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追放シーフの成り上がり  作者: 白銀 六花
151/257

151 赤竜戦決着

 その後の赤竜との戦いは半時と経たずして状況は傾き出し、アウジリオとジェラルドは体力が続かずに倒れ、残る盾隊も体から血を噴き出しながらもその膂力を強引に弾いて凌いでいた。

 アタッカー隊も防御のサポートに奮闘し、隙を突いてはマリオのスラッシュとアリスの炎槍がその前脚に多くの傷を残していく。


 そんな状況にありながら、遠くから巨獣と思しき足音が聞こえてくる。

 その速度は恐ろしく速く、真っ直ぐに赤竜と戦うこの場へと向かっているようだ。

 今この場所に新たなモンスターが現れたとなれば壊滅は必至であり、仮に赤竜と向かって来るモンスターとが戦ったとしても残った方と討伐隊が戦う事になる。

 そのうえ、色相竜にまで成長した竜種に向かって来るようなモンスターともなれば、その強さは対等かそれ以上の存在となるだろう。


 赤竜も遠くから向かって来るモンスターにも意識を傾けるが、目の前にいる討伐隊を殺さずには気が済まない。

 前脚がまともに動かなくなってきた赤竜ではあるが、痛みを堪えて討伐隊へと襲い掛かる。

 左右前脚による叩き付けに尻尾による薙ぎ払いと打ち払い。

 そこにブレスを吐き出そうとするも、態勢を崩しつつも矢を射ったフィオレからのインパクトが突き刺さり後方へと弾き飛ばされる。


 起き上がろうと前脚を着いたところに、リスクを負いつつも駆け寄ったアリスからの炎槍が脇腹へと突き刺さり、絶叫をあげながら血塗れの左前脚でアリスを払い除けた。

 地面に叩き付けられたアリスは息を漏らし、仰向けに倒れたまますぐには動けない。

 まともに四つ脚では立てなくなった赤竜ではあるものの油断はできず、アリスへの追撃をさせまいとマリオが前に出て通常の斬撃とストリームスラッシュとで注意を引き付ける。

 盾隊も限界が近く弾き飛ばされた先まで駆け込む事ができない為、マリオの後に続いたアタッカー隊二人が赤竜を相手に奮闘する。




 そして遠くから聞こえていたモンスターの足音がすぐそばまで迫ると、そちらへと振り向いた赤竜に飛び掛かり、そのまま右前脚を使って地面へと頭を叩き付けた。

 その体重により地面を陥没させて押さえ付けられた赤竜も動けない程に巨大なモンスターであり、この絶対絶命の危機に体を硬直させる討伐隊だが……

 巨獣の頭部から見下ろしている人間が声をかけてくる。


「よぉ、マリオ。お前ら色相竜とやり合ってんのか?」


「なんっだよ、ディーノかよ!ビビらせんなよ!っつか邪魔すんな!」


 新たな敵となる巨獣かと思ったモンスターは、ディーノを乗せたマルドゥクだった。

 マルドゥクに気付いたフィオレは姿を現して声をあげ、ディーノは最も会いたかった人物であるアリスを探す。


「なあ、アリスは?一緒に戦ってるんじゃないのか?」


「アリスは赤竜に殴られて向こうに飛ばされた。今クレリック隊から一人向かってる」


 マリオが指差した先を目で追うと、大量の血が撒き散らされた中にアリスが転がっており、それを見たディーノはマルドゥクから飛び降りてマリオの前に着地。

 瞳孔が開いたディーノは殺気を発し、マリオを脅すかのように迫り寄る。


「あれ。オレに殺らせろ。アリスが血塗れになってんだ。オレがやらないと気が済まねぇ」


「ふざけんな!あれは俺らの獲物だ!お前に譲る気は……おい、ちょっ、いや待て!アリスのは赤竜の血だから!マジ、キレんなっておい!まずはアリスの状態確認して来いって!」


 一度ディーノの怒りに触れた経験のあるマリオとしては、この表情のディーノは恐怖でしかない。

 怒りの矛先が自分に向くわけではないとしてもできる事なら近付きたくはないのだ。


「アリスの怪我次第じゃお前もぶん殴る」


 間違えば矛先が向くかもしれない。


 ひとまずマルドゥクが赤竜を押さえている間に、回復薬を飲みながらこちらの状況を確認する。

 盾隊二人はまだギリギリ耐えていた為、マリオの持つ上級回復薬をわけてやり、アタッカー隊も残るは二人。

 そして後方では復帰したソーニャがディーノを見て飛び跳ねており、シーフ隊はまだ三人動く事ができそうだ。

 クレリック隊には倒れた者達を任せ、アーチャー隊が四人とウィザード隊三人が残っている。

 こちらも消耗はしているが、まだ赤竜を相手に戦う事はできそうだ。




 ◇◇◇




 少し時は遡る。


 昼三の時にはラフロイグを出発したマルドゥクとエンペラーホークは餌のついでに害獣駆除をしようと、走り進みながらボアをちょいちょいと摘み食いしながら進んでいた。

 目的地であるラウンローヤまでは夜初の時を目標にしての旅であり、そう急ぐ事もないとのんびりとした旅である。


 しかし王都を過ぎて三の時程進んで行くと、上空から大地を見ていたエンペラーホークに乗るシストから、多くの馬車がラウンローヤから遠ざかっていくのが見えると伝えられ、パニックになられては困るとディーノが一人空を駆けて飛び出した。


