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追放シーフの成り上がり  作者: 白銀 六花
148/257

148 開戦

 簡単ではあるが成りかけの色相竜を相手にする会議を終え、アウジリオがこの戦いに参加するパーティーを指名する。


 それ以外のパーティーには色相竜から追われるようにして逃げて来たモンスターから街を防衛するよう指示を出す。

 竜種と戦うと名乗りをあげる者もいたのだが、街の防衛も大事な仕事であり、被害を最小限に抑える事は人命を守る事にも繋がる。

 竜種と戦う者達も倒れれば街に避難する事となり、最悪の場合には戦いの最後の砦となる者達でもある。


「色相竜の成りかけを討伐するのはこの五組のパーティーだ。今回はパーティー戦じゃなくジョブごとに役割を振ってあるからそれぞれ分かれろ」


 アウジリオの指示のもと、五組のパーティーからジョブごとに分かれていく。

 ここしばらくラウンローヤでも名を知られる事となってきたオリオンであれば誰がどのジョブかは知られており、人数としては偏りがあるものの問題なく分散する事ができた。

 予定していたアーチャーが四人とウィザードが三人、そしてシーフが三人と盾職が八人に回復職がレナータも含めて五人。

 アタッカーとなるジョブの冒険者は九人と最も多いが、色相竜を討伐すると考えれば少し心許ない。


「偵察隊の情報から察するに、今までの経験上じゃあ明日の朝から数日以内には動き出すと考えられる。それまでに自分がどう立ち回れるか、どう動くかよく話し合って実戦に臨んでくれ。強がりもハッタリも要らねぇからよ。自分がやれる事をしっかり話し合え」


 アウジリオから虚勢を張れないよう釘を刺され、ある意味で名の知れたサガのメンバーがまとめ役となって自己紹介から始めていく。

 まずは最も重要なのがそれぞれのジョブであり、一つのジョブと複数ジョブとではその役割も大きく違う為、できる事もある程度は想像がつく。

 ただシーフと回復職にはサガのメンバーがおらず、シーフ側ではソーニャが、回復職ではレナータが最初に自己紹介を始めて会話が回り出す。


 ラウンローヤにいる冒険者は自分達のパーティーに絶対の自信を持っている為か、威勢のいい発言もあるものの、実際に色相竜に挑めば全てが明るみになり、冒険者仲間にも大きな迷惑をかけてしまう事にもなる。

 おかげで極端な物言いはないが腹の探り合いはあるようだ。


 そんな中で一人、虚勢を張るのも大概にしろと否定されたのがジェラルドだ。

 何の気なしに「上位竜なら受け止められるが」と口にしたジェラルドではあったものの、他の冒険者からすればそれ程の防御性能を持つ盾職など聞いたこともなく、以前のステータスを答えても納得はしてもらえない。

 しかし同じ盾職にあるサガのナイトから実際にこの目で見たと返されれば黙るしかなく、色相竜戦でその実力が本物かどうか見せてもらうと言われたとしてもあくまでジェラルドは事実を言っただけ。

