を探して意見を出し合うなど、マリオを主体として多くの言葉を投げかけ合う。
時には意見が別れて喧嘩になろうと構わない、相手を想うからこそ意見をぶつけ、その想いに応えようと試行錯誤する。
ブレイブにとっての戦いとは挑戦と修正、または訂正の繰り返しだ。
黒夜叉が最強たるディーノの背中を追って成長するのとは違う歩み方を、ブレイブは仲間同士で背中を押し、腕を引っ張り合いながら成長することで英雄パーティーとして恥ない姿を目指す。
かつてのオリオンにはなかったブレイブの戦いに向ける意識の高さに、嬉しさから少し涙目になるディーノの姿があった。
そしてウルは久しぶりに会ったシストからオリオンでの活動を聞きながら酒と料理を楽しんでいる。
シストはテイムするモンスターがエンペラーホークということで、地図と現在地を照らし合わせるのが難しいらしく、目的地となる依頼場所を絞り込むのにいつも苦労しているとのこと。
目的地が街などわかりやすい場所なら問題ないが、依頼にある目的地は◯◯領地の方位◯◯に距離にしておよそ◯◯の地点にある洞窟などという歩いて探しても確実ではない指示であるため、空からでは更にわかりにくい。
その日の風向きや風速からエンペラーホークの飛行速度を計算して距離を計りつつ、地図と方位磁針を見ながら向かう方向を微調整することでおおよその位置に当たりをつけ、旋回しながら目的の洞窟を探すなどといった工夫をしているらしい。
依頼書に書かれた方位もいい加減なものが多く、歩きや馬車で向かった場合でも目的の洞窟を探すことになるのだが。
本人は戦闘に参加できないことを申し訳なく思っているそうだが、飛行モンスターのメリットは目的地到着までの時間短縮と他のモンスターとの戦闘回避にあるため、オリオンへの貢献は充分にできていると思う。
さて、クラリスからも丁度いいモンスターがいないって聞いてるし、合同パーティーオリオンの成長も確認できたし、やるかやらないかだけ一応聞いてみるか。
「お前らさぁ、上位竜までの戦闘にはそこそこ慣れたみたいなんだけど、そろそろ次のステップに進めたいってクラリスから相談されててな?」
相談されたわけではなく色相竜に挑ませたい、その前に別の強敵と戦わせたいと聞いただけだが。
「訓練と思ってマルドゥクとやってみないか?」
「やらせないが?」
オリオンが答える前にウルが拒否をした。
拳王国では拳王相手にもやらせてたのにここにきて突然の拒否。
ディーノにとっては驚きである。
「仮にやったとして、俺が寄生してても武器で斬られたり刺されたりしたら今のマルドゥクは本気になると思う。打撃だけでやるならまだしも本気で殺す気になったマルドゥクを止める自信はないからな」
そうなのだ。
マルドゥクは色相竜である風竜と戦ってからはウルのパラサイトに抵抗し、寄生状態にあっても一時的に自分の意思で戦うことができる。
一つの体に二つの意思が混在することになるが、マルドゥクが興奮状態になると肉体の支配権を奪い返されてしまう。
そのおかげで魔法スキルを発動できるというメリットはあるとしても、完全に制御できないとなればリスクは冒すべきではない。
それなら打撃で……と考えたがそれは無理だろう。
マリオはスラッシュが使えなくなりソーニャの打撃ではダメージは通らない。
アリスも炎槍は使えずフィオレやレナータは弓矢を武器とする。
だからと言ってジェラルドだけ戦わせるでは、素早さがないぶん頭からガブリとやられてお終いだ。
残念ながらマルドゥクを訓練相手にするなら拳王国の者が適切ということか。
「じゃあ……ダメってこと……?」
「ダメだろう、人として」
「え、じゃあ、どうすれば……」
「ジャダルラックの危険領域かマルドゥクの捕獲場所から先の山の中でどうだ」
危険領域はSS級パーティーでも苦戦する高難易度モンスターの巣窟だ。
今現在はティアマトもおらず、天敵となるモンスターがいない状況であれば弱者である人間に対して休むことなく襲いかかってくるだろう。
ラウンローヤの先にある魔鏡よりも高難易度モンスターが多く、色相竜に挑むとするなら危険領域の踏破できるだけの実力が欲しいところだ。
マルドゥクの捕獲場所より先となると、拳王国に行く時に絡んできたモンスターが思い出される。
マルドゥク相手に向かってくる個体ともなれば相当な強さのはずであり、それが群れで襲って来るとすれば苦戦するのは間違いない。
「なるほど。いいかもしれない」
「うん、お前らで勝手に話進めんな。説明しろよ」
ウルがあまりにも早く拒否したため話に入れなかったが、これはマリオ達オリオンの話である。
オリオンがどこで何をするかを勝手に決められても困るというもの。
ディーノは昨夜クラリスとヴァレリオから聞いた話に加え、紹介してもらえる竜種がいないのであればとルーヴェベデル獣王国への同行を提案してみた。
ジャダルラック危険領域であれば行く途中にあり、行きでも帰りでも踏破に挑戦すればいい。
以前、黒夜叉はアークトゥルスと共に危険領域に侵入したことがあるものの、ディーノが先頭を進んでいたことやティアマトが暴れ回ったことで、本来の危険領域の姿を知らない。
マルドゥクの捕獲場所、名もなき大地より先の山ともなればまた話は変わってくるが、ジャダルラック危険領域であれば行動を共にできる。
「いいのか!?俺達も獣王国に行っても!」
「一応国王様に許可はとるけどな」
「お前らも行きたいよな!?」
マリオの問いかけに全員が「行きたい!」と答え、アリスは「ディーノと一緒に行ける〜」とはしゃぎだした。
こうして獣王国行きを決めた結果、久しぶりの再会の夜は日が変わる時間まで盛り上がった。