 移動している馬車に乗るのは商人が多く、その先頭を進む馬車を止めて話を聞く。


「オレは冒険者のディーノっていうんだけど……あれ、見えるだろ?あのモンスターに乗ってラウンローヤに行くとこなんだけどさ。この馬車の一団はどうしたんだ?」


「色相竜ですよ!ラウンローヤの街に色相竜が来ると言うので我々行商は避難しているところなんですよ。あれ程のモンスターを使役しているとなれば王都に来ている獣王国関係の方々も一緒ですな?是非ともラウンローヤをお救い頂きたいのですが……」


「それならアリス達も戦ってるだろうし、色相竜に向かえばいいな。じゃあ討伐するからみんなラウンローヤに戻りなよ。暗くなる前には終わらせるから」


 行商には街に戻るよう言っておけば、色相竜を倒し終えた後には戻って来られるだろう。

 夜にはなるかもしれないが王都に向かうよりはまだ戻った方が近い。


 ディーノはマルドゥクのもとへと空を駆けて戻り再びラウンローヤ目指して駆け出した。




 ◇◇◇




 アリスに向かう途中のクレリックの青年を拾って駆け寄るディーノ。

 その速度はシーフというのにはあまりにも速く、クレリックも悲鳴をあげるほどに驚いていた。

 アリスの口に上級回復薬を流し込み、クレリックをギフトでブーストしつつスキルで一気にダメージを癒す。


「ディーノ!ディーノだ!わっはぁ〜い!」


「おうおうアリス。久しぶりで嬉しいのはわかるけど傷は平気か?この血がアリスのならオレがあの竜殺すつもりだけど」


「んー、これは私の血じゃないし今は私達の戦いだからディーノはだめ」


「じゃあ見ててやるから暗くなる前には倒してくれよな。打ち上げしたいし」


 ディーノとしてはラウンローヤでアリス達と再会したあとは飲み会をするつもりだったのだ。

 それが色相竜の襲来によって無くなったとすればやはり不満が残り、打ち上げであれば全員参加はできないかもしれないがそれなりに楽しい飲み会にはなるはずだ。

 是非とも明るいうちに倒してほしいところ。


 二人を連れて討伐隊のもとへと戻り、ジェラルドが転がっているのを叩き起こして連れて来たクレリックの回復ブーストで復帰させておく。

 まだ一人は回復できると、アウジリオも復帰させたところで彼のスキル限界となり、意識は失わないものの戦闘からは離脱した。




 さて、赤竜の頭を強引に押さえつけているマルドゥクだが、どうやら相当なダメージを負っているらしく抜け出す事ができずにいるようだ。


「ウルー!もういいぞ!解放してやれ!」


 赤竜を押さえ込んでいたとは思えないような呼び掛けではあるが、これで意思疎通ができるのだから少し気が抜ける。

 ウルは指示通りに頭に乗せていた前脚を退けて背後へと下がると、赤竜はマルドゥクに向けて怒りのブレスを吐き出した。

 あまりにも突然のブレスにマルドゥクに寄生しているウルも驚き、顔面を横殴りにしてその場を離れていたが……


 横倒しとなった赤竜が起き上がり、前脚を上手く使えない事から後脚二本で立ち上がる。


 咆哮をあげて威嚇する赤竜にとっては討伐隊だけでなく、マルドゥクまでもが敵である。

 しかし近付いてくるのが小さな人間である討伐隊の為、先の戦いを忘れたかのようにブレスを吐き出そうと息を吸い込む。

 しかしブレスを吐き出す寸前で腹部へと射ち込まれたインパクトにより、顔面を地面に叩き付けるようにして倒れた赤竜。

 前脚の動きが制限された事で受け身すらもとる事ができず、地面に這いつくばりながらもそのまま後脚で突進、ジェラルドの盾へと鼻先を叩き付ける。

 やはりジェラルドといえども万全の状態ではない為その質量には耐え切れず背後へと押しやられるも盾隊で支え、そこからの噛み付き攻撃はアウジリオのサポートもあって何とか防ぎきる。

 そこへ視界を遮る呪闇の矢が眉間へと突き刺さり、ソーニャは背後から尻尾を駆け登って急所を目指す。

 そしてジェラルドとアウジリオの肩を蹴って赤竜へと飛び乗ったマリオとチェザリオは、起き上がる前に全力で駆け込んで、三人同時に急所へと剣を突き立てた。

 その間にジェラルドの盾横から顔を出したアリスは赤竜の右下から回り込み、首筋へと炎槍を突き刺した。

 絶叫と共に地面を転がる赤竜と、潰されまいと逃げる二人、そして跳躍によって回避するソーニャ。

 マリオの速度を以ってすればギリギリ逃げ切る事ができたのだが、速度に劣るチェザリオは水魔法を駆使して赤竜の鱗を滑るようにして退避。

 アリスは風の防壁を大きく広げて跳躍し、頭の上を跳ねるようにして回避する。


 赤竜が起き上がろうと後脚を立てたところに追撃を狙っていたアタッカー隊が雪崩れ込み、傷口の癒えない左の首筋へと全力のスラッシュで斬り込んでいく。

 悲鳴をあげる赤竜は体力は残していたとしても満身創痍であり、上半身をすでにまともには使えない状態だ。

 そこへ駆け込むジェラルドの拳とアウジリオのフォースシールドとで横倒しにし、背後から翼の付け根へと駆け込んだマリオのストリームスラッシュ七連が浴びせられ、エアレイドの加速による刺突で急所へと上半身が潜り込む程に突き刺さるソーニャ。

 同じタイミングで腹部へと回り込んだアリスの炎槍が穿たれ、内蔵破壊と急所破壊とで赤竜の命を刈り取った。

 左翼も付け根から斬り落とした事でマリオも潰される事はなかったようだが、赤竜の体に突き刺さったソーニャがバタバタと暴れていた為マリオが全力で引き抜いた。

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