164 歳上はお嫌いですか?
歓迎の宴という名の挨拶会という認識で臨んだディーノは、ウルを見習って貴族の男のように振る舞う演技でこの場を乗り切ろうと奮闘する。
この認識を変えた事によって宴の席もそう辛いものではなくなり、少し間が空いたタイミングで料理や酒を口にする事で向かって来る者を的確に処理していく。
貴族としてはどうなのかという対処法ではあるものの、冒険者のディーノとしてはこれで充分だと思いながら笑顔で対応する。
アークアビットでは怒涛の挨拶が終わった段階で外に逃げ出してしまったが、この日は気持ちに余裕があった為会場内で料理や酒を楽しむ。
周囲にはディーノに興味を持った男女、それも若い世代の者達が目をキラキラとさせながらこれまでの冒険について質問してくるが、ラフロイグ伯爵家でしたような物語のように語りながら対応。
やはり冒険譚好きと思われる彼らは、精霊国のサモンスキルではない戦いにも興味深々だ。
ディーノの話が盛り上がり始めると、他の多くの貴族も集まってくる。
本来、宴の席というのであれば他の貴族のように正装をするべきかもしれないが、今回は国王への謁見、冒険者としての姿で向かうべきだろうといつもの装備でこの場にいる。
左右に提げた黒と白の剣は精霊国では珍しく、遠距離戦が主体となる為近距離では召喚した異界のモンスターで戦うとの事。
この異界のモンスターに興味を示したディーノも話が盛り上がり、精霊国のみにある召喚モンスター図鑑があると聞いて購入を考える。
貴族ではモンスターの召喚よりも精霊の召喚が優先される為、質問しても多くの答えは返ってこないものの、召喚モンスター図鑑には精霊も描かれている為所持している者は多いらしい。
異国の図鑑大全を手に入れたばかりだというのに、異界の図鑑の情報を得られたとあってはディーノの気分はさらに良くなる。
王宮で魔法の使用はどうかと思うが、彼らの要望もあった事から出力を小さくして披露してみせる事となった。
外に出て建物内には影響が及ばないよう風魔法を吹き荒らし、全身から雷魔法で放電してみせる。
他で宴を楽しんでいた者達からも拍手喝采浴びせられる事となった。
そして国王から話がしたいと申し出のあったフェリクスは、アークアビットについての質問に答えつつ、数日滞在した精霊国の感想も伝えておく。
両国の良さを語るフェリクスに満足した国王は、フェリクスの身体中をペタペタと触ってその体の逞しさを確認する。
フェリクスも戸惑いつつ「ななななんでしょう」と問うと、国王の手招きを受けた女性が一歩前に出る。
「我が娘だ。ご挨拶なさい」
「はじめましてフェリクス様。私、ルアーナと申します」
フェリクスをうっとりとした表情で見つめるルアーナは、ディーノと同じくらいの年頃だろうか。
国王の娘という事もあってか、この場にいる誰よりも美しい美貌を持つ。
この絶世の美女を目の前にフェリクスも動揺し、どもりながら挨拶を返した。
「実はな、このルアーナには……これまで多くの縁談があったのだがその悉くを断ってしまってなぁ。良い縁談話もあるのだが一目見ただけで断ってしまうのだ。まさかと思い私のような男でないと駄目なのかと問うたのだが、冷めた目でそれはありませんわと一蹴されてしまったわ。はははっ」
なかなかに笑いにくい話題だが人には好みというものが存在する為、一目見て断るとするなら単純に好みではないのだろう。
その話をフェリクスにされるという事は……
「私、強くて逞しい殿方でなければ結婚など致しません」
「と、いうわけだ。其方程の肉体を手に入れるまでにどれ程の鍛錬が必要な事か。その体は其方の努力の結晶であり、少し話してみたが優しき心の持ち主でもある。これまで交易のなかった隣国の王子であるとしても相手としては申し分ないのだが……其方はどうだ?」
逞しい体となれば高身長に誰よりも鍛えられた戦う為の体を持つフェリクスであれば若い世代では右に出る者はいないだろう。
フェリクスよりも一回り二回りも歳上にはモンスターのような男も存在するが、自分の肉体を愛する変わり者が多かったと記憶している。
この事から考えて、いや、考えなくてもフェリクスに私の娘はどうだろうと問われているようだ。
「わわ私はまだ若輩者故、そのような……いえ、私は王子と言えども第八王子。せ成人したとしても高い身分にはありません。そしてスキルを発動できない私は強い男とは呼べませんので、ルアーナ様に相応しくはないのです!」
頑張って答えたフェリクスではあるものの、この返答に目を丸くして驚く国王とルアーナ。
「其方はまだ成人しておらぬのか?ルアーナは今十八歳だが……」
「はははい!すみません!今現在十四歳となります!」
「その見た目でか?あ、いや、ううぅぅぅん。その若さでそれ程の肉体を……驚愕する程の事実よ。して、スキルを発動できぬとはどういう事か」
「あああの、私が持つのはウォーリアというアークアビットでもこれまで誰も発動できた事のないスキルなのです。このせせ精霊国への護衛に際してディーノ殿から稽古をつけて頂いておりますが」
最強の巨狼との戦闘訓練、はたしてあれを稽古と呼んでいいのだろうか。
そしてスキルの発動訓練は一切行っていない。
「ディーノからの稽古……真実かはまだわからぬが色相竜とも戦えるという男の訓練。是非とも聞かせてくれぬか」
