204 平和の代償?
日差しが眩しい外の景色を眺めるロザリア。
その横でイルダは一緒に外の景色を楽しんでいる。
手には宿で用意してもらった調理パンを持ち、それを頬張りながら現実から思考を逃避させていた。
すでに時刻は昼である。
ポカポカ陽気に徹夜組はお眠である。
そして部屋の中では。
「ひっぐぅううっ!!んあっあ゛ぁ゛あ゛っ!!」
「ねぇそろそろ吐いてくれない?もう眠くなってきたんだけど。アルヘナも眠さと拷問で意識手放しちゃってるんだけど」
洗脳女を相手にまだ拷問が続いていた。
そして一緒に捕まっていた残りの女達は拷問に苦しむリーダーの姿に震え上がっている。
「貴女達にも同じ回数痛みを与えるから」
目を覚まして掛けられた言葉がこれだ。
自分達も身動きがとれないよう手足を縛られ、同じように手足を縛られて地面に転がるアルヘナの男達。
目の前で続くスキルによる拷問。
ある程度いい生活を送っていた彼女達の前に突き付けられる地獄絵図。
ペインを受ける前だというのに涙を流し、まだ幼さの残る美少女の一挙手一投足に怯えていた。
「次、低出力だけど。眠いし持続時間いっぱいでいいか」
高出力は五割から初めて一割ずつ上げていって最高出力まで。
そこからまた一割ずつ下げてきて五割まできたから次は最低出力からなのだが。
「低、出、力?……ヴァンナ様!?危険です!発狂してしまうかもしれません!」
ロザリアの横で現実逃避していたイルダから声があがった。
この洗脳女はヴァンナという名前らしい。
「ああ……だ、ぅう……負け、なひぃ……」
「全身を虫が這い回るような感覚に襲われるんですよ!?それも体内からも!本当に耐えられますか!?」
そんな感覚初めて聞いた。
体内に虫を這わせた経験があるのだろうか。
まあ聞いていて気分のいい内容ではないが。
「両耳の奥で虫が蠢いていると想像してください!!」
やめてほしい。
嫌な夢をみそうな話をしないでほしい。
「るびぃ、ぐラスは……私の、もの」
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執着心は相当なものだし逝ってみようか。
強がるヴァンナに最低出力のペインを発動。
あ、これはマズい。
猿轡をしてないから狂ったように叫ぶし笑い転げる。
これが発狂するということか。
年頃の女性が見せていい姿ではないな。
縛ってなかったら暴れ出しそうだ。
あまりの醜態にスキルを途中で解除したが、煩すぎると宿の主人から苦情が届いた。
こちらとしては部屋に忍び込まれてるんだから逆に文句を言ってやりたいところだが。
「次は猿轡するから途中でやめないけど」
ルチアも自分で言っておいて酷いなと思う。
もう眠いしどうでもいいけど。
「もぅ、許して……」
おっと、なんということだ。
出力が低い方が効果があるなんて。
いや、この際もうなんでもいい、ヴァンナが諦めて素直に吐くならスキルの強弱なんて重要じゃない。
「じゃあ聞かせてもらうよ。質問に答えて」
「はい……」
こうしてようやくヴァンナから話を聞くことができたのだが。
他の二人には後日拷問をプレゼントしよう。
ヴァンナの話ではルビーグラスの追っかけを始めたのがヴァンナともう一人、この場にいる侍女とで始めたらしい。
国王から竜殺しの勲章を受勲したマーカーズ領で唯一のSS級冒険者パーティーの噂はヴァンナの耳にもすぐに入り、父に言ってその凱旋を見に街へと出てきたそうだ。
ヴァンナの父はマーカーズ伯爵家の三男として生まれ、マーカーズ領でも力のある大商会へと嫁いでおり、爵位は持たなくともこの街での発言力は大きいらしい。
マーカーズ伯爵家には娘がおらず、息子もすでに結婚しており子供は娘だがまだ小さい。
