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追放シーフの成り上がり  作者: 白銀 六花
200/257

200 ルビーグラスとの交渉へ

 ロザリア達がマーカーズ領に来てからルビーグラスがギルドに戻って来たのがこれが二度目。


「いけ好かねーな。あのパーティー」


「あのチヤホヤされてるのが気に入らないんでしょ」


「それだけじゃない」


 ルビーグラスがギルドへと入って来ると、調子の良さそうな底辺冒険者達が挨拶で出迎え、パーティーに加入したいのであろうソロの冒険者達も声を掛けに行く。

 そしてルビーグラスに続いて入って来た女性陣は彼らの追っ掛けであるファンの娘達だろう。

 戦うわけでもないのに色鮮やかな装備を纏い、女性らしさを引き立てるようなデザインが男の目を惹きつける。

 一定の距離を取りつつルビーグラスはあまり気にした様子もないようだが、側からみれば異常なメンバーが付き従っているように映るのだ。

 女性である二人から見れば情婦を連れ歩いているようにも見えなくもない。


「あれに今からあたしらも声掛けるのか……キツイな」


「姉さん姉さん。俺行ってきましょうか?」


「いや、いいよ。あたしらが用があるんだしさ」


「姉さん達に着いて行きます」


「行こ行こ。ルビーグラスに初絡み」


「緊張するねー」


 なにやら手下のような事を言ってくるのはミザールパーティーだ。

 これでは側から見ればルビーグラスとそう変わらないのではないだろうか。


 受付で依頼達成報告を済ませ、新たに依頼を受注したルビーグラスにまた群がる多くの冒険者達。

 そこへ数日前にギルドで騒ぎを起こしたロザリアとルチアが近付いていくと、群がった冒険者達も二人を避けて距離をとる。


「あんたらが……いや、貴方達がルビーグラスって事で間違いないよな?ないですかか」


「ロザリア……私が話すよ」


 やはり言葉遣いの荒いロザリアは目上の者に対する接し方を学ぶ必要がありそうだ。

 それでも「ああ、そうだ」と返すのはリーダーのマンフレードである。

 マリオの剣に匹敵する大剣を持ち、歳も一回りは違うであろうこの男は真面目で実直そうな印象を受ける。


「はじめまして。ルチアとロザリアと言います。私達はルビーグラスがシーフとアーチャーを必要としてると聞いて王都から来ました。帰って来て早々に失礼ですが少しお話しさせて頂いてもいいでしょうか」