「はははい。ディーノ殿が仰るには強い者との戦いが最も経験が積めるとの事でして、巨狼マルドゥクとの実戦訓練をここ数日毎日行っております」
「な……其方、王子であろう?色相竜をも超える化け物と実戦訓練?」
「ある程度はたたたたたたた戦えるようにはなりましたが、まま毎回一撃で気を失ってしまいまして……情けないです」
三日目にしてそこそこ戦闘と言える段階まで成長しているフェリクスである。
昨日の訓練からはウルの寄生なしでマルドゥクと対峙し、そこそこの遊び相手としてフェリクスは奮闘している。
本人は全く気付いていないが、スキル無しでもSS級モンスターに挑めそうな程には強くなっているのだ。
あとは攻撃力を高める為にスキル発動を成功させれば下位竜にも挑んでいいかもしれない。
「そ、そうか?ある程度戦えるというだけでも誇って良いと思うが」
「あの、歳上はお嫌いですか?」
なにやらルアーナはフェリクスをお気に召したらしい。
国王としては娘の結婚相手に相応しい者をと考えているのと同時に、娘が好む相手であれば尚更良いと思っている。
たとえ第八王子であろうと異国を繋ぐ最も重要な立ち位置がフェリクスとなれば、アークアビットでもそれなりの地位を与えられる事にもなるはずだ。
そしてフェリクスが望むのであれば婿入りも考えてもいい。
これまでサモンスキルを独占し続けたセンテナーリオ精霊国であるとしても、今後の竜害や他国との競争を考えれば、今時代に遅れつつあるであろうセンテナーリオに新たな風を吹き入れ、他国との協力関係を結んで発展する事の方が重要だ。
先程の謁見、会談の場では明言しなかったものの、センテナーリオ国王としてはこの協力関係に賛成なのだ。
「いいいいえ、ルアーナ様にご不満などあろうはずがございません!こここれは私のスキルの問題なのです。ウォーリアを発動できてこそ一人前であると、私は一人前の拳士であると自信を持ちたいのです。ですのでウォーリアを発動できたその暁には……え?本当に私でよろしいのですか?」
「貴方様が良いのです」
「我もルアーナが良ければそれで良い」
「かっ、必ずや貴女様の元へ馳せ参じましょう。ルアーナ様、お待たせしてしまう事お許しください」
この場に来るまで全く予想もしていなかったこの王女からの好意に、急に恥ずかしくなって真っ赤になるフェリクス。
これまでも王族という事でいくつかは縁談話がフェリクスにも届いていたものの、やはり拳王国という事もあってかウォーリア持ちであるフェリクスには何かしらの訳ありの縁談ばかりが届いていた。
それがこの旅に同行した事で拳王国でも見た事がない程の美貌を持つ女性、王女との婚約する事になるとは思いもよらなかった。
自分に課した条件付きとはいえ、絶対に叶えるべき目標である事から迷う事はない。
今後はディーノにスキル訓練を取り入れてもらうだけなのだから。
「若い二人で話すと良い」と国王から促され、フェリクスはルアーナと共に料理や酒を楽しんだ。
リエトとチェルソも多くの貴族と挨拶を交わした後は、この謁見の取り次ぎをしてくれたホルガーと一緒にこの席を楽しんでいた。
「ところでホルガー様。先日お会いしたスカラヴィーニ伯爵様がお見えになりませんが」
「ああ、実は昨日兵士が防衛するマルドゥクへの危害を加えようとした一味を捕らえまして、そこへ指示を出していたのがスカラヴィーニという事が判明しました。そこからいろいろと調べたところ、王都周辺の盗賊団を指揮していた事も判明した事から国家反逆罪として捕らえられ、今は独房に入っていますね。人の出入りの多い王都東区は彼の管轄する領地であった事もあって今後も様々な罪状が増えそうですが」
ただの態度の悪い貴族というだけでなく、犯罪集団の元締めのような事もしていたらしい。
センテナーリオの王都は国のやや西寄りの位置にある為、人の出入りが最も多いのが東区との事。
ディーノ達も東区から王都入りしている為、今後はアークアビットとの交易でさらに人の交流が加速する事にもなる。
「彼の父は有能な方でしたが急病により他界。厳格な父に育てられたはずの長男のイーヴォが跡を継いだと聞いてはおりましたが、まさかこのような男とは思いもよりませんでした」
有能な人間の子供が必ずしも優れた人間になるわけでもなく、その人間性が良くも悪くも人を変えていくのだろう。
厳しく育てられたとしても心が歪めば悪くもなり、正しく育ったとしても頭の固さで融通の利かない者にもなる。
柔軟な思考を持ったとしても周囲に振り回されればいいかげんな人間になる可能性もあり、如何に優しい人間に育とうとも身近な人間にも同じ気持ちを強要するようにもなる。
最初から悪人として育つ者など存在せず、その人の持つ性質や考え方、周囲の環境により如何様にも成長してしまう。
厳格な父に育てられたとしても、その反発からイーヴォはどこかで歪んでしまったのかもしれない。
「我々としてはマルドゥクがいつ暴れ出すのではないかと少し不安に感じておりました。危害を加える者がいなくなったのであれば助かります」
マルドゥクの問題が解決したのであれば使者団としては安心できる。
もし危害を加えられてマルドゥクが暴れ出そうものなら周囲一帯焼け野原。
交渉どころではなくなってしまうのだから。
そして国王からは何も回答はもらえていないが、感触としては悪くない。
三国にも興味を示していたあたりは国交を結ぶ事に躊躇いはなさそうに思える。




