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追放シーフの成り上がり  作者: 白銀 六花
19/257

19 冒険者ディーノ

 王都に戻って来てから四日後。

 久しぶりの王都を満喫して楽しんだディーノはギルドへとやって来た。

 ギルド内では多くの冒険者がこの日受ける為のクエストを選び、自分達が受注したいクエストがなかった者は朝から酒を飲む。

 その賑やかなギルド内もディーノが姿を現せば視線が向けられ、少し静かになったのも気にせず受付へと向かう。


「ディーノさん!?お久しぶりです!王都に戻って来たんですか!?」


 この受付嬢はディーノと同じ孤児院育ちの一つ歳下の女性であり、ディーノの成長を見守ってきた一人と言ってもいいだろう。


「ケイト久しぶりだな。ちょっと護衛依頼で王都に戻って来てさ。訳あってBB級のクエストを紹介して欲しい。できれば迫力のある大きめのモンスターで」


「はい。えーと……いくつかありますけどクエスト報酬は少なめですよ?人気どころはすぐに受注されてしまいますし」


 クエストは同じような内容であっても、依頼者が違えば報酬も違う為、人気のないクエストも必ず存在する。

 これが長く放置され、危険度が高いと見なされればギルドで追加報酬を上乗せされる事にもなるのだが。


「迫力があるモンスターならなんでもいい」


「では……これなんてどうでしょう。【ジャイアントコング】討伐のクエストになりますが、どうやら上位のモンスターに餌場を追いやられたみたいなんですよね。今は南東にある赤山の麓付近にいるみたいです。赤山の坑夫達から発注されたクエストになりますけど、受注しますか?」


「じゃあそれで。ついでに馬車も頼んでおいてくれ。ああ、そうだ。ところでオリオンの奴らはどうなった?」


 ディーノがオリオンについて質問をすると、少し困った顔をしたケイトが話してくれた。

 オリオンはディーノ脱退後すぐに解散し、新メンバーと共にブレイブとしてパーティーを結成したとの事。

 ブレイブはBB級パーティーとなったものの、パーティーの連携がうまく取れずにクエスト失敗する事が多いらしい。

 ケイトはこうなる事を予想していたらしく、ディーノが脱退したと聞いた時にはオリオンを見限ったのだろうと思っていたそうだ。

 その後ラフロイグでのディーノの活躍を知り、ソロとして活動している事に疑問を抱き、ステータスを確認して驚きに震えたと言う。


 一通りの話を聞けて納得顔のディーノ。


「そっか。教えてくれてありがとなケイト。まだ何日かこっちいるし……今夜ご飯でも食いに行くか」


「はいっ!是非ともっ!」


 声を弾ませて答えるケイトに「じゃあまた今夜」と言ってギルドを出た。

 ブレイブは昨日からBB級の討伐クエストに出ているらしく、この日会う事もないだろう。

 また、ディーノができれば会いたくないザックも、魔境と呼ばれている王国より北西にある、凶悪なモンスター溢れる地に素材集めに向かっているそうだ。

 何の素材を集めるのかは知らないが、希少な素材である事は間違いない。


 夜まではまだ時間がある。

 中央区の伯爵邸に向かい、クエスト受注の報告をして、明日の昼一の半時に迎えに来ると伝えてまた南区へと戻る。

 以前世話になっていた武器屋へと向かい、ダガー四本を研磨してもらう事にした。




 ◇◇◇




 翌日の朝に伯爵邸へとやって来たディーノ。

 少し苦笑いするロバートと、満面の笑顔を見せるダリアン。


「ダリアン様は……ピクニックにでも行くつもりですか?」


「え?クエストに同行するつもりだけど!?」


 これは貴族の子供の普段着なのだろう。

 白いシャツに半ズボンとサスペンダー。

 それに肩から鞄を下げており、どう見ても冒険に向かう装いではない。

 だがこれを少し予想していたディーノは、まずは買い物に向かう事にする。


 南区の露店で串焼き肉などを買い食いしながらギルドに近い防具屋へと向かい、ダリアンの冒険者装備を適当に見繕う。

 あまりしっかりとした物を買っても重くて動き難く、目的地に着く前に疲れてしまっては元も子もない為、柔らかめの革製ズボンとつま先に鉄板の入ったブーツ、革手袋と固い革製の胸当てを購入し、ダガーを釣る為のベルトも購入した。