 虚勢も何も張ったつもりはないのだが。


 マリオはというと「先輩らに負けねーよう頑張るよ」と自分の持ち味であるストリームスラッシュについて軽く説明しておいた。

 連撃数までは明かさなかったものの、珍しいスラッシュである事から期待してると持ち上げられていた。


 また、レナータは回復職であると同時にアーチャー側にも参加すると告げると、呪闇を見た事のある者達からあれなら納得と応援された。


 各役割ごとにできる事やどう対処していくかを話し合い、自分のポジションが決まるとそれぞれの役割から代表を選出して、全パーティーで作戦を煮詰めていく。


 この日の戦闘はないとして、明日以降の色相竜の成りかけ戦に向けてゆっくり休む事にした。




 翌朝からラウンローヤは慌ただしくなり、住人達は避難所へと持てるだけの家財を運び込み、商人や馬車を持つ者達は一時的にラウンローヤから避難する。

 その際全ての荷物を運び出す事はできない為、食品など冒険者達が必要とする分はギルドが買い取りしている。


「さーて。いつ来んのかなー」


「今は斥候を出してるからそいつが戻って来た後はすぐに開戦だ。いつ来てもおかしくねぇから準備しとけ」


 ラウンローヤの街から少し離れた荒れ地で待機する討伐隊。

 岩の上に座ったマリオはのんびりと空を見上げ、討伐隊の指揮官となるアウジリオはこの戦いの主力となるオリオンの様子を見に来たようだ。


「一応フィオレは先に配置についてるよ。今回は失敗しないようにって意気込んでたな」


「そうか。周りはかなり気が立ってるってのにお前は随分と落ち着いてるじゃねーか」


 他の冒険者はやはり初の竜種戦となる者もおり、気が立っているのか誰とも話そうとはしない。


「まーな。ジェラルドも気合い入ってるしソーニャはいつ来たって動ける。レナもしっかり対応してくれるだろうし、勝てないって言ってたアリスも落ち着いてるしな。厳しい戦いにはなるかもしんねーけどさ、負ける気もしねーんだわ」


「その自信はどこからくるんだ?」


「自信って言うよりはあいつらを信じてるからな。他のパーティーがどうなるかは知らねーけど、俺達は勝って笑い合う姿以外思い浮かばねぇ」


「ははっ。そんならその中に俺の姿も入れといてくれや。勝ちに行こうぜマリオ」


「おぅよ」と拳を打ち付けあい、アウジリオは他のパーティーにも声を掛けに回っていく。




 それから昼食を取ろうかと炊き出しが配られていた頃、斥候の男が討伐隊のもとへと駆け込んで来た。

 その素早さからかなり優秀なシーフだと思われるが、左腕の肘から下を欠損している事から冒険者は引退しているのだろう。

 その背後には三体のモンスターを引き連れていたものの、アーチャー隊の矢により先頭を走る一体が転倒、勢いが削がれたところをアタッカー隊が殲滅する。


「竜種が目を覚まし再度モンスターを襲い始めました。ここに向かうまでに手当たり次第襲っていますので、逃げ延びたモンスターの群れがこちらに向かってくる事が予想されます」


 魔鏡内には冒険者達が通る多くの道ができており、その道を辿ればラウンローヤのある平原へと繋がっている。

 竜種に襲われて恐慌状態になったモンスターがこちらに向かって来るという事だろう。


「ある程度はここで処理するが色相竜が見えたらそいつらは無視だ!雑魚で苦戦すんじゃねーぞお前ら!」


 アウジリオの声に気合いの入った返事を返す冒険者達。

 雑魚とは言うが最低でもCC級モンスターである為弱くはないのだが。

 斥候はアウジリオの指示を受けてラウンローヤの街へと駆け出した。




 食事を終えてしばらく待機していると、木々に留まっていた小型の野鳥が鳴き声をあげながら飛び立ち始めた。

 空を薄暗く濁らせる程の鳥達が逃げ出し、次第に多くの足音が聞こえて来る。

 おそらくモンスターの群れが逃げ惑っている足音だろう。

 その全てがこの平原へと向かう事はないとしても、相当な数がこちらに向かって来る事になりそうだ。


「アーチャー隊とウィザード隊は足止めを!フィオレは色相竜に備えて待機!アリスは前線でやれるだけ始末してくれ!盾隊が抑えたところをアタッカー隊は殲滅!シーフ隊は背後に回られねーよう抑えてくれ!」


 アウジリオの指示に従い各々立ち位置を変えていく。


「ジェラルドは前に出ろよ!打ち崩せ!」


「それならパリィスキル持ちも前に出ろ!」


 マリオが勝手にジェラルドに指示を出したのだが、それならばとアウジリオもパリィスキル持ちに指示を出す。

 正面から受け止めるよりも弾くか受け流した方が耐久戦には向いているからだろう。


 最前衛にジェラルドとアリスにアウジリオ、その後ろにパリィ隊二人、そこから広がるように盾隊四人が並び、盾職が抑えたところを殲滅するアタッカー隊、そしてウィザード隊とクレリック隊が配置。

