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追放シーフの成り上がり  作者: 白銀 六花
149/257

149 討伐隊

 地面に落下した赤竜の下顎へと全力を叩き込んだジェラルド。

 その巨体をも仰け反らせる程の力を持って横倒しにし、そこへ数拍遅れて辿り着いたマリオからの右袈裟斬りが振り下ろされる。

 それを防ごうと左前足を使って叩き潰そうとするもジェラルドが受け止め、そこからストリームスラッシュ四連が炸裂する。

 首筋へと深く斬り込まれた斬撃により悲鳴をあげつつも、追撃を嫌った赤竜は反対方向へと転がった。

 ここにアリスが向かう事ができなかったのはモンスターを相手にしていた為であり、同じようにソーニャやチェザリオも背後から迫るモンスターを排除していた。

 アウジリオも三人のアタッカー隊を引き連れてモンスター群を薙ぎ払っており、参戦するのにまだ少しかかるだろう。


 そこから起き上がろうと前足を踏ん張ったところへ、遠く離れた位置からレナータの矢が届き、深くは突き刺さらなかったものの呪闇が広がり視界をわずかに奪う。

 視界を遮られて顔を右前脚で払う赤竜に、マリオは左前脚へと左薙ぎを浴びせ、マリオに続いて走り進んだ冒険者の一人が跳躍から首筋へと剣を振り下ろす。

 そこへ雪崩れ込むようにして続いたアタッカー隊三人ではあったものの、首への一撃から予測を立てた赤竜から右前足が振り下ろされ、それを前に出たジェラルドが受け止める。

 しかし左前脚への斬撃があった事もあり、その質量は上位竜の比ではなく、ジェラルドでも片膝を着く程に強烈な一撃だ。

 咄嗟に伏せはしたものの、うち二人が頭へと軽い打撃を受けてしまう。

 もしこれをジェラルドが防いでいなければ三人がここで命を散らした事だろう。

 すぐさま立ち上がった無傷の一人が跳躍しながら体を回転させるように斬撃を振るい、赤竜の肉を斬り裂く事でジェラルドへの圧力を逃す。

 そして反対側ではマリオが左前脚を登り始め、右前脚へと掛かる圧力が低下するとジェラルドは強引に横に逸らして地面へと前足を落とす。

 頭から血を流してつつも立ち上がった一人が下顎へと突きを向けるも、危険を察したのか後足だけで立ち上がった赤竜。

 左前足に掴まったマリオを邪魔と感じたのか、大きく振り払われて吹き飛ばされるマリオ。

 そして足元に立つジェラルド達へと向けて、右後脚が踏み下ろされようというところでアーチャー隊からのピアースによる矢が突き刺さる。

 しかし鱗を貫いての一撃であったとしても急所ではない為ダメージとしては低い。

 踏み付けをジェラルドが防ごうと盾を掲げ、アタッカー隊が背後へと後退したところに駆け込んでいた盾隊のバッシュ持ち一人が左後脚へと突撃。

 わずかに体が傾いた事でジェラルドからは少しズレて地面を踏み付けた。

 外れたのなら好機であるとジェラルドは目の前にある足首の関節へと拳を叩き付け、質量をもモノとしない威力で打ち退ける。

 バランスを崩した赤竜は左前脚をついて体勢を保つも、剣を掲げた最前線にいるアタッカー隊の突きを受けて跳躍。

 翼を広げて空へと舞い上がる……が、その瞬間に再びフィオレのインパクトが射ち込まれて地面へと落下。

 赤竜が射ち落とされる可能性を予期した為か落下ダメージは低く、わずかに討伐隊から距離が開いた事でブレスを吐き出そうと息を吸い込んで放出。

 アタッカー隊が地面へと伏せ、ジェラルドはプロテクションを再度発動し直してからその火炎放射に耐える。

 ここでようやくモンスター群から抜け出したアリスが、ダメージ覚悟で高出力の火炎球を発射。

 ジェラルドの前方のブレスを相殺してその威力を減衰させる。

 すぐさま右腕に上級回復薬を流しかけるも、想像以上の痛みに動く事ができない。

 やはりブレスは発動前に防ぐ必要がありそうだ。




「後方盾隊はモンスター群を突破して前線へ!シーフ隊はモンスターは無視していい!赤竜の背後に回り込んで牽制を!隙があれば翼の付け根を狙え!」


 赤竜から払い飛ばされていたマリオがレナータの回復を受けながら指示を出す。


「背後はどうするの!?」


「俺が始末する!行け!」


 ソーニャとしてもマリオであれば安心してここを任せられると、シーフ隊を率いて走り出す。

 背後に回り込むとすれば個別に判断して動く必要があるが、赤竜の警戒が自分達にも向くと考えれば前線の負担は大きく減るはずだ。

 自分達の働きが重要なのだと知るシーフ隊は迷う事なく自分の担当する位置へと駆けて行く。


「おっさんも前に出ろ!ウィザード隊は前線に近え程威力も高いんだろ!レナータもクレリック隊と前に出ろ!怪我してる奴が何人かいるはずだ!交代で回復!他は盾隊二人を前に置いて弓矢で援護しろ!」