 それ程値段の張る装備ではないが、ダリアンにとっては雰囲気も出るし、実際に草むらに入っても問題がない為、充分な装備と言えるだろう。


「それとダリアン様、冒険者は武器が必要なのでこれを差し上げます」


 ディーノがダリアンに差し出したのは、以前からディーノが予備武器として持ち歩いているダガーだ。

 装飾も何もないパッと見れば高価とは思えないダガーなのだが、見る者が見ればわかる熟練の職人が鍛え上げた業物のダガーだ。

 大事に使えば長く使える、ディーノが性能だけを追求して注文した武器なのだ。

 言ってしまえばこのクエストの報酬では全然足りないほどの金額だ。

 それを見たロバートは「ほぅ」と感嘆の声をもらし、鞘や柄などを仕立てればダリアンの護身用の武器になると、後日注文しようと考える。


「ありがとう!大事にするよ!」


 嬉しそうにダガーを握り締め、その刃の放つ重い光に目を輝かせた。


 ギルドの側にある食堂で弁当を買い、用意してもらった馬車に乗り込んで出発だ。

 御者はディーノが担当し、ロバートとダリアンは荷台に座る。

 貴族の馬車とは違って馬に荷車を付けただけの、乗り心地など全く気にしない作りの為振動がすごい。

 ロバートの鎧はガチャガチャと音を鳴らし、ダリアンは振動に「ああああああ」と声を震わせて楽しんでいる。


 赤山は王国領地から一時もあれば着くくらいの距離にある為、旅路に飽きる前には到着できるだろう。




 赤山の麓にたどり着くとコングのあげる叫び声が聞こえてくる。

 ディーノ達は風上側にいた為、接近に気付いたのかもしれない。

 馬車を近くの木に繋ぎ、ダリアンとロバートも馬車から降りる。


「すっごい声だね……怖いくらいだよ」


「仮にもBB級のモンスターですからね。人間なんて捕まったら引き千切られますよ。ロバートさん、ダリアン様をお願いしますね」


「あ、ああ。必ずお守りしてみせるさ」


 ロバートの騎士としての実力は、バランタイン王国の中でもかなり上位の位置にあるだろう。

 しかしそれはあくまでも人間相手での実力であり、モンスターを相手に想定したものではない。

 騎士がモンスターと戦う場合、槍を持って全員で突く場合が多い。


 声の聞こえる方に進んでいくと、少し高台になった位置にその姿はあった。

 身長はディーノよりも随分と高く、横幅もそれと同じくらいはありそうな程の巨体。

 大人の男が七人から八人程の重さはありそうだ。

 その巨体の持ち主であるジャイアントコングは、近くにあった巨大な石を握り締めてディーノ目掛けて投げ付ける。

 しかしまだ距離がある事から誰にも当たる事はなく、コングを見つめながら少しずつ近付いて行く。


 コングは近付かれたくないのか掴んだ石を何度も放り投げ、直撃しそうな石だけをディーノは風の防壁を広げて横に逸らす。


 コングのいる高台へと進んだディーノは、背後にロバートとダリアンを残してコングと向かい合う。


「ではダリアン様。今日はオレも普通の冒険者として魔法無しで戦いますね」


「う、うん!頑張って!」


 ロバートの陰に隠れたダリアンが声高に応援するが、二人ともコングの迫力に完全に飲まれているようだ。

 もしディーノが離れたところで石を投げ付けられたら防ぐ事ができないかもしれない。


 ディーノは立ち位置を変え、背後にロバート達がいない位置まで移動してからコングに向かって走り出す。

 コングは左右に石を持ち、ディーノに投げ付けると同時に前に出た。

 接近するディーノとコングだが、ディーノはここ最近の自分の戦い方から、コングを相手に一撃で倒せる程の攻撃力がある事がわかっている。