「ああ、ルビーグラスのリーダーを務めるマンフレードだ。王都で?誰に聞いたんだ?」


「黒夜叉のアリス=フレイリア、フィオレ=ロマーノからです。二人からは戦いの術も少し学びました」


「なるほど。たしかに黒夜叉とブレイブにはそんな話もしたからな。彼らの紹介なら無碍にはできないが……」


 ロザリアとルチアを交互に見比べるマンフレード。

 下心のあるような視線ではなく、その実力を確かめようとする強者特有の雰囲気である為か不快に感じる事はない。


「やば。チェザさん達より強いなこの人」


「アリスに近いかも」


 同じようにロザリアもマンフレードの事を見ていたようだ。

 ある程度の実力に達すると見えてくるその者の本質と強さは、自分より下か自分に近い程読み取りやすく、遠い程読み取りづらくなる。

 ロザリアから見ればチェザリオはまだ読み取る事はできても、マンフレードの場合は実力の程がハッキリとしないように映るのだ。


「アリスに近いとまで言われるとは俺もそこそこ強くなれたと思っていいか。君達の実力もマーカーズでは頭一つ抜けているようだ」


「ではパーティー加入を考えてもらえますか?」


「すまんが断らせてもらう。少し面倒な事になるだろうからな」


 おそらくはこちらが女性という事で断ったのだろう、ファンの娘達からは鋭い視線がこちらに向けられている。

 同じようにソロの冒険者達からも視線は向けられているものの、実力が自分達を上回っているのだと知って何とも言えない表情を向けるしかない。

 ルビーグラスは困ったような表情を残しつつ、ルチアとすれ違う形でギルドを後にした。




 ルビーグラスがギルドから出て行ったところでロザリアは憤慨するものの、ルチアはロザリアを連れて外へと出る事にした。

 ミザールパーティーはルビーグラスへの初絡みに失敗したものの、「緊張したなー」と対面する事さえ初めてだったらしい。


 外へ出たロザリアとルチアは細い路地へと入り、ルチアは掌にある一枚のカードを見せる。


「これ。マンフレードさんがすれ違い様に私の手に握らせたの」


「んん?ああ、ここ知ってる。あの高そうな店だろ」


「たぶん。夕食をここで摂るって事かな」


 渡されたカードは【ルシアン】という店名が書かれた招待券のようなものだ。

 裏にはマンフレードのサインが書かれており、これを持って店を訪れればルビーグラスのいる部屋に案内してもらえるという事だろう。


「たぶんな。けど……あたし達、面倒くさいパーティーに加入しようとしてるよな」


「マーカーズきってのSS級パーティーだし仕方ないんじゃない?」


「でもあんなの連れて旅してたんじゃいつか死ぬだろ」


 ルビーグラス自体に問題があるわけではないのだが、冒険者として活動するのに戦う力のない者達の同行は足枷でしかない。

 もし危険に晒されたとしても、誰かが守ってくれるはずという考えでついて回っているとすれば、いずれどこかでルビーグラスが危機に陥る事にもなりかねない。

 どうにかして同行させないようにするしかないのだが、指摘したところで言う事を聞いてくれるような人々ではないだろう。

 おそらくはルビーグラスからも危険な旅だとは説明されているにも関わらずついて回っているものと思われる。


「私達が加入してどうにかできればいいんだけどね」


「嫌われ者になるつもりで何とかするしかないか」


「ここではあまり歓迎されてないからできれば避けたいな〜」


 ファンの娘達から向けられた視線を考えれば嫌われるのは確実であり、さらには依頼に着いて来るなとまで言ってしまえば恨まれる事にもなるだろう。

 マンフレードが言っていたように面倒な事にもなると考えれば頭が痛くなるような思いだ。

 しかしマーカーズ領に来た目的がルビーグラスへの加入である為、ここで諦めて帰っては紹介してくれた黒夜叉に申し訳がない。

 今夜しっかりと話をしたうえでも加入できないとなれば、ルビーグラスにも理由があったのだと説明できるし自分達としても納得ができる。


 今はまだ昼過ぎでまだ夕方までは時間があり、適当に時間を潰してからルシアンに向かえばいいだろう。




 ◇◆◇




 陽が傾いて空が赤く染まり出した頃、ロザリアとルチアはルビーグラスの待つルシアンへと足を向けていた。

 念の為、尾けられていないか周囲を見回しながら店へと向かっている事にため息を漏らしながら。


 ルシアンではマンフレードから受け取ったカードを見せると奥の部屋へと案内されたものの、まだルビーグラスのメンバーは来ていないらしく広い個室に二人で待たされることになった。

「お待たせする間こちらをどうぞ」と差し出されたツマミと果実水を口にしながら到着を待つ。


 しばらくして豪商のような恰幅のいい男と老人、貴族然とした男と従者が室内に入って来ると「待たせてすまない」と頭を下げる。

 どうやらルビーグラスのメンバーは変装をしてやって来たようだ。


「待つのはいいんですけど……」


 変装の理由を聞きたい気もするがなんとなくわからなくもない。

 あのファンの娘達を撒くためか、密談をするのに自分達の存在を隠すためだろう。

 なかなかの変装の完成度にルビーグラスと対面している気がしないが。


「今日の変装は貴族が商人に冒険者の護衛を紹介するというテーマだ。変装は気にしないでくれ」


 今日のとかテーマだとか言っているあたりは密談するのに変装をするのが常となっているのか……

 マンフレードのぴょんと跳ね上がった付け髭と金の巻き髪のカツラを気にするなと言われてもなかなかに難しい。

 貴族を見る機会がないルチアとしては本当にこんな貴族がいるのだろうかと疑ってしまう。

 というか貴族をバカにしているのでは?と思わなくもない。


「気にはなるんじゃないか?俺は気になる。なんでよりによって老人なんだよ。しかもハゲヅラじゃねーか!」


 ウベルトは老人役がお気に召さないようでヅラを地面に叩きつけた。


「俺だってなんでこんな太った商人なんだ?水袋は重いしここに来るまでに二つもボタンが取れたんだけど」


「ウベルトはいつも杖ついてただろ?だから老人役で、ジョルジョはよく食うから太めにしてみた」


 髪型をオールバックに変えただけのドナートは従者という役であり、一番まともに見えるあたりは他の役を周りに押し付けたのか。


「ではなぜ俺は貴族っぽい役なんだ?」


「うちに入りたいって女性達を相手にするんだ。交渉役はおもしろい方がいいだろ?俺は従者らしく聞きに徹しようと思う」


 ドナートはパーティーメンバーで遊んでいたようだ。

「この変装はネタかよ!」「ドナートこの野郎!」「お前もこの髭付けろ!」とモメだした。

 気品に満ち溢れているだとか貴族と言われても納得できるだとか聞いていたが、こうして仲間うちだけでじゃれ合う姿は冒険者のそれと何も変わらないように見える。

 SS級パーティーという事やマーカーズ領きっての冒険者としての立場から、人前での振る舞いには気を付けているのかもしれない。

 同じSS級パーティーであるブレイブは……もっと自由だし恥も何も特に気にするようなパーティーではなかったなと思い返す。

 若いブレイブに比べて年齢的にも落ち着きだしたルビーグラスだからこそかなと納得することにしよう。

 そんなルチアをよそに自由人なロザリアはハゲヅラを被って笑っていた。


「ぎゃははははっ!どっからこんなヅラ手に入れて来たんだよ〜おんもしれー!っつかなんだこのフィット感、まるで吸い付くようだな!」


「お!わかるか?素材からこだわり抜いて作った一品ものだ。他にもいろいろあるぜ?」


「すっげー、器用なんだなあんた。センスはやべーけど……ん〜と、これが一番最悪な組み合わせ、あはははははっ!」


 デブ商人姿のジョルジョにハゲヅラを載せて爆笑するロザリアはここに何をしに来たのだろう、手を叩いて笑い出した。

 今度はシワシワメイクのウベルトに髭を付けて巻き髪ヅラを載せると、ドナートと一緒に腹を抱えて笑いまくってる……終いには二人して嘔吐いていたが。

 このあと交渉するルチアの身にもなってほしいところだ。

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