165 召喚勇者について
さて、国王との謁見、歓迎の宴から翌日。
リエトとチェルソがセンテナーリオ側との交渉を行うのが明日からとなった為、それぞれ集めた情報を交換する事とする。
最初に話し出したのはやはり誰もが気になっているだろうとリエトとチェルソからはイーヴォが捕まった事が説明され、これに誰もがホッと一安心するものの、ディーノだけは殺しておけばよかったと殺意を露わにする。
「俺からは召喚勇者についての情報が手に入ったんだが、どうやらセンテナーリオが望むような勇者ではなかったらしいな。戦闘能力こそ色相竜すら倒せる程との事だが、勇者が主君から引き剥がされたとかで国の管理からは離れたようだ。今は他の召喚者と共に村を興そうと動いているらしい」
「他の召喚者?勇者以外の召喚された人って事か?」
「ああ、力を持たない召喚者もいるそうだ。スキルこそ持って現れるというが戦えるだけの力はないらしい」
ウルの説明は続き、スキルの存在しない世界からの転移者が召喚者であり、元いた世界では魔法が使えたそうだが、召喚後は魔法は使用できなくなったらしい。
ここ十数年召喚に成功する事が多かったものの、力ある者が召喚されたのは今年初めてだったそうだ。
そしてこの召喚された勇者は元の世界では魔の王に仕える従者の一人らしく、魔の王が人間との争いを望んでいない事から争うつもりはなかったとの事。
そして助けを求められれば力を貸すようにもと指示を受けていたらしい。
そこで被害こそなかったものの王都近郊に縄張りを持っていた色相竜の討伐を依頼し、わずか半時程の短時間で討伐に成功。
国王との話し合いの末に目的のない召喚だった事に怒りを覚えた勇者は、以前の召喚者を連れて王都を出て行ったそうだ。
少し想像や脚色は加えられているかもしれないが、センテナーリオの貴族間ではそのような認識らしい。
国側から直接紹介されるのかとも思っていた事や、軍事機密としているかと思った為、表立って聞いて回る事はできなかったものの、ウルの巧な話術でここまで聞き出す事に成功したようだ。
たらしのウルはなかなかに役に立つ。
「今お前失礼な事考えなかったか?」
「さすが女たらしは違うな〜と」
「誰がだ!話してるだけで向こうからいろいろ教えてくれたんだ!」
話してるだけでそんなに教えてくれるものだろうか。
好意があるからこそ相手を知りたいものであり、興味を惹きたいからこそ気になる話題を持ち出すと思うが。
「ディーノこそ男女問わず多くの貴族に囲まれてたよな?何かいい情報仕入れてるんだろうな」
「ん?オレ?いや、何も。なんか異国の冒険譚が聞きたいって言うからいろいろ語ってた」
こういう時は役に立たない男である。
誰よりも多くの人々を集めておきながら、誰よりも情報を得てこないあたりはディーノらしいと言えばディーノらしいが……
「はぁぁぁ……まあいい。おかげでこっちは話しやすい状況だったしな。ピーノとエルモはどうだ?」
「私達もウル様程ではありませんが召喚勇者について少し聞けました。我々が数年に一度と把握していた召喚の儀式は年に一度行われているようですね。成功する確率もそう高くない事から認識に違いがあったようです」
「それと召喚勇者は人間ではないとの噂ですね。戦闘面では空を舞い、魔法を使い、剣術も振るうといった全ての能力を兼ね備えているようです。魔法も複数の属性を使用できるうえ、火属性の精霊魔法まで使えるそうですのでディーノさんでも倒すのは難しいかもしれません」
エルモの情報から召喚勇者の性能を考えればディーノ以上であり、魔法スキルを上回るという精霊魔法まで使えるとなれば攻撃力も計り知れない程のものとなるだろう。
倒した色相竜の属性も何もまだわからないが、召喚されて早々に色相竜をわずか半時程の時間で倒す程の実力ともなれば、聖銀のザックやエンベルトにも匹敵する強さを持つのではないだろうか。