 しかし今日はダリアンにクエストとは如何なるものかを見せるのが目的であり、一瞬で決めてしまってはモンスターの危険性が伝わらない。

 この日はユニオンではなくシーフとしてダガーを使ってコングの相手をする。

 コングの叩き付けるような左の拳を伏せる事によって避け、ダガーを薙いで腹部を斬り付ける。

 わずかに血が流れ、振り向きざまの右の拳を軽く跳躍する事で回避し、その腕を駆け上って首筋に斬り込む。

 走り回るのは得意ではないコングの動きも、このように立って戦う分には相当に速い。

 体格の大きさと人間を超える筋力があれば、並の冒険者では太刀打ちできないはずだ。

 それはロバートから見てもわかる。

 騎士が盾を持ってコングの拳を受けた場合、あの一撃に耐えられるかわからない。

 耐えられたとしてもあの速さで動き回られて剣が当たるかわからない。

 人間相手の戦い方では通用しない事を、ディーノとコングの戦いを見ていれば嫌でもわかる。

 自分達が見縊っていた冒険者はこれ程までに凶悪なモンスターと戦っているのかと思えば、今までの自分の認識が間違っていたのだとロバートは知る。

 冒険者とは基本的に四人のパーティーで戦いに挑むのに対し、ロバートは仲間の騎士を三人連れてもジャイアントコングに挑む勇気はない。

 そして今コングと戦う一人の冒険者ディーノ。

 この男はロバートから見れば異常の一言に尽きる。

 腰に差した属性剣を使用せず、ダガー一本でコングと渡り合うその戦いぶりに戦慄を覚えた。

 動きの素早さからシーフである事はわかる。

 コングの拳を躱し、受け流し、フェイントを交えて斬り付ける。

 恐ろしいまでの実力を備えたシーフ。

 しかし彼はそれだけではないのだ。

 属性剣を持ち、爆風を放って目にも見えない程の速度で敵を斬り伏せる。

 その攻撃力、速さ、そして技量。

 全てにおいてロバートの理解の範疇を超えていた。

 人間がこれ程までに強くなれるのかと疑いたくなる程に。




 ロバートとダリアンから恐怖が消えた頃、一瞬でコングの頭の後ろに回り込むと同時に、ディーノは逆手に持ったダガーで喉を斬り裂いた。

 傷口から血が溢れ出し、前のめりに倒れ込むコングとその上に立つディーノ。

 S級冒険者は息一つ乱す事なくコングを倒して見せた。


「これがオレ達の冒険です。満足してもらえましたか?」


 コングから飛び降りたディーノはロバート達の方へと向かって行く。


「すごい……すごいよ!これが冒険なんだ!ディーノの冒険譚はこんなにも凄まじいものなんだ!ねぇ、見たよねロバート!すごかった!すごかったよ!」


「ええ……我々騎士はもっと努力する必要がありますね。戦士ディーノ。貴殿の戦いに敬意を……いや、畏敬の念すら覚えた程です」


 剣を地面に置き、胸に手を当てて礼をするロバート。


「やめて下さいよロバートさん。普段通りお願いしますよ」


 ディーノとしても言葉遣いを変えたロバートは相手にしづらい。

 ボリボリと頭を掻いたロバートは恥ずかしそうに笑ってみせた。


 その後はジャイアントコングから魔核を抜き取り、血を拭き取ってダリアンに渡す。

 クエスト達成の報告にはギルドで提出する必要があるものの、その後魔核をこちらで引き取ると言えばそのまま持ち帰る事もできるのだ。

 報告後はダリアンの物にすればいいだろう。


 帰り道では御者もやってみたいと言うダリアンに手綱を預け、冒険者ギルドへと帰って行く。

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