「さすがにマリオでもこの数……大丈夫なの!?」


 背後から迫って来るモンスターはまだ二十体以上は残っている。

 ここまでシーフ隊の撹乱とクレリック隊の弓矢での牽制で凌いできたが、撹乱も牽制もできないマリオ一人となれば討伐する以外に方法はない。

 そして迫っているのは魔鏡に蔓延る高難易度モンスターばかりであり、いくらS級のマリオといえど楽に倒せる集団ではない。


「問題ねぇ。任せろ」


 ブレイブのリーダーであるマリオが任せろというのであれば、レナータも迷う事なく前に出る。

 クレリック隊が戸惑っていたとしても、振り返る事なく前線へと走っていく。

 マリオの心配は要らない、信頼するだけだから。


 残されたマリオは一人。

 誰も気にせず一人で戦えるこの危機的状況を愉しむかのごとく、獰猛な笑みを浮かべてモンスター群へと駆け出した。




 赤竜のブレスが途切れると、全身から汗を噴き出したジェラルドが膝をつき、その盾に守られたアタッカー隊は前に出て赤竜の注意を引こうと左前脚へと迫る。

 しかし赤竜もただ攻撃を待つはずもなく、右前脚を突き出すようにしてアタッカー隊を狙う。

 それをパリィ隊の一人が前に出て受け流したのだが、足裏からは炎が放出された。

 受け流した事で炎を回避する事はできたものの、もし受け止める事になれば炎に包まれる事になっただろう。

 そこへモンスター群から抜け出したアウジリオ他討伐隊が合流して赤竜を相手に戦闘を始めた。


 その間にジェラルドは一度距離を取ってから上級回復薬を飲み干してブレスによる熱ダメージを癒す。

 しかしブレスも魔法によるダメージである為そう簡単に癒えるものではなく、そこへ駆け込んだアリスによって熱ダメージの相殺、その後にレナータの回復スキルで体力も回復させる。


 アウジリオが先頭に立って指揮をとり、盾隊とアタッカー隊とで連携しながら傷を与えていくも、その膂力は並みの盾職では耐えられるものではない。

 一撃弾いたとしても体ごと薙ぎ倒され、上手く対処できなければアタッカーごと巻き込まれて炎に包まれる。

 チェザリオの水属性魔法で相殺するものの、このままではブレス一つで壊滅する事は必至。

 息を吸い込む動作があればアーチャー隊の複数の矢で抑え込み、それでも防げない場合にはウィザード隊の魔法と目を狙ったクレリック隊の弓矢とで怯ませる。

 フィオレのインパクトで防ぐのが最も早いとしても、空へと逃げられれば他に防ぐ手がない為仕方がない。

 この押しも押されぬ状況で、復活したジェラルドが駆け込む事で攻勢となり左右の前脚や顔、首筋へと傷を与えていく。

 しかし戦いも長引けば赤竜も新たな動きを見せ始め、前脚や噛みつきだけでなく、立ち上がりから背面を向けるように尾での回転攻撃まで加えてくる。

 ここまでシーフ隊に対しても尾で牽制していた赤竜ではあったものの、翼付近まで接近を許してしまった事から回転攻撃を繰り出してきたのだろう。

 さらには軽い跳躍から尻尾を前へと振り出し、盾職ごと前方の冒険者を弾き飛ばすような攻撃まで仕掛けてくる。

 前線は崩れ、その穴を埋める為アウジリオとジェラルドが必死で押さえ込もうとするも、アタッカーごと弾き飛ばされている為攻撃の手が緩い。

 倒れた者達は背後に下がらせ、クレリック隊による回復を行うも、すぐに戦線復帰は難しい。

 そして盾隊三人とアタッカー隊五人が倒れて回復を待っている時、アーチャー隊の矢では抑え切れず、クレリック隊も回復スキルを発動中で動けない状況。

 息を吸い込んだ赤竜からのブレスが再び放たれ、ジェラルドが最前に出てブレスを防ぎ、後方からウィザード隊の魔法スキルで相殺。

 全てを相殺する事はできなくとも、時間差で撃ち出す事でブレスが途切れるまで威力を抑え込む。


 しかし、ブレスが途切れた直後に振るわれた尾による横薙ぎがジェラルド達前衛を薙ぎ払い、回復を待つ八人とクレリック隊、そしてウィザード隊の前に四つ脚で立って向き直る赤竜。

 地面に尻尾を叩き付け、シーフの接近をさせないよう左右に振り回しながら次の獲物を見定める。


 これに覚悟を決めたアリスは火炎球による相殺を諦め、魔鉄槍バーンを構えて前に出る。

 アリスが動き出した事でフィオレも待機していた木の上から飛び降り、姿を隠したままこちらへと向けて駆け出した。

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