比較的安全な街であるためかマーカーズ伯爵の聖王国での発言力はそう高くなく、優秀な者との血の繋がりを持ちたい伯爵家も残念だが仕方ないと諦めていたとのこと。
これにヴァンナと大商会のトップである父親の利害が一致し、ヴァンナはルビーグラスのリーダーであるマンフレードと結ばれることを望み、一族に竜殺しの勲章を持つマンフレードを取り込める大商会は伯爵家へと恩を売れ、伯爵家は聖王国の中でも発言力が上がるとギルドに口添えしてくれることを約束。
伯爵家はギルドに声を掛けてヴァンナへの協力を要請し、護衛として隠密スキル持ちの職員をつけてくれるとのことでレッドベリルを結成したそうだ。
んん、護衛というよりギルド長は大商会と伯爵家への貸しを作ろうと画策したことから、隠密スキル持ちの職員をヴァンナへと就けたのではないだろうか。
まあいいか。
ルビーグラスが優秀なシーフとアーチャーを求めていることはギルド長も知っており、女性冒険者は最初から排除することをヴァンナとも決めていたらしい。
しかしルビーグラスに入りたいと考える冒険者は多く、面接や話し合いなどはギルドを通すことなく行われてしまうため、レッドベリルの隠密スキル持ちが調査を行っていた。
見た目がいい女性が近付くようなら即排除。
これにはヴァンナの【コントロール】スキルが役に立つとのこと。
脳から伝わる相手の身体能力を一時的に侵略し、そこに命令を与えることで支配できるのがコントロールスキルの能力というが、恐ろしい能力である。
人間に使えるルーヴェベデルのテイムのようなものではないだろうか。
行く先々でも何かあってはいけないと必ず尾行してクエストにも同行し、ルビーグラスに近付こうとする女は徹底的に排除したという。
「じゃあ以前ルビーグラスと臨時パーティーを組もうとした娘は貴女のスキルでどこかに行かせたってことね?」
「ああ、いましたね。他の街から来たというすごく色気のある女性でした」
「答えになってない」
脅しも兼ねて低出力のペインを少しだけ発動させる。
ビクンと跳ね上がったと思えば涙を流しながら笑い出し、地面を転げ回って身悶える。
また怒られそうだしその前に止めよう。
「ふぐぅぅ……ひどい……その方には……少し痛い目に遭っていただこうとある商会へ向かわせました」
「ある商会?なんの?」
アルヘナと一緒にいる時点で何となく察してしまうが。
「娼館を扱う商会ですよ」
ダメだこの女。
少しどころじゃなく痛い目にあってるじゃないか。
もっとしっかりと拷問した方がいいかもしれない。
「もしかして他の娘も?」
「全員ではありませんが半分以上は」
え?
まだあるの?
「じゃあ残りの娘は?」
「美しい従順な女性を求める殿方は大勢いますからね。そちらに紹介しました」
なるほど。
女を洗脳して売ったということか。
悪びれてないところを見る限り善悪の区別もついていないんだろう。
拷問だけでは済まなくなりそうだ。
どんどん話が大きくなって怖くなってきたし。
もうロザリアと二人でどうにかできる問題じゃない。
ギルドも信用できないし、原因の一端でもあるルビーグラスになんとかしてもらおう。
というかさっきまで痛みに耐え続けてたくせに、今度はベラベラと何でもしゃべるのはなんでだろう。
もしかして開き直ってるとか?
それとも余程低出力ペインが堪えたのか……
よし、次。
「アルヘナとの関係は?もしかしてギルド長の紹介?」
「アルヘナ?ああ、そこの男性の方々ですね。この方々はおっしゃる通りギルド長から紹介していただきました。貴女方に恨みがあると言うので力になっていただけると」
じゃあギルド長も拷問にかけよう。
場合によってはギルド職員全員やってもいいかもしれない。
しかしなんでこんなダメな奴しかいないんだ?
この街に来てからロクな奴を見てない気がする。
街が平和だと金持ちやら有権者がカスみたいな連中しかいなくなるのかな。




