147 作戦会議
肉色上位竜討伐から、手負いの上位竜復活を待ちながら魔鏡で戦いの日々を続けていたブレイブと黒夜叉の合同パーティー、オリオン。
竜種程の強力なモンスターとの戦闘はないものの、毎日多くのモンスターからの襲撃戦を経験する事でその実力を少しずつ高めていた。
同じようにサガも魔鏡の深部へと足を踏み入れる事でSS級モンスターとの戦いも幾度となく経験を積んでいる。
リーダーであるチェザリオはフィオレから交換してもらった魔核で黄竜装備を造り、ウィザードセイバーとしてこれまで不足していた速度を補いかなりの実力を身に付けているようだ。
強敵とも渡り合ってきたが集団戦に慣れないオリオンは数を、普段から襲撃戦を戦い続けるも強敵との戦闘を避けてきたサガは格上のモンスターをと、自分達の不足する能力を埋めるよう努力していた。
この両パーティーが集まったある日の事。
「偵察隊から報告があったんだがお前らの狙ってた竜種が目覚めたようだぜ。その辺のモンスター食い散らかしてるって話だが厄介な事になった。どうやら色相竜に成りかけてるらしい」
「色相竜!?そんなの私達じゃまだ勝てないわよ!?」
「ギルドにもSS級は何組かあるが色相竜の相手はまだ早え。俺の見立てじゃお前らオリオンが一番強えからよ」
「あーでも、アウジリオのおっさんがいれば勝てるんじゃね?たぶんかなり強えよな?」
マリオから見てもアウジリオは相当な強者であり、上位竜もソロで討伐できるだろうと予測している。
そして色相竜をまだ見た事のないマリオからすれば、自分達でさえも何とかなるのではないかと考えているのたが。
しかしパーティー内でも高い実力を持つアリスは過去に色相竜との戦闘を経験しており、自分達では勝てないと口にした事からマリオも自分の考えが甘いのだろうと少し考え直す。
アウジリオも含めれば勝機はあるのではないかと。
「おそらく俺はお前らよりは強えが色相竜には勝てねぇな。ジョブもソードナイトで攻守バランス型だからよぉ、色相竜殺せる程攻撃に特化はしてねーんだ」
「まずくね?」
「はっきり言ってまずいが何とかするしかねぇ。死人も出るだろうが冒険者連中には踏ん張ってもらわねーとな。それに色相竜ったって成りかけだからよ。本物に比べりゃ幾分かマシだと思うぜ」
色相竜の完全な個体に成長していなかっただけでも、アウジリオからすればまだ随分と気持ちは軽い。
もし回復途中で討伐隊でも向かわせていたとすれば確実に色相竜になって戻って来た事だろう。
しかし成りかけとはいえその能力は上位竜とは隔絶するものであり、ブレス一つが災害級の能力を持つ事は間違いない。
「聖銀もいねーし俺らで何とかするしかねーって事か。とりあえずアリスとフィオレは色相竜経験者だし情報くれよ」
「言っておくけどディーノが相当弱らせた状態から戦ったんだから参考にはならないかもしれないわよ?黄竜戦の時はね……」
と説明を始めたアリス。
反省会では戦闘履歴ともとれる内容で語り合っていた為アリスも詳細をしっかりと覚えているのだが、ディーノの知覚を含んだ黄竜の行動パターンの読みや予備動作、飛行速度や物理攻撃速度の数値化に加えて対処法など、飛行戦闘に関するものが多かった為、地上で戦うオリオンからすればやはり理解し難い内容だ。
その後の体力やスキルを消耗した黄竜との戦闘ではほぼ地上戦である為理解はできるものの、色相竜の本来の強さは空を飛べる事や災害級ともなる魔法スキルを撒き散らす事にある。
今回戦う事になるであろう傷の癒えた色相竜の成りかけは、以前戦った冒険者達の話から、竜種では最も多い属性である火属性のはずだ。
赤竜の成りかけとはいえ、火属性は攻撃力の高い種である事から街を全て燃やされる可能性もあるだろう。
「だから今の私達だと色相竜に挑むにはまだ実力的に足りないと思うの。でもやるしかないとしたら……物量で抑え込むなら飛行阻害にフィオレみたいなスキル持ちのアーチャーが何人も必要だし、ブレスを相殺するのにも多くのウィザードが必要になるわね」
「アリスが攻撃に回れないのは辛いな。けどラウンローヤの冒険者集めればやれなくはなさそうか?」
「やれる奴限定だが……スキル持ちのアーチャーはフィオレも含めて四人。ウィザードはアリスを含めても三人ってところか。もちろんチェザリオもな」
