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追放シーフの成り上がり  作者: 白銀 六花
209/257

209 天華五拳人

「我こそは拳王国天華五拳人が一人!ウェイハ……」


 ……


「この俺は天華五拳人最強の……」


 ……


「私が天華五……」


 ……


「天華……」


 ……


 うん。

 以前戦ったイルミナートより強いかもしれない奴もいたけど予想の範疇かな〜。

 それとライナーには五拳人最強を騙った男の相手をしてもらったが、装備の素材がよく剣士と戦わせても問題ないだろうと思って挑ませてみた。

 ライナーは血を吐き体中に青あざをつくりながらも挑み続け、対する五拳人も対刃素材の装備を身に付けながらも打撃として剣を受けたことにより満身創痍。

 結果は格上が相手ということもあって負けてしまったものの、強者との対人戦の経験が少ないライナーであれば大健闘と言ってもいいだろう。

 自称五拳人最強の男もこの戦いに満足し、上級回復薬で体を癒したライナーに手を差し伸べて称賛していた。

 精霊国使者団も戦う力のない召喚者と聞いていたライナーがここまで戦えるとは思っていなかっただろう。

 下位竜と戦えるだけの実力があるとすれば接近戦が基本の者からすればなかなかの試合、精霊国のように遠距離戦が基本の者からすれば相当に見応えがあったはずだ。

 だがディーノの戦いはどう映っただろうか。

 以前のイルミナートの時のように空を駆けることなく地上戦で挑んだのだが。

 少しだけ慣れてきた双剣での戦いは、片手剣に比べて手数が倍近くになることから拳士よりもリーチがある分有利に立ち回ることができる。

 思いがけず一人目を圧倒してしまったが、クレート戦での経験がディーノの戦闘知覚を大幅に跳ね上げているようだ。

 ファントムにステルスを重ねた完璧な幻影スキルとの戦闘は、ディーノの予測と観察、反射、判断を持ってしても完全には防ぎきることはできなかった。

 しかしながら命懸けともなる戦闘はその全てを高め、反応速度に大きく影響を与えている。

 五拳人との戦いではディーノ自身も驚くほどの反応をみせ、理想に近い戦い運びが可能だったのだ。

 それこそ眼前に向けられた拳を加速しながら躱せるほど、そのまま剣で薙ぎ払えるほどに。


 ここまで四人との戦いを終え、最後はイルミナートとの戦いが残っている。

 拳王国に戻って来てからまだ言葉を交わしていないが、五拳人として拳王国側に立つのは当然だ。

 ディーノのアドバイスもあってか、実戦を多く経験してきたことで以前とは別人のような雰囲気を醸し出している。

 闘技場に一礼してあがると、以前より野生味を帯びた笑顔を向けて話しかけてきた。


「さらに強くなったようだなディーノ」


「イルミナートも相当腕を上げたんじゃないか?」


「お前を見るとまだまだ足りないと思わせるがな」


「オレも結構強くなったからな」


「拳士として相応しくないが全力で挑ませてもらう。手加減などしてくれるなよ?」


 イルミナートはそう言うが精霊魔法まで使用しては体が耐えられないだろう。

 ディーノとて魔鋼製武器を双剣として持っていたからこそある程度は耐えられたのだ。

 拳士であるイルミナート相手ではリベンジこそ使えないものの、ウィザードシーフセイバーとしてのディーノの強さは拳王国の常識の範疇にはない。

 双剣、風雷魔法を使用するディーノは以前戦った時の比ではないほどに強くなっている。

 双剣への鞘の固定を確認して準備は整ったようだ。


