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追放シーフの成り上がり  作者: 白銀 六花
152/257

152 成りかけの報告

 赤竜成りかけの討伐後。

 怪我人が多いものの、動けないほどではない為マルドゥクに乗せて街に向かう事にする。

 誰もが今戦ったばかりの赤竜以上の存在に震えるも、気を失った冒険者一人をディーノが担いでマルドゥクの装具へと寝かせて固定すると、それに続いてアウジリオから順に乗り始めた。

 ブレイブにアリスとフィオレを加えた合同パーティー【オリオン】には、せっかく捕まえてきたエンペラーホークにすぐにでも乗せてやりたい。

 まずはシストを紹介しようとブレイブを集めたディーノ。


「んじゃ紹介するけどこいつはウルの後輩でシストっていうんだ。ブレイブに加入させるからよろしく」


「は!?なに勝手に!あ、それでそのデケー鳥?」


「そそ。エンペラーホークっていうSS級モンスターでさ、移動するなら最高だと思って」


「マジかよ!って事はルーヴェベデルとは上手くいったって事だよな!?」


「ああ。戦争も回避できたし友好国って事でテイマーの派遣もしてもらえる事になったんだよ。シストはオレが勝手に引き抜いてきたけどブレイブになら是非って言っててさ。な?」


「ブレイブの皆さんよろしくお願いします!」


「おお!なんかいい奴っぽい!よろしくな!」


 あっさりと受け入れられ、アリスとフィオレもエンペラーホークで移動する事を伝えておく。

 それならばと早速エンペラーホークへと騎乗したオリオンは、巨大な翼を広げてゆっくりと空へと舞い上がる。

 すでにマルドゥクには討伐隊全員が乗り込んでおり、少し機嫌悪そうにも見えなくもないが気にせずラウンローヤの街へと向かう。




 およそ半日にも及ぶ赤竜戦ではあったものの、ラウンローヤの街の前では逃げて来たモンスター群と戦う冒険者達の姿があり、街に入る前に一掃する必要がありそうだ。

 マルドゥクで潰していくのもいいが冒険者まで潰してしまう可能性がある為、ディーノが一人降りてモンスター群を殲滅しようと駆け出した。


 街の砦を取り囲むようにして攻め込んでいたモンスター群ではあったものの、音もなく忍び寄るディーノに気付く事もなく、無抵抗にその命を散らしていく。

 以前よりも鮮やかに無双していくディーノは、右にユニオンと左にライトニングを握りしめ、魔法スキル一つ使う事なく一掃してみせた。

 およそ三十体はいたであろうモンスター群を、まさかたった一人の手によりほんのわずかな時間で殲滅されるとは誰も思いもしなかったが、ディーノをよく知るアリスとフィオレだけはきゃっきゃと騒ぎながらその様子を見守っていた。


