154 現実
ディーノの冒険者相談会は大盛況となり、恐怖の対象から一変して街の人気者となるも、今後を考えれば必要な戦力アップである為情報提供は惜しまない。
クレリックの回復スキルに関してはアドバイスする事ができないものの、誰もが重複ジョブである事から戦いへの意識の向け方にも事細かに説明。
大きなダメージを与える事ができないとしても、モンスターの注意を一つでもそらす事ができるだけでも戦いを優位に運ぶ事ができるのだ。
仲間の回復をする為にもパーティーのすぐそばにいる必要もあるかもしれないが、時には右へ左へと立ち位置を変えながら戦況をコントロールする事が重要だとし、パーティーリーダーよりも全体を見る事ができる後衛であるからこそできる事は多いのだとディーノは語る。
とはいえこれはディーノの経験からではなくフィオレから聞かされる戦闘履歴からの分析であり、自分とはまた違った目線で見ている事に驚かされたものだ。
前衛からの見え方と後衛からの見え方とでは状況判断に違いがある為、安全性を優先させるのならやはり後衛の指示や判断が有効となる。
ディーノの場合は人智を超えた速度で走り回る事からフィオレも指示を出す事はなかったが、戦闘後に話を聞いてみればディーノも自分の判断が間違っていた事に多く気付かされていたようだ。
また、フィオレのインパクトのような威力を持たないアーチャー達は、自分のスキルに自信を持てなくなりそうだと語るも、これも捉え方一つで有用なものになるはずだ。
ピアーススキルに関してはランドの強さを考えればどうとでもなる。
深く突き刺さる能力であればインパクトにも負けない強力なスキルである為、多くの経験を積む事でステータスが上昇する程に強くなるのは間違いない。
安全な位置から戦っていては得られるものが少なく、自分を危険に晒しても最大限能力を活かせる位置取りを考えて戦えば自ずと実力も身に付いてくる事だろう。
しかし狙いに補正が掛かるショットスキル持ちは、これまでモンスター相手には通用したスキルも赤竜には全く効果がなかったと、どう活かせばいいかわからないと嘆く。
しかしディーノとしては何故嘆いているのかわからない程単純な解決法があり、狙いに補正が掛かるからこそ弱点や傷口を射ればダメージは大きくなるはずだ。
敵は動く的である為必ずしも狙った箇所に刺さるわけではないが、動作の停止箇所に狙いを定めれば補正が掛かるショットスキルであれば正確に突き刺す事も可能だろう。
また、弓矢に限らず投石や投げナイフなど様々な飛び道具を使用する事もできる為、アーチャーにこだわる必要もないのかもしれないが。
そして大剣を二振り持って外へと出て行ったマリオは。
「どうしよう……半端にできたせいでよくわかんねぇ」
よくわからないまま帰って来たようだ。
どうやら左右別々にスラッシュが発動したものの、時間の制限からかこの日増やす事に成功した最大連撃数の七連撃までは振るう事ができたらしい。
「あー、やっぱり微妙だったか。剣速が変わらないスキルだし無理かもとは思ってた。でもそんな重そうなの片手で振れるんだな」
「まぁこの黄竜の大剣のおかげで身体能力上昇させてるからよ。ディーノも作っ……その剣も似たようなもんか」
ディーノが新しく腰に提げた白金の剣。
ユニオンと同じく魔鋼製の武器を注文しているとは聞いていたが、黄色の魔核が埋め込まれている事から雷属性である事がすぐにわかった。
「ほぉん。その大剣……属性剣には見えないし黄竜の魔核を溶かし込んだって事か?おもしろい、なかなか興味深い剣だ」
「俺達はアリスとフィオレから魔核もらって全員黄竜装備持ちだけどな」
今は着替えている為装備していないが、確かに戦闘時の装備が以前とは違っていた。
アリスもデザインこそ変わっていなかったものの、金属の質感が違った事から何か手を加えた事はわかっていたのだが。
「なるほど。でもまあ片手で振れるんなら通常時の手数増やせるだけでも多少は違うんじゃないか?スキルだけで戦ってるわけじゃないんだし」
「剣速も威力も落ちるからダメだな。スラッシュなら両手と変わんねー威力が出せる感じだ」
「ダメか。振れるって言っても片手と両手じゃ違うもんな。それなら足は?」
「お前は俺をどう戦わせるつもりだよ。おもしれーけど却下だ」
たとえ思った通りに機能しなくとも自分達の成長について語り合う事はなかなかに楽しいものだ。
その後もあーだこーだと話し合い、ディーノの周りにも人集りができた頃に思い出す。
「あ、成りかけは色相竜と比べてどうなのかって話を忘れてた。アリスとフィオレはどう思ったんだ?」
ディーノにくっ付きながら周りの男達が邪魔だなと感じていたアリスではあったものの、話を振られればこれに正直に答えるべきだろうと姿勢を正す。
「祝勝会だからこんな事言うのも悪いけど、今日の赤竜には成りかけって言葉は正しいと思うわ。私達が戦った黄竜はディーノがスキルを消耗させてくれてたから魔法を使う事はなかったけど、それでも成りかけよりは強かったもの」
「えー、僕は黄竜が強過ぎたんだと思うよ?色相竜の中でも最上位個体みたいな感じで」
「そういえば黄竜はデカかったな。黒竜と赤竜よりも一回り以上はデカかったと思う」
三属性の色相竜を見た事のあるディーノとしても黄竜は大きかったようだ。
初めて見た色相竜であるだけにそういうものだと思っていたのだが、個体差ではなく成長の差だと考えれば納得のできる強さだった。
「そうなのね……あれが色相竜だって思ってたから勝てる自信持てなかったのよね」
黄竜を基準に考えればやはり色相竜の強さは想像を絶するものであり、アリスは今回の成りかけの色相竜でさえ勝てないかもしれないと見込んでいた。
「それでも成りかけはスキルを使える分戦い辛くはあったけど、まだ色相竜と比べる程じゃないのかなって思うよ。もっと魔法スキルの使い方が上手くならないと赤竜って呼べないかな〜……言っちゃダメだった?」
「いや、適当な事言われるよりは全然いい。確かにブレス抑えれば何とかなるような個体を色相竜なんて言い過ぎな気もするしな。黄竜は空飛びながら雷落とし続けるようなとんでもねー魔法スキル使うんだろ?」
成りかけ戦前には黄竜との戦いを語って聞かせた事もあり、マリオもどれ程の脅威であるかは理解しているつもりだ。
黄竜のような魔法スキルを使われていれば勝ち目どころか戦いにすらならないだろうと予想しており、成りかけという曖昧な存在であるからこそまだ勝ち目はあるだろうと挑んだ結果、死人こそ出す事はなかったもののギリギリの勝利を掴む事に成功している。
フィオレが言うように赤竜と呼べないような個体であるとするならば、成りかけは所詮成りかけという事なのだろう。
色相竜とは呼べない個体に辛勝したと考えれば、さすがにこの祝勝会も素直に喜んでいいのかわからなくなる。
「まあいいじゃないか。成りかけだろうが何だろうが街を守る事には成功したんだからさ。素直に楽しく飲もうぜ」
「んー、そう、だなぁ。街は守れたしいいのかな?でもすっきりしねーしお前のこれまでの話をみんなに聞かせろよ。もっと強くなる為にも知識は必要だろうからな」
「じゃあオレがオリオンから追い出されたところから話そうか。あれはブラッディホーンベアに挑んだ日だったな」
「間違ってねーけど言い方……」
その後断片的にではあったものの、ディーノの最強への道のりが語られた。