「死ぬなよイルミナート」


「来い」


 試合開始の合図と同時に、距離を見誤るほどの速度で接近したディーノからの逆手の右薙ぎを伏せるように躱しつつ、腹部への右拳を振り向けるイルミナート。

 地面を蹴って跳ね上がったディーノは、上空で防壁の足場を展開してイルミナートの背中目掛けて接近、左剣を垂直に振り下ろす。

 これを後ろ回し蹴りで背後へと受け流し、地面に着地したディーノはそこから防壁を足場にして縦横無尽に空間多角攻撃を仕掛ける。

 一つ受けてもすぐに新たに剣を振り向けられ、何度か体を掠めながらも無限に続くかと思える連続した攻撃を全て捌くイルミナートの成長は目を見張るものがある。

 このわずかな期間にどれだけのモンスターと戦ってきたのか、死線を潜ってきたのかわからないほどに経験を積んでいる。

 ディーノでさえ自身を追い込むことはあっても計画的にクエストをこなしてきたため、無理のある成長をしているわけではない。

 受付嬢であるケイトやエルヴェーラから、その時のディーノに必要なモンスター討伐を紹介してもらえることで効率的に成長してきた。

 竜種すらも圧倒できる強さを得てようやく自身の判断で戦うことをするようになったため、ここ最近では黄竜やティアマト、マルドゥクにクレートとも戦うことにもなった。

 その中でも圧倒的に強かったのがクレートだったこともあり、上限に近い実力となったにも関わらず更なる成長を遂げている。

 格下相手に戦ったところで得られる経験は少なく、ここからの成長がまた難しいのだが。


 このまま多角攻撃を続けたところで戦況は変わらないと、ディーノはユニオンに魔力を流し込むと地面を滑るように接近しながら爆破を叩き込む。

 攻撃動作が変わったことに気が付いたイルミナートは防御姿勢をと考えるも、危機を察してスキルを発動。

 爆破とスマッシュとがぶつかり合い、その威力が拮抗したかと思った直後、ディーノの右脇腹へと激しい衝撃が走り、イルミナートの右方向へと殴り飛ばされた。

 ディーノの予測を上回るスマッシュの二連撃が繰り出され、コンパクトに叩き込まれたことやポヨポヨの防壁の緩和によってダメージとしてはそれほどでもない。

 そしてイルミナートもこのスマッシュの二連撃はディーノ攻略にと用意していたらしく、うまくディーノの爆破に合わせて発動したからこそ腰の回転のみで体への負担を少なく繰り出すことが可能だった。

 強引に二連撃を放てば体の筋繊維が引きちぎれて戦闘の継続が難しくなる。

 拳打の速さに特化させたスマッシュだけに威力は落ちるものの、ディーノの防壁を貫通できるとすれば戦いようはある。


 脇腹を押さえたディーノが地面を一回転しながらも立ち上がり、互いに視線を向け合うと自然に笑顔が溢れてしまう。

 相手が強く成長している喜びと、それに自身が相対できる喜びとが混じり合い、全身鳥肌が立つほどの高揚感に満たされる。

 しかしイルミナートとしては一手ディーノの予想を上回れただけであり、ここからが正念場となるだろう。


「じゃあ行くか」と呟いたディーノの体から放電現象が起こり、次の瞬間爆音を置き去りにして一瞬で距離を詰めたディーノからの左薙ぎ。

 これにスマッシュの待機時間となるイルミナートはしゃがみ込みながら手甲で上に滑らせるようにして受け流すも、反応が間に合わず体ごと押し負けた直後に額への膝蹴りが炸裂する。

 そのまま宙を舞い地面に落ちるのを待ってくれるディーノではないと判断したイルミナートは、左手甲も重ねて次の攻撃に備えると、当然の如く振り下ろされた順手のユニオンを受けて地面へと叩きつけられた。

