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追放シーフの成り上がり  作者: 白銀 六花
210/257

210 フェリクス

 さて、拳王のいる観客席から降りて来たフェリクスとケルツだが、師であるイルミナートが敗れたことで怯えを見せるかと思ったが、真剣な表情をして戦意を漲らせている。

 対してケルツは師があっさりと倒れたことで、自ら望んだディーノとの戦いを前に戦意を失っているような状態だ。

 本日最後の戦いがケルツで大丈夫なのかと思わなくもない。

 闘技場に上がって来たフェリクスと向かい合い、構えをとって開始の合図を待つ。


「フェリクス。観客を気にする必要はない。訓練と同じく全力で来い」


「よろしくお願いします」


 審判のかけ声と共に裂帛の咆哮をあげつつ駆け出したフェリクス。

 ポヨポヨの防壁の最大強度でフェリクスの拳を受けつつ、その拳打の回数を数えていく。

 回数を重ねるごとに鋭くなっていく拳打ではあるが、マルドゥクとの訓練でステータスを上げ続けた今では二十もあればディーノに届く。

 通常戦闘時の強度よりも高い防壁でさえ貫かれるとなれば、ステータス的には五拳人を上回るほどまで成長している。

 ディーノの見立てでは対人戦への手加減があるためフェリクスは五拳人には勝つことはできない。

 しかし全力を振える状態であれば以前のイルミナートを上回る力を発揮することも可能だろう。


 拳打が二十を数えた直後にフェリクスからの左上段蹴りが振り向けられ、拳打よりも重い一撃は防壁があろうとディーノの首を打ち据えるのに充分な威力を持つ。

 咄嗟にユニオンで防御姿勢をとるも、膝を折って回転速度を上げた状態からの後ろ回し蹴り。

 一拍の間が空いた上に予想よりも重い蹴りがユニオンに打ち付けられ、ディーノの体ごと押し除けられた。

 肉体的には完全なパワー型の体型をしていながらも、ディーノを見てきた影響か変則的な技も繰り出すようになっている。

 そしてマルドゥクという超常のモンスターとの訓練もあってか、体型に見合わないような体運びをするため次の動作も早い。

 足を地面に下ろしたと同時に地面を這うかの如き前傾姿勢でディーノへと接近、体勢を立て直す前に仕掛けなければ攻守が入れ替わってしまう。

 ディーノもこれに判断を迷い、防壁を足場にして回避すれば足に一撃もらう可能性があり、このまま左右の剣で受ければフェリクスのウォーリアの威力を引き上げさせてしまう。

 このまま防壁を広げて距離を維持するという手もあるが、戦いとしては面白味を無くしてしまう。

 やはりフェリクスの最大出力まで発揮させてやるべきだろうと、フェリクスの拳打や蹴りを左右の剣で受け止める。

 速度でいけばディーノのステータスがまだまだ上だが、フェリクスのウォーリアは攻撃という一点においては速度も上昇する。

 素早さに特化したディーノを相手にフェリクスの打撃も回数を重ね、すでにライトニングによる身体能力向上をさせなければ耐えられないまでに威力は上昇。

 オリオンのチート能力の一つであり、ディーノの魔力値から身体能力的にはステータスの最大で三割増しといったところか。

 ディーノの出力上昇も段階的な調整が可能となり、ライトニングによる身体能力上昇で三割、次にギフトで五割、そして身体能力上昇とギフトの重ね掛けで最大九割まで可能だ。

 しかし打撃数などすぐに回を重ねてしまうことから身体能力向上のみでは耐え切れなくなり、正面からの力を受け流しつつまともに受けそうなものは爆破や雷撃で相殺。

 ほんのわずかな時間で七十発を超え、ディーノは爆破を利用して距離をとる。

 ディーノとしてもウォーリアスキルの出力上昇はここまでがサービスだ。

 残り十数発が最大の威力を発揮するため、フェリクスの実力を測るとするならここからが本番となるだろう。

 フェリクスとてディーノの胸を借りるつもりでウォーリアの上限開放を進めたのだ。

 ここで距離をとったのならディーノからの攻撃が始まるのだと考えていい。


 防御に回れば通常ステータスで耐える必要があり、防御動作さえも攻撃という手段で対抗すれば攻守をひっくり返すこともできる。

 戦闘勘がモノを言う部分かもしれないが、フェリクスとてここしばらくマルドゥクとの戦いを繰り返してきたのだ。

 巨大だというだけでその速度は尋常なものではなく、ディーノを目で追い切れさえすれば対処のしようはある。


 ウォーリアスキルにより体が一回り膨らんだフェリクスが構え、それをモンスターかよと思いながらも双剣に魔力をチャージするディーノ。

 ここまで上限開放すれば今のイルミナートよりも厄介な相手だ。

 スマッシュを連発できるとなれば……もしかすると通常技だけのザックと戦うようなものかもしれない。

 うん、兄貴はやっぱり異常だなと思うしかない。


 獣のような唸り声をあげるフェリクスに、双剣を順手に持ったディーノが一歩二歩と前へ出る。