やれる奴限定としたのは戦ったとしても無駄に死んでいく冒険者を減らす為だろう。
新入りを振るいに掛けているサガも、少し前の状態であればアウジリオは外したはずだ。
「おぉよ。まさか防御役に回されるたぁ思ってなかったけどよぉ」
チェザリオだけでなく、全てのウィザードは魔法スキルを攻撃に利用しているのだ。
ブレスの相殺ともなれば一発撃ち出して終わりとはならず、拡散するブレスの魔力を上回る威力で放出する必要があり、へたに威力を上げすぎたとしてもスキル待機時間が伸びてしまえば次のブレスに間に合わない。
出力調整や仲間の配置などを考えながらの戦いとなる為、攻撃よりもはるかに難しい。
「三人じゃ完璧にブレスの相殺をするのは無理ね。アーチャー側でブレスの阻害もしてもらった方がいいかも」
フィオレのインパクト程の威力があれば飛行もブレスも完璧に防ぐ事ができるのだが、アーチャーでそこまで高い実力を持つ者はそう多くない。
おそらくは狙いに補正の掛かるショットスキル持ちや突き刺さる威力が強化されるピアーススキル持ちであり、何らかの事象が付加されるスキルではない為阻害行為には向いていない。
大きなダメージを与えるか急所を突くかして阻害するしかないだろう。
「私も視界を奪えるからアーチャー側でいいよね。何かあれば回復に回るけど」
もちろんレナータがアーチャー側でカウントされていない事はわかっていたが、アリスはレナータに期待してブレス阻害をアーチャー側にと発言している。
これでアーチャーは五人となる。
「頼りにしてるわ。あとはシーフね。たぶんだけど竜種にとって一番嫌なのがシーフなのよ。弱点である背後を狙われるから。だからソーニャは他のシーフと連携取ってうまく立ち回ってくれる?」
「任せて!絶対一撃は刺してみせるから!」
黄竜もネストレを警戒して何度も振り払っていた事から、背後に回り込んでくるシーフを嫌っているのがよくわかった。
まだネストレの実力には届かないソーニャではあるものの、勘の良さから思い掛けない実力を発揮してくれる事だろう。
「俺は最悪の場合ブレスを浴びても耐えられるからな。状況によっては俺の事は放っておいてくれても大丈夫だ」
「お前それはすげぇな。俺のフォースじゃブレスは無理だぜ」
ジェラルドのプロテクションはオリオンでの要であり、どんな攻撃であろうと防いでくれると信じている。
アウジリオはフォースというナイト向きのスキルを持っており、フォースソード、フォースシールドとして武器や防具を使用する力が増幅する能力を持っている。
しかし物理に限定したものであり、魔法攻撃やブレスに対応できるものではないようだ。
「あとはアタッカーね。マリオは私達が倒れる前に倒して」
「は?そんな簡単に言うんじゃねーよ」
「他にもファイターはいるんだから頑張って」
「まあやるけどよぉ。もっとこう、作戦みたいなのないのか?」
「あなたは私の想像の斜め……上か下をいくからわからないのよね。でもそれが悪いようには働かないから好きにやっていいわよ」
「んん、馬鹿にされたようなされてないような……」
マリオの力は本人の実力とはまた別のところにあると感じているアリス。
思ったよりも活躍できなかったなどと言いつつ、マリオの攻撃によって動きが限定されていたり、トドメを刺したのがアリスだったとしても影では致命傷を与えていたりと、想像よりも上をいく事が多々ある。
そのまた逆に、マリオが駆け込んだだけで何もしていないうちにジェラルドが動きを抑え込んでいたり、駆け込んだ先で転んでその背後から迫ったソーニャが急所を突いたりと、想像の下をいっても悪いようには働かない場合もある。
パーティー内では活躍の機会が最も少ないのにも関わらず、仲間から慕われているあたりは何か特別な力があるのだろう。
全力でやっても全力を出せていないような、または常に空回りしているような、それでいながらパーティーを上手く回せているそんな不思議な男だ。
それならアリスがマリオに望むのは自由に戦う事だけであり、指示は周りに出すだけ出しておけば、マリオが勝手に上手く回してくれるだろう。
以前はあれ程気に入らなかった男ではあるが、今ではいざとなればマリオが何とかするのではないかとさえ思っている。




