156 今後の予定
国王への謁見が済んだ後、これからすぐに立てばラウンローヤまで陽が暮れる前には到着できるが、その前にディーノにとって大事な用事でもある図鑑を受け取りにギルドへと向かう。
また、サガは国王からギルドへの書簡を預かっており、ルーヴェベデル兵を仲間にするべく一緒にギルドへと向かう事となった。
久しぶりに顔を出したもののギルドの受付にはケイトの姿はなく、話を聞くと王侯貴族から声が掛かり、そちらで領地運営などの勉強をしながら国お抱えの役職に着くような話に進んでいるそうだ。
ラフロイグ伯爵に紹介した事が身を結び、ケイトの知識と実力で国の役職にまで成り上がろうとしている事に嬉しさを覚えるディーノ。
そしてケイトの姿はなくともディーノには聖銀からの預かり物があるとの事で、待望の異国のモンスター図鑑大全を受け取りその両腕で抱きしめた。
子供の頃から大事にしてきたモンスター図鑑に、新たに加わった図鑑大全も生涯の宝物になる事だろう。
「ディーノ、ウル、道中気を付けてな。俺達ぁまだ時間が掛かるだろうからよ」
「ああ。この後はラフロイグだし出発も三日後だけどな。おっさんは新メンバーと仲良くやれよ?」
「まあルーヴェベデルの奴だし絡んだりぁしねーよ。こっちはこっちでおもしろおかしく竜種狩りの旅に出てみるからよ、お前らはセンテナーリオでも上手くやってくれや」
チェザリオ達は渡した書簡をもとにこの後ギルド長と話をして、ルーヴェベデルからの派遣員を紹介してもらう手筈となっている。
ディーノがラフロイグに立つというのであれば待たせるわけにもいかない為、ここで別れの挨拶としたようだ。
また一緒に酒を飲もうと約束をしてギルドを後にした。
ラフロイグに昼九の半時には到着したディーノとウルは、広場にマルドゥクを休ませてマリオ達と待ち合わせ場所にしていたギルドへと向かう。
エンペラーホークも広場にいた事からすでに到着している事は間違いない。
ギルド内ではやはり以前のブレイブの評判の悪さから他の冒険者達は距離を置いて席をとっており、ディーノが到着すると苦笑いをしながら手を振ってきた。
「すげぇ居心地が悪い……俺がやらかしたのが原因とはいえラフロイグを拠点にすんのはなかなかに辛えな」
「あなた達の噂を流したのは私とロザリア達だし、なんだか少し悪いわね」
「いや、あの時は完全に俺らが悪いし仕方ねーよ」
周囲からは落ちたオリオンだの恥知らずだの何だのと嘲笑の声が聞こえてくる。
あの頃とは違い今ではディーノがいたオリオンよりもさらに高い実力を持つパーティーにまで成長したブレイブではあるものの、やはり過去の行いはそう簡単に拭えるものではないのだろう。
「別に気にする必要はないだろ。実績積んでいけば誰も何も言えなくなるだろうし、言いたい奴には好き勝手言わせとけばいい」
ディーノとしてはアリスが散々な言われようだった事を思い出して少し腹立たしくも思うところではあるが、結果としては全てを否定できなくなってしまった事から噂は勝手にさせればいいと割り切っている。
弱い者ほど自分の事は見ようともせず、他人の事は悪い部分だけを拾い上げて好きなように語るものだ。
他人を貶める事で自分を優位に見せたいだけの者の言葉など気にするだけ無駄だろう。
ディーノも討伐依頼に何度か他のパーティーやソロの冒険者を同行させたものの、語る内容は強い者には媚び、弱い者を罵るといった者達が多く、辟易としたディーノはその後の同行を許す事はなくなった。
それでも人の繋がりというものは切っても切れるものではなく、人間関係はある程度良好に保ちつつ、他人に対する期待を無くす事で感情の起伏を減らして接する。
ディーノもこれが大人になるという事かと、いろいろと考えさせられたものだ。
「ま、俺らもやり直せてるってわかれば見方も変わってくるよな。もっとしっかりしねーと」
ディーノのフォローを少し嬉しく思いつつ、マリオは気持ちを切り替えて表情を正す。
実際にはディーノの思いとは違いはあるものの、ここしばらく旅を共にするアリスはマリオの素直さやひたむきさもよく知っている。
