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追放シーフの成り上がり  作者: 白銀 六花
205/257

205 ルビーグラスに任せよう

 夜のクエストに出ることはあっても徹夜明けに何かするなんてことはこれまでなかった。

 なんていうか、酒に酔ってるみたいに思考が回らないけど、襲撃者をどうにかしないと安心して寝ることなんてできない。

 アルヘナの連中はもう寝てるし縛ったまま転がしておけばとりあえずいいか。

 ペインで体中ボロボロだろうし逃げたくてもまともに動けないはずだ。

 念のためロザリアに縛り直してもらったら、レッドベリルを連れてルビーグラスの泊まってる宿に向かおうか。

 昼過ぎだしどこかに出掛けているかもしれないけど。

 ボソッと口に出したら、クエストから帰った次の日は宿で一日中休んでいるとヴァンナは語る。

 何となく宿で彼らは何しているのか聞いてみたところ、一人一人事細かに説明してくれた。

 誰それは筋トレしているだのどこの筋肉が素晴らしいだの、え?尻?尻って何だっけ、頭が回らない。

 他にも何とかの本を読んでいるだのその内容について共に語り合いたいとか、現地で買ってきた甘味を食べているだのこっちの甘味も食べてもらいたいだの何かいろいろ話が長い。

 でも聞いてるとなんだろう、追っかけの娘達っていうかあれなんて言うんだったかな……えーと、ああ!ストーカーだ!

 でもこの女はマンフレードが好きなんじゃなかっただろうか。

 まあいいや、眠い。




 ルビーグラスの泊まっている高級宿で知り合いだと呼び出してもらおうとしたが、来客の取り次ぎをしないよう言われているらしく断られてしまった。

 じゃあどうすればいいんだ。

 全員逃すことなんて考えられないし、自分達の保護もしてもらわないと安心して寝られない。

 もう押し通るか。


「じゃあルチアとロザリアが襲われたってだけ伝えてくれないか?このままだとあんたらも危ないから」


 おや?

 ロザリアの方がまだ頭がまわるのか。

 あんたらも危ないってルビーグラスなら問題なく対処できると思うけど。

 もちろんロザリアが言う危ないのはルチアの判断力のことだが。

 このままだと一般人であるこの受け付けの男にペインを発動しそうである。

 目が座ったルチアは前傾に身構えており、今にも飛び掛かりそうな雰囲気だ。


 ロザリアの言葉を察した受け付けの男は「伝えるだけですよ」と言って後ろにいた男を遣いに出した。




 それから少しして。


「襲われたと言うが大丈夫なのか?」


 宿のロビーにあるソファで眠さに耐えているルチアとロザリアに声を掛けたのはリーダーであるマンフレードだ。

 一緒にドナートもついて来たようだが、奥にいるレッドベリルを見て警戒を強めている。


「ああ、見ての通り怪我とかは無いんだけどさ。いろいろと面倒なことになったからルビーグラスに助けてもらいたくて」


「彼女ら、レッドベリルに襲われたということか?」


「夜中にね。寝込みに襲撃して来てアルヘナの連中も連れて来た」


 アルヘナとの絡みはないがAA級冒険者パーティーであるためマンフレードも知っている。

 ここ最近パーティーを二分したとも聞いていたが詳細までは知らない。


「何があったのか聞かせてもらいたい」


「聞いてくれるなら助かる。できればルチアは寝かせてやりたいんだけど……」


 ルチアの眠気がロザリアよりも強いのは、スキルの使用による疲労が大きいためだ。

 昨夜から昼まで待機時間が過ぎるたびにスキルを使用していては体が保たないのは当然だ。


「んん……仕方ない。私の部屋に案内しよう。ベッドを使ってくれて構わない」


「ありがとう。もう限界っぽくてさ」


 ルチアの緊張の糸が切れたのか、ここで意識を手放した。




 呼び付けておいて悪いが部屋までルチアをドナートに運んでもらった。

 マンフレードの方が力はあるとしても、好意を寄せているコントロールスキル持ちのヴァンナが何をするかわからなくなる。

 それにドナートはクレリックセイバーであり、疲れ切ったルチアの体力を癒してくれるだろう。


 本当に一人部屋なのかと疑うくらい広い部屋に案内され、ルチアをベッドに寝かせてやった。

 毛布を被るなり「男臭い」と溢したことはマンフレードには黙っておこう。

 男なのだからしょうがない。

 この間、マンフレードはジョルジョとウベルトを呼びに行き、全員で話を聞いてくれるようだ。

 そしてレッドベリルはというと、ヴァンナはマンフレードの部屋だといたるところの匂いを嗅ぎ、何か飲んでいたであろうグラスに手を伸ばしてみたりとするものの、ロザリアが睨みを利かせて奇行に走らせないよう警戒していた。