 息が肺から漏れるもまだガードを緩めるわけにはいかない、防壁を蹴ってイルミナートを追ったディーノからの加速度と全体重を乗せたライトニングによる叩きつけ。

 右手甲が砕けた感触があるもののこのまま嬲られるわけにはいかないと、ディーノの背中目掛けて右蹴りを振り上げる。

 それを瞬時に回避したディーノと蹴りの反動を利用して立ち上がったイルミナート。

 足が着地する瞬間に切り返したディーノの左薙ぎに手甲の壊れた右拳を合わせ、ダメージ覚悟でそのまま左脇腹に蹴りを見舞う。

 右腕が使い物にならなくなるものの、ディーノの攻撃の瞬間の防壁が薄くなる斬撃側を蹴り込んだことにより一拍の間が空いた。

 ディーノとイルミナートの距離にして歩幅十歩分足らず。

 虚空を突くイルミナートの中距離スマッシュが打ち出され、ディーノはわずかにチャージされたユニオンで払い除けるようにして爆破。

 相殺するまではできなくとも威力を抑える事はできた。

 イルミナートは全力で放ったスマッシュ後の硬直で動けず、その余波となる爆風を感じた瞬間に雷撃を叩き込まれて地面に倒れた伏した。


 ほんのわずかな戦闘時間でしかなかったものの、素早さを極限にまで高められたディーノとの戦闘ともなれば決着などほんの一瞬のようなもの。

 しかし戦闘の激しさから観客も声を上げることなく魅入っていた。

 審判でさえも決着の判定を下すことすら忘れてしまうほどの戦いだった。

 なにより決着後のディーノの姿は脇腹を押さえ、右頬には爆風で相殺しきれなかったスマッシュの傷跡を残している。

 以前行われた親善試合に比べてもわずかな時間だったとはいえ、内容だけ見ればイルミナートの成長は誰の目にも疑いようのないほど著しい。

 他の五拳人との戦いが霞むほどの戦いをイルミナートは見せてくれた。


 雷撃のダメージを残しつつも、医療班から受け取った上級回復薬を飲み干したイルミナートが立ち上がり、ディーノと向かい合って一礼して試合を終える。

 観客席からは割れんばかりの拍手が鳴り響いた。


 そしてこの戦いに満足した拳王が立ち上がり、イルミナートへと労いの言葉を投げかける。


「更なる高みを歩むディーノ=エイシスを相手によくぞ戦い抜き、其方の弛まぬ鍛錬の成果を存分に見せてもらった。見事であるぞ、イルミナート=モッサーリ」


「はっ。勿体なきお言葉にございます拳王様」


 同じ相手に二度目の敗北とはいえ、遙か格上ともなるディーノが相手では誰も不甲斐ないなどと思うことはないだろう。

 ディーノは単独で色相竜すらも討伐できる規格外の戦士であり、多数で色相竜に挑む拳王国の拳士とは隔絶する強さを持つ。

 拳王も実力こそ五拳人を遥かに上回る強さを持つとされるが、その立場から単独で色相竜に挑んだことはない。

 そんな規格外の戦士を相手に手傷を負わせることができただけでも、賛辞の言葉を投げかけるに充分な結果と言えるだろう。


「それに引き換え他の五拳人はどうしたのだろうか。以前のディーノの戦いを観て何を感じたのだ?まさか何も感じなかったなどということはあるまいな」


 イルミナートの前にディーノと戦った五拳人は何も言い返すことはできないだろう。

 天華五拳人となった時点で実力的には以前のイルミナートとそう大差はなかったはずであり、ディーノとの戦闘から急成長を見せたイルミナートとの努力の差は歴然である。


「……ふん。これを機に其方らも鍛え直してみよ。我に失望させてくれるな、期待させてみよ」


 負けた者を責めたところで何もならないことは拳王もよくわかっている。

 イルミナートの成長を見た今、同じく天華五拳人まで上り詰めた男達がこれからどう伸びていくかを期待した方が国としても有益だ。

 なにより五拳人も自分達に期待をしてほしいと願うのが部下の当然の思いでもある。

 悔しいと思う以上に今までの自分に満足していたことを恥じ、拳王の期待に応えるべく表情を整えて一礼する。


「さて、ディーノよ。双剣に風雷魔法ときたか。其方はまた強くなったようだな。して、ケルツとフェリクスの二人とも戦ってもらうことになるが……しばらく共にいたフェリクスとて手加減は要らぬぞ」


「もちろんです拳王様。ただ最初はウォーリアスキルの出力を上げるためフェリクスに先攻させますけど、そこは構いませんか?」


「未だ誰にもわからぬウォーリアスキルなのだ。見せてもらおう」


 手加減するなと言われても最初から全開のディーノが攻めた場合には一方的な戦いになるため、ウォーリアスキルを見せることが難しい。

 打撃数二十を過ぎたあたりから速度も威力もバフが掛かっているかの如く伸びていく。

 ディーノのギフトが全ステータスの五割り増しなのに対し、ウォーリアは打撃数二十で攻撃の速度と威力だけなら約四割り増しといったところか。

 今現在の最大上昇数である八十発付近ともなれば通常時の三倍近くまで上昇するため、スマッシュの連撃と思えるようなラッシュも可能だったりする。

 モンスターとの戦闘を繰り返してステータスを上昇させていけば、恐ろしいほどの能力を持つスキルであると言えるだろう。

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