今はただ周囲の見方が早く変わればいいのにと思える程に好意的に捉えていたりもする。
「それよりディーノ。国王様からはどんな指示をされたの?」
「やっぱり他国に行く事になった。センテナーリオ精霊国って知ってるか?召喚士の国なんだけど最近勇者召喚に成功したって噂があるらしくてな。それの確認と今後の竜害の説明に行って来いって」
「遠いわね……またしばらくディーノに会えなくなる……」
落ち込むアリスだが、ラフロイグを拠点にし、移動もマルドゥクやエンペラーホークを利用する事でラフロイグにいる期間を増やせば会える確率は以前よりは遥かに高い。
ディーノもセンテナーリオに行ったとしても長期滞在するつもりはなく、両国を行ったり来たりするつもりだ。
「勇者召喚って百年くらい前にも成功したんだったか?たしか精霊召喚をセンテナーリオにもたらしたとかいう」
「そうね。センテナーリオが精霊国と名乗るようになったのは勇者が召喚されてからだとされてるもの。魔法の最高峰が精霊魔法だって言うけど本当かしら」
「へー、そうなんだ。オレは全然知らなかったけど精霊魔法ね……ちょっと楽しみになってきたな」
ディーノはモンスターに詳しくはあるものの、他国のスキルや歴史に関してそれ程多くの知識は持っていない。
ルーヴェベデル獣王国に関してはモンスターをテイムするスキル持ちが多い国という事でもともと興味を持ってはいたのだが。
マリオは普段の言動もあって頭が悪そうに思われがちだが、商人の息子という事もあり他国の情報について意外にも詳しかったりもする。
成人してからは冒険者として活動を続けている為最近の商人事情は知らないものの、幼い頃はそれなりの教育を受けていたのだ。
アリスは幼い頃貴族だった事もあり英才教育を受けてきた。
幼いながらもさまざまな知識を詰め込まれ、魔法の最高峰を精霊魔法だと説くセンテナーリオ精霊国には、火属性の魔法スキル発現者が家督を継いできたフレイリア家の者として疑問を感じていたようだ。
自分の家が否定されているようで少しおもしろくはなかったのだろう、あまり表情は明るくない。
「とりあえずオレの方はセンテナーリオ行きが明日から三日後って事だ。そっちは竜種討伐依頼決まったのか?」
「直接人間に害のある竜種はそんな多くねーらしいんだけど、竜害の前処理に見つかってるやつは全部倒しちまおうって事で近場のから狩る事になった。まずはナディアクラ方面の山中にいるっていう下位竜が次のターゲットになるな」
「ナディアクラか。あそこは肉と山菜の包み焼きが旨かったな〜。下位竜なら気楽に行けるだろうしエンペラーホークなら日帰りできるだろ」
「おう、だからよ、俺達は明日行ってくるけどアリスはディーノの出発まで休んでいいぜ」
「いいの!?じゃあ休む!」
もともと明日行く予定は立てていたのだが、やはりこれにアリスは行かないわけにもいかないだろうと休むつもりはなかった。
しかしリーダーであるマリオの許可が出たのであればその提案に甘えさせてもらいたい。
ついでに黒夜叉のフィオレも休ませてもいいのだが、レナータまでもが休みたいと言い出しかねない為アリスだけ。
「気を遣わせたみたいで悪いな。センテナーリオでお土産買ってくるわ」
「土産より勇者を見てーけどな。もし連れてこれそうなら会わせてくれよ」
「わかった。拐ってくる」
「ぶはっ。国際問題なるっつの」
冗談はさておき、話が上手い方向へと流れれば召喚勇者のバランタイン王国訪問もあり得るだろう。
国の要望としては他国への召喚士の派遣を望んでおり、勇者も他国を見たいと言えば余程の理由がない限りは行動を制限する事もできないはずだ。
センテナーリオ精霊国の勝手な都合で召喚した勇者であり、勇者の意志を無碍にする事は考えにくい。
その後エルヴェーラの仕事が終わるまでギルドで時間を潰し、ディーノ達よりも先に着いていたアリスがカルヴァドスの予約をとっていた為、いつものご褒美店で夕食を摂る事にしてある。
この日泊まる宿を決めてからカルヴァドスへと向かった。