人間ではないという事や魔の王に仕える従者という部分も気にはなるが、他の世界の話である為今はひとまず置いておく。
「戦う事は想定していませんけどね。ピーノもエルモも良い情報をありがとうございます。しかし噂とはいえ召喚勇者の強さが色相竜以上となれば戦力として放ってはおけませんね。我々の想定する竜害に備えて精霊国側から交渉してもらえればいいのですが……」
精霊国側が召喚勇者との仲を違えてしまったのだとしても、人間に危害を加える気がない事や色相竜討伐に協力してくれた事も考えれば敵対する意思はないだろう。
目的や大義のない召喚であったからこそ怒りを覚えて国王の元から去ってしまったのかもしれないが、ここに意味を持たせる事で戦力として引き込む事もできるかもしれない。
交渉材料には元の世界に返すというのが最も効果的かもしれないが、おそらくは精霊国の召喚能力には返還能力までは備わっていないと考えられる。
そもそも召喚の成功率すら低い事から国にだけ都合のいい能力とも言っていい。
召喚された側としては迷惑極まりないどころか無差別な拉致と考えれば、国ぐるみの犯罪行為であるとも思えてくる。
もし悪意を持った力のある者が召喚された場合にはどうするのだろうか。
それはさておき、召喚された勇者も人間を害なす存在ではなかった事や色相竜の討伐にも協力してくれた事から、精霊国とも悪い関係を築くつもりはなかったと思われる。
目的すら持たずに召喚された事に怒りを覚えただけであり、国が困窮しているなどの理由さえあれば力を欲した精霊国が勇者召喚を実行したとしても納得はできただろう。
召喚した時期がこの世界規模の竜害を知らせた後であればまだ良かったのかもしれないが、勇者召喚の噂がなければディーノ達の精霊国訪問もまだ先になった可能性もある。
物事はそう上手くはいかないのが実情か……
それでも今回の使者団訪問により世界規模の竜害が知らされれば、後付けではあっても目的ができる事になり、交渉次第では協力を得られるかもしれない。
現在は他の召喚者と共に村興しに従事しているとの事だが、これに精霊国が協力すると提案するのも一つの手だろう。
「もし召喚勇者が聖王国には協力しないとした場合にはこっちに引き込んだらどうだ?ディーノがいる以上黒夜叉には過剰戦力かもしれないが放っておくよりは余程いい」
もし失敗した場合にはディーノ達も勇者の存在には興味がある事から、共に世界各国を回って元の世界に帰る方法を探すというのも交渉の手段としては使えるか。
帰る方法が見つからないとしても仲間に引き入れる交渉材料にはなるはずだ。
「それなら我ら拳王国としても引き入れたいですな。拳王国でも今後のルーヴェベデル獣王国との交渉次第ではありますが、テイマーの派遣を依頼する予定ですから」
実力のある召喚勇者であるからこそ拳王国としても自国に引き込みたいと思うのは当然だろう。
魔法スキルに乏しい拳王国であれば、複数の魔法を行使できる勇者を引き入れる意味は大きい。
「そこは交渉次第と言いますか、勇者様次第という事で。協力関係を結ぶ我々で奪い合うような形はやめましょう。まずは召喚に成功させた精霊国が交渉するのが先でしょうからね」
この場合精霊国の交渉が上手くいく事が最も好ましいとはいえ、もし交渉が拗れた場合の代替え案は必要である為精霊国にも提案はする事としておく。
今現在で戦力的にはバランタイン聖王国の方が高いのだが、国土が広い事からまだまだ強者は必要である為、勇者を招き入れるとすればリエトも拳王国にも譲る気はないのだが。
まずは精霊国との交渉の場で話を詰めてからとなるが、近いうちに召喚勇者には会いにいく事にはなるだろう。