 街の防衛を担当していた冒険者達が驚愕の表情を浮かべる中を「お疲れ様〜」と街へ入っていくディーノ。

 マルドゥクはアウジリオの指示を受けながら巨獣を休められる場所を案内してもらう。

 そしてマルドゥクの後を追うエンペラーホークは尻をフリフリとしながら歩く姿が可愛らしい。

 騎乗装具の斜度がキツくなる為、乗る側は歩きだと大変そうではあるが。


 マルドゥクから降りた討伐隊はここで解散となり、アウジリオは報告があるからと一度避難所にいる街長のもとへと向かった。

 この後はギルドの職員と街の警備員達でモンスターの処理やその他もろもろ済ませてくれるとの事で、ディーノとしては酒場に行きたいところだが……店が全て閉まっている。


「酒場を開けさせるからちょっと待ってくれや。俺の馴染みの店でいいだろ?」


「おっさん助かる!頼むぜ!」


 マリオとチェザリオのやり取りに、ディーノはこの盗賊まがいの見た目の男と仲良くするマリオに少し驚く。

 盗賊嫌いはディーノも同じだが、マリオも相当なものだったと記憶しているのだが。


「それより体洗いたいんだけど〜!」と声をあげるソーニャは赤竜の血や脂でベタベタだ。

 アリスも血飛沫を浴びている為装備も全て洗いたい。


「お前らは宿行って汚れ落として来いよ。着替えだってあるんだろ?」


「ディーノがせっかく来てくれたってのに悪いな。そうさせてもらうわ」


 おそらく討伐隊の誰もがこの後打ち上げをするはずであり、体を洗うなり着替えをするなりしているはずだ。

 あれだけのモンスターを狩っておきながらもまったく汚れないディーノは少し異常でもあるが、汗一つかかないこの男はそのまま酒場に行っても問題はない。

 この空いた時間でラウンローヤの街を軽く見て回ろうとウルとシストを連れて歩き出した。




 チェザリオ馴染みの酒場にて。

 討伐隊の全てのパーティーがここに集まっており、アウジリオも仕事が済めばこの後参加するとの事で、まずはラウンローヤで顔の利くチェザリオが赤竜討伐戦の勝利を祝って乾杯をする。

 ディーノとウル、シストはこの討伐戦には関係がないのだが、黒夜叉のパーティーメンバーと新たにブレイブに加入するシストという事でこの打ち上げに参加。

 そのうえ赤竜戦を一時中断させるという暴挙にまで出ているが、かなり苦しい状況だった事から誰も責めるつもりもない。

 そして恐ろしい程鮮やかなモンスター群の蹂躙劇を目の当たりにし、どう接していいのかもわからないのが現状のようだが。


「しかしジェラルドぁとんでもねーガーディアンだよな!拳一つで赤竜殴り倒す奴なんざお前くらいしかいねーだろうが!」


 チェザリオがジェラルドを持ち上げると、他の盾職達も戦い前は誤解してたと詫びを入れつつ、酒を好きなだけ飲んでくれとわっと盛り上がる。

 ディーノも最後の一撃しか見ていないものの、実際に拳で殴り掛かっていた事には驚いたものだ。

 一つ話が回り始めれば、酒を楽しむ冒険者達はこの戦いを振り返りながら面白おかしく語り出す。

 パーティーで囲んでいたテーブルからそれぞれジョブに分かれて酒を飲み交わすようになり、自分達の苦労を分かち合いながらこの勝利の余韻に浸っているようだ。


 チェザリオはウィザード隊をと思ったようだが、アリスがディーノにべったりとくっ付いている為呼ぶに呼べない。

 そしてディーノの危険性を警戒してチェザリオは近付こうとは思っていなかったりもする。

 それも当然、初めてフィオレに絡んだ際に告げられた黒夜叉のリーダーであるディーノの存在は、仲間の為なら街人を皆殺しにする可能性もある危険な人物だ。

 つい先程モンスター群を無抵抗のまま殺していく様を目の当たりにし、それがそのまま人間を狩る姿として当てはめても容易に想像ができる。

 アリスとフィオレからは絶対的な信頼を得ている事から、実際に仲間に大事にする優しい男なのかもしれないが、他人は敵に回した瞬間……

 その先は考えない事にしてマリオ達アタッカー隊に混ざって馬鹿騒ぎを始めた。

 そしてディーノと同じようにフィオレにもレナータがくっ付いている為、アーチャー隊とクレリック隊も二人抜きで集まっているようだ。

 また、ウィザードのもう一人もチェザリオとフィオレの一件を見ており、ディーノに近付くよりはとアーチャー隊に混ざって会話を始めていた。

 そしてブレイブにシストを紹介したばかりだが、久しぶりに一緒にウルと酒を呑み交わすという事でルーヴェベデルの者同士で会話を楽しんでいる。

 ブレイブは自由人が多いのか好き勝手な場所で呑んでいるようだ。




 しばらくすると酒場へやって来たアウジリオとラウンローヤの街長。

 今回の赤竜戦についての報告があるようで、全員パーティーごとに席に着くよう指示された。


「まずはこの竜種討伐戦に参加し、無事討伐、そして誰一人命を落とす事なく勝利できた事を嬉しく思う。厳しい戦いになったがラウンローヤの冒険者が一丸となって戦った結果が、成りかけとはいえ色相竜を討伐するまでの力になった。ありがとう。ギルドを代表して礼を言わせてもらう」