 他の三人はどんな処罰を受けるのかと怯えており、ロザリアもこの後厳しい罰を与えるべきだと同情するつもりはない。

 ロザリアは一人掛けのソファに座り、対面にはマンフレード、両脇の長椅子にはルビーグラスとレッドベリルが対面に座る。


「では昨夜何があったのか聞かせてくれ」


「まずは一時的にでも保護してくれてありがとう。昨夜の出来事とあたしらの考察も交えて話させてもらう」


 擦り合わせをしたわけではないのでロザリアとルチアで違いがあるかもしれないが、長い間一緒にいることもあって大体のことはわかる。

 宿に帰ってからルビーグラスへの加入を諦めない方向で話をしたことや、ルシアンで感じたレッドベリルへの不信感からくる警戒から、夜の襲撃があるかもしれないと備えていたことをまずは説明。

 ギルドの密偵かもしれないという疑いについては驚いていたが、実際に二人はギルド職員でありレッドベリルの犯罪にも加担している。

 そして真夜中にベッドに横たわるルチアに近付いたイルダをペインで返り討ちに。

 窓の外から監視していた女をロザリアが追い、その先で待ち構えていたアルヘナの二人と交戦して捕縛したこと、同時に女も捕らえたこと話すと、A級冒険者二人を相手に殺すことなく倒すことができるロザリアにまた驚いていた。

 それはルチアも同じであり、ロザリアが見たわけではないがアルヘナの残る二人とレッドベリル二人の計四人を相手に、暗闇の中でも圧倒したとなれば難易度はルチアの方が高いかもしれない。


 そこからはルチアの拷問について説明したが……ルビーグラスも引いていた。

 レッドベリルはあの光景を思い出して震え出した。

 ヴァンナとイルダは涙が溢れ出る。

 それはそうだろう、あんな可愛らしい娘が涙を流して怯える女相手に拷問なんてするもんだから。

 強がる屈強な男を縛ったうえで激痛に悶える姿を見下ろしてるんだから。

 ロザリアだって最初は引いた。

 でも慣れた。

 慣れって怖しいなと思う。

 出力についてはロザリアもよくわからないが、ルチアが何かしらの調整をしながら試してるんだろうなとは感じていた。

 なんか楽しそうだったし。

 ルチア怖い。

 でもその後の投げやりな態度の拷問も酷かったな。

 眠かったのはわかるけど淡々としていて、はい次、みたいな感覚で拷問していくし。

 最後にヴァンナにやった低出力?のペインの時はやばかった。

 恍惚としていて別の意味で怖かった。


 そのあとはヴァンナの自白だ。

 ルチアが尋問したようにロザリアも問いかけて自白させるだけ。




 悪びれもせずツラツラと語るヴァンナの言葉に、ルビーグラスは頭を抱え込むことになった。

 問題を起こしてるのはレッドベリルではあるが、ギルド長も、日頃お世話になっている大商会も、果てはマーカーズ伯爵も絡んでるとなればマーカーズ領全てが問題だらけだ。

 そこに被害者がいるとなれば領主諸共犯罪者集団の街である。

 そして原因として自分達ルビーグラスがあるとなれば堪らない。

 ロザリアとルチアにこうして暴かれなければ知る由もなかった、できれば知りたくなかったところだが、被害が拡大するより期間がまだ短いだけマシと考えるべきか。


「うぬぅぅぅううう……困った。とりあえずアルヘナを連れて来て衛兵に預けるとして、他は何から手を付けていいか判断に悩む」


「出来ることから始めるしかないだろな。まずは見つかりやすい娼館から助け出すとか」


「でも衛兵に預けて信用できるか?伯爵の部下だと思うけど」


「そこは俺ら勲章あるし直接命令すればいい。ルビーグラスの許可無しに出すことは許さないとかさ」


 よし、ルビーグラスに話を預けたんだからもう大丈夫だろ。

 ロザリアもそろそろ眠さが限界で彼らの話合いが進む中で目を閉じた。

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