 クレリック隊もほとんどの場合で武器を所持している為、ソロで戦う事はできなくとも多少の攻撃はできるのだ。

 レナータもクレリック隊の位置でアーチャー隊のサポートも行う予定だ。

 シーフは後衛に配置される事になるが、背後からの防衛に重要な役割を三人だけでこなす事になる。


 土煙があがり先頭集団が見え始めると、驚く程のモンスターの集団が押し寄せて来るのがわかる。

 ザッと見ただけでもおよそ三十。

 その背後からも向かって来るとすれば百体以上は優に超えてくるだろうと予想する。


 モンスターといえどもやはり速度差は大きく、先頭をきって向かって来た一体をジェラルドは盾で受け止めると同時に上空へと打ち上げ、アタッカー隊をも飛び越えてウィザード隊の前に落下。

 目の前に落ちたモンスターに呆れ顔をしたチェザリオが手で触れると、水属性魔法を一気に流し込む事で血流を操作。

 心臓が破裂して息耐えた。

 続け様に向かって来るモンスターも払い除け、頭を叩き潰し、まったくアタッカーの出る幕がない程盾と拳だけで無双するジェラルド。

 これに負けられないとばかりにアリスも駆け出し、前線を崩してしまうも最初の一体を炎槍で突き殺し、待機時間を待ちながら続くモンスターの脚を刈る。

 アリスに続いたアタッカーがトドメを刺し、次々と襲い来るモンスターを処理していく。

 アウジリオもジェラルドの横にいては出番がないと位置を変え、フォーススキルを発動してモンスター群を薙ぎ払う。

 ラウンローヤの街でも最強とされるだけの実力は確かなものであり、剣だけでなく盾でもモンスターを殺せるだけの力を持っている。

 この戦いに活躍するのはこの最前線の三人だけではない。

 その背後を任されたパリィ隊も討ち漏らしを弾き飛ばしてはアタッカーへと受け流し、他の盾隊もバッシュスキルやガードスキルを駆使してアタッカーと連携をとる。

 ウィザード隊の一人は風の属性リングを使って火球を前方へと撃ち出し、チェザリオはジェラルドが放り投げてくるモンスターを心臓破りで殺していく。

 背後からもやはり回り込むモンスターは多く、シーフ隊もクレリック隊と連携をとりながらそう苦戦をする事なく討伐を続けていた。

 アーチャー隊は少し離れた高い位置に待機している為、遠距離からモンスターの流れ込む速度を調整している。

 討伐隊を無視して突き進んで行くモンスターもいるが、六割以上はここで抑える事に成功している為、街の防衛にあたる冒険者達でも何とかなるだろう。




 そして戦い続ける事半時程と短い時間ではあったが、空を舞う巨大な竜、色相竜【赤竜】が姿を現した。

 成りかけとはいえブレイブもラウンローヤの冒険者達も見た事のない程巨大な竜種に、モンスター群と戦いながらも絶望を感じさせる恐怖が芽生える。

 徐々に連携も崩れ出し、討ち漏らした個体から背後を襲われた冒険者が地に伏せ、それを殺させまいと動き出した事により次々と陣形が崩れていく。


 討伐隊との距離を詰めた赤竜は上空からブレスを吐き出そうと息を吸い込んだ。

 今モンスター群と戦うこの状況でブレスを吐き出されてはひとたまりもない。

 しかしこの絶望に包まれる討伐隊の中で、唯一動き出したのはジェラルドだった。

 前方に走り出したジェラルドは届くはずのない赤竜に向かって行き、ブレスが吐き出されようとしたその直前。

 脇腹へと射ち込まれた一本の矢によって大きく体を傾かせ、赤竜が地面に向かって落ちていく。


「うおぉぉぉお!!」と雄叫びをあげながら駆けるジェラルドと「行くぞテメーらぁぁあ!!」とその後を追うマリオ。


 フィオレを信じて迷う事なく駆け込んでいたジェラルドは、地面に叩きつけられて悲鳴をあげる赤竜の下顎へと全力の拳を叩き込んだ。

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