 アウジリオの言葉に拍手があがり、「あんたもいたおかげだ」とアウジリオにも賛辞の声があがる。


「私からも礼を言わせてもらいたい。君達冒険者は我々ラウンローヤの誇りだ。街を守ってくれた事、心より感謝を。また、ここにいない街の防衛にあたってくれた者達にも感謝している。そうだな、私は街を代表して礼を言うべきか。ありがとう。皆のおかげでこの街で生きていける」


 街長も礼の言葉を述べると、「俺達の街だしな」と守るのは当然だとの声があがり、街長も拍手に包まれた。


 礼の挨拶を済ませるとアウジリオは、今回の成りかけの色相竜について街長と決めた事を説明し、パーティーごとに話し合ってもらうよう促した。

 やはり今回戦ったのが成りかけという事で正式な色相竜認定が降りるかはわからず、王国に報告するにしても竜殺しの勲章を授与する事は難しいと説明した。

 それでも成りかけとはいえラウンローヤとしては色相竜として戦った事もあり、報告書に全て冒険者の個人名を書くか、支援したとしてパーティー名を書くか決めてほしいという事だ。

 成りかけであるからこそ全員分を個人名で書き込めば勲章を授与する事はなく、個人名を少数にする事で勲章をもらえるよう配慮してもらえるのではないか、という事なのだろう。

 一つももらう事ができないか、もらえる確率を上げるかのどちらかなのだが。


「俺は降りるぜ。竜殺しってのは国から認められる特別なもんなんだろ?まだ下位竜さえ倒した事のねぇ俺らじゃそんな勲章もらえねーよ」


 チェザリオがそう発言すると、他のパーティーでも仕方がないなとばかりに「うちもだ」と手を挙げていく。

 そして残ったのがオリオンともう一つのパーティーだが、マリオが手を挙げて一言。


「俺達も降りる」


 この戦いにおいて最も活躍したパーティーであるのにも関わらず断った事に誰もが驚く。


「もともとは俺達の獲物だったのが、色相竜って事で結局街にまで迷惑掛ける事になった。これじゃ俺らは受け取れねーよ」


 これが成長した上位竜止まりだとすればオリオンだけで討伐していたのだが、色相竜に成りかけるというだけでもその強さは雲泥の差がある。

 もしこの戦いを成りかけだからと上位竜扱いで挑んでいれば、負けていたのはオリオンでありラウンローヤの街も滅ぶ事になっただろう。


「じゃあ俺らも降りろってか?せっかくの竜殺しの勲章だぜ?嫌だね。うちは個人名で載せてくれ」


 最後のパーティーのリーダーが名前で載せるよう発言したが。


「お前ら【デネブ】があの個体の討伐に失敗したから成りかけなんてもんに成長したんじゃねーのかよ」


 ボソリと他のパーティーから呟かれ、顔を真っ赤にしたリーダーを座らせて「やっぱり無しで」と苦笑いしながら答えたデネブのパーティーメンバー。

 実力的にはラウンローヤでも最上位のパーティーではあるものの、アウジリオから見てもオリオンに比べれば数段劣る。

 まだまだ発展途上のパーティーである事からアウジリオもデネブには期待しているのだが。


「じゃあ悪いが俺の名前と各パーティー名を記載して報告するけどよ、俺も勲章は断るつもりだがギルドに受勲できねーか交渉してもらう事にする。ラウンローヤの街は色相竜とも戦えるんだって事でな!」


 アウジリオの宣言に対して立ち上がった冒険者達は、グラスを掲げて「ラウンローヤに!乾杯!!」とまた酒盛りを再開した。

 アウジリオも混ざって酒を呑み始めたが、街長はこれからが仕事だとすぐに店を出て行った。

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