 そして距離を測って歩を進めていたディーノは一足でフェリクスの眼前へと躍り出る。

 身構えていたとしても反応が追いつかないディーノの急加速に、フェリクスは防御姿勢をとるも雷撃により意識を飛ばすかと思えるほどの衝撃を感じながらも後方へと弾かれる。

 ここで意識を飛ばすどころか戦意を失った瞬間叩き伏せられると判断したフェリクスは、追撃に向かってくるディーノに対して右拳を振りかぶる。

 そして当然の如く振り向けられるユニオンに速度の増した右拳を叩きつけ、爆破を相殺しようとするもわずかに押し負ける。

 ここまで上限開放してもまだ威力で劣ることに歯噛みしつつ、地面に足を滑らせながらも前へ出ようと拳を握りしめる。


 しかしここからディーノは空間多角攻撃へと戦法を変え、これまでフェリクスも受けたことのない縦横無尽に駆け回るディーノからの全方位攻撃が繰り出された。

 師であるイルミナートはこれをすべて捌いてみせたが、フェリクスにはそこまでの技術も経験もない。

 それでも今持てる最大限の力を持ってディーノの一撃を受け、躱し、上限開放とはならないまでも牽制のための拳を振るい、体に多くの傷痕を残しながらも全方位攻撃に耐える。

 ディーノの体力を考えればフェリクスが力尽きるまで続くだろうこの攻撃にどう対処するべきか。

 自身の能力が一切足りていないこの状況で何ができるか。

 ディーノも双剣による打撃を打ち込んで来てはいるものの、魔力のチャージをしているためか爆破も雷撃も打ち込んではきていない。

 むしろフェリクスの全力の一撃に備えるためチャージをしているのかもしれない。

 すでに全身に打撃を浴びているが、まだ倒れずに戦えているのは……

 そうだ、これまでの訓練ではマルドゥクを相手に毎日叩き伏せられ、痛みにも耐え、何度も打ち据えられては立ち上がってきた。

 ディーノの攻撃の重さ自体はマルドゥクほどではなく、爆破も全力ではないためか肉体が爆けるほどではない。

 ガードしたとはいえ先程の雷撃も耐えることができたのだ。

 ここにきて自身の耐久力が相当なものになっていることに気が付いた。

 おそらくは防御値であればディーノより劣るが、耐久値では上回っているのではないか。

 フェリクスもディーノも知らないことではあるが、聖王国と拳王国とではステータスの表記が違うため、耐久値は拳王国でしか表記されていない。

 それでも受付嬢が評価値を算出する前のすべてのデータを見れば書いてあるのだが。


 自身の耐久力を信じてディーノの打撃を受けながらも全力の拳を地面に叩き付けた。

 石畳を砕いて破片が飛び散る中、ディーノが一瞬怯んだところを目掛けて左の拳を繰り出す。

 スマッシュに匹敵する強力な一撃であり、ディーノとてただ受け止めるでは威力に耐えられない。

 爆破を持ってこれを受け、続く右の拳をライトニングで受け流す。

 そのままフェリクスの懐に潜り込むようにして回転したディーノの右袈裟が直撃し、後方へと弾き飛ばされ転がっていく。

 全力で拳を振り抜いたところへの首筋への一撃だ、並大抵の者では耐えられないはずだが……フェリクスは立ち上がった。

 血を吐き咳き込みながらも体を揺らして前へと進む。

 仮とはいえそんな教え子の姿にディーノも全力で応えようとライトニングに魔力をフルチャージ。

 ユニオンに貯まった魔力量は多くないものの爆破加速には充分だろう。

 身体能力向上三割での全出力攻撃ともなれば上位竜すら一撃で殺せる威力だ。

 ゆらゆらと歩み進むフェリクスに向かって爆音とともに駆け出した。

 フェリクスの全力の拳とディーノの加速からの雷撃が正面からぶつかり合い、威力で勝る一撃がフェリクスの体を弾き飛ばし場外にある壁面へと叩き付けた。

 立ち上がった時点でほとんど意識を失った状態だったのだ、上級回復薬でもすぐに意識を取り戻すことはないだろう。


 これまでウォーリアスキル持ちと蔑まれ、無力な王子として知られていたフェリクスの意地と根性、努力の結果がここまでの試合を可能にした。

 師であるイルミナートにも劣らない戦いを見せたとすればこれまでの評価も覆らないはずがない。


 そしてウォーリアスキル持ちとフェリクスをよく思っていなかった拳王も……


「フェリクス。其方を息子に持てたこと、誇りに思うぞ。スキル一つで見誤っていた愚かな父を許せ」


 考えを改めたようだ。

 一般の者であればただの詫び一つ、しかし国の王ともなれば何よりも重い言葉だ。

 これを機に接し方も変わればいいなとディーノは思う。


「そしてケルツよ。其方とディーノの戦いは要らぬ。フェリクスであれば精霊国に婿入りさせてとて何も恥じることはないのでな」


 何よりこの戦いの後にケルツが相手では興醒めもいいところだろう。

 ただ第四王子に恥をかかせるだけの戦いは必要ない。

 ケルツも自身の結果が予想できるだけに「はい」と従うしかないようだ。

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