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追放シーフの成り上がり  作者: 白銀 六花
166/257

166 ウォーリアスキル

 態度の悪かった貴族イーヴォが捕らえられた事や召喚勇者の情報を交換した後、残る情報源はフェリクスだけとなり……


「では、フェリクス様は何かありますか?」


 もじもじとしていたフェリクスにリエトが話しかけると、ビクリと跳ね上がるように反応する。

 何かしらあるのだろうと興味深く視線を向けていると。


「セセセセンテナーリオ精霊国のルアーナ王女から婚約の申し出がありました」


「「「はぁあ!!!?」」」


「どんな人!?」


「すっごい美人でしたよ!!」


「何て答えた!?」


「わわ私も動揺してスキルが発動できれば貴女様の元へ馳せ参じますととと」


「よくやった!」「でかした!」「さすがは王子!」と誰もが喜び、この二人の婚約が叶うとすれば国王の回答を待たずとも国交樹立は確実だ。

 ディーノ以外にとってはここ最近で一番嬉しい出来事かもしれない。


「よし、ディーノ!早速フェリクスのスキル訓練付き合ってやろう!」


「早く!早く!ディーノ殿!はっ!そうだ、こうしてはいられない、拳王様にお知らせを!ああっ……遠いぃ!」


 朝から大興奮の使者団だ。

 しかしディーノの反応は薄く、小首を傾げてこれまでの戦闘訓練から感じていた違和感について一つ自分の答えを出してみる。


「思うんだけど、フェリクスのウォーリアスキルってさ、いつもしっかり発動してるんじゃないか?」


「え、ええ?じ自分ではわかりませんがどどどどういう事でしょう」


「スキルって単発型とか持続型とか永続型とかいろいろあるんだけど、どれでも最初は発動だけはさせないといけないだろ?」


「はい、まあ、そうででですね。私もははは発動しないとはわかっていてもススキル使用は意識してますから」


 フェリクスも戦闘前や攻撃の際にはウォーリアを発動しようとスキルに意識は向けている。

 それでも全く体に変化を感じない事からスキルが発動しないものとして認識しているのだが、ディーノの予想では本人が気付いていないだけで発動しているものと考えているようだ。


「たぶんバフ系の能力で持続型だと思うんだけど、フェリクスは普段の訓練、拳王国での訓練で全力で人を殴ったりする事はあったか?」


「あああありません。アークアビットの拳はたた対モンスター用の拳であり、如何なる時でも人を全力で殴ってはななならぬとの教えがありますので」


 モンスターを手甲を装備しているとはいえ素手で倒そうと考えるアークアビット拳王国である。

 拳一つが殺傷能力を持つ武器であり、モンスターよりも耐久力の低い人間相手に全力の拳を振るう事が禁止されているのも当然だろう。


「じゃあモンスターは?マルドゥク相手の時でもいいや」


「ぜ全力で殴る事もあありますが」


「だよな?結構本気で殴ってるよな?」


「はははい。大した事なくてすすすみません」


 ディーノだけでなく他の者から見てもフェリクスが全力で挑んでいる事はわかるのだが、ウォーリアスキルが発動しているのかどうかはわからない。


「オレの想像通りだとしたら最強のスキルって言っていいかもしれない。長期戦なら尚更な」


「「「最強!?」」」


 ディーノの口から最強のスキルとまでいう言葉が出るとは誰もが思わなかった。

 これまで共に旅をして来たウルでさえ最強の存在は目の前にいるこのディーノであると信じ、ギフトこそ最強のスキルであると認識している。


「たぶん理解してないから効果も低いんだと思うんだけど、おそらくは上限の解放じゃないかな。全力で殴ったあとだけ解放されるとかそんな感じの」


「発動していると思う根拠はあるのか?」


「そもそも発動しないスキルなんてあるとは思えないんだよ。ルーヴェベデルのテイムだってモンスター相手に使わなかったら発動してるかもわからないだろ?それと同じで気付いてないだけで発動してるんじゃないかなって最初から考えててさ」


「んん、わからなくもないが上限の解放と思った理由も教えてくれ」


「まずは技系スキルとか対象に影響するスキルは除外して、とにかくバフ系かなって考えてた。それでマルドゥクとの戦闘訓練はウルにパターン決めてやってもらったから、フェリクスもどこでどう動くかわかりやすかっただろうし、こっちも観察しやすかったからな。でもスキルの発動自体は全くわからなかった」


 結局観察していてもわからなかったのに上限の解放と断定した理由は何なのだろう。


「今ではマルドゥクも学習して同じようにフェリクスに攻撃繰り出してくるんだけどさ、パターン動作が終わった後はどうなってる?すぐにやられたりしてないだろ?」


「マルドゥクは戯れているだけだろうがかなり激しいよな。フェリクスは必死に戦っているが最後は……」


「けけけ結構痛いんですよ」


「でもあの容赦ない攻撃にも耐えてるだろ?最初からなら一瞬だと思うけど」


 最後は噛み付かれたり踏み潰されたり地面に埋められたりと様々な結果になるが、それでも左右前脚の乱打、噛み付きにも打撃技で対処する事ですぐに倒れる事はない。

 その時々でマルドゥクの攻撃パターンが変わる為、耐えられる時間もバラバラだが、ある程度観ていられるだけの戦闘は繰り広げられている。

 これがもし最初からマルドゥクが戯れついた場合には一瞬でも耐えられないのではないかとディーノは考えているようだ。

 ディーノですら逃げ回らずにはマルドゥクの乱打に耐えられる自信はない。


「なるほど。パターン動作のうちに強化してるから耐えられると……全力で殴るとっていうのにも何か理由があるのか?」


「通常打撃で上昇するなら対人訓練でも気付くかなって思ってさ。殴る度にどんどん強くなったらフェリクスより先に相手が気付くだろうし」


「それであの質問か」


「あと戦闘が終わればスキルも解除するだろうから上限の解放はリセットされてるんだろうな。倒れる前程の強さはなくなる。それでもマルドゥク戦繰り返してるからフェリクスが積んだ経験はステータスに結構影響与えてると思う。出発前よりかなり強くなったんじゃないか?」


「ススステータス測定が楽しみです」


 まだディーノの考察だけでしかないが、毎日フェリクスとマルドゥクとの戦闘訓練を見ている為、理屈として考えれば誰もが納得のできるものだ。

 最後には悲惨な目に遭っているフェリクスとしても自分の成長を日々感じる事ができている為、確実に強くなっている事を実感している。

 そしてどもりこそまだまだ直りそうにはないが、言葉数も以前より増えたと本人は自覚していたりもする。


「ま、とりあえず確認してみるか。手加減しなくていいから全力でな」


「はいっ!よろしくお願いします!」


 考えての言葉でなければどもる事もないようだが。




 ディーノの考察を元にウォーリアスキルの確認をしようと、いつものように王都から少し離れた平原で訓練を行ったフェリクス。


 フェリクスには全力の右拳を打ち込んでもらう事にし、ディーノはポヨポヨの防壁を展開してこれを受け止める。

 スキルの確認という事で殴るなら風の防壁でも充分だろう。

 フェリクスの拳が繰り出される度にその威力は少しずつ上昇し、最初は全く届かなかった拳も鋭さを増すごとにディーノとの距離を縮めていく。

 ディーノも防壁の出力を上げて耐え続けるも、拳打が三十発を超える頃には防壁を突き破るまでに威力が上昇。

 ディーノの予想通り全力の攻撃によって上限解放が可能なスキルのようだ。


 その後もディーノは防壁で威力を抑え込みつつユニオンで受け止める事で戦闘状態を維持し続け、スキル効果の持続性も確認しようとフェリクスの拳を受け止め続ける。

 もしこのまま戦闘が続く限り攻撃力が上昇し続けるとすれば、その威力はスマッシュや他の打撃系スキルどころではない。

 数値化すれば信じられない程の値を示すのではないかと考えられたものの、八十発を過ぎたあたりからは威力の上昇が無くなり、そこから急激に威力が低下し始めた。

 流石に全力で拳を打ち込み続けるフェリクスの体力も原因の一つかもしれないが、今の持続回数はおおよそで八十発。

 元の威力に落ち込むまでに八発といったところのようだ。

 ウォーリアスキルが解除されるとフェリクスは腕を抑え込み、上限解放による反動があった為これを回復薬を飲んで癒す事にした。


 とりあえずここまででわかった事はウォーリアスキルの能力は攻撃力の上限解放であり、右拳だけだと八十発で最大の攻撃力を発揮する。

 そこから十分の一の回数で元の威力まで低下する事になりその後反動が襲ってくる。


 威力はというと八十発にもなる頃にはディーノも少し出力を落とした爆破で耐える必要があり、五拳人イルミナートのスマッシュにも届くであろう威力まで上昇している。

 上昇の幅がそれ程大きくないようにも思えるがそんな事はなく、スマッシュ並みの威力の拳打を通常の攻撃として繰り出せるとすれば凄まじい能力だ。

 もしかすると反動もこの爆破が原因かもしれないが、今後はギフトを発動した防壁で耐えてみれば反動の有無も確認できるだろう。

 今回は威力がどれ程のものかを確認する為ユニオンや爆破で耐える事にしてみたのだが、反動についてはディーノも予想していなかったのだ。


 その後は体のバランスが崩れないよう左拳でも同じように確認する事とし、防壁のみで試してみる事にした。

 結果としては防壁のみで耐える事ができなかった為、ユニオンで防ぎつつ小規模爆破を使用した事から反動が全く無いとは言えないものの、右拳の時程のダメージはなかった事からスキルによる反動はないと考えられる。


 まだ蹴り技での効果確認や左右手足でのコンビネーションによる上昇など確認する事は多いものの、全てこの日に試すよりは数日掛けて自身の能力を把握した方がフェリクスの為になるだろうとこの日の確認は左右の拳打だけ。

 ウォーリアスキルが発動できた、していた事に喜ぶフェリクスも今日はこれだけでも充分満足できるだろう。


 その後はまたセンテナーリオの観光を楽しむつもりのディーノなのだが、マルドゥクがフェリクスと……フェリクスで遊びたいようなので、いつものようにフェリクス対マルドゥクでの戦闘訓練を実施。

 自信に満ちた表情をしたフェリクスがウォーリアを発動してマルドゥクに挑み、慢心が生まれたのかパターン動作の段階で叩き伏せられる結果となってしまった。

 これに不満を覚えたマルドゥクはフェリクスを癒せとテシテシズンズンと地面を叩き、二度目の戦闘訓練ではパターン動作だけは何とか乗り切るも、マルドゥクの戯れつきには一瞬で沈んでしまうフェリクス。

 腕や勘が鈍ったと言うよりは、ウォーリアの発動を知った事で全力で殴る事に意識が向きすぎて、戦闘への注意が疎かになっていると考えていいだろう。

 戦いとはなかなかに儘ならぬものである。

 マルドゥクが満足するまで何度も癒しては挑む事になった。

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